いくらおにぎりブログ

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【映画】疾走

2007-05-09 | 邦画 さ行

【「疾走」SABU 2005】を観ました。



おはなし
海沿いの街に住む少年のシュウジ。彼の平和な生活は、兄の放火事件をきっかけに崩れ出し……

基本的に、自らの脚本・監督で映画を作ってきたSABU監督が、初めて重松清原作の小説をもとに映画を作りました。そのため、いつものSABU節ではなく、少し違う雰囲気。まあ、一言で言ってしまえば「暗い」です。

「昔は、俺たちが生まれるずっと前、ここは全部海だったんだぞ。本当だぞ」という少年の声。二人の少年がいます。二人は兄弟。兄のシュウイチと弟のシュウジです。ここは海沿いの街。昔の陸地である「浜」と、干拓されてできた「沖」に二分された街です。二人の兄弟は「浜」の子供。「浜」の人間は、さしたる理由もなく「沖」の人間を差別し、「沖」の人間は「浜」の人間を嫌う、そんな街の子供です。

ある日、小学生のシュウジは自転車で沖の方へ探検に行ったとき、自転車のチェーンが外れてしまって困り果てていました。そこに軽トラで通りががかったのが、鬼ケン(寺島進)と呼ばれる男。人を殺したことがあるとも噂されている鬼ケンは、シュウジからすると、典型的な「沖」の怖い人間です。しかし鬼ケンも情婦のアカネ(中谷美紀)も意外と親切。シュウジの自転車を荷台に乗せてくれた鬼ケンは農道をものすごい勢いで飛ばし、「またクルマ乗したるわ。今度はあれ(アカネ)のおらんときや」と言って去っていくのでした。シュウジにとっては、怖いような面白かったような、何とも言えない不思議な思い出です。しかし、数日後、鬼ケンの死体が山中から発見され、とうとう約束は果たされることはなかったのですが。

中学生になったシュウジ(手越祐也)は、最近「沖」にできた教会に顔を出してみました。それというのも同じクラスのエリ(韓英恵)という女の子が教会に出入りしていたからです。そんなシュウジに対して、あの神父は人を殺したことがあるんだ、と異常なほど興奮している兄のシュウイチ(柄本佑)。実際、神父に会ってみると、宮原雄一(豊川悦司)という神父はロンゲだったりして、いかにも怪しそうではあります。さらにエリも、横暴な教師に反抗して髪を切るのを拒否したり、かなり問題児です。しかし、そんな人たちとの出会いもシュウジを変えることはありません。何と言ってもシュウジは優等生の兄が大好きで、家族が大好きだったからです。

ある日のこと、明日教会に来て、とエリに強く誘われたシュウジ。神父様が人生の意味を教えてくれるというのです。半信半疑のまま教会に出かけるシュウジ。神父の宮原は語ります、宿命と運命の違いを。例えば、人は必ず死ぬということ。これは宿命です。そして、その人生をどう生きて、どう死んでいくかが運命なのです。そしてエリの両親の運命、つまり人生のすごろくは、たまたま自殺というマス目に止まってしまったのだと言うのです。そう、この日はエリの両親の亡くなった日。エリの両親は、その弱さからエリを残して死に、エリはおじさんの家に引き取られていたのでした。

すごろくのマス目は、つねに幸せな目ばかりは出ません。シュウジの兄、シュウイチにも不幸せな目が出る番がやってきたのでした。優等生で押し通してきたシュウイチ。しかし、それはカンニングのおかげだったのです。それがバレて、停学になったシュウイチは壊れました。部屋に閉じこもってワケの分からないことをブツブツつぶやいているシュウイチ。そんな兄に、シュウジは「お兄ちゃん、今度一緒に教会行かない?」と誘います。あの神父だったら、壊れた兄のことを何か良い方向に導いてくれるかもしれない、と期待したのでしょう。しかし、教会に行ったシュウイチは「人殺した時、どうだった」と宮原神父にイカれた目付きで、ひたすら繰り返します。もう、完全にオカシイです。そんなシュウイチに宮原神父は「弟の話を聞かせてあげましょう」と物語り始めました。

宮原神父の弟には彼女がいました。神父も含め、三人はとても仲良し。しかし、ある日、彼女は妊娠してしまったのです。それも弟ではなく兄の子を。「自殺しろよ、自殺しろよ、この強姦野郎」と奇声を上げるシュウイチに、乱暴しましたがレイプでは無かったのです、と答える宮原神父。きっと、それは一時の気の迷い、しかしとても残酷な気の迷いだったのでしょう。「弟は私を憎むべきだった。私を殺すべきだった」と言う宮原神父。しかし、実際に弟のとった行動は、彼女と、その家族をめった刺しに刺し殺すというものでした。

「沖」に変化が起きました。一大リゾート建設の計画が持ち上がったのです。続々と地上げされていく「沖」。わずかな家と、そして教会が、地上げに抵抗しています。もちろん、そこにはヤクザが入り込み、嫌がらせが続きます。
そんなある日、シュウジが教会でエリと宮原神父の三人で一緒にいる時に、ベンツがやってきました。もちろん、ベンツに乗っているのは、ほぼ間違いなくヤクザです。しかし、ヤクザとともにベンツに乗っていたのは、なんと鬼ケンの彼女だったアカネではありませんか。ウチのこと覚えてる、と尋ねるアカネにうなずくシュウジ。もちろん、シュウジにとって鬼ケンとアカネに出逢った日のことは忘れたくても忘れられない大事な思い出です。「鬼ケンのこと覚えてくれたん、めっちゃ嬉しいわあ」と言って、笑いながら去っていくアカネ。とりあえず、今日のところはシュウジに免じて、地上げのことはお休みなんでしょう。

そんな時、シュウジの元に立て続けにショッキングな出来事が起こりました。一つはエリのケガ。リゾート開発のダンプから落下した石で、松葉杖なしでは歩けない体になってしまったのです。そして、もう一つは兄のシュウイチの連続放火事件。この街では放火犯は赤犬と呼ばれ蔑まれます。優等生の息子の犯罪に父も母も絶望して家を出ていきました。締め切ったシュウジの家にはスプレーで赤犬といたずら書きをされ、そしてシュウジ自身もクラスで、昨日までの友達にいたぶられます。まさに地獄のような日々。そして、唯一の友で愛している人でもあるエリまでもが、地上げの結果、東京に引っ越すことになってしまったのです。

ある日、宮原神父はシュウジを誘って拘置所にいる弟のところに会いに行くことにしました。宮原神父は手紙でシュウジのことを弟に伝えていたようです。そして、弟がぜひシュウジに会いたがっている、というのです。おそらく宮原神父は、シュウジと弟の出会いが、二人にとって何か良い変化をもたらすと考えたのでしょう。しかし、弟の心の闇は宮原神父が考えた以上のものだったようです。「何で死ななかった」と言い出す弟。「お前は俺だ。俺たちは同じだ」と繰り返します。俺は空っぽのまま死んでいく。やがてお前もそうなる、とシュウジを追いつめます。慌てて面会を中断した宮原神父は「シュウジ、ごめんなさい」と謝りますが、シュウジは弟からぶつけられた底知れぬ絶望と悪意に、ただ吐くことしかできないのでした。

もう街には帰りたくない。シュウジは大阪に出ました。アカネを訪ねるためです。会って早々にアカネの体を求めるシュウジ。そして、決して幸福ではないアカネもシュウジの求めに応じるのでした。しかし、アカネは新田(大杉漣)というヤクザの囲いモノ。こんなことになって只で済むわけもありません。
とりあえずボコボコにされるシュウジ。顔面に何発ものパンチ。ゴチッ、という音がすごくイヤーな感じです。そのままホテルの一室に拉致されたシュウジは、さらに何回も何回も殴られます。この部屋はサディストである新田のプレイルームのようです。色んなサイズの針とか、拷問道具完備です。ついでに、ミユキという女の子もここに飼われて日々、拷問を受けている様子。そのミユキはシュウジに「ね、新田さん殺さない。あんたがするんなら手伝うけど」と言い出します。そうしなければ、この部屋での拷問は、いつまでもいつまでも続くのです。

意を決したシュウジは、隙を見て新田の首をヒモで締め上げます。しかし、なかなか死にません。と、その時、アカネが酒瓶で新田の頭を殴りました。そのまま、ヒモを奪って絞める絞める。とうとう、新田は死にました。
「死んじゃったんだ、新田さん」と言うミユキに、「違う、死んだんと違う。殺したんや」と答えるアカネ。しかし、まもなく子分がこの部屋にやってきます。そうなったらタイヘンです。アカネは、自分が警察を呼ぶから、二人は逃げなさいと言います。一緒に逃げると見つかるかも知れない。シュウジとミユキは、別れ別れにホテルから逃げ出すことにしました。30分後に駅で落ち合うことを約束して。

結局、ミユキは来ませんでした。一人で東京までやってきたシュウジ。早速、携帯でエリを呼び出します。「会いたい」「私は会いたくないから」と答えるエリ。しかし、それでも二人は新宿で落ち合うことに。ホテルの一室に入った二人ですが、シュウジはフラッシュバックで新田の断末魔の顔が蘇り、悲鳴をあげます。「俺が殺した」とつぶやくシュウジ。エリは「スゴイね。人殺しちゃったんだ」と事も無げ。そのうえ、シュウジにナイフを渡して「いつでも気が向いた時でいいから殺してよ」と頼むのです。そして、叔父にレイプされた話を物語るのでした。シュウジはエリの行きつけの場所に案内されます。何と言うこともない商店街。店は閉まってシャッターが降りています。しかし、そのシャッターには小さく「私を殺してください」の文字と共に、エリの携帯ナンバーが書いてあるのでした。さっさと松葉杖をついてその場を歩き去るエリ。シュウジは、シャッターに、そっと「誰か一緒に生きて下さい」と書いて、自分の携帯ナンバーを書き足すのです。

あてもなく歩く二人。そこに、声をかけてきた男がいます。「何だ、おじさん迎えに来てくれたのか」と下卑た笑みを浮かべる男。そう、こいつがエリをレイプしたおじさんなのでしょう。黙って近寄り、何も言わずに男を刺すシュウジ。二人は田舎に逃げることにしました。田舎へと向かう夜行バスを待つ二人。帰ったらどうする、走りたい?とエリに聞くシュウジ。「今からでも走れるかもしれない」とエリをおぶって走り出します。ウォーっと叫びながら、ひたすら走ります。いつも抑えた表情だったシュウジが、初めて年相応な無邪気な表情を浮かべた一瞬でした。

田舎につくと、シュウジの家は荒れ果てていました。やはり赤犬の家ということで近所から目の敵にされて荒らされたのでしょう。立ちすくむシュウジ。エリは「先に出てるね」と家を出ました。あとを追うシュウジ。家からは煙が立ち上っています。確かに、燃やしてしまった方が良いものもあるのでしょう。家族のいなくなってしまった家。そして、始まったばかりなのに出口の無くなってしまった自分の人生。

パトカーがやってきました。「おじさん、助かったんだな」と安心したようにつぶやくシュウジ。とりあえず、エリにナイフを突きつけてみるシュウジ。もちろん狂言です。しかし、銃を構えてシュウジを取り囲む警官達。「いつか走れるから。いつか走ろう」とエリに言ったシュウジは走り出します。警官に向かってナイフを振りかざしながら。響く銃声。シュウジの体はボロキレのようにその場に崩れ落ちました。と、その時、シュウジの携帯が鳴り出します。最後の力で通話ボタンを押すシュウジ。携帯から女の子の声が流れ出します。それはシャッターに書いた「誰か一緒に生きて下さい」というメッセージを読んだ女の子からの電話でした。何もかも終わった、その時に流れ出した声は、皮肉な結末なんでしょうか。それともシュウジの最後に訪れた最後の奇跡だったのでしょうか。

宮原神父の声で、その後の物語が語られます。かつて教会と呼ばれた、その建物には小さな男の子がいます。その子の母であるアカネは刑を終えて明日、ここに帰ってくるのです。そして、ちょこちょこと走り回る男の子の後を追うように、ゆっくりと、しかし自分の足だけで歩くエリ。それを見守る宮原神父。ここにはシュウジの姿はありませんが、それでもシュウジの短い人生は、確かに何かを残していったのです。

いや、SABU監督と言えば、ポストマンブルースといい、弾丸ランナーといい、とにかく疾走の映画を撮る人です。監督の映画は、主人公が怒濤の運命に巻き込まれて死んだり悲惨な目にあったりしますが、そのベースにあるのは、そこはかとなく漂うユーモア。しかし、この映画に関しては、ユーモアはゼロです。徹頭徹尾、救いのない真っ黒な映画とも言えるでしょう。やはり自分のオリジナル脚本ではないからでしょうか。しかしそれでも、出来上がりは紛う事無き、SABU監督の映画。走る主人公の姿にかぶさるダイナミズム。観ている人間を、力技で物語の世界に引きずり込んでいく手腕はさすがとしか言いようがありません。

主人公のシュウジを演ずる手越祐也は、演技については特に上手いとは思いませんでしたが、目に力があります。シュウジという男の子を演ずるにあたって必要なものは、小手先の演技力より、なにより「この目」だと違和感なく感じることができました。

エリを演ずる韓英恵は、孤高なたたずまいを完璧に演じています。どちらかというと愛想のない感じですが、そこがピッタリと役にはまっていました。しかし、彼女のブログを見ると、顔文字満載で、見た目とのギャップに唖然呆然とすること間違いなしですが。

兄のシュウイチを演ずる柄本佑は、さすがにお父さんの柄本明の血を引いているのか、うまいなあ、と感心するばかり。黒木監督の「美しい夏キリシマ」でもうまいと思いましたが、さらにうまさがパワーアップしている感じです。特にイカレタ表情は絶品です。ただ、主演の手越祐也とは違って、むしろ助演で力を発揮するタイプかも知れないと思いました。

中谷美紀は、その後の「嫌われ松子の一生」を髣髴とさせるような演技。特に大杉漣演ずる新田を殺したあとの演技は素晴らしいです。死体をかき抱きながら「まだぬくいなあ」「生まれ変わったら極道やめようなあ」と声をかけるシーンなどは、愛情と憎悪の入り交じった、何とも言えない凄絶な表情で、観ていて鳥肌が立ちそうなうまさです。

トヨエツは、まあいつものトヨエツ。寺島進も大杉漣も、まあいつもの二人。ただ、確実に一定以上の演技をしてくれるので、観ていて安心できます。その点で、主役の手越祐也の演技力が未知数な分、保険の役を果たしたことは言うまでもありません。

従来のSABU監督の映画が大好きな人にとっては、好き嫌いが確実に別れる作品ですし、なにより暗いですが、観て損はない作品だと思います。







(手越祐也クンはジャ○ーズのため、画像は怖くて貼り付けられません)

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2 コメント

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悪くないんですが・・・ (シャケ)
2007-07-08 16:50:38
原作は読んでないので正直、わかりませんが「原作の丁寧な映画化」というような印象があります。ただ、それだとこの(架空かもしれませんが)もともとあった事件の一回性が消えてしまったような気がするんですよね。わりと図式的というか。

すごい話ではあるんですけど、「何を見せたいのか」といのがいまいちよくわからなくて。淡々と撮ってる感じがしてしまうんですね。それってどうなのか。

あと個人的な意見ですが、この場合アカネ役は脱ぐべきじゃないんですかねえ。ラストを考えても、このシーンは肝でしょうし。
その点ではスペクタクルな高岡早紀にアカネ役をお願いしたい。そうすればよりリアリティが出ると思うんです。「ヤクザの情婦」ってこともそうですし、「シュウジが思わずお願いした」という点でも(笑)
高岡早紀 (いくらおにぎり)
2007-07-09 13:29:44
シャケさん、こんにちは

えーと高岡早紀だとリアリティ出過ぎです(笑)
というか、全てを食ってしまいそう。

「寝ずの番」でも、わずかな出演シーンで、全部持って言っていたし。あまりにもダイナマイトすぎるのも罪ですねえ。

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