いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】出世子守唄

2008-09-10 | 邦画 さ行
【「出世子守唄」鷹森立一 1967】を観ました



おはなし
遠藤文吾は、一人息子の健一のためにカタギになって、木こりとして働き始めますが……。

浪曲子守唄、続浪曲子守唄に続く、子守唄シリーズの第三弾です。主人公と子供の名前も一緒だし、もちろん演ずるのも千葉真一と真田広之。こういうのは安心して観られますねえ。

夕焼けをバックにドスを振るう二人の男。ぐさっ。一人の男が刺されて倒れました。刺したのは、ご存知、遠藤文吾(千葉真一)。刺された男は息も絶え絶えに言います。「文吾さん。お互ぇ恨みっこなしの勝負だったな。俺の仲間は必ずおめえさんを追う。ヤクザなもんよ。消えてくんな。子供のためによ」。

旅をしている千葉ちゃんと、息子の健一(下沢広之=真田広之)。千葉ちゃんは呟きます。「あれから3年。健一、おめえだけは何とかして明るいお天道様の下で、立派に育ってくれと。だが堪忍してくれ。今日も影が追ってきやがる。また旅だ」。「♪逃ーげたぁ女房にゃあ、未練はなーいぃがぁ♪」、そうそう、この歌が流れないとね、気分が出ません。

テクテク。線路を歩く千葉ちゃんと真田広之。線路なんか歩くとアブナイですよ。ほら看板にも「軌道内通行禁止」って書いてあるじゃないですか。「父ちゃん。これなんて書いてあるんだ」「んーっ。これはな、立小便するなって、書いてあるんだ」。そんな千葉ちゃんは字が読めないのでした。ガタンゴトン、ガタンゴトン。プーッ。あーあ、千葉ちゃんは材木運搬列車の運転士さんに怒られていますよ。でも、運転士さんは優しい人だったんでしょう。千葉ちゃんと真田広之は材木の上に乗せてもらうことができたのです。

そしてやってきたのは、木曽の山奥の飯場。千葉ちゃんは、ここで木こりとして、まっとうに暮らすつもりです。早速、親方の岩崎(石山健二郎)に頼んでみましょう。「おめえさん、戸籍謄本持ってるかい」。えーと、コセキトウホンって何だろう。「いや、そんな厄介なものは」と答える千葉ちゃん。どうしよう。しかし、そこに現れたのが、親方の孫娘の美樹(小川知子)です。すっかり、真田広之のキュートさにKOされた小川知子は、いいじゃないお爺ちゃん、と親方を説得してくれて千葉ちゃんは無事に職にありつくことができたのでした。

木こりの飯場は、キツイ仕事ですが、周りの人はいい人ばかり。一本気な留次(玉川良一)や、その奥さんで鉄火肌のお時(三原葉子)、そしてもちろん、親方に小川知子など、みんなが真田広之をかわいがってくれて、千葉ちゃんもひと安心です。しかし、良かった良かったでは、話が終わってしまうというもので、やはり、こんな平和な山奥でも、揉め事のタネは転がっているのでした。それというのは、この山林の権利を狙っている富高組の存在。木こりを怪我させたり、やりたい放題の挑発をしかけてきます。しかし親方は断固として脅しに屈せず、非暴力主義を貫くのです。

すっかりアイドルの真田広之は、材木列車に乗って、三原葉子とお昼のお弁当を届けに行くことになりました。ガタンゴトン、ガタンゴトン。そして、その帰り道。「おばちゃん、山は高いから空に近いな」と言い出す真田広之。「うん、そりゃまあ、町に比べれば、ちっとは近いさ」。「空から俺のことが見えるかなあ」、そんな言葉にハッとする三原葉子。「健ぼう、寂しいんだね。お母ちゃんがいなくて」「健ぼう。もし何だったら、このおばちゃんがお母ちゃんになってやろうか」。しかし、真田広之はとってもストレートな子供なので、こういうのです。「俺の母ちゃんはなあ、目が細くて、きれいで優しいんだ。夢を壊さないでくれよ」。えーと、三原葉子の立場ゼロ。

さて、山奥の飯場から、町に住む小川知子のところに遊びにきた真田裕之は、途中で怖いオバサン(小畠絹子=小畑絹子)に出会いました。このオバサンは真田広之の竹とんぼを踏んづけても、ろくに謝ってくれないような怖いオバサン。すっかりムカっとする真田広之です。

小川知子にカバンを買ってもらって、ニコニコの真田広之。そう、真田広之も大きくなったので、小学校に通わなくてはなりません。しかし、これにムクレテいるのが千葉ちゃん。「おい、健一。おめえ何かい。学校行きてぇんなら、行きてぇって何で父ちゃんに言わないんだい」。どうやら、自分に最初に言ってくれなかったので、すっかりふて腐れているようです。そんな千葉ちゃんの様子を察した真田広之は言い出しました。「父ちゃん、俺、学校に行かねえや。学校なんか行きたくないもん。だからよ、父ちゃん機嫌なおせよ」。周りの気のいい木こりたちは、千葉ちゃんを責めるような目で見ていますよ。えーと、困ったな。うーん、そうだ。真田広之に一升瓶を持ってこさせた千葉ちゃんは、「さあ、おめえもやれい」とコップ酒を真田広之に差し出します。あわてて止める周りの人たち。しかし、「いいか健一。おめえが学校にあがる祝い酒だ」と千葉ちゃんが言い出したので、ちょっとひと安心です。まったく千葉ちゃんは素直じゃないんだから。

富高組の嫌がらせは増すばかり。とうとう、山にタバコの火をポイっと捨てるという荒技に出てきました。これには千葉ちゃんも、プチーンとキレてしまいます。早速、町にある富高組の飲み屋に乗り込み、親分(遠藤辰雄)に直談判です。「木一本、首ひとつ。これは昔からの木曾谷の掟だ。お山の木は日本人みんなのものじゃねえんですかい。ちょっとした不注意で、お山を焼いちゃ申し訳が立たねえ。親分さん、どうぞこれっきり、不心得者を出さねえように、お願い申します」。さすがに、これには親分も閉口して、シドロモドロに言い訳をするのです。

意気揚々と引き揚げようとした千葉ちゃんは怖いオバチャンこと小畠絹子に出会いました。ハッとする千葉ちゃん。「いつ、この土地に帰ってきた」「帰ってきた?そうだったね、この土地はあんたの故郷。亭主だ、女房だって仲のときもあったんだね」。やっぱり、小畠絹子は千葉ちゃんの元女房だったようです。「子供のことは考えちゃみなかったのかい」と、プイと出て行った小畠絹子を責める千葉ちゃん。もちろん、小畠絹子だって負けてはいません。「男の子は男親。子供がいりゃ、あんたも少しは真っ当な人間になっていると思っていた。でも今日のあんたの目を見て、あたしはゾッとしたよ。5年前と同じヤクザの目だ。かわいそうに。親の道を子供が歩いていってしまう。健一だけは、そんなにさせたくない。あたしが産んだ子だ。あたしがちゃんと育てますよ」。「言いたいことはそれだけかい。健一の夢の中に出てくるお袋はな、酒の匂いはしてねえぜ」。はい、交渉決裂です。

真田広之に、もう町に行くな、と命令する千葉ちゃん。分かったよ、と素直に答えた真田広之は言います。「俺な、大人になったら、木こりになってもいいか。山は空に近いんだ。母ちゃんに教えてやるんだ。かあちゃーん」。グワっと目を見開く千葉ちゃん。さすがにお空にいるはずの母ちゃんが、町で、それも富高組の飲み屋で飲んだくれの酌婦をしているとは、さすがに言えません。

さてさて、一杯飲み屋では、富高組に一人で乗り込んできた千葉ちゃんのことを組員たちが噂しています。それを隅で聞いていた一人の男が、ドスを握り締めました。あれ、このドスは、千葉ちゃんが斃した男のドスじゃありませんか。すると、この男は。

男は辰(丹波哲郎)といって、死んだ男の兄弟分だったのです。ようやく見つけたと、富高組に仁義を切りにいく丹波哲郎。「実はおめえさんのとこのシマで、人を一人斬らしてもらうぜ」。これには、親分も否やはありません。というか渡りに船。ラッキー、な感じです。早速、下にも置かぬ扱いで客人として迎えられた丹波哲郎。酒は飲み放題、ついでに小畠絹子のサービス付きです。

丹波哲郎と小畠絹子が差し向かいで飲んでいるところに、竹とんぼが飛び込んできました。外を見れば、キュートな真田広之がいるじゃありませんか。なんだか、捨てた子供に似ている、と飲み屋を飛び出した小畠絹子は、アレコレと世話を焼きます。「俺の母ちゃん、空にいるんだ」と言い出す真田広之。ハッ。「空……坊や、名前なんて言うの」「健一」。こ、これは。思わず抱きしめちゃう小畠絹子。しかし、真田広之はとってもストレートな子供なので、「オバチャン、お酒の匂いがする。嫌いだ」ピューッ。ガ、ガーンな小畠絹子です。

ヨロヨロ戻った小畠絹子に、「捨てちまったんだろ。ムシが良すぎるぜ」と、何もかもお見通しの丹波哲郎。「あの子の父親が悪いんだよ」と言い訳する小畠絹子に、丹波哲郎は追い打ちをかけます。「俺もガキのころ、棒っ切れみたいに捨てられちまったんだ」「俺は許さねえ。俺にはたった一人、兄弟分がいた。そいつは死ぬまで、俺を捨てなかった野郎だ。そいつが死んだのは、恨みっこなしの勝負の果てだ。だから殺した奴に恨みはねえ。しかし、俺は息の続く限り、そいつを追い続けなくちゃなんねえ」。

「ところが、そいつの横にはちびっこい野郎が一人いた。今度はそいつが俺を追い続ける番だ」。も、もしや、とイヤな予感に震える小畠絹子。「あんた、まさかその男、文吾っていうんじゃないだろうね」。丹波哲郎は何も答えず、ただギロリと小畠絹子を睨むのでした。

名古屋の森林組合の塚田さんを誘拐したものの、なかなか埒が明かないのにイラだった富高組の親分は、思い切った手で、山林の権利を取ることにしました。それは、鉄橋を爆破して、材木運搬列車を谷底に落としてしまえ、という乱暴なもの。ついでに、分教場の子供たちが通る時間を狙って、子供たちも殺してしまおうという鬼畜っぷりです。もう、この時点で理解不能な感じですけどね。だって、鉄橋を爆破したら、自分が山林の権利を手に入れても、どうしようもないじゃないですか。その上、子供たちの大虐殺なんかしたら、警察、というより国家の総力を挙げて追われる立場になると思うんですが。まあ、親分は遠藤辰雄なので、そこまで考えていない可能性もありますけど。

ともあれ、そんな情報を察知した丹波哲郎は、小畠絹子に教えてやることにしました。「一遍でもいいや。おめえの力で子供を救ってみな」。「健一が危ないんだねっ」と叫んだ小畠絹子は猛ダッシュ。ズドドド。ドテッ。コケている小畠絹子を見つけたのは千葉ちゃん。「健一が、健一が危ないんだ。列車が爆破される」。「何っ」と、代わりに走り出す千葉ちゃん。道路を走りぬけ、岩山をよじ登り、そして問題の鉄橋へ。シューシュー。ダイナマイトの導火線が燃えています。止まれ、止まれーっ。列車に向かって叫びながら、ダイナマイトにスライディングした千葉ちゃんは、ダイナマイトをむしりとり、谷底に投げ込むのでした。「健一、けんいちーっ」。しかし真田広之は列車に乗っていませんでしたよ。慌てて崖を滑り降り、真田広之を探して走り回る千葉ちゃん。あっ、いました、いました。真田広之は婚礼の行列にくっ付いて歩いています。バッコーン。真田広之を殴り飛ばして、「バカ野郎っ。こんなとこノンキに歩いていやがって」と怒る千葉ちゃん。「何すんだよ」「何すんだよもクソもあるかい。心配ばかりかけやがって」。そうは言いつつ、すぐに仲直りをして、真田広之を肩車して、楽しそうに笑っている千葉ちゃん。それを恨めしそうに見ているのは、小畠絹子です。

「なあ、健一。二人で山降りるか」「また旅か」「おう」「悪い奴がここまで追いかけてきたのか。俺、ここがいいや、俺、木こりになるんだ。(お空の)母ちゃんと約束したもんな」。そうか、そこまで、こいつは。ぐぐぅっとこみ上げるものを感じる千葉ちゃん。よし、お前の夢は父ちゃんが必ずかなえてやるぞっ。

未遂に終わったとはいえ、富高組が鉄橋爆破まで考えていたことに恐怖している親方と小川知子。もう、山を閉めるしかないんだろうか。でも飯場のひとはどうすれば。と、そこに千葉ちゃんが言い出しました。「親方、その話、あっしにまかしてくれませんか。今度こそ、きっぱりと決着つけてまいります」。「文吾、お前にはかわいい子供がいる」という親方に、その子供のために行くんですと答える千葉ちゃん。なにしろ真田広之は「この山、てめえのものだと思ってやがんですよ」だそうですから。

ドスの準備をして、寝ている真田広之の顔をいとおしそうに撫でた千葉ちゃんは出撃。しかし、道の途中には丹波哲郎が待ち構えていました。「抜けっ」「分かった、だが今日だけ待ってくれ。どうしてもやらなくちゃならねえ用事がある」「抜かねえなら斬る」「逃げも隠れもしねえ。子供を預ける。頼むっ」。火を吹くような男と男のにらみ合いが続き、やがて、丹波哲郎はスチャっとドスを収めるのです。

パチッ。真田広之が目覚めると、そこには知らないおじさんが。「父ちゃんはどうしたんだ。お前がどうかしたな」と怒る真田広之に丹波哲郎もちょっともてあまし気味です。しかし、大事な人質ですからね、見守っていなくてはなりません。トイレの紙持ってこいとか、すずりと筆持ってこいなど、厳しい要求にも、丹波哲郎はガマン、ガマン。なにしろ子供の言うことだし、なによりキュートですからね。貰った筆で、真田広之は板切れに、なにやら書き出しましたよ。へったくそな字で「成田山」と書いています。「お守りか」「父ちゃんの割れちまったからな。父ちゃんがお前に負けないように作ってるんだ」。ズキン。思わずハートがドキドキしちゃう丹波哲郎です。こ、こいつカワイイじゃねえか。

単身、親分のところに乗り込んだ千葉ちゃんは直談判。今度山に手を出したら、「そんときゃ、あんたの命ハッキリといただきますぜ」。そんな千葉ちゃんのイキオイに恐れをなした様子の親分は、無事に名古屋の塚田さんを解放してくれました。いやあ、行ってみるもんですねえ。

一方、その頃の健一といえば、丹波哲郎のもとを脱走。町にいる父ちゃんのもとにひた走っています。「おい待て、坊主。おい坊主、待て待て。その橋は危ねえんだ」。確かに通行禁止の橋は、今にもワイヤーが切れそう。ぐいっとワイヤーを掴み、懸命に真田広之を助けようと必死な丹波哲郎。そんなこととは知らない真田広之は、さっさと橋を渡ってピューです。バチン。その瞬間、ワイヤーが切れました。ふう、どうにか間に合った。思わず、「やーいバカ坊主ぅ」と怒鳴る丹波哲郎です。

町にやってきた真田広之は、怖いオバチャンこと小畠絹子のところを訪ねたところを見つかり、、あっさりと敵の手に。敵からすれば、子供さえ人質にとっておけば「あの」千葉ちゃんだって怖くないですもんね。早速、小川知子に電話、電話。「文吾に伝えてくれ。ガキの命が惜しかったら、契約書にハン突いて、一人で持ってくるようにとな」。それを聞いた千葉ちゃんの怒るの怒らないの。もうグワーッと眦が裂けそうなくらいに、虚空を睨んでいますよ。幸い、親切な小川知子が「こんなものと健ぼうの命、どっちが大切なの」とハンコをくれたのですが、それに甘えちゃ、男が廃るっていうもんです。「あの野郎は生まれて初めて夢を持った。山のおかげだ。子の命は親の命。あっしの身が万が一の時は、健一のことを頼みます。頼みます」。

どりゃあーっ。殴りこむ千葉ちゃん。敵から長ドスを奪い取り、当たるを幸い、斬って斬って斬りまくります。えっ、それじゃ真田広之が危ない。いえいえ、大丈夫。丹波哲郎が助けに来てくれましたから。「おじちゃん、さっきはありがとう」と言われ、「うん」と言いつつ目がデレデレな丹波哲郎。目の毒だからな、と真田広之に目隠しをしてあげちゃうくらい、真田広之がカワイイみたいでえすね。

あっ、父ちゃんの戦っている音がするっ。「父ちゃん、お守りっ」と手作り「成田山」お守りを投げる真田広之。「それ持っとくと負けないぜ」。おう、ありがとよ。さらにパワーアップな千葉ちゃんと、丹波哲郎のダブルアタックに、敵も防戦一方です。しかし、親分は卑怯にも飛び道具を持ち出しましたよ。ダーン。銃声に慌てて身を隠す千葉ちゃんたち。「文吾、辰。出て来い。どっちからでもいいや。順繰りに地獄に送り込んでやる」。ズダーン。銃弾は真田広之めがけて、音の速さで飛んでいきます。「あっ、けんいちーっ」、その銃弾に身をさらしたのは小畠絹子でした。千葉ちゃんはその隙にさっと身を躍らせ、親分をバサッ。敵は全滅です。

さっき聞こえた「けんいちーっ」という声。目隠しをしているけど、真田広之には分かります。「母ちゃんだな。俺見えないけど分かるんだ。ちっちゃい時死んだ母ちゃんが呼んだっ」。目の前で息を殺して泣いている小畠絹子。会っちゃいけない、こんな母親失格の女が。でも、母と名乗りたい。手を真田広之の方に伸ばしていく小畠絹子。あと少し。もう少し。しかし、直前で手を伸ばすのをやめ、小畠絹子は死にました。ガクッ。

「健一、ここを動くんじゃないぜ」「うんっ」。千葉ちゃんは、丹波哲郎と外に出ます。決着をつけなければなりません。ドスを構える二人。シャッ。風がうなりました。カラン。手作り「成田山」お守りが落ち、千葉ちゃんは顔を斬られています。完敗です。ドス捌きでは、丹波哲郎の方が二枚も三枚も実力が上のようです。しかし丹波哲郎は、「拾え。そのお守りにはかなわねえ」と言って、持っていた宿縁のドスをぽーんと投げ捨てるのでした。

夏も終わり、木曽では盆踊りが行われています。「行くの?」と問う小川知子に千葉ちゃんは、「生まれ故郷はおふくろ。そいつを血で染めた裁きは受けなくちゃならねえ。健一の野郎に初めて夢が生まれた。山のみんなのおかげだ。野郎が生まれて初めて……」と絶句します

「待ってるわ。健ぼうと一緒に」、そう言って、踊りの輪に入る小川知子。親方も、三原葉子も、学校の先生(川津祐介)も、みんな千葉ちゃんが見ているのに気づいていますが、ただ真田広之だけはそれを知らないのです。石灯籠の影から、おかめの面で顔を隠した千葉ちゃんが顔を出し、熱い視線で真田広之を見ます。「けんいちっ」、万感の思いをこめて呟く千葉ちゃん。「♪逃ーげたぁ女房にゃあ、未練はなーいぃがぁ♪」、唄が終わったとき、千葉ちゃんの姿はそこに無く、ただ石灯籠にポツンとおかめの面が置いてあるだけでした。


いやあ、もう最高。なんていうか、父と子の心の交流っていいですねえ。不器用な中に滲み出る愛情っていうんでしょうか。クレイマークレイマーのダスティン・ホフマンを髣髴とさせるようです。もちろん、こっちの映画の方がはるかに古いですけど。

それはともかく、助演に丹波哲郎、小畠絹子、三原葉子とかつての新東宝の面々が顔をそろえているのも、新東宝ファンにはうれしいところ。特に、丹波哲郎、三原葉子はともかくとして、小畠絹子は新東宝が倒産してから、出演作が激減しているので、なかなか貴重な一本でした。

もちろん、千葉ちゃんと真田広之の息はピッタリ。ホントの親子じゃないのと思うくらい、細やかな情があふれていて素晴らしいです。千葉ちゃんの場合、細かい演技より、イキオイ、インパクト勝負なところがありますが、この子守唄シリーズでは、実に細かい緻密な演技を見せてくれるんですよね。やっぱり、大スターは違うなあと思います。やればデキル子、とでもいうんでしょうか。

ちなみに、千葉ちゃんが真田広之を洗ってやるシーンで、真田広之はかわいいおちんちんを丸出し状態。今では世界的なスターなのに、こうして永遠におちんちん丸出しが残ってしまうんですから、子役出身って、辛いものがありますねえ。









いくらおにぎりブログのインデックスはここ

前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)

【映画】そのときは彼によろしく

2008-08-22 | 邦画 さ行
【「そのときは彼によろしく」平川雄一朗 2007】を観ました



おはなし
眠ったら二度と起きない奇病の世界的トップモデルと、アクアプランツショップの店長さんの恋を描きます……で、いいのかな

海に面した場所に建つ、まるでオシャレなリゾートホテルを思わせる病院。その一室では、滝川花梨(長澤まさみ)が静かに寝ています。ベッドサイドで、そんな花梨を見つめるのは、遠山智史(山田孝之)と五十嵐佑司(塚本高史)。

「子供のころに聞いたことがある。眠ると起きられなくなる病気。夢に捕らわれたら、目を覚ますことなく、そのまま死んでいくって」と言っている智史。それに答えるように、祐司も言います。「夢の中で花梨にあったんだ。早く帰れって言われた」。智史は言います。
「ねえ、花梨。ぼくらは目に見えない力でつながってたんだ。13年前のあの場所から」……。

アクアプランツショップ「トラッシュ」をやっている智史。まあ、要は水草屋さんなんですけどね。雑誌にも紹介されるくらいオシャレなお店ですが、経営は苦しめ。というか、火の車。映画中を通じてお得意さんといえば、ベーカリーシバタという、これまたコジャレタパン屋さんくらいしかないみたいですしね。あとは、実家の医院の水草を世話したり、まあ趣味の延長みたいなお店とでもいったらいいんでしょうか。

そんな「トラッシュ」にある日、絶世の美女がやってきました。森川鈴音(長澤まさみ)という、その美女は、お給料はいらないから、と勝手に「トラッシュ」に居ついてしまったのです。まあ、若い男性が一人で暮らしているお店に、絶世の美女が住み着くなんて、ちょっとアブナイ気もしますが、でも大丈夫。なにしろ、智史は「鈍感」なそうなので、間違いは起こったりしないことになっています。

さて、ここから映画は回想シーンに。13年前のある日のこと。転校してきたばかりの智史(子役 深澤嵐)は、大好きな水草を採取するために、湖にひとりやってきました。目当ての水草を取って、ニッコリの智史が、ふと対岸を見やると何かキラキラしたものが見えますよ。ナンだろう。行ってみると、そこはゴミ捨て場。そして、そこにある廃バスの中には、一人の少女が寝ていたのです。と、いきなり目覚めた少女が「誰だお前。ここで何してんだよ」と怒り出しました。とりあえず、凝固する智史。しかしそこに、後ろから「僕の友達だよ」という声が聞こえます。「ほら、自己紹介して。自己紹介しないとぶっ飛ばされるよ」。そんな声に促されて、「一週間前に転校してきた遠山智史です」と自己紹介をする智史です。結局、怒っていた女の子は滝川花梨(子役 黒田凛)。助け舟を出してくれたメガネの少年は五十嵐佑司(子役 桑代貴明)。ついでに横にいた犬はトラッシュといい、三人プラス一匹はあっという間に仲良くなったのです。

はい。話は現在に。「水草だけ売って、儲かるもんなの」とストレートな質問をぶつけてくる花梨に、智史はオドオドと答えます。「正気ギリギリです。でも子供のころからの約束なんで」。しかし、そんな子供の頃からの約束を大事に守っているわりには、どうして幼馴染の顔が分からないのかなあ、と思わないでもありません。でも、それには理由があるのです。

「知らなかったんですか店長。彼女、海外でも有名なトップモデルですよ」と、バイトくんにたしなめられている智史。「世の中の八割の人が、彼女のことを知っていますよ」とまで言われています。しかし、それを知らない智史は、残り2割な男。というか鈍感。だから、幼馴染の顔と、トップモデルの顔が結びつかなくても当然なのです。。。いや、当然じゃないかもしれないけど、そこは当然ということにしておかないと、話が続かないので。

さて、ベーカリーシバタの柴田美咲(国仲涼子)さんと、お食事をしている智史。智史のことが好きな美咲さんは、智史がトップモデルな鈴音/花梨と一緒に暮らしていると聞いて、内心穏やかではありません。「えーっ、一緒に住んでるんですか。ドキドキしません」とか言いつつ、反応をうかがっています。でも大丈夫。鈍感ですから。

と、また回想シーン。智史のバースディパーテイが家で行われています。優しいお医者さんのお父さん(小日向文世)、やさしいお母さん(和久井映見)、それに花梨や佑司に祝ってもらいニコニコの智史。でも、花梨はちょっと暗い顔です。佑司は言います。「花梨さ、生まれた時からお父さんとお母さんの顔知らないんだよ」。そう、花梨と佑司は施設にいるのです。花梨には父も母もいません。そして佑司は父が死に、母には捨てられた子供だったのです。

はい、今度は花梨のバースディパーティが智史の家で行われています。ちょっとドギマギしながらも嬉しそうな花梨の顔。智史と佑司は、落ちていた双眼鏡から取り出したプリズムをプレゼントに送りました。そして、お母さんからは白いドレスが。うちの子にしたい、とギュムーっと抱きしめられて、もうどうしていいか分からないほど嬉しい花梨です。まあ、和久井映見みたいなお母さんからぎゅむーっとされたら、誰でも舞い上がるくらいうれしいとは思いますけどね。

はい、また現在。ようやく智史は思い出しました。鈴音/花梨のしていたプリズムのペンダントのヒミツを。「やっと分かったよ。キミが探しているもの。どうして僕の店に来たのか。僕と佑司があげたそのプリズム……花梨」。花梨は怖い顔で「鈍感」と言ったあと、智史の「久しぶり」という言葉にニッコリするのです。

「どうして言ってくれなかったんだよ」と言われて、「こっちだって意地になっちゃうわよ。全然、思い出してくれないんだもん、智史」と答える花梨。しかし、智史に「ずっと、ここにいられるんでしょ」と聞かれると、顔がさっと曇りました。思わず「佑司って、どうしてるのかな」「まだ絵を描いてるのかな」と、話題を変えたりして。

はい、回想シーン。せっせと絵を描いている佑司。佑司は捨てられたことが影響していて、ゴミを詳細に描くのが大好きで、「有名な画家になったら、お母さん帰ってきてくれると思うんだ」というケナゲな少年。そして、智史の夢はもちろん水草屋の店長。ねえ花梨はどうするの、と聞かれた花梨は「画家のモデルと、水草屋の看板娘」と答えるのでした。

はい、現在。いつまでもこのままじゃダメだよね、とアパートのチラシとかを集めだした智史に花梨は困惑しています。「あのね智史……何でもない」。
智史と花梨は、懐かしいお父さんのところに行きました。お母さんはすでに病気で亡くなっていますが、お父さんは昔懐かしい、あの優しい笑顔のまま。智史が寝てしまったあと、花梨はお父さんにクスリを見せて言います。「一番、強いクスリです。このクスリも効かなくなっちゃいました」。「治ってなかったんだあ」と言うお父さん。そう、13年前、花梨が謎の奇病にかかったとき、最初に診察したのが、智史のお父さんだったのです。「もう限界だと思います。どんどん眠りが深くなってきています。今度眠ったら、二度と目が覚めなくなるんじゃないかって……」。優しいお父さんの顔を見て、張り詰めた気持ちが解けていき、泣き出してしまう花梨。「智史には黙っていてください」。その言葉は、13年前に診察を受けたときに、お父さんに言った言葉とそっくり同じでした。

「トラッシュ」に葛城桃香という女性から電話が入りました。それは、なんと音信普通だった佑司が交通事故にあったという連絡だったのです。慌てて行って見ると、13年ぶりにあった佑司は人工呼吸器につながれ、植物状態でした。「佑司くん、うちの画材店でバイトしてるんです。その帰りにオートバイで転倒して」という桃香さん。そう、佑司は画家になる夢を諦めていなかったようです。しかし、行方不明だったお母さんの紹介で、いよいよ個展が開けると張り切っていた矢先に、そのお母さんにお金を騙し取られ、そのうえ、バイクで事故ってしまったというかわいそうな境遇なのでした。

はい、また回想シーン。智史はまた引越しをすることになりました。「でもさ、また会えるよ」と指を出す佑司。ふくれていた花梨も加わり、三人で固く固く指きりをしました。また、会えますように。そして、ローカル線での別れ。一両だけの電車に乗り込む智史。そこに花梨は走りより、そして、キス。

今、昔別れた同じホームに、花梨と智史は立っています。「行こう花梨」「私、佑司の傍にいる。ここに残る」。「僕は本当は花梨を……」という智史の言葉を振り切るように、「もう戻らないと思う。智史に会えてよかった。元気でね」と言う花梨。ぷしゅー、ドアが閉まり電車は走り出しました。「さよならー」。って、大人なのにキスなしですか。恐るべし、長澤まさみ。

ショボーンと店に戻った智史。ふと気づくと、花梨が落としたクスリがありましたよ。それをじぃーっと見つめていると、いきなり後ろから、「それ花梨ちゃんの飲んでたクスリだろ」と声がかかりました。お父さん登場です。「父さん、不眠症のクスリでしょ」「いや、眠らないようにするクスリだ。花梨ちゃんにはもう時間がない。花梨ちゃん病気なんだ。深い眠りに入ると、起きられなくなる病気なんだ。小さい頃から睡眠はせいぜいまどろむほどしか許されなかったんだよ。もう一番、強いクスリも効かないそうだ」。智史は初耳の情報にビックリです。「眠ったら、どうなるの」「そのまま植物状態となって、いずれ死んでゆく」。とりあえず、ドタドタと走り出す智史でした。

懐かしの廃バスに駆けつけた智史。そこには予想通り、花梨が寝ていました。「花梨、起きてよ。起きてよ」。ぱちっ。良かった花梨が目覚めました。「智史、どうして」「花梨のことが好きなんだ。あの頃からずっと好きだったんだよ」。それを聞いた花梨は、ニッコリ微笑んで、「智史、さよなら」、ぐーぐー。ああ、寝てしまいました。

ぱちっ。病室で植物状態だった佑司が目覚めました。ここで映画の冒頭のシーンに戻ります。つまり、「夢の中で花梨にあったんだ。早く帰れって言われた」そうです。ベッドサイドで、昏々と眠り続ける花梨を見ている二人。佑司は、「智史に見せたら、花梨に怒られちゃうかもしれないけど」と言って、スケッチブックを差し出しました。そこには、花梨が佑司の看病をしている間に書き留めた、佑司へのメッセージが書いてあったのです。

「実はね、智史に会えたの」で始まる長い長い手紙。「私、あの日から智史を好きになっていったんだと思う」「智史は私の初恋だった。だから、智史とは別れたほうがいい、好きだと言えないかわりに、私は初めてのキスをした」と切々と、智史への想いが綴られています。「残された僅かな時間。何としても智史に会いに行こう。あの時、言えなかった気持ちを伝えたい」。「私は智史と佑司がこれからずっとずっと幸せでいてくれることを願ってます。だからもし、あなたが目を覚まして智史に会えたら、そのときは……そのときは彼によろしく」。

お父さんに会いに行く、智史と佑司。お父さんは言います。「三人は強い力で引き合っている。この世にはね、物理学の教科書にも載っていない強い力がひとつあってね、それはそんなに距離が離れてても、どんなに時間が経っても、少しも弱まることがないんだ。だから十年以上離れていても、こうやって再会できたんだと思うよ」。そんな話を聞いた智史は内心で、こうつぶやきます。「ねえ、花梨。僕らは目に見えない力でつながっていたんだ。13年前のあの場所から」。

それからの智史は、毎日まいにち病院に通う日々です。「ねえ花梨、覚えてる。オニバスの種、発芽するまで50年以上眠っているかもしれない。でもいつか必ず芽が出るんだよ。目覚めるんだよ」。そう言いつつ、枕元にオニバスの種を置き、病室の水槽の世話をし、そして、いつまでもいつまでも飽きることなく、眠っている花梨に話し続ける智史。いつか、お父さんも亡くなり、佑司は個展が大成功。そんな環境の変化も、智史の日課を変える事はありません。病院に行き、水槽の世話をして、花梨に話しかけ、そして芽の出ないオニバスの種をじっと見つめる。そんな毎日です。

そして、ある日のこと。奇跡がおきました。オニバスの芽が出たのです。雪の降るクリスマスイブの夜。店に戻ってきた智史。そこに懐かしい声が響きます。

「アクアプランツショップトラッシュ。ここあなたのお店。あなた店長さん?」、そう言って、以前とまったく変わらない笑顔で立っていたのは花梨でした。「夢の中で、あなたのお父さんに会ったの。智史が待ってるから、戻ってやってくれって、帰り道を教えてくれた。お父さん、最後に言ってた。幸せだったって。智史を愛していたって。花梨ちゃんはきっとまた智史に会えるだろうから、その時は智史によろしく伝えて欲しいって」。感動的な音楽が高まり、花梨が智史に抱きつきます。
「お帰り、花梨」「ただいま」。


いやあ、ナルコレプシーといういきなり眠っちゃう病気はありますが、この映画の病気は、もっとスゴイですね。いったん眠ったら、二度と目覚めず、植物状態になって死ぬ、ですから。さすが恋愛小説の旗手、市川拓司さん、トンデモない設定を持ち出してきました。どこをどうしたら、こんな病気を考え付くのか分かりません。

ちなみに、いわゆる植物状態は「遷延性意識障害」と言って、定義としては、自力移動ができない、自力での摂食ができない、大小便の失禁がある、などが挙げられています。つまり、病院であれ、自宅介護であれ、その看護はハンパではありません。で、この映画ですよ。長澤まさみの寝ている病室は、どこのリゾートホテルだよ、と思うようなシンプルモダンな雰囲気。もちろん、点滴用のチューブもなけりゃ、モニター類もゼロ。あとシモの世話をどうしているのかも、まったく不明な有様です。もちろん、長澤まさみはご飯なんか食べない、ましてオシッコなんか絶対しない、って言うなら話は別ですけどね。

それに、話のオチが、三途の川でお父さんに会って、戻れって言われたってのもスゴイ。なんていうか、ここだけ妙にクラシックな雰囲気が漂ってきませんか。まあ、あの世があるとかないとか、それは分かりませんし、そういった題材の映画を否定する気持ちはありません。でも、この映画の、この流れの中で、いきなりソレはないだろと。

あと、最後、お店の前に現れた長澤まさみの頬っぺたがパッツンパッツンなのもどうにかして欲しいポイントです。人間、風邪をひいたって、もう少しやつれそうなもんですが、まして植物状態だったわけですからね。なんていうか、全てリアルでガチガチに固めろとは言いませんが、少し、ほんの少しで良いから、頭を使って映画を作って欲しいと思います。

そうはいいつつ、長澤まさみがカワイイので、まあ何もかも水に流してやろう、という気持ちになれる映画でもあります。お父さん役の小日向文世も、このムチャな設定の映画を、その演技力でどうにか引き締めていますし、トータルで見れば、そんなに悪い映画ではないんじゃないかと。特に「いま、会いにゆきます」のファンの方だと、泣ける映画なのかなあと思います。まあ、僕は、そういったスイーツ(笑)な、癒される、私らしいひと時な世界には、「まったく」共感を抱けないのでダメですけどね。でも、ハーレクインロマンス的な意味で、こういったお話とか世界観が好き、というのは趣味の問題ですし、東映の千葉ちゃん映画が好きというのとドッコイドッコイですから、否定はしません。

多分、みんな「分かった」うえで、それでも楽しんでいるんですから、あれこれ言うのは野暮というものですよね。

でも、一つだけ言いたいんです。長澤まさみが世界的トップモデルっていうのには無理があるんではないでしょうか。どう見ても肩幅ありすぎるし、体格が立派すぎです。やっぱりここは、パリコレにも参加している小雪さんこそがヒロインに相応しいと思いませんか。あと、智史役の山田孝之もちょっとカッコよすぎ。鈍感な役なんですから、ここはググっと演技派の吉岡秀隆あたりを起用してはいかがでしょう。ついでに、サブキャラとして、堤真一とか薬師丸ひろ子でも呼んで、時代もさかのぼって昭和30年代くらいに。えーと、違う映画になっちゃいました。


(小学生の秘密基地のレベルを、はるかに超えているような)

(シンプルイズベスト、なのかなあ)


いくらおにぎりブログのインデックスはここ

前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)

【映画】ジャコ萬と鉄

2008-07-30 | 邦画 さ行
【「ジャコ萬と鉄」谷口千吉/深作欣二 1949/1964】を観ました

 

おはなし
ニシン漁を舞台に、無頼漢のジャコ萬と正義漢の鉄が大活躍(なのかなあ)。

色々な要素が混ざっている映画ですが、えーと、一言で言えば「あらくれ系」とでも言えばいいんでしょうか。ただでさえ一攫千金の博打に近いニシン漁を舞台にして、網元に復讐を誓うジャコ萬と、網元の息子・鉄が、恋に殴り合いに大暴れ、みたいな汗臭そうな作品です。

どちらの作品も、谷口千吉と黒澤明の脚本を使用しているので、お話は細かいギャグも含めて、基本的に一緒。そのため、僅かにある相違点にこそ、二人の監督の資質の違いや、時代性が現れているような気がしました。

まず、共通しているあらすじ部分を、ざっと追ってみましょう。

東北各県から男たちが続々と、北海道のある漁場に集まってきます。やん衆といわれる男たちは、3月下旬にやってくるニシンの大群を獲るために、網元のもとに出稼ぎにくるのです。
そして、今、海をじっと見つめている九兵衛も、そんな網元の一人。もともとは樺太の網元でしたが、ソ連の侵攻から命からがら逃げ出してきて、ここ北海道で再起を図っているのです。

なにしろニシン漁は大博打。あちこちに金をばら撒き、どうにか漁場を手に入れても、きまぐれなニシンが他を回遊してしまえば、それっきり。大勢の男たちをあつめて網を建て、万全の準備をしたとしても、その網にニシンが入らなければ、借金も返せず首を吊るしかありません。しかし、当たれば大儲け。男の血がうずくというものです(多分)。

さて、そんな九兵衛の番屋に、ひとりの流れ者がやってきました。その男の名前はジャコ萬。片目にアイパッチをして、背は大きく、顔は凶暴そう。ちょっと、お友達になりたくないタイプですが、それは九兵衛にとっても同様。なにしろ、九兵衛は樺太から引き揚げるときに、ジャコ萬は死んだと家族に嘘をついて、ジャコ萬の船をかっぱらったのですから。それからの一年間、ジャコ萬は苦労に苦労を重ね、九兵衛に復讐するために、どうにかソ連から日本に帰ってきたのです。

欲しいのは金か、という九兵衛にニヤリと笑うジャコ萬。欲しいのは金じゃない。お前に血の涙を流させたいんだ、とジャコ萬は番屋に居座ってしまうのです。家族の手前もあるし、まさかジャコ萬を殺してしまうわけにもいきません、九兵衛としては辛いところですが、それをいいことにジャコ萬は傍若無人に振る舞い、やん衆たちなどは、どちらが親方か分からねえ、といぶかしがるのです。

そんな、ある日。戦死していたと思われていた九兵衛の息子、鉄がひょっこり帰ってきました。この鉄というのも、喧嘩っ早い性格でジャコ萬に負けず劣らずの男ですから、偉そうに昼間から酒を飲んでいるジャコ萬を見て、ムカムカです。さっそく、拳と拳で語り合うことになったのですが、とりあえずジャコ萬の驚異的なパワーに圧倒されちゃいます。さらに、自分の親父が船を盗んだと聞けば、「悪いのは親父の方だ」と矛を収めるしかないのでした。

さて、そんなキナ臭い雰囲気が続くある日、ジャコ萬を尋ねて一人の女がやってきました。ユキという山猫のように気の強い女は、ジャコ萬に惚れて、もう3年も追い掛け回しているそうです。しかし、ジャコ萬といえば、白熊を倒すことと、浴びるように酒を飲む事にしか興味がないという、ワイルドもいいとこなので、ユキはムキーといつも怒っているのです。

一方、鉄はと言えば、土曜日になると、いそいそと番屋を出て、どこかに行っています。と、この行き先が谷口千吉版と深作欣二版ではまったく違うんですけどね。まあ、いずれも女のところではあるんですが、これについては、あとで書きます。

津波が襲ってくるというので、いったん建てた網を、夜通しかけて撤去したりと、やん衆の労働条件は苛酷。そのうえ、口ばかりでケチな九兵衛に、とうとうやん衆はストライキを起こすことにしました。手当てを増やしてくれない限りは、もう一切働かねえ。ジャコ萬が煽り、鉄までもが「親父、それは安いぜ」と言い出したもんですから、九兵衛としては困ってしまいます。とは言え、もしニシンが獲れなければ、自分も破滅するだろうが、やん衆だって金は一銭も手に入らないのです。そんなことをやん衆がするわけあんめえ、とちょっと高をくくっている部分もあります。

さて、南風が吹き、ニシンの大群がやってきました。ニシンが数の子や白子を出す前に、獲ってしまわないとなりません。そのためには、この30分が勝負。しかし、やん衆は動こうとしませんでした。焦った九兵衛が土下座をしてもダメ。さすがに人望がゼロだと違いますね。そんな中、ひよわで作業の邪魔でしかなかった男がひとり立ち上がったのです。と、ここも谷口版と深作版では、まったく人物造形が違います。名前すら違うし。まあ、それはともあれ、その若い男の説得で、よしニシンを取るかと、立ち上がったやん衆ですが、そこにジャコ萬の持つ銃が火を吹きました。動くな、動いたら撃つぞ。このまま、待っているんだ。おい九兵衛、悔しいだろう。血の涙を流したいくらいだろう。

この瞬間、ジャコ萬が待ちに待った復讐のチャンスが訪れたのです。まあ、そこでジャコ萬と鉄の対決があったりして、ともあれニシン漁に走るやん衆たち。和解した鉄とジャコ萬も手伝って、ニシンがとれたよ万々歳。と、そんな感じです。

最後は、一人去って行こうとするジャコ萬と、山猫女のユキの間を鉄が取り持って、鉄自身も船乗りになる、と去っていく。とまあ、こんなお話です。

ジャコ萬を演じたのは、谷口版が月形龍之介で、深作版が丹波哲郎。マタギで、飲んだくれで、復讐の鬼という設定を考えると、これは月形龍之介の方に分があるような気がします。暗い情念というか、鬱屈した気持ちをうまく演じていたような気がしました。丹波哲郎だと、どうも都会的というか、マタギというよりはギャングのボスみたいに見えてしまうんですよね。

ジャコ萬に惚れるユキの役は、谷口版が浜田百合子で、深作版が高千穂ひづる。設定としてはアイヌとの混血で、それを苦にしていることになっていますが、両映画とも「少しの台詞」で、サラっと触れるだけ。真正面から取り組むならともかく、興味本位な設定ですから、ちょっとうなづけないところです。まあ、それはともかく、野性味なら浜田百合子に軍配があがり、気の強さや、総合的な演技力では高千穂ひづるの方が勝ちかもしれません。

鉄が帰ってきたことで、財産がもらえないんじゃないかと、戦々恐々とする姉夫婦役もいます。谷口版では清川虹子と藤原釜足、深作版では南田洋子と大坂志郎でした。これはもう、観た瞬間、勝負あったというか、清川虹子と藤原釜足でキマリでしょう。南田洋子と大坂志郎も上手いと思いますが、上手さの質が違う感じです。それに、清川虹子がそんなに太っていなくて、意外とキレイなのにもビックリできますしね。

あくどい男、九兵衛。谷口版では進藤英太郎。深作版は山形勲。とにかく悪そうな雰囲気なのは進藤英太郎で、鉄を思う父の情愛みたいな部分では山形勲が勝っています。まあ、これはどっちもどっちなので、その人の趣味次第でしょうか。

さて、両作品が違っていた部分は、ひよわな若い男についての部分。谷口版では、若い男のあだ名は「大学(松本光男)」といい、なにやら事情があって流れてきたインテリという扱いでした。当然、インテリなので、ストライキをしているやん衆を説得するときも、日本の食糧事情を考えようとか、割と理路整然な感じです。一方、深作版では、この役が「大阪(江原真二郎)」という人物になります。かつて浮気した女を殺して、刑務所に入ったものの、出所いらいずっと悪夢に悩まされ、とうとうここまで流れてきたという設定です。そのため、やん衆の説得というよりも、ジャコ萬の説得係という側面が強かったような。

この設定の違いに関しては、時代性が色こく影響しているような気がします。深作版が撮られたのは、すでに日本に食べ物があふれきっている時代ですが、谷口版の1949年と言えば、まだまだ戦後の食糧不足の記憶が生々しいころです。ですから、大学の言う、まずはニシンを獲って、それを日本のニシンにしよう。賃金も大事だけど、まずは飢えている国民に食糧を届けなくちゃ、という主張は、観ている人にとっても当然のこととして感じられたと思います。しかし、深作版では、まずはニシンと獲ろう。そのニシンは俺たちのものだから、親方が賃上げをしなければ、勝手に売ればいいじゃないか、というロジックに変わりました。まあ、良い悪いではなく、ホント時代の差ですね。

もう一人の主人公、鉄を演じたのは谷口版が三船敏郎、深作版は高倉健です。もう、この二人については、比較することが畏れ多いというか、無意味というか。とは言え、二人ともまだまだドスが効いていないというか、大御所ではありませんから、その若々しい感じがとてもいいです。もっとも、彼女の扱いについては、映画会社のカラーの違いがハッキリしていて、そこが面白いところ。

三船敏郎は、土曜日になると町に出かけます。目的は憧れの少女を見るため。教会でオルガンを弾いている美少女(久我美子)を、離れたところから見守ることだけが楽しみなのです。もちろん、声もかけられないし、ただニマーっと見ているだけ。最後は、美少女を見るだけ見たおして、意気揚々と去っていく三船敏郎でエンドマーク。なんだか、ミサ、オルガンという要素も含めて、東宝の都会志向を表しているようです。

一方、健さんが土曜日に出かけるのは、開拓農家。そこで、戦友の妹(入江若葉)と老いた父のために、斧をふるって根っこほりに汗を流すのです。吹き出す汗。戦友の妹への忍ぶ恋。なんだか浪花節な世界です。そして、最後、船に乗るといって浜を出た健さんが、開拓農家にいそいそと行ってみると、そこではトラクターに乗って、恋人と楽しく根っこ掘りをしている妹の姿があるのでした。ガーン。傷心の想いを抑えて、渋く去っていく健さんでエンドマーク。もう、東宝版と全然違う、いかにも東映な感じですね。

ともあれ、ほぼ同じ脚本を使いながら、これだけテイストが分かれてしまう。映画って、その時代とか、映画会社によって、こんなに変わってしまうものなんだ、と驚きました。

あ、ジャコ萬ですか。えーと、名前の由来はジャコウ鹿から来ているようですよ。ジャコウ鹿の萬吉だったかな。ぼくは、てっきりチリメンジャコのジャコだと勘違いしていて、「小せえ」男だよなあ、と思っていたのはヒミツです。

 

 

 

 


いくらおにぎりブログのインデックスはここ

前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)

【映画】サインはV

2008-06-27 | 邦画 さ行
【「サインはV」竹林進 1970】を観ました


おはなし
朝丘ユミたちは、バレーボールに青春をかけるのです。そう、Vをつかむために。

テレビで爆発的な人気を博した(らしい)スポコンドラマを再編集して、映画公開したものです。30分ドラマとはいえ、全45話を80分に縮めたわけですから、大河ドラマの総集編にも負けない怒涛の展開。元のテレビドラマを観ていないと、ジェットコースターすぎて、クラクラします。

手垢で汚れたバレーボールが映し出されました。そして、そこにナレーションがかぶさります。
「サインはV。監督牧圭介の掲げたビクトリーの頭文字。勝利を表すVサインのもとに、全国から有名選手が続々と立木大和に集まった」

監督の牧(中山仁)が鬼の形相でボールを投げつけるのを、ひたすらレシーブする選手たち。ということで、ここでサクっとメンバーの紹介です。キャプテンの松田(岸ユキ)。魔の変化球サーブの名手・朝丘ユミ(岡田可愛)。その力、高校生ナンバーワンと言われ、スパイク・レシーブに抜群の力を持つ椿麻理(中山麻理)。チーム随一の頑張りや、東北出身の小山チイ子(小山いく子)。今やチームになくてはならぬ存在となったオールラウンドプレイヤー、岡田きみえ(和田良子)。関西出身のファイトの塊のような久保田さち子(青木洋子)、だそうです。
まあ、覚えておくべきはユミと麻理くらいなんですけどね。

それはともかく「立木大和バレー部合宿所」では、監督の牧が練習後のお説教タイム。
「Vサインの合言葉は、自分自身に勝つことだ。お前たちの、その若さと青春を賭けて、悔いのない立木大和を作るんだ」「はいっ!」。
ありがたいお説教を噛み締めているユミに、麻理が声をかけてきましたよ。
「朝丘さん、今の監督の演説。私たちへのあてこすりかしら。でも、あなたには負けないわ」「どんなところでも、ヒロインは一人よ。立木大和のヒロインは私よ」。
さすがに、ホーホッホと笑いませんでしたが、得意げな顔で去っていく麻理に、ユミは思わずカメラ目線で誓うのです。
「そう、それならあたしだって負けない。負けるもんですか」。

典型的なお嬢様キャラの麻理は、とにかく口が悪いったらありゃしません。今日も、練習中にユミのジャンプ力不足を指摘してきました。「あなたを除いて、私たちみんな、ネット上40センチ以上のジャンプ力を持っているわ。たとえ、魔の変化球サーブがあっても、あなたのジャンプ力ではレギュラーとして失格ね」。
クワっと目を見開いて、「何ですって」と言い返すユミですが、口で麻理に勝てるわけもありません。

夜の体育館で、思いつめた表情のユミは、ジャンプの特訓。でも、下半身が微妙に重いのか、なかなかネット上40センチは難しそうです。そんな姿をじっと見ていた監督の牧が、「朝丘」と声をかけました。
「監督っ。ダメっ。あたしはダメだ」。そんなユミに「これを履くんだ」と黒いシューズを取り出す監督の牧。「今日から、これを履いて特訓だ」。受け取ったユミは「ええっ、重い」と絶句しますが、それもそのはず、シューズは鉛入りです。
「それでジャンプ力をつけるんだ。さあ履け。履くんだ。俺がいいと言うまで、絶対に脱ぐんじゃないぞ」。ええと、監督、お風呂の時はどうしましょう。

ま、それはともあれ、近所の公園で特訓開始。監督の投げつけるボールをひたすらレシーブです。「負けるもんか。負けるもんか」、ドタっ。倒れるユミにボールを投げつける監督。もう情け容赦ありません。「もうダメ。こんな重い靴履いて、あたしにはできない」。「さあ立て。立つんだ」と監督は、顔にボールをぶつけてきましたよ。ぐわーっと睨むユミですが、監督は「お前が自分自身に勝てないなら、何をやってもダメだ。バレーなんかやめちまえ」とスタスタ去ってしまうのです。

傷心のユミが合宿所に戻ると、みんなは食事をしないで待っていたようです。みんなっ、ありがとう。感激したユミは、監督の部屋に謝りにいくのです。「監督、すいませんでした。私、忘れてました」とVサインをするユミ。「よーし、そのファイトだ。飯を食ったら、また続けよう」と監督は喜んでいますが、人の部屋に謝りに行って、Vサインはないだろう、Vサインは。

それはともかく、ユミは夜の体育館でひとりジャンプ。麻理のバカにする声が、頭によみがえっては、ムカムカしながらジャンプ。木にぶらさげたボールに向かってジャンプ。とにかく、ジャンプ、ジャンプ、ジャンプです。
ここで、また重々しいナレーションが流れます。
「己に勝つ。それがVだ。ブラックシューズを履いて、いかに厳しく険しくとも、必ずこの試練に勝つのだという決意に燃えて、ユミは来る日も来る日も頑張った」

そして迎えた試合の日。監督はユミの肩をポンポンと叩きつつ言いました。「朝丘。その黒いシューズを脱げ。普通のシューズに履き替えるんだ。そして、思いっきりジャンプしてみろ。君は今までとは違う体になっているはずだ」。
いぶかしげな表情のユミですが、試合になってビックリ。「軽い、軽いわ」。もちろん、試合はユミの活躍で勝利です。

試合後、合宿所ではみんながユミを褒めまくり。ユミの顔も喜びに輝くというものです。しかし、なんだか監督は怒っているようですよ。「朝丘、何か忘れてることはないか。特訓だ」「ああ、あれはもう。ジャンプ力ついたから」「馬鹿っ」ベシっ。監督、ユミのホッペを張り飛ばしています。「ジャンプ力がついたから、それでいいのか」。いや、いいと思うんですけど。「そこの林で、何が起こっているのか、自分で確かめてみろ」と監督に言われ、公園に行ってみるユミ。そこでは、なんと。なんと。

麻理が特訓中でした。使用人をお供に、レシーブの特訓です。しかし、この特訓が並じゃありません。体に、大リーグボール養成ギブスが裸足で逃げ出しそうなスプリングをジャラジャラつけて、ついでに鉢巻で目隠しをしているのです。「お嬢さん、もうやめましょうよ」と心配する使用人に、「あたしは命を賭けているのよ。さあ投げて。朝丘さんにだけは負けたくない」と言い切る麻理。物陰から見ていたユミは、「麻理さん、あなたって人は。あのトレーニングから、どんなプレイが。麻理さん、私は負けた」とガックリです。
しかし、ここで諦めたら負け犬のまま。ユミはさらなる特訓を自分に課すことにしました。「あたしも、魔の変化球サーブを作り出す」。

試合はユミと麻理の活躍でトントン拍子。初出場ながら決勝戦までやってきました。対する相手は、強豪ミカサ。特に、エースの大本が放つ殺人サーブは要注意です。なにしろボールがぐにょーんと楕円になってますから。しかし麻理は自身タップリです。「いよいよ、私の出番のようね。見ていなさい、朝丘さん」。ぐにょーん。殺人サーブが麻理を襲います。しかし、麻理はなんなくレシーブっ。「分かった、音だわ。あの目隠しの秘密はコレだったのね」と冷や汗をダラダラかきながら納得するユミ。しかし、あたしだって特訓したのよ。「あたしも負けないわ。見ていて、私の新しい魔の変化球サーブを」。ユミは中腰で後ろを向きました。おっ、腕をぐるんぐるんと回しています。とりゃっ。おおぉぉ。サーブが変化しています。もう物理法則を無視した動きで変化しています。ドッカーン。サーブは敵エースの大本に当たり、大本を撃破です。その後も次々と敵選手を血祭りに挙げていくユミの魔の変化球サーブ。す、すごすぎる。ちなみに、このサーブは実況アナ(羽佐間道夫)によって「稲妻落とし」と命名されたのでした。

「あたし立木を出て行くの」と試合後、麻理が言い出しました。寝耳に水のユミは、「えっ、どうして。どうして麻理さん」とビックリ。「あたしが出て行くのは、今度こそ、あなたと正々堂々と勝負がしたいから」「ナンですって!」「あなたに挑戦し、あなたに勝つことが、私のVだって……かならず稲妻落としを破ってみせるわ」。

いきなり主力選手の麻理が名門レインボーに移籍して、困ってしまった監督。しかし、去るものあれば来るものあり。テンガロンハットに、ギターをかかえたガンマンみたいな女の子が道場破りにやってきたのです。女の子の名前はジュン・サンダース(范文雀)、いちおう黒いドーランを塗っているので黒人さんとのハーフということになっているようですね。テストの結果、「荒削りだが、素晴らしい運動神経だ」と監督も認め、めでたくジュンはチーム入りをすることができました。

しかし、せっかくチーム入りをしたのに練習に出てこないジュン。ユミが心配して探しに行くと、寺の石段をウサギ跳びで登っていましたよ。今ではウサギ跳びは否定されてしまいましたが、根性アイテムとしては、やっぱりウサギ跳びは欠かせませんね。それはともあれ、「ジュン。どうして体育館に来ないの」と言うユミに、「あんたが稲妻落としを見せてくれたら、一緒に練習してもいいわ」とあくまで挑戦的なジュン。「私の色が黒いからって同情してるのね。そうなんでしょ」と被害妄想も入っているようです。と、思ったら満更妄想でもなかったようで、チームメイトたちはジュンを混血と馬鹿にして、やめてもらうべきよ、と口々に語り合っていました。
もちろん、そんな動きにユミは大反対。「あの人は私たちにないものを持っているわ」「そう、素晴らしい根性よ」、いや、ユミも根性の塊だと思いますけど。「やるわ私。稲妻落としで、あの人に挑戦する」。そう、それこそがジュンの心のシャッターを開けるために必要なことでもあるのです。

早速、体育館で勝負です。後ろを向いて、中腰になって、腕をぐるんぐるん。エイッ、ビューン。ドカッ。ジュンは稲妻落としの直撃を食らっています。エイッ、ビューン。ドゴッ。エイッ、ビューン。ズゴッ。4発目で口から血を噴き、6発目でジュン、ノックアウト。
「バカモノっ」と監督の怒声が響きます。あーあ、怒られちゃった。「お前たちは明日から、特別訓練に入る」と宣言する監督。そして、その特訓は厳しいものでした。とにかくダッシュ。ひたすらダッシュ。ユミとジュン。完全にタイミングを合わせて、ひたすらグラウンドをダッシュ。「そして秘密兵器は完成した」そうです。

東京都の大会。これくらいの試合では、まだ秘密兵器は使わないようにとの、監督のキツイお言葉。しかし、大観衆の声援にジュンの目の色が変わりました。もっとハッキリ言うと、調子に乗っちゃいました。それに敏感に気づいたユミが「まさか。ジュン、いけない」と言ったものの、ジュンは「れっつごー」と動き出します。徹底的な特訓の悲しさで、頭ではいけないと思っても、体が自動的に動き出すユミ。二人はジャーンプ。空中で交錯した二人の体からは、よく分かりませんが、すごいアタックが飛び出したようです。テレビで観戦していた麻理も「恐ろしいプレイだわ」とつぶやくほどの。

ちなみに、このサーブは、またも実況アナ(羽佐間道夫)によって「X攻撃」と命名されたようです。

監督は、決勝戦まで大事に取っておこうと思ってた秘密兵器を、勝手に使われ大激怒。二人は出場禁止になってしまいました。しかし、ジュンは全然、反省していないようすです。むしろ、私たちがいなかったら勝てなかったくせに、と挑発的。立木大和を出て行くと言い出しちゃいました。あわてて止めるユミ。「あなたにだって夢があるんでしょ。バレーにかけた夢が」。おおっ、動揺しています。ジュンが動揺しまくっています。ここでもう一押しすれば、ジュンはバレーボールを止めないかもしれませんよ。「これ履いて」とユミが取り出したのは、鉛入りの靴。通称ブラックシューズです。ブラックシューズを履かせたジュンに「いくわよ、それっ」とボールを投げつけるユミ。おや、ユミの内心の声が聞こえます。「ジュン。何もかも忘れてボールにぶつかるのよ」。確かに、これでは何も考える暇は無さそうですね。

泣きながらボールをぶつけるユミに、持ち前の反抗心を刺激されたジュンは、懸命にレシーブします。しかし、そのまま肩を木にぶつけて転倒。ついでに、足からも血がダラダラです。ここでジュンの頭に昔の光景がよみがえりました。
ハーモニカで「ねんねんころりよ」が流れる中、幼いころのジュンが、母ちゃん待ってぇ、と叫んでいます。だって、あたし足に怪我しちゃったんだよ。でも、それを無視して去っていく母ちゃん。そう、母ちゃんはジュンを置いて、アメリカに行ってしまったのです。
ハッ。気づくとユミが「あなたとお友達になりたかったの」と言いながら、足の怪我を手当てしてくれているじゃありませんか。思わず泣いてしまうジュン。きっと、内心ではユミのことをカアチャンと思っているんでしょう。まあ、口が悪いのは変わりませんが。

その後、ユミになついたジュンを従え、立木大和は連戦連勝。しかし、好事魔多しという言葉もあるように、いいことがあれば、必ず悪いことがやってくるものです。なんと、試合中に倒れたジュンが、骨肉腫で余命が三ヶ月ということが判明してしまったのです。それを偶然、立ち聞きしてしまい泣きくれるユミ。そんなユミに監督はやさしく言います。「泣くな朝丘。さあ練習だ」、えーと鬼すぎ。「ジュンができなくなったバレーをお前がやるんだ。ジュンの分まで、お前が頑張るんだ」「頑張るんだ、朝丘。それがお前のVじゃないのか」。とりあえず、Vって言っとけな感じです。

全日本の決勝戦。病床のジュンもテレビで見守っていますから、負けられません。しかし、相手は麻理を擁するレインボー。まさに東洋の魔女の名をほしいままにした最強チームです。熱戦のさなか、麻理が言います。「朝丘さん。負けないわ、試合はまだまだこれからよ」。もちろんユミも言います。「麻理さん。あたしは負けない。お互いに全力を尽くして戦いましょう。それがVよ。私たちのVよ」。

後ろを向いて、中腰になって、腕をぐるんぐるん。エイッ。うわっ、自慢の「稲妻落とし」を麻理はレシーブしてしまいました。な、なんてこと。そのうえ、麻理は怪しい動き。ま、まさか。行くわよっ。おおっ、麻理(ともう一人)の「X攻撃」です。完全にコピーされてしまいました。

「やっぱりX攻撃は盗まれたんだ。あたしのせいだ。行かなくちゃ」と病室のジュンも、動かぬ体を引きずって、バレーボールのユニフォームに着替えています。しかし、強烈な痛みで、のた打ち回っています。大丈夫でしょうか。

監督の「X攻撃をやったお前なら拾えるはずだ」というムチャな理屈でレシーブさせられるハメに陥るユミ。うーん、そうだ。よく分かりませんが、空中で逆さになってレシーブするという荒技でピンチを乗り切ることに成功しました。いやあ、原理はさっぱり分かりませんけど、インパクトはありますね。インパクトは。その後、デュース、デュースで決着のつかない試合。ジュンもテレビを見て「ユミ、これで決めるのよ」と応援しています。麻理は「受ける。私は受ける」と迫力です。そして、ユミ。これが最期と、渾身の力で、ぐるんぐるん。エイッ。稲妻落としを麻理は受けました。しかし、この稲妻落としは「根性」が入っていたので、甘いレシーブです。フラフラと上がったボールをユミはアターック。

病床のジュンも苦しみにのた打ち回りつつVサイン。やった、立木大和が全日本の優勝です。

MVPに選ばれ、トロフィー片手にインタビュー責めにあうユミ。「これは私一人のものではありません。チームメイトと、立木を支え、私を支えてくれた、私の心の友。ジュン・サンダースのものです」。それをテレビで見ながら、「ユミ、ユミ、ありがとう」とつぶやいたジュンは、ひときわ苦しんだ挙句、誰も見守らないままに死んでいくのでした。

今や全日本の監督に選ばれた牧が、黙ってVサインを出します。それに答えるかのように、全日本メンバーたちもVサイン。ユミがいます。麻理がいます。みんなは、河川敷をランニングして去っていくのでした。

さすがスポコンドラマ。やっぱり面白いです。なんていうか、日本人の琴線に触れるというか、お約束の連発ではありますが、無条件に「熱く」なります。何分、再編集のために、話が唐突すぎて、口ポカーンな場面もありましたが、その分、話にスピード感が出たのも良かったと思います。

ところで、劇中のバレーボールチームは、本物のもじり。ミカサはヤシカだし、レインボーは「東洋の魔女」と言われた日紡貝塚のことです。そして立木大和。なんだか、これだけでは人の名前みたいですが、これは日立武蔵。正確に言うと日立製作所武蔵工場バレーボールチームのことです。しかし、日立を立木にするのはともかくとして、武蔵を大和に変えてしまうのも中々のセンス。確かに、武蔵より大和の方が強そうですもんね。

余談ですが、ぼくの通勤路の途中に、西武多摩湖線の「武蔵大和」という駅があります。個人的に、この駅の名前は日本最強だと思っています。なにしろ、武蔵と大和ですからね。46cm砲が計18門。排水量があわせて14万トンですよ。むむむ、Vすぎます。すいません、本当にどうでもいい話でした。でも、書きたかったんです。





いくらおにぎりブログのインデックスはここ
前田有一の超映画批評

【映画】春雪の門

2008-06-25 | 邦画 さ行
【「春雪の門」佐伯幸三 1953】を観ました



おはなし
柔道に青春をかける龍太郎は、博徒に襲われる伯爵令嬢を助け……

いったい何本あるんだと思っちゃいますが、菅原謙二の柔道物です。山本富士子と若尾文子がそろい踏みですが、今回のヒロインは山本富士子でした。

ポクポク。ポクポク。馬車が進みます。バシャっ。車輪の跳ね上げた泥水が、乱暴そうな博徒たちにかかっちゃいましたよ。「待て、待て。待たねえか」と馬車を追いかけてくる博徒たち。馬車に乗っているのは、金持ちの東小路(高松英郎)と仙石伯爵令嬢の真理子(山本富士子)。「君たちは東小路と知ってのことか」と威張る東小路ですが、なあに博徒はそんなことを意に介しません。御者はとっとと逃亡。引きずりおろされた東小路も、スタコラ逃げてしまうのです。

下卑た笑いを浮かべつつ、「おい姉ちゃん。お前も降りろよ。いいじゃねえか」と真理子に迫る博徒たち。ああん、どういたしましょう。「君っ!」。おっ、腰に手を当てた青年が立っています。「乱暴はやめたまえっ」「何を。おっ、貴様は八丁荒らしの龍太郎」。突然現れた、凛々しい姿の杉龍太郎(菅原謙二)に、ポーッとする真理子のアップ。「貴様たち、博打ばかりかゆすりもやるのかっ」、エイッ。次々と投げ飛ばされる博徒たちですが、驚いた馬が走り出してしまったのです。パカラッ、パカラッ。ああん、どういたしましょう。困っている真理子ですが、駆けすがった龍太郎がインディ・ジョーンズばりに馬車にぶら下がり、御者台につきましたからひと安心。「びっくりなすったでしょ」と振り返る龍太郎のサワヤカ笑顔に、恥じらいまくる真理子。もう完全にホレホレ目線です。ああん、どういたしましょう。

仙石伯爵のお屋敷に馬車は着きました。婆や(浦辺粂子)とともに、家にお上がりくださいと勧める真理子ですが、龍太郎は固く辞退です。「じゃ、せめてお名前なりと」という声に、テレくさそうな龍太郎は、ドドドと走っていってしまうのでした。後に残されたのは、忘れ物のメダル。それを胸に、憧れの視線をいつまでも向ける真理子です。

そんな真理子が、部屋で杉の残したメダルを撫でていると、お父様の仙石伯爵(信欣三)がやってきました。東小路がお前を欲しいと言っている、と言う伯爵に真理子はキッパリ答えます。「わたくし、すいませんが、お断りしていただきとう存じます」。困ってしまう伯爵。というのも、東小路に金を借りまくっていたのですから。ああん、どういたそう。

さて、紘道館では問題が出来してしまいました。先日の復讐とばかりに、博徒から果たし状を突きつけられた龍太郎が、勝手に私闘をしてしまったのです。兄弟子の三国が懸命にとりなしますが、先生の矢野正五郎は厳しい処断を下します。「杉。紘道館柔道のの精神は人間修行の道じゃ。覆水は盆に帰らぬ。紘道館の不名誉をあえてした者は、その責任を取らねばならぬ」。泣きながら道場を去る龍太郎。果たして彼の行く場所は、どこに。

と、ちゃんと兄弟子の三国が紹介してくれて、行く場所は決まっていました。下谷にある大工の銀作の家です。行った早々、娘のおせい(若尾文子)の行水姿を見てしまったりする龍太郎ですが、おせいは、そんな龍太郎に好意を抱いたようす。それというのも、柔道以外はてんで不器用で、でも、何事も「すまんです」と言いつつ、一生懸命な龍太郎。ああん、どうしちゃおう。

部屋で琴を弾いている真理子。でも、心は上の空。ぽわわーん。腰に手をあててスックと立った、あの凛々しいお姿。御者台から振り返った時の、あのサワヤカな笑顔。思い出しただけで、顔が赤らんでしまいそうです。と、そこに婆やが戻りました。「婆や、杉さまにお会いできて?」「それが紘道館には、もういらっしゃらないのでございます」。ガーン。さらに、そこにやってきた東小路にまで言い寄られて、もう真理子の気持ちは……ああん、どういたしましょう。

「すまんです」。また、そんなこと言ってるよ、このスットコドッコイは。懸命にモーションをかけても、鈍感極まりない龍太郎に、イライラするおせい。「ぼくは柔道を離れては生きられない。紘道館は、ぼくの魂の道場なんだよ」。だからぁ、そんなことはいいって。あたしを見なさいよ。どうも、若尾文子の美貌をもってしても、菅原謙二のハートはゲットできないようです。

町を歩いている真理子と婆や。あっ、杉さまだわ。「婆や」と声をかけると、婆やが早速、龍太郎に声をかけてくれました。婆やの後ろでモジモジしている真理子。なんだか、テレつつヌボーッとしている龍太郎。おお、会話はないけど、二人は馴染んでいるようです。「お嬢様、お食事にでもお誘いしては」と言われ、コクっとうなづく真理子。そのまま、料亭に舞台は移ります。

たまたま、同じ料亭に来ていた東小路が、三人の姿を目撃してしまいました。ぬぬぬ、真理子さんめ、ぼくちんというものがありながら。早速、子分の増田に龍太郎排除を命令する東小路。「琉球生まれの唐手にはかないますまい」と増田は自信たっぷり。これはタイヘンですよ。

そんなことを知らない真理子はモジモジ。龍太郎はボケーッ。仕方ない、婆や一人で喋りまくっています。「ねえ、杉さま。お嬢様は今、とても困ってらっしゃいますの。お父様から気の進まぬご結婚を勧められております」。えーと、ほら、お父さんが勧める結婚ならいいんじゃないですか。適当なことを言う龍太郎に、真理子は「いいえ、わたくし死んでもイヤなのです」と、熱視線で見つめます。「杉さま、教えてくださいませ。わたくし、いったいどうすればいいのでしょう」。相変わらずハッキリしない龍太郎。これじゃ、埒が明きませんわ。こうなったら、
「いやっ。お嬢さんなどと。ねえ杉さま、お願い。真理とお呼びになって。九段坂で初めてお目にかかったあの日から、真理は杉さまをお慕い申しておりました」。「すまんです」と逃げ出す龍太郎。もう、杉さまったらテレ屋さんなんだから。ああん、どういたしましょう。

むむむ、と悩んでる龍太郎。と、そこに博徒たちといっしょに、なんだか強そうなのがやってきましたよ。琉球唐手の使い手、美奈島金城です。試合を申し込む金城に、「しかし、唐手と柔道では勝負になりませんよ」と断わる龍太郎。よーし、チェーイ。壁を叩き割って、「唐手が恐ろしいのか」フフフ、ハハハ、と挑発する金城ですが、龍太郎にとってそれどころじゃないんですって。

悩みつつ、寝ている龍太郎。と、そこに今度はドスを持った男が襲ってきました。えいっ、と投げ飛ばす龍太郎。なんと、襲ってきたのは、大工の銀作の一番弟子です。どうも、おせいが龍太郎にホレているので、嫉妬に駆られて襲ってきたもよう。「おめえを殺して、自分も死ぬつもりだった」とか言っていますが、さすがに男と無理心中なんて、まっぴらごめんです。いやいや、おせいとは何でもないからさ、と懇切丁寧に説明をして、お引取りいただきましょう。

お嬢様の真理子が、ひとり人力車に乗って、下谷までやってきました。もちろん、下谷なんて身分違いの場所、普通だったら怖くてムリですが、そこは龍太郎にひと目会いたい、その気持ちが真理子を駆り立てたのです。しかし、やっぱり下谷ですからね。人力俥夫に5円という法外な値段を吹っかけられて、困り果てる真理子です。ああん、どういたしましょう。と、そこにキップのいい声が。「箱根の山んなかじゃあるまいし。雲助の真似は止めた方がいいよ。20銭もあればいいんでしょ」。おせいです、おせいがピンチを救ってくれました。「あのぅ」と、この親切なおせいに、すがりつく真理子。杉さまが、ここらにいませんか。ピクっ。な、なにおう。恋敵の出現に、知らないよ、とトボけたおせいですが、やっぱりウソはつけません。「ついてらっしゃいな。教えてあげるわ」。一方、真理子も、このおせいが、龍太郎と同居していると気づき、「あのぅ。わたくし自分のことばかり考えていました。あなたと杉さまのことを……」とショボーンです。

しかし、肝心の龍太郎は書置きを残して家出。えーと、二人ともフラれた?そろって、ドヨーンです。「あの人、今ごろ信玄袋を片手に、どこかで、この花火を見ているんだわ。ノンキな人」とおせいは、夜空に咲く花火を見つめます。いったい、龍太郎はどこに行ってしまったんでしょうね。

はい、意外と近くにいたようです。友達の代わりに、煮込み屋台でアルバイト中でした。柳橋の粋な芸者、えん彌姐さん(村田知英子)に好かれたり、けっこう楽しそう。というか、なんでコイツばっかり、こんなにモテルんだか。

真理子は部屋でウジウジしています。「あなたさまが恨めしくてなりません。あの日、どうして真理を抱いてはくださいません。真理は女。恋に生きとうございます」、そう言いつつ忘れ物のメダルを胸にクネクネするのでした。と、そこにお父さんの伯爵登場。留守中に料亭で龍太郎に会っていたことを知り、怒っています。「お前はわしの留守中、何をしていた。身勝手なまねは許しませんぞ。東小路への体面もある。わしは明日、紘道館に行ってくるからね」。

煮込み屋台に先生の矢野正五郎、兄弟子の三国がやってきました。恐縮する龍太郎に先生は言います。「杉、おまえ仙石伯爵の令嬢の危難を救ったそうじゃないか」。どうも、伯爵は礼を言いつつ、暗に文句をつけてきたようです。「杉、柔道の方はどうだ。忘れられんだろう。帰りたくなったら、いつでも帰って来い」、そう言って去っていく先生。もちろん、このままでは単純な龍太郎にメッセージが伝わらないので、兄弟子の三国が補足します。「杉、先生の言うこと分かるな。仙石家には東小路が必要なんだ」。えーと、うーん、ああ。つまり破門を解いて欲しかったら、お嬢さんを諦めろ、ということですね。

雨に打たれつつ、むむむ、と悩んだ龍太郎。仙石家に向かいます。龍太郎が来たと聞いて、喜びに顔を輝かす真理子。しかし、龍太郎は言うのです。「お嬢さん、ぼく、ぼくはいかん男です。失策ばかりしています。ぼく、あの時、すまんことしました。男らしくない態度でした。申し訳ありません」「すまんです。下谷で厄介になってた大工の娘さんと婚約してたんです」。一瞬、グラっとした真理子ですが、愛する男の表情を見抜けないわけもありません。「ウソです。あなたはウソを仰ってます」「杉さま。何かワケがあるなら、どうぞ仰ってくださいまし。真理は聞き分けのない女ではないつもりです。もし、あなたの仰ることが正しければ、真理はあきらめます。でもそのようなウソを仰られたのでは、真理は、真理は」。

結局、トボケとおした龍太郎が、煮込み屋台でアルバイトをしていると、そこに増田の息がかかった博徒と唐手家の金城がやってきました。おいおい、今日のオレは何をするかわからないぜ。とりゃー。片っ端から、投げまくる龍太郎。しかし、ピストルには勝てなかったようです。ズドン。どさっ。逃げろー。

肩を撃たれて倒れている龍太郎を見つけたのは、柳橋のえん彌姐さん。「はっ!杉さん。これはいけない」。命を取りとめた龍太郎は、そのままえん彌姐さんの家で養生することに。えん彌姐さんは、東小路の手先で金持ち証人の増田の世話を受けている身でしたが、そんなこと関係ありません。むしろ、杉さんを狙った増田なんて、大キライだよ、イーっだ、な気分です。

しかし、えん彌姐さんがラブラブ気分で龍太郎の世話を焼いているところに増田がやってきてしまいました。「あっ、貴様」と怒る増田。しかし、とりあえずは龍太郎そっちのけで、増田とえん彌姐さんの言い争いです。てめえ、浮気しやがって。ヘン、金を借りてるからって偉そうに。なにをーっ、金返せすぐ返せ。返してやるよ、ああ返すとも。本当だな、本当だな。なんか、そんな会話の後、ドスドスと増田は帰っていったのです。一転、しおらしげに「杉さん、愛想つかした?」とカワイイえん彌姐さん。「ねえ杉さん、あたしゃ、どんなことがあっても、あんたが元通りになるまで、返しゃしないから」。ええと、龍太郎の意見は誰も聞いてくれないみたいですね。ぐっすん。

増田が龍太郎の所にやってきて、新聞を見せます。
「世界的拳闘選手ルドルフ・マリク来朝 我国柔道界に試合をいどむ」
「ぼくにやれと仰るんですか」と聞く龍太郎。賞金はいっぱい出すよ、そうすればえん彌の借金も返せるんじゃないかい、とニヤニヤ笑いの増田。こ、これは。別にえん彌姐さんに惚れているわけじゃありませんが、"義を見てせざるは勇なきなり"とも言います。まさに、龍太郎の男が試されているのです。ここで逃げたら龍太郎じゃありません。蛇太郎。いえ虫太郎です。

兄弟子の三国は、試合をやったら紘道館を辞めることになるぞ。でも、やるからには全力でやれ。と、応援してるんだかたしなめているんだか、良く分からないことを言います。でも、龍太郎は頭を使うことはどうせ苦手です。もうこうなったら、やるしかありません。

そして迎えた試合の日。おせいは職人と結婚してしまい、今日、お嬢様の真理子も東小路に嫁ぐそうです。しかし、龍太郎は、今この瞬間。ただ戦うマシンになるのです。

試合の勝敗はどちらかが気絶するまでという、なかなか苛酷なもの。そして龍太郎は苦戦気味。なにしろ畑違いのボクサー相手で、なおかつ相手はグローブの下にメリケンサックを仕込んでいるのですから。ダウン。龍太郎はダウン。

その時、真理子もまた、結婚式の後のパーティでダウンしていました。ごふっ。なんだか、血を吐いています。露骨にイヤな顔をして逃げ出す東小路。どうやら、真理子は結核か何かにかかってるようです。「東小路さまもあんまりだ」とメソメソする婆や。「ねえ、真理子さん、負けちゃイヤ、強くなってね」とおせいは励ましています。そして、「許してくれ。わしが悪かった」と謝っている仙石伯爵。なんだか、このまま死にそうなイキオイですが、そんなことはないので安心してくださいね。

さて、試合に戻ります。メリケンパンチに何回となくダウンを喫した龍太郎。もうダメだ。もう動きたくない。そんな龍太郎の脳裏に真理子の声が響きました。「生きてください」。体が動くような気がします。「生きてください。杉さまっ」、ふっかーつ。どりゃーっ。ボクサーを投げ飛ばす龍太郎。二回、三回と投げられ逃げ腰のボクサー。そして、だぁーっ。気合と共に、ボクサーをより高く、より遠くに飛ばす龍太郎。ボクサーはそのまま、リングの外にぴゅー。ばたんきゅう。失神しました。

そのころ、試合の結果を待たずに、えん彌姐さんを手篭めにしようとしていた増田。そこに、試合を終えた龍太郎が飛び込んできました。投げつけるように賞金を渡した龍太郎。これでえん彌姐さんの借金は帳消しです。まあ、そこで終われば平和ですが、そうは問屋が卸しません。博徒たちが、ドスをきらめかせて襲ってきました。もちろん、龍太郎は快調に投げ飛ばしていきます。「あっ、危ない」、ダーン。龍太郎を庇って撃たれたえん彌姐さん。もう、こうなったら、目に入るもの全部投げてやる。とりゃ、とりゃ、とりゃあ。最後に残ったのは増田ひとり。

「ひと目で社会の害虫と分かる博徒どもはまだいい。しかし、貴様のような紳士の仮面を被った悪魔は……」

てやーーーっ。裂帛の気合と共に増田を投げる龍太郎。増田は、窓を突き破って、そのままどこかへ飛んでいくのです。

ここは海岸。真理子の転地療養先です。結局、伯爵は屋敷を売って田舎に戻り、東小路から離縁された真理子は、こうして婆やと共に寂しい海岸を見ながら、体を癒しているのでした。「こんなことなら、最初から杉さまと」とグチる婆やに、「婆や、もう言わないで」と、やはり悲しそうな真理子。と、そこにおせいに連れられ、龍太郎がやってきましたよ。下を向いてテレている龍太郎に、真理子は一歩また一歩と近づいていきます。嬉しくてメソメソしている婆や。寂しそうに笑うおせい。やがて、並んだ龍太郎と真理子は、海岸をどこまでもどこまでも歩いていくのです。


なんだか、龍太郎が外人と対決するところなどは、黒澤監督の「続 姿三四郎」っぽいですが、それもそのはず。原作者が一緒ですから。講道館を紘道館に、嘉納治五郎を矢野正五郎に置き換えた、この一連の柔道モノは、まあ有体に言ってしまえば、全部いっしょ。柔道最強。柔道家モテモテ。ということで。

それにしても、菅原謙二は、自身が主役の柔道モノでもイヤミがなくて素晴らしいですが、若尾文子や山本富士子、京マチ子などの助演に回っても、うまく女優さんを引き立てることのできる、いい俳優さんでした。川口浩、田宮二郎が台頭してくるまでは、まさに大映東京のベスト男優と言っても過言ではありません。

高嶺の花・山本富士子と低嶺の花・若尾文子は、そのキャスティングも納得な感じ。これが逆だと、まあ山本富士子はそれでもケナゲな娘っぽくてイケそうですが、高貴な伯爵令嬢の若尾文子ってギャグですもんね。

そんなこんなで、手堅い話に適切なキャストですから、安心して観られる娯楽作品でした。







いくらおにぎりブログのインデックスはここ

前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)

【映画】春婦伝

2008-06-20 | 邦画 さ行
【「春婦伝」鈴木清順 1965】を観ました



おはなし
慰安婦の春美は三上上等兵を情熱的に愛しますが、二人は捕虜になってしまい……

この「春婦伝」というお話を、一人の男と一人の女の恋物語だと考えれば、同じ原作を映画化した「暁の脱走」より、こちらの映画の方が遥かに良い出来上がりです。

中国の荒野を吹き渡る風になぶられる、春美(野川由美子)の横顔が映し出されます。どこまでも続く、白茶けた大地を踏みしめ、歩いていく春美。そこにナレーションが流れます。

「売春婦、娼婦、淫売。春美は天津の売春婦である。天津にいる間、彼女は一人の日本人を愛した。その男を自分の全部を賭けて、根限り愛して愛しぬいた。夫婦になるために。しかし、その男は日本から花嫁を連れて帰ってきた」

男の嫁を脅かし、男に「あの女と別れてしまわなければ殺す。殺す」とむしゃぶりつく春美。男にキスをせがむや、男の舌を噛み切ってしまうような、そんな情熱的な女です。

トラックに揺られている春美。傷心の春美は、自ら大都会の天津を離れ、ある県城の慰安所へ移ることにしました。トラックは黄土を踏んで走り続けます。春美と仲間の慰安婦を乗せ、ただひたすらに。

トラックは途中で八路軍の襲撃を受けましたが、どうにか敵を撃退できました。しかし、それよりも春美にとっては、同乗していた三上上等兵(川地民夫)の涼やかな視線に、吸い込まれるような気持ちを味わったのです。

慰安所では、長蛇の列をなした男たちが、春美たち慰安婦の体を求めてきます。そんな中、ほかの男の相手をしている春美のところに、副官(玉川伊佐男)が乗り込んできました。権威を笠に着て、「兵隊よりえげつない」と言われている副官に、反発する春美。しかし、副官の暴力と愛撫に、春美の体は反応してしまうのです。

そんな、ある日。三上上等兵が春美の部屋にやってきました。春美の顔が喜びに輝きます。しかし、喜びもつかの間。「今夜、副官殿が来られる。夜は客を取らぬように」という三上の言葉に、春美は「あたし副官の女じゃないよ。大きな口をきくなと言っておいてくれよ」と絶叫するのでした。好ましいと思った涼やかな目も、時と場所が変われば、別のものに思えます。「あの当番、私を汚らしそうな目で見やがって」、そう、同じ涼やかな目も、今の彼女には、自分を責める視線に思えてしまうのです。もちろん、それだけ三上という存在が、彼女の中で大きくなったのに他なりません。

夜になって、副官に抱かれる春美。副官は、体で、そして言葉で春美をいたぶります。「俺の当番兵の三上を見ろ。あいつは徹底的に飼いならされた犬だ。俺の言うことなら何でもする。兵隊の標本みたいな奴だ。お前も、あまり逆らわん方が得だぞ」。そう、確かに三上は副官に理不尽な理由で殴られても、無抵抗です。春美は思います。「この澄んだ目。ちくしょう、コイツを誘惑して、副官に反抗させることができたら。今に見てろ。あんたの権威なんか、ズタズタにしてやるから」。

さっそく、三上に言い寄る春美。「どうして、あんた、いつも私を汚らしそうに見るの。あたしが汚い」、やっぱり三上は涼やかな目で春美を見るばかりです。「あんたの、その目が憎いわ。あたしを何だと思ってるの」、三上は何も答えません。「あたしは何なのよ。豚、犬。豚なら豚でいいよ。豚には豚の考えがあんのよ」、そう言って春美は三上を押し倒しました。さすがに、三上は「どけっ。バカにすんな」と春美を突き飛ばします。うわーっ、号泣する春美。なんだ、なんだ、と仲間が集まってきます。「なんだい、男のクセに女を殴って」「春美にはね、副官がついてんのよ」、口々に三上を責める声があがります。「ちがう、ちがう、ちがうのよーっ」、泣きながら首を振る春美です。この一連のシーンは必見。なんていうか、野川由美子の存在感に圧倒されます。

また、ある夜のこと。副官の寝ているベッドから抜け出した春美は、忠実な犬のように、外で待っている三上に会いに行きました。珍しく酔っている三上は、「頭が痛い」と言っています。「休んで行きなさいよ。ねっ」、そう言って藁床に三上を寝かせる春美。「薄情者」と三上にそっとキスをした春美は、三上のズボンを脱がそうとします。それを戸惑ったように止める三上。「あんた、震えてるの。女と寝たことないの」、春美は感激しています。そして愛おしそうに服を脱ぎ。

「ダメだ、ダメだ。俺は何だって、こんなことしちゃったんだ」と泣いている三上。「いいのよ、いいのよ」と春美は、まるで菩薩のような柔らかい表情で、三上の頭を優しく撫でます。「あんたは私に、ホントの幸せってものを教えてくれたのよ。好きなの。こないだ、あたしをぶった時の、あんたの怒った目。あたし、あの時、はっきり分かったの。あなたがホントに好きだってこと。好きで、好きで、たまらないんだってこと」。

さて、宇野一等兵(加地健太郎)という男がいます。かつては見習い少尉だったものの、反軍思想のおかげで、一等兵に降格されたのです。当然、鬼軍曹の木村(藤岡重慶)などからは、目の仇にされ、いたぶられているようです。そして、この宇野の楽しみと言えば、本を読むこと。誰も寄り付かない、朝鮮人慰安婦のつゆ子(初井言栄)の部屋に行っては、岩波文庫の「哲学断想」を読んだりしています。

春美が、副官の顔に、そっと電報を落としてみました。熟睡している副官は気づく様子もありません。喜びで、宙を浮くように部屋の外に飛び出していく春美。そう、副官が寝ている間は、三上との逢瀬を楽しめます。しかし、三上は、あの電報を渡さないと困るんだ、と春美の相手をしようともしません。「副官がなんだ。副官なんか死んじまえ。どうして妬かないのよ」と怒る春美ですが、骨の髄まで「兵隊」な三上には、その気持ちは伝わらないようです。「じゃあ、あたしが副官と何をしたって平気。あんた、それで苦しくないの」「別に何ともないな。仕方がないじゃないか」。ショックを受けた春美の頭に妄想が広がります。嫉妬に狂った三上が銃剣を抜いて、自分を救いに来てくれる。ハッ、しかし現実に戻ると、三上はただただ副官のことを心配するただの「兵隊」なのでした。

「弱虫。弱虫よあんたは。あんなひどい目にあわされたあいつを、どうして憎まないの。罵らないの。殺さないの。あんた、それでも男なの。分からない、分からないわ。あたしが知ってるのは、あんたの体だけ。ちっともあんた分からない」。この台詞は悲痛です。「体」を売ってきた春美。「体」で考えてきた春美。「体」でしか、愛を確かめることも感じることもできなかった春美は、今、好きという気持ちを「こころ」で感じようとしても、それが分からないのです。自分の「こころ」に、処女の怯えを感じた春美は、ただサメザメと泣くのでした。

「三上っ!」、副官に呼ばれた三上は、「行かないで」という春美を押しのけ、副官のところに走ります。どうやら、電報には重大なことが書いてあったようで、起こさなかった三上は、副官からボコボコにされるのでした。その重大なことと言うのは、近くの村に送った分遣隊が八路軍に襲われたという報告。これは至急、部隊を送って分遣隊を救出せねばなりません。まずは、取るものも取りあえず、尖兵小隊が急ぎ、出発するのです。

しかし、尖兵小隊が到着した時に八路軍の姿はなく、ただ分遣隊の兵たちの焼かれた骸骨が転がっているだけです。そして、降格された宇野一等兵は、これをいい機会に脱走していきました。えっ、三上ですか。三上はただ、来て、見て、撃っただです。

しかし、それでも三上はどこかが変わったのかもしれません。少し積極的になりました。酔いつぶれている副官を置いて、柵を越え、春美のところに忍んでいったのです。抱き合う二人のショット。本当に美しい、夢のようなショットです。うれしくて、クスクス笑う春美。「何がおかしいんだい」「あんた、初めて、あたしたちのことで大胆になったのね」。「あたしね、最初、副官にツラアテする気持ちで、あんたに近づいたの。あんたをメチャメチャにしてやろうと思って……、メチャメチャになったのは、あたしの方だった」。こんな二人の不器用な冒険は、あっさり巡察隊に見つかりジ・エンドです。三上は、西門の営倉に放り込まれました。

ドカーン。三上の入れられている西門の方から、砲声が聞こえます。八路軍が襲ってきたようです。「三上出ろ。帝国軍人らしく、立派に死ね」、そう言われて、三上の軽機関銃の射手として、城外の塹壕に送られます。「三上さん、大丈夫かしら」、心配になった春美は走ります。三上の消息を尋ねまわります。「死んだかもしれん。2千メートル先の壕の中だ」、何ですって。走ります。走って、走って、そして。

壕に寄りかかって、身じろぎもしない三上。今までの轟音がウソのように静まりかえった中で、春美はつぶやきます、「三上さん、死ぬのね」。三上を横たえて、春美も隣に寝転がります。「やっと二人きりになれたわ。あんたは私のもの。あたしも、あんただけのもの」。轟音と共に、まるで花火のようにキレイな銃火を見ながら、寝ている二人。八路軍の兵士たちが次から次へと壕を飛び越えていきます。そして、二人は捕虜になりました。

手当てを受けている三上。意識を取り戻し、「ウワーッ」と絶叫します。状況は分からないけど、ただただ三上を守りたい、それ以外には何もない。そんな様子で、三上を庇っている春美。そう、ここは石窟に作られた八路軍の陣地です。

そこに、八路軍の政治部員(下元勉)がやってきて、流暢な日本語で言います。「私は八路軍の政治部員です。痛みますか。ああ、心配ないです。私たちは日本の兵隊は憎みません。あなたに対しても、国際法の捕虜の権利は保障します。しかし、日本軍、捕虜を認めないねえ。もし、あなたが希望して帰っても、軍法会議で処刑される。私は、あなたがここにいた方が安全だと思います。もちろんそれには、私たちに充分協力してもらわなけりゃならない、どうですか」。

春美に難しいことは分かりません。共産主義がどんなものかも理解していないでしょう。でも、ただ一つ、これだけは分かります。「ねえ、あんた。言うとおりにしよう。あんたの悔しい気持ち、よく分かる。だけど、しょうがないじゃない」。ただ、春美は三上と一緒にいたい、一緒に生きたいのです。もちろん、三上には三上の考えがあります。いや、正確に言うと、三上の考えではなくて、三上の受けた教育でしょうか。そして、その教育では、捕虜になるということは、許されていません。

と、そこに宇野一等兵が来ました。脱走した宇野は八路軍に身を投じていたのです。「なあ三上、しばらくシナ人と生活をしないか。愉快だぞ」と誘う宇野に、「俺は日本人だ。売国奴の言うことなんて、信用できるか」と三上は提案を一蹴です。そうか、と去っていく宇野。いや、宇野だけでなく、八路軍自体が次の根拠地を求めて、この石窟を去っていきました。「宇野さん待って……行っちゃう。行っちゃう。あんたどうするの。みんな行っちゃう」。

石窟の中に、二人だけが残されました。すぐに食糧もなくなり、もう二進も三進もいきません。しかたありません。付近を通りかかった日本軍に投降です。まあ、投降っていう言い方もヘンですけど。案の定、県城に戻った二人はすぐに引き離され、三上は営倉入りです。どうやら、三上は太源の司令部に送られ、軍法会議にかけられるようです。「あの人たちと一緒に行けば良かったんだ」と春美は悔しがりますが、後悔しても後の祭り。

「恥を知る者は強し。常に郷党家門の面目を思ひ、愈々奮励してその期待に答ふべし。生きて虜囚の辱を受けず、死して罪過の汚名を残すこと勿れ」。そんな戦陣訓の一節をブツブツと繰り返す三上。そう、三上は捕虜にならずに逃げてきた以上、自分は助かるのだと信じているようです。しかし、憲兵(小沢昭一)に賄賂を贈り忍んできた春美は、三上は軍法会議に送られると言いました。「いつだ、いつなんだ」「明日」。ガーン。三上は殴られたような気持ちになります。ただただ戦陣訓を信じ、「マジメ」な兵隊を貫いた結果が、これだとは。「春美、頼みがある」と三上は、思いつめたようすで言います。「言って。何でもしてあげる」「手榴弾、持ってきてくれ」。「罪人として処罰されるのはイヤだ。だから、その前に逃げる。万一の用意に手榴弾が欲しい」「あんた、生きるのね。生きようと決心したのね」。

「三上は名誉の戦死を遂げるんだ」と木村軍曹に言う副官。そう、太源の司令部に三上を送ったら、部隊の恥です。であれば、移送の途中で三上を殺してしまうしかありません。そんなことも知らずに、懸命に手榴弾を盗んできた春美は、予定より早く出発したトラックを見て唖然です。

しかし、結局、三上は殺されませんでした。木村軍曹は、三上の澄んだ目にひるんで軍刀を振り下ろせず、撃てと命じられた部下も、引鉄を引けなかったのです。そこに、敵襲の報告が入り、トラックはトンボ帰り。三上は、また営倉に入れられる、、と、そこに春美が助けにきました。そのまま戦闘のドサクサに紛れて、逃げ出す二人。城壁にある門がキラキラと輝いて見えます。あれを抜ければ自由が、殺されることのない世界が待っているはずです。

「春美、お前は帰れ。ここにいたら危ないぞ」、三上はそんなことを春美にいきなり言い出します。「あんたは逃げないの」「そんなことができるか。ちくしょう。俺が卑怯かどうか、俺は見せてやるんだ。俺が卑怯か、卑怯でないか」。手榴弾のピンを引き抜く三上。

「あたしも死ぬーっ」
「天皇陛下、ばんざーい」

赤々と燃える荼毘の炎。燃やされる二人の遺骸の横を、進軍ラッパとともに兵たちは行進していきます。結局、二人を見守るのは、仲間の慰安婦たちだけでした。チョゴリを着たつゆ子はつぶやきます。「日本人、すぐ死にたがる。踏まれても蹴られても、生きなければいけない。生き抜く方、もっとツライよ。死ぬなんて卑怯だ」。荼毘の炎が、ひときわ大きくなったようです。


「愛する」女の物語としては、最上の部類に入るんじゃないかと思います。ただ、あくまで「愛する」女であって、愛し合う男女の物語ではありません。最後の台詞にも現れるように、女は全身全霊をかけて男を愛しぬき、男は女への愛と抽象的な理念の間に落ち込んで迷う。そんなすれ違いの物語でもありました。一見すると、ジャン・ジャック・ベネックス監督の「ベティ・ブルー」にも通じるような、女の狂気の物語でもありますが、根本的な部分が異なっています。それは、愛も希望もすべて自分の内面の中に求めて狂っていくのか、愛のために自分の全てを投げ出していくかの違いです。まあ、どちらも行動が「イカレテいる」という点で、見た目は一緒ですが、中身はずいぶん違うんだということです。

ぼくは、鈴木清順監督の映画の中で、この作品が一番好きです。「悲愁物語」のイカレっぷりも捨てがたいのですが、何と言っても、この映画は野川由美子が主演ですから。そう、ぼくは野川由美子も大好きなのです。特に、鈴木清順監督の「肉体の門」「河内カルメン」、そしてこの「春婦伝」。この三作品の野川由美子は、ほとんど神がかりというか、体の中から噴きだす生命力のオーラがキラキラと輝いて、日本映画の中で、もっとも輝いた女優じゃないかと思うくらいです。

若尾文子もそうですが、コンスタントに輝いていて、徐々にオーラが強くなっていく女優さんがいます。その一方で、ある数作品だけかもしれませんが、大爆発といった感じで、強烈に輝く女優さんがいます。思うに、野川由美子は後者のタイプじゃないかと思うのです。もちろん、野川由美子は他にも多くの作品に出演していて、それぞれ魅力的ですが、鈴木清順の、特にこの3作品については、言葉にならないほど、美しく、危なく、そして魅力的です。

この映画には、戦陣訓に代表される日本軍の非人道性、つゆ子に象徴される朝鮮民族慰安婦の問題などの、大きな裏テーマが隠されていますが、その点については失敗だったと言わざるをえません。なにしろ、野川由美子の存在感が圧倒的すぎて、他に注意が向かないからです。怒涛の恋愛ドラマ。そう捉えるのが、もっとも妥当でしょう。

噛めば噛むほど味が出る。観直せば、観直すほど、野川由美子の魅力に取り付かれていく。ぼくにとって、そんな作品です。

えーと、野川由美子のことを語ると、歯止めが利かなくなってますね、自分。







いくらおにぎりブログのインデックスはここ

前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)

【映画】千姫御殿

2008-05-28 | 邦画 さ行
【「千姫御殿」三隅研次 1960】を観ました



おはなし
遊興に耽って、男を殺すと噂された千姫ですが……

以前、ご紹介した「千姫」は京マチ子主演でしたが、今作の千姫は山本富士子。まあ歴史的にはスカタンなのは相変わらずですけど、今度の千姫は一味違う。はっきりいって「美しい」です。

「もしや、ここは吉田御殿では」。謎の侍女に誘われれるままに連れてこられた、ちょっとイイ男の芳さんはビビってます。恋人のおかつ(中村玉緒)と出会い損ねての、この惨劇。あ、まだ惨劇じゃなかったですね。

ともあれ、とても怖い顔をした如月(山田五十鈴)に、「そなた揉み療治もいたすそうな」と言われた「大工の」芳さんは、よく分かんないままに、お姫様の前に引き出されてしまったのです。

カメラがグググッと寄ります。はい、千姫(山本富士子)がアップになりました。いや、キレイだ。

「そなたは、これより湯浴みをして、ご寝所へうかがうのじゃ」「男なら誰でもできることじゃ。恩賞は取らせるぞ」、そんな甘いことを言う如月。まあ、だいたいにおいて、「誰でもできる仕事です。高収入確実」などというのはサギに決まっていますが、哀れ、芳さんも翌日には、沼にプカァと浮かんじゃったのです。

千姫の住む吉田御殿に、柳生但馬守(滝沢修)が上使としてやってきました。「役目ゆえ、歯に衣着せず申し上げます。姫、昨今のご行状につき、大御所にも、また将軍家にもいたくご心痛あらせられ」、「但馬、もう分かった」と言葉をさえぎる千姫。「噂は噂、千は千じゃ。お役目大儀」と柳生但馬を追い返してしまい、そのまま歌舞伎者と遊ぶのでした。

「今度は歌舞伎者が殺されたと言うぞ」と、本多家の家臣たちは、額を集めて相談中。もちろんテーマは千姫の放埓ぶりです。なにしろ戦国最強武将、本多忠勝の子孫ですからね。そこの未亡人が色好みで、日夜男を連れ込んでは、殺してるなんて噂が立ったら、ひじょうに困るのです。というか、既に立っているし。うーむ。こうなったら、千姫を殺してしまいましょう。うん、それしかありません。なにしろ、本多家の誇りがかかっているのですから。ということで選ばれた武勇の士は小林万次郎。あの本多家から選ばれた男ですからね、きっとやってくれますよ。

「皆の者、遠慮いたせ」。侍女たちが下がり、小林万次郎と千姫、二人きり。ぐいっと千姫が小林の手を掴みます。「な、何をいたします」と小林。「その手でわらわを刺そうと思ったのか。ご機嫌伺いとは方便。まことはわらわの行状を見届けに参ったのであろう、どうじゃ」。あろうことか、小林某は、恋しかったとか言って、千姫にすがりついてますけど。これは情けない。

戦国最強、本多家の家臣たちは、またも鳩首相談中。うーん、小林は五日間も帰ってこないけど、どうしたんだろう。はい、こうなってるんです。「姫、私を捨ててくださいますな」と、千姫にすがりつき、ヨヨヨとしている小林某。「小林、そなたは、そのような哀れな男であったのか、わらわこそ、わらわをしっかり支えてくれる男が欲しいのに。わらわこそ強く頼もしい男の胸にすがりたい」。

ぷっかぁ。小林某の死体が、また沼に浮かびました。大工や歌舞伎者の死体ならともかく、歴とした侍。それも本多家家臣が死体となっては、ただではすみません。今度は幕府のお偉方が、雁首そろえて相談です。父の将軍秀忠も、千姫の処分には賛成。しかし、大御所、家康がなんと言うか。あ、家康(中村鴈治郎)がやってきました。聞いてみましょう。

「仕方が無い。千は引き取ろう」。一堂ほっ。しかし「離縁だけで充分じゃろ。吉田御殿も動くには及ばぬ。あれはわしがお千に建ててやったものじゃ」と家康が言い出したので、みんなビックリです。「恐れながら」と本多佐渡守(志村喬)が身を乗り出し、柳生但馬守も「髪を下ろして尼寺へはいらせたもうが第一かと」と諫言。当然、家康はムッカーとした顔になるのです。

吉田御殿の門前で、幸若舞の一節を謡っている目元涼やかな若侍が一人。案の定、というか、御殿に招じ入れられました。中では千姫が酒を飲んでいる真っ最中。「苦しゅうない、なんなりと舞うてみせい」。そんな千姫に、若侍・田原喜八郎(本郷功次郎)は「これはしたり。ご酒宴の興を添えるために、酒の肴に舞えと仰せあるのか」と言い返すのでした。

「ええい、そちのような礼を知らざる者。見とうもない。下がれ」と怒る千姫。しかし、周りの取りなしで、まあ観るだけは、観てあげることにしましょう。フンっ、とした表情で観ている千姫。おや、観ているうちに、どんどん身を乗り出しましたよ。はい、惚れました。

千姫の侍女が、謎の忍者と接触しています。殿の仇はいつ取れるのかと聞かれた侍女は、こんなことを言うのです。「千姫が乱行の限りを尽くして、稀代の悪女、古今の毒婦と世につまはじきされ、罵られるのを待つのだと申された」。えーと、「申された」ということは、バックにはまだ「誰か」がいるということですね。いったい、それは誰っ。

侍女たちは噂をしています。それによると、千姫は喜八郎から熱心に舞を教わっているそうです。その上、夜のお召しもないらしいとのこと。そんな会話を立ち聞きしている下働きの女が一人。おや、おかつです。大工の芳さんの彼女じゃないですか。これは、何か魂胆がありそうですね。

さて、お稽古中の千姫。喜八郎にペシっと腕を叩かれたりしていますよ。まあ、どう考えても、本郷功次郎が山本富士子に舞を教えているのは、ヘンなんですが、まあ良しとしましょう。「形が悪い。手をこうやって」と喜八郎が千姫の手を握りました。千姫の顔にさっと恥じらいが浮かびます。もうツンデレもいいとこ。部屋に戻った千姫は、頬に手をあて、鏡を見ながら「あの人に手を取られただけで、なぜあんなに震えたのだろう」とか言ってるし。と、そこに「芳さんの仇」とおかつが懐剣を手に殴りこみです。しかし、しょせん町人の悲しさ。千姫に懐剣を叩き落されちゃいましたよ。

「では、わらわが芳之助をなぶりものにして、殺させたといいやるのか」とおかつに聞く千姫。そう千姫は、芳之助が殺されたことを、いえ、歌舞伎者や小林某が殺されたことすら知らなかったのです。なぜか、おかつを無礼討ちにしようとあせる如月ですが、千姫はおかつをそのまま、立ち去らせるのでした。

吉田御殿から出たおかつは、謎の忍者たちに斬られて、傷を負いました。と、そこに現れたのが喜八郎。サクっと敵を撃退です。その足で、喜八郎は本多佐渡守の屋敷に向かいました。彼はなんと、本多佐渡守配下の隠密旗本、松平喜八郎だったのです。

「姫はお育ちがお育ちゆえ、並みの女より驕慢な振る舞いこそ見受けますが、伝えられるごとき男狂いとかふしだらな行状は事実無根と存じます」と報告をする喜八郎。しかし、本多佐渡は渋い顔。と言うのも、千姫の悪行を書きたてた告発状が来ているというのです。とりあえず喜八郎は継続して、調査をすることになりました。

ちょうどその時、大御所家康は危篤でした。そんな時に、家康の懐刀である本多佐渡が隠密と会っているのはおかしい、とか仮に思っても、言ってはいけませんよ。都合もあるんですから。泣き濡れる千姫の前で大往生する家康。もちろん、家康は江戸城じゃなく駿府城で死んだんだろ、とかいうツッコミも禁止。そもそも、家康が死んだのは、千姫が本多忠刻と結婚する前だし、歴史的には、このお話全てがムチャな話ですから。

まあ、それはともかく、お爺様が亡くなってショックな千姫は、一人馬に乗って走り出しました。それを慌てて追う喜八郎。折からの雷雨で、洞窟に避難した二人は、そのまま結ばれちゃうのです。しかし、このシーンは、抱き合った二人のショットのあと、二頭の馬が前後にジタバタとしているショットで「何か」があったことを象徴しています。昨今の映画だとすぐにオッパイとかを出しますが、昔の映画は、秘すれば花というか、なんとも奥ゆかしいですね。

お爺様への手向けと言いつつ、ルンルンな千姫は舞を舞っています。一方、喜八郎と言えば、「俺はなんと言うことをしてしまったのだ」と、柱に頭をくっつけつつ、悩んじゃっているのでした。「俺を信ずればこそ、何もかも捧げてくれた姫に今さらどうして、幕府の隠密なとと知らされようか。言えぬ。言えるものか」。ということで、無かったことにするのが一番。「今日の昼間のことは、あの時限りのものと思って」と千姫に言ってみる喜八郎。うわっ。千姫が悲しそう。真実の愛を手に入れたという喜びが、一転、どん底ですから、もう泣きそうです。「姫、これ以上喜八郎を苦しめないで」とハアハアいってる喜八郎。「喜八郎、そなただけは分かって欲しい。天下の者、誰一人分かってくれなくて構わぬ。そなただけは分かって欲しい」と泣き濡れる千姫を、喜八郎は結局、「姫、許されい。喜八郎は離れませぬ。神かけて、お傍を離れませぬ」と強く抱きしめるのでした。

喜八郎はたまたま老女如月の部屋で書付を見つけました。おや、これは告発状と同じ筆跡じゃありませんか。早速、如月の後を尾けてみると、なにやら怪しい忍者たちと会っていますよ。なんと、如月は、坂崎出羽守のお姉さんで、千姫に復讐のため近づいていたのです。(ちなみに坂崎出羽守については、千姫に書いたので省略。もっとも史実ではないようですが)

とりあえず、敵を斬りまくる喜八郎ですが、老女如月は、もはやこれまでと、千姫を殺しに去ってしまいました。危うし千姫。間に合うのか喜八郎。

正体を現し、まさに千姫を殺そうとしていた如月。そこに敵をやっつけた喜八郎が駆けつけ、エイッと斬りかかりました。良かった、間に合いました。感激の千姫は、手ずから喜八郎に包帯を巻いてくれたりしています。
「もしそなたが、現れてくれなかったら。そなただけは、変わらないでおくれ」ギクッ。
「わらわを騙さないでおくれ」ギクギクッ。
「真実、真実、わらわを愛しいと思ってくれますか」ズキン。喜八郎、もうヘロヘロです。

またも上使の柳生但馬がやってきました。もう家康はいないので、柳生も強気。他家に嫁ぐか、尼寺に入るか、どちらかを選べと言うのです。「喜八郎、どうしよう。公儀では、世間の噂を取り上げて、どうしてもわらわを始末する考えじゃ」。これはタイヘン。すぐさま、本多佐渡に全ての事実を報告しなければ。

ということで、本多佐渡の屋敷に行き、殺人事件はすべて、坂崎出羽の姉が仕組んだことであると報告する喜八郎。これで、元通りですね。と、思ったら、「そうか、しかしもう遅い」と本多佐渡は渋い顔です。これだけ世間に噂が広まった現在、事実を公表したら、確かに千姫の名誉は回復されるかもしれない。しかし、その分、幕府の権威はガタオチ、だそうです。さらに、洞窟で千姫と結ばれた一件まで知っている本多佐渡は、「不届き者め、閉門を申し付ける」と喜八郎に申し渡すのでした。

待てど暮らせど帰ってこない喜八郎。その代わりというのもヘンですが、本多佐渡が吉田御殿にやってきましたよ。「佐渡、喜八郎がそなたの屋敷にやってまいりはせなんだか」と尋ねる千姫。本多佐渡は憎らしいほど落ち着き払って、「当然でございます。公儀隠密として」と答えるのです。「隠密、隠密とは誰のことじゃ」「田原喜八郎こと旗本、松平喜八郎。姫の行状、残ることなく調べ上げ、つつがなく役目果たしましてござります」。千姫はガーンです。「喜八郎が、、隠密」。
ついでに、本多佐渡は、将軍家の命令として千姫に落飾剃髪を言い渡しました。ガガーン。

喜八郎は「俺の体はどうなってもいい。姫をお救いできるのは俺一人だ。このままお別れすれば、姫の心は生涯、生き地獄をさまようんだ。どけ、どけっ」と、屋敷を飛び出そうとしました。しかし、そこに上使が。「上意っ。松平喜八郎、そのほう儀、公儀お申し付けに背き、重き役目をないがしろにしたる段、重々不届きなり。よって切腹申し付けるものなり」。ガクッと肩を落とす喜八郎です。

喜八郎は命を助けたおかつに千姫への手紙を託し、切腹して果てました。おかつは走ります。走ります、手紙を持って。千姫は導師の手で髪を下ろしました。信じていた喜八郎に裏切られた千姫の目は、もはや空ろで、生気がありません。

おかつは吉田御殿に走りこみます。「ひいさま、喜八郎様の、喜八郎様のお手紙にございます」。しかし、千姫は聞こえているのか、聞こえていないのか、まったくの無表情。「なにとぞ、なにとぞ。お読みくださいませ」、しかし、千姫は無言で歩いて行きます。「お手にとってくださらないならば、せめてお耳にお入れくださいませ」。おかつは手紙を読み始めました。喜八郎の詫びる言葉、喜八郎の愛の言葉、喜八郎の、千姫を思う真実の言葉。悲しげな顔になった千姫は、おかつから手紙を受け取り、読み続けます。「あの世にて、いついつまでも君をおん守り申すべく候」。千姫は泣き出します。「さりながら未来は我らがものに候」、千姫は繰り返します。「さりながら未来は我らがものに候。さりながら未来は我らがものに候。喜八郎、そなたは命を捨てて、わらわを救ってくれました。お千の魂は地獄の苦しみから救われましたぞ。お千は、お千は幸せ者」。

平伏しているおかつに、ひとつ頷きを返した千姫は、静かに寺に入って行くのです。


まあ、比べても仕方ないんですけど、京マチ子の千姫と山本富士子の千姫、えらく違うし、違って当然です。ただ、お富士さんの美しさは、なんていうか神がかりですね。そして、こういった正統派の美人には、正統派の時代劇がよく似合います。

ちょっと大時代で、ある意味ベタなメロドラマ。そんな作品でお富士さんは光ります。もっとも、市川崑監督の「私は二歳」で見せたお母さんなんかも、キチンと演じられていましたので、決してダイコンという意味ではありません。そうではなくて、あまりに顔が整いすぎていて、使いどころが難しいのです。

そんなお富士さんですから、今作のようなお姫様などは、まさにはまり役。相手役の本郷功次郎も美形ですから、まさに美男美女の夢物語を堪能すれば、それでOKです。

京マチ子の千姫が「太陽」であるとすれば、お富士さんの千姫は「月」。それも極上の名月、そんな風に思いました。





いくらおにぎりブログのインデックスはここ

前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)

【映画】少林寺拳法

2008-05-19 | 邦画 さ行
【「少林寺拳法」鈴木則文 1975】を観ました


おはなし
少林寺拳法を創設した喧嘩坊主こと宗道臣の活躍を、「史実に基ずいて」(ママ)、描きます。

とりあえず、オープニングに出るテロップに、こうあります。
「この物語は史実に基ずいて製作されたものですが 登場人物 団体等の名称に関しては、一部架空のもので、実在するものとは関係ありません」(「基ずいて」は原文のママ)
とりあえず、「史実」という言葉の違和感は別としても、一部名称以外は「事実」みたいですよ。ってことは、千葉ちゃん主演の他のカラテ映画とは違って、地味なんですかね。あんまりムチャな設定も使えなさそうだし。ま、あまり期待せずに観てみましょう。

「昭和二十年(1945)」「中国大陸」
ドッカーン。ズガガガ。中国軍と日本軍が激戦中。しかし、日本軍の敗色は濃厚です。なにしろ中国軍の前線本部でも「東洋鬼の息の根を止めてやる!」と意気盛んなくらいですから。と、前線本部に見慣れない男が。スパイです。見つかったスパイは軽機関銃を乱射しながら逃げて行きましたが、いまさら少しくらい秘密がモレたって、中国の優位は揺らぎそうにもありません。

さて、そのスパイこと宗道臣(千葉真一)は、日本軍の本部に戻ってきました。早速、大佐(小松方正)に敵進撃路の報告です。しかし、大佐は悲しげに、「宗くん、もういいんだ。日本は、われわれは負けたんだ。君たち特務機関にもずいぶんと頑張ってもらったが、もういいんだ」と言うのです。くっそー。キレた千葉ちゃんは、持っていた軽機関銃を乱射しまくり、「日本は負けた。だが、俺は負けてはいない。負けてはいないぞー」と叫ぶのです。えーと、「史実に基ずいて」るんですよね、この映画。

さて、捕虜になった日本人たちはつらい目にあっています。今も、元帝国軍人が、中国軍人のご機嫌を取るために、日本人の娘・菊(中島ゆたか)を「夜の伽」に差し出そうとしているじゃありませんか。と、そこに千葉ちゃんが立ち上がりました。有無を言わさず、元軍人たちをボコボコにして、言います。「罪も無い人を犠牲にして、何が軍だ。何が同胞のためだ。苦しいときはみんな同じように耐えればいいんだ」。思わず、頬をポッと赤らめちゃう菊でした。

日本に戻った千葉ちゃんは、混雑した列車に乗っています。買出しに出かける人などでごった返した車内。しかし、そこには愚連隊化したお隣の国の人たちが、我が物顔で威張っているのです。もちろん、挨拶代わりにボコる千葉ちゃん。しかし、周りの日本人たちは見てみぬ振りをしているじゃありませんか。

「お前たち、それでも日本人か。戦争に負けても、そこまで腑抜けになることはない。みんな、手を貸して、窓から放り出してしまえ」と言い出した千葉ちゃん。ヤルといったら本当にヤリそうです。でも、走っている列車から放り出されたら、たまったもんじゃありませんよ。あわてて、「マテクレ。タスケテクレ」と謝るお隣の国の人たち。「いいか、日本人は8千万。お前たちは30万いるかいないかじゃないか。玄界灘は泳いでは帰れんぞ。日本に住む気なら、仲良くしようじゃないか」と千葉ちゃんがニッコリすると、お隣の国の人たちは、ワルカタヨと言ってくれたのです。

千葉ちゃんは故郷に戻りました。母の墓前で思い出すのは、父がいないとバカにされた日々。そして、厳しくも優しい母の顔でした。「道臣はもう立派な男の子です。母さん、今日、それが良く分かりました。宗家は千年続いた武士の家柄。どんなに辛くても耐えておくれ」、そんな母の言葉を思い出して、涙する千葉ちゃん。「母さん、あなたは私に耐えることを教えてくれました。しかし、私は自分の力で戦う人生を選びました。許してください」。えーと、親の言うことを聞かないのは、子供の特権です。

「大阪 阿倍野」
焼け跡に広がる闇市。片方では食うや食わずの浮浪児たちがたむろし、片方では進駐軍からの横流し物資があふれている、そんな弱肉強食の世界です。今、浮浪児たちが、赤松組からカンヅメを盗みました。逃げ出す浮浪児たちですが、一人が捕まってしまいましたよ。逃げ切った浮浪児たちは、「助けて、オッチャン」と千葉ちゃんのところに駆け込むのです。早速、リンチされている浮浪児を助けに行く千葉ちゃん。

「盗んだのは食い物だろ。食い物と土地は天下公平。食えない奴が不正のヤミ物資をかっぱらうのは当たり前だ」と、持論を展開する千葉ちゃん。当然、赤松組の親分(小池朝雄)は、「ほざくなノラ犬」と言い返してみますが、「不正はいかんが、不法はいいと俺がこいつらに教えてある」と千葉ちゃんは言い放ち、ついでに親分、子分、みんなまとめて、ボコボコにしちゃうのです。それを見ていた酔っ払いの大滝(佐藤允)が、こいつはデキルと踏んだのか、千葉ちゃんに挑戦してみますが、これまたパンチ一発でKO。よく分かんないけど、千葉ちゃん強し。

オツトメを終えて、焼け跡に戻った千葉ちゃん。今度は、勝手に商売しようとして、パンパンたちにリンチされている娘を発見です。と、顔を見ると、以前満州で出会った中島ゆたかじゃありませんか。とりあえず、助けてあげて、雑炊を食べさせると、中島ゆたかはお礼のつもりか、自分から地面に寝っ転がりました。「さあ、好きなようにして」と言う中島ゆたかに、「せっかくパンスケになるところを助かったんだ。自分をそんなに粗末にするもんじゃない」と説教する千葉ちゃん。しかし、中島ゆたかはなおも言います。「今日助かったって、どうせ明日からは生きてはいけないんだ。だから、あんたを最初のお客に」「ばかやろー」。千葉ちゃんパンチが炸裂です。

弟とともに、千葉ちゃんや浮浪児たちがやっている雑炊屋で働くことになった中島ゆたか。笑顔が戻ってきました。しかし、そこに悲劇が。中島弟が、進駐軍のジープに撥ねられたのです。早速、飛び出して行って、米兵をギタギタにたたむ千葉ちゃん。ついでに、警官隊もボコって、留置場送りです。

その留置場には、以前、勝負を挑んできた大滝こと佐藤允が先客として入っていました。「俺は空手四段。あんたとどっちが勝つかやってみようじゃねえか」と再挑戦の佐藤允ですが、千葉ちゃんキックで留置場の壁をぶち抜いて飛んで行くのです。「史実に基ずいて」るんですよね、これ。

千葉ちゃんは署長(丹波哲郎)に呼び出されました。「君がやった二人のGIはな、どうやら片輪になるらしい。向こうの裁判にかけられると、悪くて死刑。良くても沖縄送りの重労働は免れん」と言い出す丹波哲郎。「どうだ、今夜中にこの大阪を出て、どこか遠くへ行け。脱走ということで処理する」。普通なら、えーっ、ですが、丹波哲郎が言うと、ありえるよな、と思ってしまうところがスゴイですね。早速、浮浪児たちと涙の別れをする千葉ちゃん。そして……

「昭和22年(1947)」「香川県多度津」
進駐軍相手に、嬌声を上げながら踊っている女たちを、苦々しい思いで見つめているのは、特攻崩れの友田(誠直也)。つい、暴れてみると、怖いお兄さんたち(安岡力也たち)がやってきてタコ殴りにされちゃいました。そこに、やってきたのは千葉ちゃん。「げっ、喧嘩坊主」とビビル怖いお兄さんたちを、あっというまに叩きのめしていきます。ついでに、「どいつもこいつもぶっ殺してやる」とピストルを抜いた誠直也も川に叩き込んで、はいお掃除終わり。

千葉ちゃんは、この地に道場を構え、不良たちを一本釣りしては、門弟にしているようです。「俺の財産はこの青年たちだ」と豪語するとおり、門弟たちは完全に千葉ちゃんに心酔しきっており、誠直也にも「あんたも拳法やってみないか」と勧誘するのでした。もっとも誠直也は「俺はゴメンだ。拳法も新憲法も俺には関係ねえ」とダジャレで断わっていますが。

そうはいっても、千葉ちゃんと修行に励む青年たちを見ていると、どこか血がたぎるのも事実。その上、うどん屋台の看板娘にからむ安岡力也を、一撃で倒す千葉ちゃんを見ると、誠直也がどうにもムズムズしてきました。「俺もやってみるか」。

誠直也の妹は友田美穂(志穂美悦子)。この妹が、「先生、お兄ちゃん少林寺習いたいんですって。入門させてあげてください」と言い出しました。えーと、兄。自分で言えよ。ま、それはともかく、志穂美悦子も入門し、みんなで楽しく修行です。

さて、ある日のこと。いきなり道場破りが現れました。負けたら道場を寄越せ、だそうです。いちおう、戦後の話なんですけどね、これ。しかし、当然千葉ちゃんが負けるわけもなく、ニヤンコ先生(いなかっぺ大将)ばりの空中回転着地をキメたりしつつ、あとはもうギッタギタのボッコボコです。「先生、やりますね。しばらくです」と現れた佐藤允も交え、ますます勢いのあがっていく少林寺拳法なのでした。

うどん屋台の看板娘が、安岡力也たちに暴行されました。怒りに震えるうどん屋台オヤジ。しかし、警察は土地の暴力団の味方で、安岡力也たちはあっさり釈放されてしまったのです。そのうえ、強姦ではなく和姦だと、ふざけた判断です。もう、こうなったら、相談するのはあの人しかいません。

「法が裁かなくても、俺が裁いてやる」。千葉ちゃんは、敵地に乗り込み安岡力也を連れ出しました。いい感じにボコったあと、「ズボン脱げ」と命令する千葉ちゃん。チョッキン。うわっ、おちんちん切っちゃいましたよ。ポイ。うおっ、野良犬が食べてます。しつこいようですが、本当にこの映画「史実に基ずいて」るんでしょうか。

仲良く練習に励む、誠直也、志穂美悦子の兄妹。「お兄ちゃん、変わったねえ」「そうか、変わったか(笑顔キラリン)、みたいに、すごく楽しそう。しかし、そこに暴力団が襲ってきたのです。もちろん、千葉ちゃんのとこに行くと、タイヘンなことになるから、弱めの方でひとつ、みたいな。
とは言え、誠直也も善戦。素手なら負けませんよ。素手ならね。エイッ。暴力団の中ボスが刀を振り下ろしました。ゴロゴロっ。あわれ、誠直也の腕は肩からすっぱり落とされてしまったのです。

もちろん、千葉ちゃんがすぐさま報復に乗り込み、中ボスの指をすっぱり落としてきましたが、それで誠直也の気持ちが治まるわけもありません。カストリを飲んでグデングデンの毎日です。「こんなことなら、特攻で死んだほうがマシだった」と荒れる誠直也に、千葉ちゃんは「友田。そんなに死にたけりゃ、俺が死に場所探してやる」パーンチです。「さあこい」といいつつ、ビシビシと往復ビンタ、パンチ。そしてまた往復ビンタ。もう徹底的にボコボコ。いわゆるフルボッコの状態に。もう、パンチドランカー寸前の誠直也は、思わず片手で防御の構えをとりました。「友田、見ろ。やればできるじゃないか」。いや、これはほとんど、脊髄反射なんでは。

「己の心に打ち勝つ。それが少林寺拳法だっ」「せんせーい」。誠直也を抱きしめ、頭をグリグリしてあげる千葉ちゃん。誠直也は泣いています。ついでに、横で志穂美悦子も号泣です。
ということで、弟子も増えました。大勢の弟子たちの中には、誠直也もいます。志穂美悦子もいます。佐藤允も、そして看板娘までも。

「昭和二十三年(1948)」
隆盛著しい少林寺拳法。新聞に「少林寺拳法、公開演武会開かれる」と記事が載っちゃうくらいです。しかし、良い事があれば悪いことあるもので、ここ香川県多度津に、昔なつかし小池朝雄率いる赤松組も進出してきたのです。

警察や進駐軍に金をばらまいた小池朝雄は、地元暴力団と手を組み、マーケットを作ると称して、バラックの人たちを追い立てにかかりました。こんな時、相談を受けるのはやっぱり千葉ちゃん。「かまわん、徹底的に居座ったらいい。私が責任もちます」と頼もしいお答えです。と、そこに電報が舞い込みました。大阪は阿倍野からの電報には「キク ヤマイオモシ オイデコウ オオサカ キミオ」とあるじゃありませんか。タイヘンです。中島ゆたかが危篤のようです。慌てて、大阪に行く千葉ちゃん。

「菊さん、元気を出せ。これからずーっと俺がついててやるぞ」と千葉ちゃんは言いますが。中島ゆたかは、ゴボっと血を吐いたりして、どうも危ない感じです。というのも、「おっちゃん。姉ちゃん、パンパンになっておいらたちの面倒を見てくれてたんや」だそうで、体が弱りきってしまったみたいですね。しかし、中島ゆたかは苦しい息の中、言葉を絞りだすように語ります。「あたしは後悔していません。自分自身、選んだ道ですから。宗さん、弟を子供たちをお願いします。キミオ、おじちゃんのように強い人になるのよぉー」バタっ。

千葉ちゃんは自問自答します。「俺は菊を救うことができなかった。俺には力しかないのか。菊には力はなかった。だが愛があった」「そうだ、愛だ。力だけを目指して今日まで生きてきた。俺に足りなかったものは愛だったんだ。力と愛。この二つが俺には必要だったんだ。力愛不二。そうだ、力愛不二だ」

さて、千葉ちゃんの留守中に、今にもバラックは潰されそう。佐藤允が立ちはだかりますが、ヤクザたちにグサグサグサグサグサグサと6回ほど刺されちゃいました。あっ、千葉ちゃんが弟子たちを連れて走ってきましたよ。ヤクザたちはスタコラ逃亡です。

小池朝雄と、地元のボス(名和宏)は悪事の相談中。そこにヤクザたちが、少林寺に邪魔されたと駆け込んできました。「よっしゃ、よっしゃ。わいが署長に掛けおうたるわ。ほんまに奴らは法に逆らう無頼の徒や」と、親分らしいところを見せる小池朝雄。ガラっと襖をあけると、そこには怖い顔をした千葉ちゃんがニュっ。小池朝雄、思わず、ずるずる後ずさりです。「少林寺が無頼の徒なら、貴様たちはなんだ。そんな法ならいくらでも破ってやる」というが早いか、千葉ちゃんのパンチ、キックがうなります。子分たちはボコボコ。名和宏の腕もボキボキです。口を半開きにして、唖然としていた小池朝雄ですが、とりあえず脱兎のごとく逃げ出しました。逃げる小池に、追う千葉ちゃん。邪魔する子分は、空中蹴りでKOです。ピストルを撃ち始める小池朝雄ですが、巧みに木の陰に隠れた千葉ちゃんは、隙を狙って怒りの鉄拳ぱーんち。口から血をダラダラーっと出して、小池朝雄は悶絶するのでした。

いち、にっ。少林寺拳法の拳士たちが練習をしています。たくさんの人です。カメラが引いていくと、とんでもない人数。まさに山がひとつ、少林寺の拳士たちで埋め尽くされています。
そこにテロップがどどーん。
「正義をともなわない力は暴力なり 力をともなわない正義は無力なり」(完)


事実は小説より奇なり、というけど、スゴすぎるわ、これ。

ちなみに知っている人にとっては常識なんでしょうけど、中国の少林拳と、この映画の少林寺拳法は「まったくの」別物だそうです。少林寺拳法はあくまで宗道臣さんが創始した宗教の一部。宗教法人金剛禅総本山少林寺の修行が、少林寺拳法だそうです。で、宗教とか言っても、人がついてこないので、若いものを集める手段として、少林寺拳法を教えたと。

だから、映画の中でも、いきなり力と愛だ、力愛不二だ、とか言っていたんですね。とはいえ、演出的には、愛だ、と言ったあとに、千葉ちゃんがヤクザをボッコボコですから、ちょっとどうなんだと思わないでもないですけど。

出演者は、千葉ちゃん、佐藤允、中島ゆたか、それに丹波哲郎と、石井輝男監督の"お笑いカラテ映画"「直撃地獄拳」シリーズと一緒。それも第2作目の「直撃地獄拳 大逆転」から一月半後の公開です。なんか、その振幅の大きさにクラクラしますが、ある意味で、この節操の無さこそが、東映の最大の魅力ではないでしょうか。

それにしても、どうしても気になる点がひとつ。安岡力也(にあたる人)のおちんちんが犬に食べられたのは、「史実に基ずいて」いるんでしょうか。


(野生の男、千葉ちゃんは……)

(うどんを食べてるときも、警戒を怠りません)


いくらおにぎりブログのインデックスはここ
前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)

【映画】千羽鶴

2008-05-12 | 邦画 さ行
【「千羽鶴」増村保造 1969】を観ました


おはなし
菊治を中心にした、3人の女の愛憎を描きます。

増村保造と若尾文子が組んだ最期の作品です。他には京マチ子も出ていて、大映最期のキラメキと言っても過言ではないかもしれません。ただ、ぼくは原作を読んでいないので、お話がいまいち分かりにくく、それに茶器について色々と描かれるのですが、茶器についても素養がないので、これまたチンプンカンプンでした。

ゴーン、ゴーン。鐘の音が響きます。鎌倉の円覚寺に向かって歩いているのは、三谷菊治(平幹二朗)です。菊治がふと前を見やると、和服の娘が二人。「あ、ちょっと。栗本さんのお茶席は」「こちらですわ」。そんな会話をかわしつつ、娘の一人が持っている風呂敷を見ると、緋色の地に、白く千羽鶴が浮き出ているのが印象的なのでした。

……などと、ワビサビな世界を延々と書いても、読んで退屈でしょうし、書いているこっちも、ガラじゃないので、お話をサクサクと進めますね。

菊治が呼ばれたお茶席は栗本ちか子(京マチ子)が主催したもの。ちか子は菊治の父(船越英二)の愛人だった女性で、亡き父母に代わって、菊治の結婚を心配しているのです。今回のお茶席も、菊治の見合いを兼ねたもので、先ほどの千羽鶴の風呂敷を持った娘、稲村ゆき子(南美川洋子)がそのお相手だったのです。

ちなみに、菊治の父はちか子を捨て、その後に愛人にしたのが太田夫人(若尾文子)。今回のお茶席にも、娘の文子(梓英子)と顔を出しています。「実はね、菊治さん。太田の奥さんが来ちゃったんですよ」とちか子は、いかにも太田夫人が、どこからかこのお茶席があるのを聞きつけて、勝手に押しかけたようなことを言っていますが、実はそうではありません。どうも、お茶席で菊治の見合いを見せつけ、なんらかの意趣返しをするのが目的のようです。

まあ先の愛人と、後の愛人の仲が悪いのは当然ですが、この二人の仲の悪さは強烈。まあ、正確にはちか子が一方的に太田夫人を憎んでいるんですけどね。実際、太田夫人が菊治の父とチューをしているところに乗り込んで、「殺してやる」と首を絞めたり、さらには菊治の母に取り入って太田夫人の悪口を言ったり、強烈な感じです。

もっとも、菊治としては、「私は父もちか子も太田夫人も嫌いだった。母のために許せなかった」そうで、特にちか子については、胸に大きな黒アザがあるのが、不気味で厭わしくて、生理的にも受けつけない様子です。と言いながらも、いくら嫌っても、平気な顔で世話を焼いてくるちか子に、なし崩しに押しまくられているのが現実のようですが。

さて、お茶席の帰り道。菊治が歩いていると、物陰から太田夫人が現れました。「あつかましい女だとお思いでしょうけど、あのままでは何としても。この次はまた、いつお目にかかれるか分かりませんもの」と言い出した太田夫人に誘われるまま、なんとなく旅館に行ってしまう菊治です。

「お父様が亡くなられて、あたしも死のうと思いましたの」、と言いながらお尻をずらして、ズリズリと接近。「時間が経てば、悲しみも薄まるかと思っていたんですけど」ズリズリ。「それが今日、あなたにお会いして、お父様そっくりなので、たまらなく恋しくなりましたの」ズリズリ、ヒシっ。菊治に取りすがってさめざめと泣く太田夫人。思わず菊治は、太田夫人の唇に、自分のそれを重ねてしまうのでした。

「私は太田夫人を抱いた。母を苦しめた、父の愛人を辱しめてやりたかったのか。それとも、憧れていたのか」、そんな内心の声はともかく、今日は見合いだったと、太田夫人に告げる菊治。
「そうでしたの。お見合いの帰りにねえ。悪いわ、悪いわ」シクシク。「お見合いの帰りであろうとなかろうと、悪いものは悪い」「悪いわ、あたしって何て罪の深い悪い女なんでしょう」ヒシっ。
とりあえず、若尾文子の演技は、すご過ぎです。なんていうか鬼気迫ってます。それに、常に「はあはあ」と喘いでいるのが、なんともはや。

家に帰った菊治をちか子が待ち構えていました。尾行していたらしく、太田夫人とのこともお見通しです。「なぜ、ぼくを尾けまわすんだ」「結婚前の大事な人に、虫がついちゃ困りますからね。それにしても太田の奥さん、いったいどういうんでしょうね。いつまでも色気盛りの小娘みたいにベタベタしちゃって」。

その後の逢瀬を続ける菊治と太田夫人。しかし、娘の文子にバレちゃいました。「菊治さんに会うのね」と言われて、オロオロする太田夫人。「文ちゃん、ねえ、許してちょうだい」。ダメです。文子は母との交際を諦めるように、菊治に交渉に行きました。「母を許してやっていただきたいんです」「父が悪いんです。お母様の罪じゃありません」「でも、あんなに早くお亡くなりになったのは、きっと母のせいですわ」。うーん、確かに。若尾文子に迫られ続けたら、精気も枯れ果てそうですね。
とりあえず、「もう、おかまいなさらないで」と宣言した文子に、今度、ゆっくりお話でも、と社交辞令を言ってみる菊治。しかし、文子は能面のような顔をさらにこわばらせて、「でも、近いうちに結婚なさるんでしょ、稲村ゆき子さんと」と言うのです。えーと、結婚は関係ないような。これは自意識過剰というよりはむしろ、文子もそうとう菊治にホレているような気がします。

しかし、その後も太田夫人と菊治の関係はズルズルと続き、菊治にイヤミを言うだけではあきたらなくなったちか子は強硬手段に出ることにしました。と言っても、電話ですけど。「奥さん、菊治さんはねえ、いよいよ稲村さんと結婚することになりましたのよ。ですから、もう一切邪魔をしないでくださいな」「はぁーーーっ。私がじゃま」「いったいどういう気なんです。色キチガイみたいなマネをして、恥ずかしくないんですか」「はっうー、ひどいことを。あなたは何を言うんです。あなたこそ」、クラクラ。太田夫人、目が回ったようです。

その日以来、病みついた太田夫人は、娘の文子の厳重監視のもと、おとなしく布団で寝ていることに。しかし、土砂降りの雨の日に、娘の隙をついて、また菊治のところにやってきちゃいましたよ。茶室に通された太田夫人。なんかヨロヨロしています。それを物陰からじーっと見つめているちか子。ちょっとホラー入ってます。
「一人でうちにいると、怖くてじっとしてられませんの」と太田夫人は熱っぽい目で菊治を見つめ「抱いて、しっかり抱いて」とうわ言のように言っています。

ちか子は電話ボックスに走り、娘の文子に文句を言っています。「母が。やっぱり」と、恐縮というか困惑している文子。さあ、どうなるんでしょう。

散らばっている太田夫人の着物。気だるい雰囲気の中、菊治が言います。「奥さん。奥さんには、ぼくと父との区別がついているんですか」。いやー、どうだろ。自分が誰かも分かってないんじゃ。太田夫人は言います。「ああ死にたい。死にたいわぁ」。一瞬、菊治の表情が歪みました。「菊治さん。今、あたしの首を絞めそうになったわね。どうして締めてくださらなかったの」「締められるものなら締めたい」「ありがたいわ。痩せたから締めいいのよ。締めて」と菊治の手を取り、自分の首に押し当てる太田夫人。もう、表情がテンパってます。「どうせもう長くはないんですもの。ほら、こんなに動悸が乱れて」、今度は胸元に菊治の手を押し込んでいます。「ひどいでしょ。クラクラめまいがするの。はぁーっ。もうおしまい」。

文子を頼みます、と言い出した太田夫人に「お嬢さんが……奥さんのようなら」と言い出す菊治。今までは父も夫人も汚いと思っていた。「しかし、だんだん奥さんのひたむきな気持ちが分かってきたんです」と言いつつ着物の上から乳をもんでいます。「生まれたままの女。人間以前の女。いや、人間最後の女のような気がして、とても好きになりました」。「もう死んでもいいわ」と潤んだ目付きで菊治を見つめる太田夫人。と、そこに「お母様」と声がかかりました。茶室の外に娘の文子が来たようです。「お母様。お迎えにきましたわ。帰りましょう」。帰りの車中で、太田夫人は娘に取りすがって、身も世もなく泣き崩れています。ちょっと、怖いです。

菊治のもとを訪れたちか子。太田夫人をけなしまくります。「そりゃあね。私はあつかましくて、おせっかいで、いやらしくて、図々しい女ですけどね。太田の奥さんにはかないませんよ。隙を見つけてはこのウチに上がりこむんですからね。まったく色キチガイですわ。菊治さんも菊治さんです。お父様のお茶室で、お父様の彼女と……なんとも言いようがありませんね」。そこに、リーンリーンと電話がなりました。文子の生堅い声が告げます。「母が先ほど亡くなりましたの、病気ではございません。睡眠薬をたくさん飲んで。静かに死にました」「そうですか」「よく死んだ。そう思っています」ガチャ。

「何の電話でしたの」と聞くちか子に、「太田の奥さんが亡くなった」と答える菊治。「自殺でしょ。自殺に決まってます」キャーハッハ、とちか子は大笑い。こ、怖い。

焼香に行った菊治。なんとなく、文子にも惹かれるものを感じて、手を伸ばしたりしますが、当然、文子には拒まれました。まあ、そうですよね。しかし、それから数日後、文子の方が菊治のもとを訪れてきたのです。「痩せましたわ。とってもみすぼらしいでしょ。夜、眠れませんもの」と、太田夫人が乗り移ったような感じです。そんな文子に、この茶室に引っ越してこないか、と誘う菊治。文子もOKです。しかし、そこにちか子が。「今日は何の御用で」と聞くちか子。菊治が先手をとって「奥さんの茶碗を持ってこられたんだ」と答えます。ちか子は、文子が持ってきた志野の茶碗をためつすがめつ眺めます。太田夫人の口紅の跡が落ちなくなってしまったという志野の茶碗。そして、それ以上に女性的な形が、まるで太田夫人の魂そのものが宿っているようです。

これでお茶をしましょうと、独り決めするちか子。しかし、ちか子が用意のためにお茶室を出ると、文子は帰りますと言い出したのです。懸命に止める菊治ですが、文子はちか子が怖いと言って、にじり口からずるずると出て行きます。「お送りにならないで、もうお会いしません」。

それから一月以上がたちました。随分と顔を見せなかったちか子が、久しぶりに菊治の前に現れ、タイヘンなことが起こったと言い出します。見合いの相手の稲村のお嬢さんが結婚したというのです。「やっぱり太田の奥さん、死んでも邪魔をなさったんですよ。もっとも文子さんも結婚なさいましたけど」。ガーン、なんですとぉ。
とか言ってるそばから、家に帰ると文子が待っていましたよ。早速、菊治が結婚のことを切り出すと、文子はキョトン。どうやら、ちか子は嘘八百を並べていたようです。ちなみに、文子がやってきた理由は、以前置いて帰った志野の茶碗を返して欲しいということでした。もし返していただけないなら割ってください、と執拗に迫ります。あれは悪いものです。と繰り返す文子に、菊治は、これは実にいいものです、と答えます。父の使っていた唐津の茶碗よりよっぽどいい。

「唐津はお父様のようにご立派で」と言う文子に、「志野はあなたのお母様だ」と言う菊治。

結局、菊治は文子の懇願に負けて、志野を割ることに。しかし、その前に、この志野でお茶を点ててください、と文子に言います。「そうします」といったんは答えた文子ですが、どうしても手が動きません。「ダメですわ。お母さんが点てさせませんの」「割られたくないんですよ」。菊治は文子を抱き寄せてチュー。

身づくろいをしている文子は、母の代わりなんてイヤです、と菊治に言うと、志野を飛び石に叩きつけて割ります。「志野って、こんなもんじゃありませんわ。もっともっといいものなんですの」

走り去った文子を待ち受けていたちか子。もう、ここまでくると神出鬼没というか、24時間菊治のことを監視しているのかよ、と思わないでもありません。ま、それはともかく「菊治さんとお茶室で何をなさいましたの。お母様の真似ですか」と文子に言うちか子。文子は菊治を愛していると答えますが、母と同じ男を愛するなんて恥知らずとまで言われて、「もうどなたにもお目にかかりません」と宣言するのでした。

文子が去ってから、菊治は毎日、彼女のことを探しています。しかし、どこへ行ったのか、文子の行方は杳として知れません。そんなある日、菊治が志野のカケラを呆然として見ているところにちか子が現れました。「菊治さん、あなた文子さんととうとう。やっぱり、太田の奥さんの呪いにかかっているんですね。いつになったら正気に戻るんですか」「もう戻っている。文子さんにとって、ぼくは始めての男だった」。志野のカケラをギュッと握り締める菊治。手から血がダラダラ流れます。「文子さんを抱いた瞬間から太田の奥さんは忘れたよ」

ハハッ、と笑うちか子。「だから毎日探していらっしゃるんですか。でもムダでしょうね。あの人、今頃自殺しているかもしれませんよ」。菊治は気づきました。絶対、この女が文子に何か、それも決定的な何かを言ったことを。「文子さんに会ったろ。何か言ったな」「フフフ、ちょっとだけ。菊治さん、文子さんを殺したのはあたしだと思ってるんですね。そうでしょ」。

グッと手を伸ばし、ちか子の胸をはだける菊治。手のひらほどの、黒いアザがあらわになります。「お前の本心はなんだ」と声を荒げる菊治。「魔性の女は太田の奥さんじゃない。お前なんだ。このドス黒いアザのような恨みを一生持ち続けては、あちこちに撒き散らしているんだ。そうだろ」

「そうですわね。誰かが死んだとすれば、このアザの祟りかもしれませんよ。菊治さん、あたしが憎い?憎かったらどうにでもしてくださいな。いくら嫌われても、あたしは死んだお父様や菊治さんが、だーい好きなんですよ。どうしようもないじゃありませんか。みなさん、あたしを怖がるのは、きっとこのアザを見て、自分の罪や汚さを思い出すからなんですよ。あたしのせいじゃ、ございません」

「文子さんは生きてる。死ぬはずがない」とつぶやき、父の残した唐津の茶碗を叩き割る菊治。
「文子さんは何もかも忘れさせてくれた。父も母も太田の奥さんも。死んだ人間に捕まっている限り、ぼくは死んでいる。文子さんは、そのぼくを生き返らせてくれたんだ。死ぬはずがない」、そう言って、志野のカケラをそっと踏み石に置いた菊治は、袱紗で、そのカケラをそっと払うのです。


なんだか、さっぱり要領を得ない話です。とりあえず、志野の茶碗が太田夫人、唐津の茶碗が亡き父の魂を封じたナニカであるとすれば、文子が志野を割りたかったのは太田夫人の呪縛から逃れたかったため。菊治が唐津を割ったのは亡き父の呪縛から逃れるため、と考えられます。であれば、志野のカケラを踏み石に置いてから払ったのも、菊治が太田夫人の魂を、そっと「脇にどけて」、文子を待ち続ける決心をしたということになるでしょう。しかし、そうだとすれば、文子は最初から、志野を割って、菊治に抱かれようと思っていたのでしょうか。そこが納得できません。

むしろ、志野の茶碗は「女の業」そのものの象徴であるんじゃないか。文子は母から受け継いだ(かもしれない)淫蕩の血を断ち切りたかったのではないかとも思えます。だとすれば、菊治が唐津を割ったのも、父から受け継いだ女好きの血を断つためで、むしろ菊治は、太田夫人、ちか子、そして文子との絶縁を宣言したとも取れるような気がするのです。ここが、観ていて分からないところでした。

さて、主演女優の演技はすさまじいものがありました。京マチ子もさすがの貫禄で、得体の知れないちか子という役どころを演じきっています。しかし、それよりスゴイのが若尾文子。
なんか、ずっと「ハァハァ」と喘いでいるし、エロスの大爆発な感じです。体の表と裏が入れ替わって、敏感な粘膜が表面に出てきてしまったというか、熟しきって今にも崩れそうな柿みたいというか、とにかく「肉体性」を全面に出した演技は、圧倒されます。もっとも、それが行き過ぎて、太田夫人の精神的な依存体質の表現が少しかすんだ気もしますが。

ともあれ、言えるのは、京マチ子と若尾文子が出ているシーンは、
「全 編 ク ラ イ マ ッ ク ス」
「オ ー ル ウ ェ イ ズ 大 ス ペ ク タ ク ル」
でした。なんていうか、あまりに濃すぎたので、観終わったあとは脱力しちゃうくらいです。

この作品を限りに、若尾文子と増村保造が組んで映画が作られることはなかったわけですが、その集大成として「圧巻」というべきか、最後がこれかい、というべきなのか、ひじょうに悩ましいところではあります。あと、この映画には市川雷蔵が出演予定でもありました。雷蔵の病気、そして死によって実現しませんでしたが、もし雷蔵の最後の出演が実現していたら、それこそ映画史に残る作品だったのにと残念でなりません。





いくらおにぎりブログのインデックスはここ
前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)

【映画】女番長 タイマン勝負

2008-02-27 | 邦画 さ行
【「女番長 タイマン勝負」関本郁夫 1974】を観ました



おはなし
相沢桂子は女番長。ヒマワリ会を率いて、今日もシノギに、そしてヤクザとの抗争にと大忙し。

歌手宣言をして干された池玲子に代わり、前作まで主役を張っていた杉本美樹。今度は彼女が、もう脱ぎたくないと言い出したので、ここに池玲子が主役に返り咲きしました。まったく、東映の場合、スクリーンの外での「抗争」の方が激しかったりするので目が離せません。

いきなりエッチシーンでスタート。そこに「お前が大島か」と乗り込んできたのは相沢桂子(池玲子)。「誰だてめえは」と怖い顔をする大島(安部徹)に、「お前に弄ばれて殺された相沢ミチヨの妹さ」というが早いか、桂子はナイフを振りかざします。「違う、おれのせいじゃねえ」と言いながら、パンツ一丁で逃げ惑う大島。そして、ブスっ。血しぶき、ドパーっ。

ウワーっ。桂子は目を覚ましました。ここはネンショウ(少年院)の中。桂子は事件の夢を見てはうなされているようです。「てめえのそのツラ見ると虫唾が走るんだよ。殺人未遂までした女が、毎日毎日、夢を見てギャーギャーわめきやがって」と怒り出すスペードの美和(藤山律子)。確かに安眠妨害ではあります。そして、その日から、スペードの美和が退院する日まで、桂子には凄惨なリンチが加え続けられるのでした。

「私は、あと三日で退院さ。もしこのカタキが討ちたかったら、堺は南、ヒマワリ会番長、スペードの美和を訪ねてきな」と言って去っていく美和。そして、桂子はその日から、一人、また一人と敵を倒し、子分を増やしていくのでした。そして、とうとう子分が20人近くにもなったころでしょうか、桂子も退院の日を迎えることができたのです。

道を歩いている桂子。しかし、前方、道のど真ん中にテントが張られているではありませんか。よく見ると、そこで煮炊きをしているのは、ネンショウ仲間の幸恵(須藤リカ)。ついでに、その友達の節子(一の瀬レナ)です。よく分からないまま、二人を子分にする桂子。なんだか西遊記みたいですね。

さて一行はただ食いなどをしつつ大阪に到着。しかし、そこで節子がヤクザに捕まってしまいました。大島組の経営するバーにいた節子は、どうも金を踏み倒して逃げていたようなのです。子分の借りは親分の借りということで、金を用意するハメに陥る桂子。一週間の間に100万ですが、まあ節子のツケを取り立てて回れば、どうにかなるでしょう。

しかし、その前にスペードの美和を探してタイマンを張らなくてはなりません。それが女の意地ってもんです。とりあえず目に付いたズベ公を全部撃破しとけば、そのうち出てくるでしょう。まあ、かなり大雑把な計画のようにも思えますが。だいたい、スペードの美和に出会うまでに、これじゃ敵がうなぎのぼりに増えそう。

それはともかく、来ました、来ました。ヒマワリ会の面々が。「やっとお出迎えかい、ごくろうさん」と偉そうな桂子。しかし、聞いてビックリ。スペードの美和は、とっくに足を洗って今はどこにいるかも分からないというのです。だからと言って、ヒマワリ会の側からすれば、ウチの元番長が失礼しましたと、桂子を逃がすわけにもいきません。タイマンです。ヒマワリ会新番長、カミソリの絵里(衣麻遼子)と桂子。二人の対決です。しかし、主役の池玲子が負けるはずもありません。

負けたカミソリの絵里はスゴスゴ退散して、桂子は残ったメンバーに「約束どおり、たった今からヒマワリ会の番長はあたしがもらうよ」と言い出しました。出ようと残ろうと好きにするんだね、と言われ「一晩、ゆっくり考えさせてもらうわ」と答えるメンバーたち。意外と慎重ですね。そして、翌日。やっぱり道端にテントを張ってくつろいでいる桂子たちのところに、メンバーが集まり、ここに新生ヒマワリ会が誕生したのです。しかし、ヒマワリ会っていうネーミング、ステキすぎです。

初仕事は、節子のツケを取り立てて、100万円を用意すること。早くしないと節子が大島興業に売られてしまいます。ここで、由利徹や岡八郎などのコメディリリーフとのドタバタ騒ぎを混ぜつつ、どうにか金も用意できました。早速、桂子は大島興業に乗り込みます。しかし、普通に考えて、桂子はかつて大島を刺しています。ただで帰れるんでしょうか。

「俺とここで会った以上、ただで帰れると思ったら大間違いだぜ」。ああ、やっぱり。囲まれてボコられる桂子。そこに、今はホステスになったカミソリの絵里も出てきましたよ。「待って社長。こいつは私にやらせて。この女はどうでも私が落とし前をつけなきゃならない女なんだ」。と、ここで普通なら絵里がサディスティックに桂子を責めたりするんでしょうが、そうはならないのが、この映画のミソ。「うるせえ、何だか知らないが子供は引っ込んでろ」と絵里まで、大島にボコられていますが。それにしても、自信タップリな桂子は、大島に唾を吐いたり、無意味に挑発的。ほら、言わんこっちゃない。銃口を口に突っ込まれて、今にも殺されそうです。

「悪ふざけが過ぎるんじゃねえのか」と男が現れました。関東侠友会の黒木(渡瀬恒彦)です。黒木は、工場用地の買収に絡んで、関東の大組織から大島興業へ目付け役として派遣されている幹部なのです。「ここはお前みたいな子供のくるところじゃねえよ。早く帰んな」と桂子に言う黒木。良かった、命拾いしたようです。

ヤケ酒を飲んでいるかみそりの絵里。確かに、桂子に復讐できるかと思ったら、子供扱いされて殴られているんですから、元スケバンのプライドもズタズタです。ヒマワリ会が分裂しても、自分についてきた腹心のはるみ(田島晴美)に、またいつもの話と言われても、グチらずにはいられません。
酔って話すのは、いつもの話。生き別れのお兄ちゃんの話です。「兄ちゃんは今ごろ、どこかでエライ男になってんだ」と言い出す絵里。でも、自分はこんなズベ公になって、兄ちゃん怒るだろうなと泣いています。むむ、兄ちゃんですと、それは、ひょっとして。

一方、桂子は黒木の後を尾けています。このシリーズの伝統、助けられたら「たとえ相手が望んでいなくても」、強引に押しかけハダカになるという、「鶴の恩返し」です。「あたしは借りを作るのが嫌いな女なのさ」とか言っていますが、恩返しの方法を選ばせてくれるとありがたいですよね。

それはともかく、桂子に手を出そうとしない黒木。そして、その黒木の部屋に大島興業の若い衆がやってきました。すっかりグデングデンに酔いつぶれた絵里を連れています。ご苦労、と金を渡した黒木はさっそく、絵里の洋服を脱がせてアザを確認しています。桂子としては、「プレゼントはあ、た、し」気分なのに、黒木が絵里のハダカを見ているもんだからプンプン。しかし、黒木は絵里に手を出そうとせずに、桂子に酔いつぶれた絵里を送るように頼むのでした。

「どうだいみんな。久しぶりに田舎のおいしい空気でも吸いに行くか」と桂子が言い出し、ヒマワリ会はサイクリングにでかけました。サイクリング、サイクリング、ルンルン、ルンルン。なんだか今までの女番長シリーズの伝統を打ち破る展開で、ちょっと唖然。しかし、当然、ただのサイクリングで終わるわけもなく、犬を数匹捕獲して、肉にして売ってしまおうというダークな展開です。ホント、東映って会社は笑いのためなら、何でもやりますね。

さて、偶然にも桂子たちはスペードの美和を発見しました。「待ちな。慌てるんじゃないよ。ヤサを突き止めてからゆっくり料理してやる」と凄む桂子。ところが、そのヤサ(スクラップ工場)では美和の亭主の健一(成瀬正孝)が、大島興業から地上げを受けているではありませんか。そんなことも知らずに、ヤサにいる美和に「さあ、あたしのタイマン、受けてもらおうじゃないか」と勝負を挑む桂子。しかし美和はすっかり女らしくなっていて、もう足を洗ったんだの一点張りです。バーナーまで持ち出した桂子ですが、かばいあう美和と健一を見て、なんだかやる気が無くなっちゃいました。ともあれ、「その代わり、当分ここは私たちのヤサに使わせてもらうからね」ということで、手を打つことにしたようです。

健一は、なんかブリキ板を貼り付けた車を製作中。「これだったら、どんな車にぶち当たっても安心だ」と威張っています。ま、どうみても風圧で外板が吹き飛びそうな代物ですが。「健一、本当は町じゃなくてサーキットを走りたいんじゃないの」と言い出す美和。「昔の話はよせ」という健一の言葉とともに、ぽんわわーんと回想シーンに。どうも健一はカーレーサーだったようです。さて、回想が終わって、「俺はポンコツさ。ポンコツじゃイヤか」と言う健一。「バカ」と答えた美和と抱き合っています。えーと、この映画の主人公は池玲子じゃなかったんですか。それは、ともかく、そのシーンをみた桂子は、どうも感動しちゃってるようです。さすが、池玲子も夢みる女の子なんですね。

「これはどういうことなんだい」と怒っているカミソリの絵里。黒木に金を渡されて、「ホステスしててもね、理由の無い金を受け取るわけにはいかないよ」と突っ返しています。「こんな商売から、早く足洗えよ」と言う黒木ですが、わたしを抱きたいのかい、と言われて苦しげな表情。絵里が去った後、思わずブランディグラスをバリバリ噛み砕いちゃうくらい、悩んでいるみたいですね。

バーに桂子がやってきました。スゥーっと滑ってくるグラス。見れば、黒木が横でミルクを飲んでいます。多分、口を怪我して、酒が飲めないんでしょう。思わず、そんな黒木を見て「惚れた女の目」になる桂子。当然、黒木の部屋に先回りして、ハダカでお出迎えです。「今夜、一晩だけ、ここにおいて欲しいの」と黒木にすがりつく桂子。美和と健一を見て、女の子成分が高まっていますから、なんとなくシオラシイ感じです。

そして、まあ色々と終わりまして、ベッドでくつろぐ二人。しかし、ふと気づくと黒木の腕には「絵里」と入墨が彫ってあるじゃありませんか。ムッカァー、思わず嫉妬して声を荒げる桂子。ところが、黒木は驚くべきことを話し始めたのです。黒木と絵里は兄妹なこと。孤児院を出て離れ離れになった二人だけど、いつか会えると信じて入墨を彫ったこと。ただ、ヤクザになった自分では、妹の絵里に自分が兄だとは言い出せないことなどです。

一方、大島興業のヤクザに抱かれている絵里。桂子を始末するために、ヤクザに身を任せているのです。しかし、そのヤクザから、自分が酔って正体をなくしている時に、黒木の部屋に連れ込まれたこと。そこには、桂子もいたので、二人は絵里をあざ笑っているだろう、などと言われて自分自身がヒートアップしてしまうのでした。

さて、黒木の本来の仕事は、大島に命じて、工場用地を買収させること。当然、いつまでたっても埒が明かない大島を叱り付けています。大島というか悪役キング安部徹としては、チンピラな黒木こと渡瀬恒彦に叱られるなんて我慢できません。ということで、健一・美和に対し強硬手段に出ることにしたのです。その手段とはリンチ。美和の手を万力で挟みつけ、締めあげる大島興業のご一行様。当然、夫の健一はやめろーっと悲痛な叫びです。「私はどうなってもいい、判だけは押さないで」と苦痛に喘ぎながらも健気な美和。あ、健一がキレました。暴れてます。しかし、その時、銃声が響き、健一は丸太のように転がるのでした。健一の親指を使って、契約書に拇印を押した大島たちは、坪あたり3千円の金を投げ捨てるように置いて、去りました。後には呆然とした美和が残るだけです。一歩、遅れて戻ってきたヒマワリ会の面々。転がった健一の死体。ばら撒かれた札。そして空ろな表情の美和を見れば、何が起こったかは明白です。

意気揚々と地上げの成功を黒木に報告する大島。美和に、坪3千円の金しか払っていないのに、坪30万円とか嘘をついています。そこに、桂子たちが猟銃片手に乗り込んできました。もちろん、大島が坪3千円しか置いていかなかったことも、バラしちゃいます。こうなると、黒木としては許すことが出来ません。「今の話、本当か」と凄みを利かせます。シドロモドロの大島。黒木は、「悪いようにはしねえ。今日のところは帰んな」と桂子たちを帰し、大島をケッチョンケッチョンに叩きのめすのです。

「悔しかねえのかい」とピストルをちらつかせながら、かみそりの絵里をけしかけている大島。黒木を殺すように持ちかけています。意識のないまま黒木に犯されたと信じきっている絵里は、あっさりピストルを受け取りました。どうなってしまうんでしょう。

そして、再び、スクラップ工場。健一の弔いに顔を出した黒木は、大島の不始末を詫びています。と、そこに銃声。黒木が撃たれました。もちろん撃ったのは絵里。「違うんだ。違うんだ、絵里」と叫ぶ桂子。「この人はね、お前の兄さんなんだよ」。じっと見つめ合う黒木と絵里。絵里は「そんな嘘だ。私の兄ちゃんがヤクザだなんて」と抵抗してみますが、黒木に「孤児院で飼ってたあのうさぎ。もう死んだろうな」と言われては、信じざるをえません。

よろよろと去っていく黒木。後には呆然とした絵里が残されています。しかし、そこに車が走ってきました。車から突き出されるたくさんの銃口。大島興業の襲撃です。多数の銃弾を撃ちこまれる黒木。そして「兄ちゃん」と走り出した絵里もまた撃たれるのでした。車が去った後には、ボロキレのようになった二人の死体が転がるばかりです。

ということで、ここからは殴りこみ。猟銃を構えた桂子。ピストルを持った美和。それに機動隊の格好で武装したヒマワリ会のメンバーは催涙銃に手りゅう弾という、かなりの重武装で、万全の体勢です。もちろん、大島こと安部徹も、悪役キングの名に恥じない卑怯未練っぷりを見せつつ倒れました。そんな大島の乗った車を、大島たちが生きたまま、プレス機にかけちゃう美和と桂子。これで悪はペッシャンコです。

グツグツ。グツグツ。おいしそうにスキヤキが煮えています。テントの横でのいつもの食事。ヒマワリ会のメンバーは楽しそうにスキヤキをぱくついています。しかし、待ってください。テントの横だけど、ここはダンプの荷台です。ヒマワリ会の旗をなびかせつつ、走るダンプ。いったい桂子たちはどこへ行くんでしょうね。


池玲子が主役復帰と言っても、どことなく群像劇のような感じです。渡瀬恒彦、衣麻遼子の兄妹話。藤山律子と成瀬正孝の純愛話。この二つのストーリーの間で、池玲子は何となく目立ちません。とは言え、初期に比べて池玲子は格段に演技がうまくなっていて、しっとりした表情や、年相応な女の子の顔を見せてくれるので、充分「魅せ場」はあります。

娯楽の帝王、鈴木則文監督、理念先行型の中島貞夫監督に比べて、関本郁夫監督の撮ったこの映画は、どことなく突き抜けた軽さが特徴。超人的な女番長が、殴ったり殴られたり、オッパイ丸出しで拷問されたり、というシリーズのお約束を外して、女の子たちひとりひとりにスポットライトを当ててみたようです。その結果、ちょっとワルだけど、内心は乙女の心を持った女の子たちのガールズムービー、そんなものができあがりました。これは、これで悪くないです。もっとも、女番長シリーズで、それをやってしまうのが、スゴイとは思いますけどね。

それにしても、「お兄ちゃんっ」とか言っている衣麻遼子を見ることになるとは、予想もしませんでしたよ。







いくらおにぎりブログのインデックスはここ

前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)

【映画】処刑の部屋

2008-02-13 | 邦画 さ行
【「処刑の部屋」市川崑 1956】を観ました



おはなし
島田克巳は、U大学の4年生。友人が就職活動で大人しくなっていくのに対し、相変わらずギラギラしている彼は……

石原慎太郎の短編が原作です。原作は細かいところは忘れてしまいましたけど、拷問シーンがかなりの割合を占めるスプラッターな展開。なので、これを忠実に映画化はできないだろうと思っていましたが、やっぱり、その点ではヌルくなってしまったようです。

六大学野球の様子が点描されます。大騒ぎの観客席。次は、キャベツ畑の真ん中に呆然と立っている、しょぼくれた銀行員が映し出されます。共和銀行吉祥寺支店の島田(宮口精二)です。すると、このキャベツ畑は練馬区あたりでしょうか。

しょぼくれた島田が、愛想笑いを浮かべつつ営業活動をして、ようやく銀行に戻ると、そこには息子の克巳(川口浩)がいて、「お父さん、頼みがあるんです」と言い出しました。克巳の連れてきた友人の伊藤が持ち込んだ手形を割って欲しいというのです。もちろん堅実な銀行員の島田にとっては胡散臭い話ですが、聞けば伊藤は金持ちのボンボン。それが家から持ち出した180万円の手形を割って欲しいというのですから、確実を取るか、儲けを取るか悩ましいところです。ともあれ、手形を割るのがダメなら、これを担保に3万円貸して欲しいと言われ、ポケットマネーから3万円を渡す島田です。

「案外簡単だったな」と明るく言って、オープンカーに乗り込む伊藤。そう、伊藤と克巳は、ダンスパーティを開いて儲けるために、その軍資金を必要としていたのです。要は、勉強せずに、遊んでいる学生ということでしょうね。

ということで、ここまでで、実直な旧世代と、遊びまわってる大学生みたいな、いかにも図式化された映像が展開されましたが、まあ何と言うか、ありきたりな感じではあります。確か原作では(うろ覚えですが)、そんな説明は無く、ただ「そこにあるもの」として、無軌道な主人公がポツンと置かれていたので、そちらの方がスッキリしていて良かったような気がします。

さて、久々に授業に顔を出した克巳。どうやら、K大の学生との勉強会が行われているようです。そして、そこでひときわ目立つのは、唯物史観について滔々と意見を述べている青地顕子(若尾文子)です。思わず、実践のない理論は無意味だと、持論を展開する克巳。しかし、教授(中村伸郎)が克巳の話をさえぎって、出版社の連中と出かけてしまったので、とりあえずムカっとするのでした。

ダンスパーティが行われています。客の入りもよく、企画した克巳たちはかなり儲かりそう。しかし、そこに自衛隊とバカにしているJ大学の学生たち(川崎敬三など)が喧嘩を売りに来たので、一波乱。まあ喧嘩っ早い克巳などは、喜んで相手に殴りかかっている様子ですが。

六大学野球の試合が行われています。カードは、U大とK大というライバル校同士の対戦。当然、神宮はものすごい盛り上がりです。というか、U大生にとって、UK戦と、後に続くコンパは一年の中でもビッグイベントの一つなのです。試合はU大の勝ちに終わり、地元の新宿では学生たちが大騒ぎ。もちろん克巳たちも、いい女はいないかと、雑踏で目を皿のようにしています。あ、いました。けっこう美人で、いかにも声をかけられるのを待っている女の子(プラスお友達)が。「付き合っていただけやすかな」「ええいいわ」。ちなみに、克巳はコロっと忘れているようですが、この女の子は、あのK大生の顕子でした。

一通り飲んだ後、小料理屋の座敷に移ったみんな。ここで、伊藤と克巳は女の子をモノにすることにしました。眠り薬を酒に混ぜて、ヤッてしまうのです。早速、薬屋に行く克巳。ついでに、高校時代からの親友、良治を誘うことにしましょう。行きつけの飲み屋に行くと、いました、いました。良治は堅物の吉村と、男二人で飲んでいます。良治に、女の子を眠らせることを話して、お前も来いよ、と誘う克巳。しかし、予想外のことに良治は、それを断わったのです。その上、二人でワルをしてきた日々のことを「若気のいたり」とまで言い出す始末。就職が近くなると、人間ってこれほど変わるものなんでしょうか。それとも、吉村みたいな堅物と付き合って、良治もつまらない男になってしまったんでしょうか。

「俺たちがこれからやろうとする女のひとりはな、お前が熱を上げてたあのK大の女なんだぜ」と吉村を挑発する克巳。「うそだ」と吉村は絶句していますが、ざまあ見ろです。

とりあえず鬱屈した気分のまま小料理屋に戻った克巳は、薬をビールに混ぜて、女の子たちを朦朧とさせて、伊藤のアパートに連れ込みました。もちろんやることは一つです。顕子を取った克巳は、顕子を下着に剥き、顔に平手打ちを数発かまします。「何とか言え、何とか言ってみろ」「これが研究会でちょっとでも俺を感心させてくれた女なのか。女なんかみんな同じだ」。そのまま、克巳は顕子を押し倒すのでした。

やることをやった後、女の子たちをタクシーに乗せてバックレた二人。顕子は「ひどい人ね、何てことすんのよ。警察に言うわ」などと言っていましたが、まあそうなったらなったで言い逃れる自信もあります。しかし、結局、顕子は警察に言いませんでした。むしろ、克巳に「会いたい」という手紙を寄越したのです。

「ねえあなた、この前、どうしてあたしを選んだの」と冷たい表情で、パキパキと喋る顕子。私のことが好きなの、とか色々と聞いてきます。もちろん、そんな女の気を引く仕草に答えようとしない克巳。「だいたい、好きになるって俺には良く分からないんだ」と言い放つのです。「じゃあ失敬するよ、あばよ」と言って去っていく克己を見送る顕子の表情は能面のようです。

やることもないので、暇つぶしにラグビーをしている克巳。それをじっと見ているのは、相変わらず能面のような顔をした顕子。克巳が傍によっても喋りません。そして、そのままプイと歩き出すのでした。思わず、後を追ってしまう克巳です。

その後、克巳に侮辱された吉村が、克巳の悪行を暴く匿名の手紙を、克巳の父に送りつけたり、それが原因で母(岸輝子)が泣いたりしつつ、別れの場面が映し出されました。
どうやら、克巳と顕子は付き合ったりしたようですが、「俺はもうあんたを欲しくないんだ」と克巳は顕子を捨てたのです。まあ、目に見えていたことではあります。

さて、授業中に良治は克巳にダンスパーティをやらないか、と声をかけてきました。高校時代からの悪友が帰ってきたと、喜んで奔走する克巳。父が吐血して倒れたって、克巳にとってはどうでもいい話。それより、良治の復活がうれしくてたまらないようです。しかし、ある日、ダンスパーティの理由を聞いて克巳はガックリしました。良治は、自分が属する勉強会の資金稼ぎのためにパーティを企画していたのですから。それまでの熱中が醒めた克巳は、パーティから手を引くことにしました。

そして迎えたパーティの日。万事、慎重になってしまった良治らしく、警察に付け届けをして派遣してもらった刑事がパーティ会場を警備しています。そんな大人みたいな根回しの仕方も、克巳は気に入りません。こうなったら、いっそパーティの売上金を強奪してみたらどうでしょう。そうしたら良治は、かつてのような野獣のような気概を見せて怒るでしょうか。早速、自衛隊ことJ大の竹島(川崎敬三)に、売り上げの運搬ルートを教える克巳。案の定、竹島たちは喜んで、良治を襲うことに同意したのです。

今、売り上げを積んだ車が出発しました。あとを尾けていくのが竹島たちの乗った車です。会場を飛び出し、高台からその様子を見守る克巳。走る良治の車。追う竹島の車。道をふさがれた良治の車は停車し、そこに近づき窓から顔を突っ込んで、竹島が何かを話しています。さあ、良治、どうする。まさか、素直に金を渡すわけはあるまい。殴れ、殴れ。しかし、何事も無かったように、竹島は金を受け取り、車は去っていきました。

竹島たちのアジトに乗り込む克己。竹島たちは、上機嫌で分け前を克巳に渡しますが、「いらない。この金はいらないよ。その代わり全部返してくれ」と克巳は答えます。良治とグルでからかったんだな、と怒り出す竹島。そりゃそうだ。「良治があんたなんかに、黙って金を取られるなんて、万に一つもあると思わなかったんだ」と答える克巳。いや、それじゃあ、竹島も怒るでしょう。

ああ、やっぱり。子分の一人に、ジンをかけられ目潰しをされた克巳。男たちが取り囲んで殴りつけ始めました。しかし、ふてぶてしい克巳に、みんなももてあまし気味。とりあえず、ベルトで椅子に縛り付けてみたものの、「謝れ」「謝れ」と言いながら、交代で殴りつけるくらいしか思いつきません。そこに、仲間の一人と、その従妹の顕子がやってきました。克巳を見て、一瞬絶句した顕子ですが、「この人に借りがあるの」と言って、克巳を殴ります。へへへと笑う克巳。「何笑うの。笑わないで」と半狂乱になって克巳を殴りつける顕子。しかし、とうとう克巳の足に取りすがって泣き始めてしまいました。その顕子を「どけ」と蹴る克巳。「泣くくらいなら、貸しだの借りだの偉そうなこと言うな」と喚いています。これは許せない、と顕子の従兄が克巳を蹴り倒して首を踏んづけます。このまま力を入れ続ければ、克巳は死ぬでしょう。なんだか、ビビって後ずさりを始めるみんな。従兄も、それ以上何をしていいのか、戸惑い気味です。まさか殺すわけにもいきませんし。しかし、それでもふてぶてしい態度の克巳。一人がナイフを取り出しました。これで克巳が泣き喚けば、みんなで笑いものにできます。しかし、それでも態度の変わらない克巳。「なんだいやれねえのか」「よーし俺がやってやら」と虚勢を張るみんなですが、結局、打つ手がありません。それどころか、克巳に「お前たち、みんな腰抜けだ」とバカにされてしまう始末です。「てっめら、女に気兼ねしてんのか。女なんて恋愛ごっこばかりしたがってる、薄汚ねえもんだぜ」と、さらに暴言を吐く克巳。その時、顕子がサッとナイフを奪い取り、克巳を刺しました。「やった」と叫んで逃げ出すみんな。「あんたが悪いのよ、あんたが悪いのよ」と言いながら、顕子もヨロヨロと去り、克巳だけが残されます。血まみれの克巳。しかし、ナイフは克巳の体を切ると同時に、克巳を縛めていたベルトも切ったようです。

「痛てえなあ。痛てえなあ」「ちくしょう、死ぬもんか。痛てえなあ」と言いつつ、克巳は裏通りを這っていくのです。

とりあえず大学名はボカしていますが、六大学野球で盛り上がり、ライバル校がK大、と言えばW大しかありませんよね。で、W大と言えば「スーパーフリー」事件がありました。5年ほど前ですが、イベントサークルの「スーパーフリー」が輪姦事件を引き起こして、まさにこの映画の「まんま」です。その点では、この映画が将来を予見していたことは、瞠目に値します。

しかし、そこでふと考えます。だとしたら、この映画は何を描きたかったんでしょう。
まず、一つ確認しておきたいのが、石原慎太郎の原作は、無軌道な克巳の「荒れた」心象風景を描くのがメインだったと思われます。しかしそれが映画化されると、なんだか父親の世代と、若い世代のカルチャーギャップみたいな部分にも焦点が当たってしまいました。でも、それは蛇足と言わざるを得ません。だって、最近の若いものは、みたいなフレーズは大昔からの定番ですしね。

では、いつの時代にもいる無軌道な若者の生態を描きたかった?そうかもしれません。戦後すぐのアプレゲールと言われた若者像を初め、こういった若者を文学も映画も、好んで題材にしてきましたから。しかし、そうだとしたら、この映画はちょっと弱いです。

周りの学生はよく描かれています。特に、群れて粋がってはいるものの、実際にはヘタレの川崎敬三とかの人物像は秀逸です。しかし、川口浩演ずる克巳まで行ってしまうと、これはちょっとと思わざるを得ません。要は強すぎるのです。あんたは北方賢三の登場人物か、と思うくらいにタフで頑固。いや、そんな学生いないだろ、仮にいたとしても特殊すぎる、と思ってしまうのです。それに、そんな硬派な奴がダンスパーティ企画したり、酒飲ませて女の子に乱暴しないんじゃないでしょうか。

それはともかく、これが初主演になる川口浩は、まさに大器の予感がプンプン匂ってきます。育ちの良さから来る「お坊ちゃま」な感じと、たいていの遊びはやり尽くしたみたいな「虚無感」。さすが、リアルにサラブレッドだけはあります。

若尾文子は、まだ頬がふっくらしてカワイイ時代ですが、その割に体当たりの演技。下着にされたり殴られたり、能面のような表情を見せたりと、この頃の文子タンとは思えない演技が見ものです。まあ、後に増村保造監督と組んで、あんなことや、こんなことになっちゃいますが、この頃は、あくまで「お嬢さん」役が多かったですからね。その点では、とても貴重でしょう。

ともあれ、川口浩や若尾文子の演技を楽しめるものの、原作がショッキングだったせいもあって、かえって市川崑監督らしさが薄まってしまった佳作、そんな印象を持ちました。

最後に、個人的な意見ですが、こういったダンスパーティ(今ならイベント)とかを企画して、粋がっているお坊ちゃんは大キライです。なので、ホイチョイの映画は、それなりに評価しても、ホイチョイプロの人たちはキライ。まあ、貧乏人のヒガミと聞き流してください。







いくらおにぎりブログのインデックスはここ

前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)

【映画】新源氏物語

2008-01-14 | 邦画 さ行
【「新源氏物語」森一生 1961】を観ました



おはなし
光源氏はモテモテと、平安時代から決まっています。

市川雷蔵が主演です。もっとも市川雷蔵は新平家物語にも主演していますが、あちらとはチト違います。当たり前ですか。はい、そうですか。

ここは帝のおわす御殿。「帝のお使いが出た。どこへ」と色めき立つ女たち。そう、今日の伽の相手が誰なのかで、女たちは色めき立っています。「今日も素通りじゃ」「今宵も桐壷じゃ」「また桐壷じゃ」。落胆を隠せない女たちですが、特に怒っているのが弘徽殿女御(水戸光子)です。なにしろ東宮(皇太子)を産んだ人ですから、プライドも3人前くらいなのです。とりあえず、腐った魚の腸攻撃などの陰湿なイジメを桐壷(寿美花代)にしかけ、桐壷はノイローゼになってしまうのでした。しかし、その時には桐壷は妊娠中。御殿から去った桐壷は実家で玉のような男の子を産み、あいにく産後の肥立ちが悪く、そのまま儚くなってしまったのです。

さて、匂うような美青年に育った男の子は、イジメられないようにとの帝の叡慮もあり、家臣の身分に降され、その名も光源氏(市川雷蔵)となっていました。その上、宮中の娘たちからは「光るお姿」だとか「その上、いい匂い」とかキャーキャー言われています。いや、匂うような美しさって、比喩だと思っていましたが、光源氏クラスになると、実際にいい匂いなんですね。

さらに光源氏は、時の左大臣の娘との結婚も決まり、まさに順風満帆な感じです。しかし、そんなある日、光源氏は宮中で、美しい人を見つけて、思わずときめいてしまったのです。その人は、帝の想い人の藤壺(寿美花代・二役)。帝は、光源氏のお母さん・桐壷に対する愛を忘れられず、桐壷にそっくりな藤壺を寵愛しているのです。「そんなに母上に似ているのか」「それで、この胸が騒ぐのか」と、光源氏も納得です。

さて、左大臣の娘、葵の上(若尾文子)と結婚した光源氏ですが、結婚生活はちょっとギクシャク。「こちらにいらっしゃい、愛しいお人」などと、光源氏スマイルを振りまいてみますが、葵の上は「心にもないことを仰らないでください。私たちの結婚は、愛情は問題ではなかったのですから」とえらく冷静です。「どうしてそんなことを言うのですか。私はあなたを愛しています。心から幸せにしてあげたいと思っているのですよ」「どうでしょうか。源氏の君はお美しいばかりではなく、お口もたいそうお上手と承っています」。いかん、すっかり女狂いがバレてますね。まして、相手はあの誇り高い若尾文子ですから、そう簡単に許してはもらえなさそうです。

そんな光源氏の元恋人の一人は、六条の御息所(中田康子)。娘の秋好の姫(長谷川彰子)が、源氏様はなぜうちに来なくなったのと聞くと、「源氏の君はこれからどんどん出世をなさらねばならぬお方です。右大臣の姫君なら似合いのお方です」と大人な対応です。といいつつ、源氏の君が外を通ると、ヨヨヨとか泣いていますが。目つきも危ないし、ヤバそうですよ。

「私は間違った結婚をした」と、乳兄弟の腹心の惟光にコボす光源氏。惟光は「またそんな」と軽く受け流していますが、そこは腹心ですから、「好きな方をお探しになればいいのに」とアドバイスです。「それがあるんだ」と恥ずかしそうに言う光源氏。なんだ、心配して損しましたよね。で、そのお方は?。「藤壺の宮だ」「なあんですって」。よりによって帝の寵愛を受けている藤壺に惚れるだなんて、なんたることでしょう。このままじゃ首が飛んじゃいますと、懸命に諫める惟光です。「もうよい。誰にも頼まぬ。一人で行く」と言い出す光源氏。哀れ惟光は、結局のところ手引きをする羽目になってしまったのです。色狂いの主人を持った部下は悲惨ですね。

寝ている藤壺にいきなり抱きつく光源氏。えっ、えっ、何。ビックリする藤壺ですが、「お許しください、源氏です」と光源氏に言われると、ヘナヘナと力が抜けてしまうのです。そのまま朝を迎え、「どうなるのです私は。もう帝にお会いすることもできません」と嘆く藤壺。まあ、そうなっちゃったんだから仕方ないとは言え、罪な奴です、光源氏って奴は。

「藤壺に帝の寵愛を独占させてたまるものですか。今に帝の傍から退けてやります」と息巻いているのは弘徽殿女御。この人、人を蹴落とすことに生きがいを感じているみたいですね。そんな姿に兄の右大臣(千田是也)も「恐ろしい人じゃ。わしの妹とは思えん」と、若干ヒキ気味。まして、右大臣の娘で東宮との結婚が内定している朧月夜(中村玉緒)などは、東宮との結婚を「いやーよ。さよーならー」と逃げ回っている様子です。

そんな朧月夜は、藤壺のもとに忍んでいこうとする光源氏を発見。とりあえず、恋はアバンチュールと割り切っているらしく、自ら誘って光源氏と関係を持つのでした。それにしても、光源氏も見境なさすぎではあります。

とりあえず、宮中で藤壺にガンを飛ばす葵の上のショットを挟みつつ、葵の上はご懐妊です。喜ぶ父と光源氏をよそに、不機嫌全開な葵の上。「そう、本当に喜んでくださる?藤壺様のややのように。あの方もご妊娠だそうですね。どなたのお子か知らないけれど」と嫌味タラタラです。「藤壺の宮がご妊娠」、と固まる光源氏。いかんですね、その態度でバレバレですよ。

しかし、藤壺に男の子が生まれても、それはあくまで帝の子。光源氏が父の名乗りをすることはできません。なんだか光源氏はブルーな気分になっちゃいました。俺の人生って何?な気分です。そんな時は、やっぱり女の所へ行くしかないありませんね。ということで、昔の女、六条の御息所のところへ出陣です。

光源氏を見て、内心のうっふーんな気分を押し隠しつつ、ちょっとスネてみる六条の御息所。しかし光源氏は「あなたのことはひと時も忘れたことはありませんよ」「母や姉のように甘えたいのです」と、年上の女の心をとろけさすような台詞連発です。もう、辛抱たまりません。「甘えて。ああ、私の愛しい人」と、すっかり理性のとんだ六条の御息所は、あっはーんになってしまうのでした。

とりあえず、清涼殿にお七夜のお祝いに行った光源氏。自分の子なのに、帝の子であるというフリをしなければいけないのは辛いです。そのため、またまた、ブルーな気分になっちゃいました。今度は、豪雨の中、馬で遠乗りをしてみることにします。しかし、馬が足を折って、仕方なく一軒の家に、雨宿りを請うことになってしまいました。

その屋敷の侍女は、ぜひ女主人に会って頂きたいと光源氏に頼みます。美人じゃありませんよ、と念押しする侍女に、「美人はもうたくさん」と答える光源氏。はい主人の末摘花(水谷良重)が出てきました。いや、特にわざとらしいオカメメイクとかしてないんですけど。これは、素のままで水谷良重はブサイクだと言いたいんでしょうか。それは、それで水谷良重に失礼な話ではあります。

ともあれ、美人じゃないけど才能があると「自分で言う」末摘花。口に出しても理解できない才能だそうです。そ、それは一体。「あたくしが料理人、光様はお魚。お魚は料理人の腕の中で黙っているんですよ」。真っ暗闇に。な、何が闇の中でおきているんでしょう……。

翌日、腹心の惟光に、「ああいう生き方をしている女もあるものだな」と言っている光源氏。うーん、闇の中では、あんなことやこんなことがあったんでしょうね。そんなクダラナイことを話しつつ主従が歩いていると、妙なる笛の音が聞こえてくるではありませんか。ピピンと来ましたよ、源氏レーダーに。これは美人の音に違いありません。行ってみると、案の定、笛を吹いているのは美少女でしたよ。それに叔母の尼さんに聞くと、この美少女は紫(高野通子)といって、藤壺の姪なのだそうです。これは、連れて帰るしかない。とりあえず「姫を返してください」と泣く尼さんを無視して、紫を拉致する、光源氏一行です。とうとう、誘拐にまで手を染めてしまいましたね。

「あなたの子供なんて産みたくもない」と、マタニティブルー全開な葵の上。光源氏は「そんなひどいことを言わないでおくれ」とオロオロしています。「なら、なぜもっと清らかな生活をしようとなさらないのです」とキレ気味の葵の上に、「それにはまだ若すぎるのだよ。長いことではない」と光源氏は、つい口答えをしてしまいました。これは最悪ですね。マタニティブルーの奥さんには、絶対に口答えをしないこと。これは鉄則です。

そんなこんなで有名な牛車バトル。葵の上がブイブイ飛ばす牛車と、六条の御息所がハコ乗りをする牛車の対決です。とりあえずガチンコでぶつかってみて、どっちが勝つか、みたいな。まあ、ここではとりあえず葵の上の牛車が勝つんですけどね。しかし、それですっかり恨みに凝り固まってしまう六条の御息所。なにしろ愛しい光様の子を妊娠した上に、自分より若くてキレイで、さらに牛車バトルにも勝っちゃうわけですから。

「あの女が、あの人の子を産む。憎い、憎い、呪ってやる、殺してやる」、そんな気持ちで日々を送る六条の御息所からは、生霊が出て行くようになりました。「ああ、出て行く」というと、影が六条の御息所からすぅーっと離れていきます。そして、その影は葵の上に取り憑き、祟りをなすのです。どうにか子供は生まれましたが、そのまま弱っていく葵の上。結局、加持祈祷のかいもなく、死んでしまうのでした。

さて、帝は帝位を東宮(皇太子)に譲位することになりました。その代わりに生まれたばかりの子供(実は光源氏の子)を、次の東宮にするという条件付きです。しかし、そうなると弘徽殿女御と右大臣一派が力を握り、光源氏や左大臣一派が冷や飯を食うのは当然。ちょっと困ったことになりましたね。さて、光源氏はこの状況をどう打開するのでしょうか。

はい、光源氏は拉致った紫を見てデレデレしています。どうも状況打開の秘策はなさそうです。「大人になったら光様のお嫁になってあげるわ」「そうかお嫁になってくれるか」。ニヘっとしている光源氏に、紫はさらに言うのです。「だから早く大人になって、光様を喜ばせてあげるの」。いったい、どんな教育をしてるのやら。

自由奔放な朧月夜は、東宮あらため帝と結婚する身でありながら、光源氏にモーションかけまくっています。それも、結婚前日に。「明日までは私の体よ。そして光様のものよ。光様が好き。好き、好き、好きよ」と直球ど真ん中。そっと押し倒します。あ、朧月夜が光源氏をです。うっふーん。しかし翌朝になって、それが弘徽殿女御にバレテしまいました。懸命にとぼける朧月夜ですが、「帯の匂いで誰か分かります」と弘徽殿女御も、なかなかスルドイですね。

その頃、藤壺の部屋。藤壺は火照る体を押さえかねて、「光様っ」とつぶやいてみました。「はい」と、いきなり答えが。ビビる藤壺。なんてことでしょう。屏風の陰に光源氏がじっと隠れていたのです。「早く消えてください」「でも、お呼びになったではありませんか」。藤壺をじっと見つめる光源氏。ああ、そんなに見つめられたら。「もうだめ、みんな差し上げます」とあえぐ藤壺。そのまま赤いスモークがポワワンと沸いてきて、画面は真っ赤になるのです。

よく分からないけど、光源氏が朧月夜や藤壺としたことは、全部バレてしまった模様。光源氏は須磨・明石のあたりに流され、藤壺は尼になることに。髪を下ろし、まだお小さい東宮を残して去っていく藤壺を涙ながらに見送る光源氏。そして、光源氏も今、旅立ちの時を迎えたのです。「では、ごきげんよう、紫」と言って、夕陽に向かって去っていく光源氏です。


とりあえず須磨のところまでを映画化したようですね。しかし、かなりトンデモ風味ですね。「千年の恋 ひかる源氏物語」の方がマトモに思えます。それにしても、雷蔵の光源氏は、ちょっと情けない雰囲気。やっぱり、男が演ずるとこうなってしまうのでしょうか。どうも浮世離れしたキャラクターだけに、女性が演じた方がサマになるような気がします。

光源氏の母と思い人藤壺を演じたのは、当時宝塚在団中の寿美花代。正直、「その後の」寿美花代しか知らなかったので、キレイさにビックリです。憂いをおびた表情のキレイなことと言ったら。それに、男役のトップスターだったそうですから、いっそ寿美花代を光源氏役二しても良かったかもしれませんね。

若尾文子は、気の強い役がピッタリ。娘役から、増村保造的な「女」を演ずるようになった時期ですから、とても近代的な自我を持つ女として、葵の上を演じています。

その他にも中田康子や中村玉緒といった、個性溢れる面々に囲まれるなか、市川雷蔵はどうもやりにくそうです。確かに、市川雷蔵がモテル役というのは納得ですが、それは光源氏的な意味ではないだろうと。むしろニヒルであったりストイックな中で、「女が勝手に」惚れるのが市川雷蔵じゃないでしょうか。もちろん、その真逆で、「好色一代男」の雷蔵もとても良かったのですけど。

それはともかく、どうも映画としては半端な感じのこの作品ですが、見所を挙げるとすれば、まずは帝役で市川寿海が出ていること。この人は市川雷蔵の養父ですが、親子共演というのも珍しいです。そして、まだデビュー前の藤村志保が本名の薄操で出演しているのも、ちょっと儲かった感じです。

あと、オープニングのクレジットを見て、ギョッとした点がひとつ。「原作 川口松太郎」になっています。そりゃ、確かに週刊文春に連載された同名小説を映画化したんだから、原作でかまわないのかもしれませんが、ちょっとなあ、と思います。紫式部がいたら、怒っちゃいますよ。


(市川光源氏)

(寿美花代は儚げな表情が素晴らしい)

(終始、怒ってる若尾文子)

(自由奔放な玉緒ちゃん)

(中田康子の六条の御息所役はあっているかも)

いくらおにぎりブログのインデックスはここ

前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)

【映画】正義派

2008-01-11 | 邦画 さ行
【「正義派」渋谷実 1957】を観ました



おはなし
同僚の自動車事故を目撃した清太郎は、同僚に不利な証言をしたため……

志賀直哉の「正義派」と「清兵衛と瓢箪」が原作だそうですが、すいません、どちらも読んでいないので、ドコが正義派でドコが清兵衛と瓢箪なのかは分かりません。

バス会社の営業所から次々と走り出していくバス。そんなバスの一台から降り立ったのは、お京(三好栄子)です。ふと警官を見つけて、身を隠すお京。視線が、早く行かないかしらと語っているようです。ボロい長屋に帰ると、抱えてきた荷物をお京は下ろします。タバコやらカンヅメやら、出てくるのは、いずれもヤミ物資。そうお京はヤミ屋なのです。

お京はその足で、今度はボロアパートの若葉荘に行き、バス運転手の藤田(佐田啓二)と話し込みます。藤田はお京の世話で、このアパートを借りることができたのです。藤田の奥さん・葉子(久我美子)が「今の人だあれ」と聞くのに、藤田は「ヤミ屋の婆さん。世話好きで親切なんだが。玉に瑕さ、おしゃべりで欲が深い」と答えるのでした。

お京は、今度は一膳飯屋をやっている幼馴染のお春(望月優子)のもとへ。目的はもちろん、藤田の奥さんの噂話と、ついでに下宿している株屋の高岡(山内明)にヤミ商品を売りつけること。ちなみに、お春には一人娘の町子(野添ひとみ)がいて、母のお春としては金回りのいい高岡に嫁がせたいと思っているのですが。

ようやく家に帰ったお京。しかし息子でバス整備士の清太郎(田浦正巳)はなんだか怒っています。というのも、清太郎が大事にしているヒョウタンを、お京が勝手に持ち出して、外人相手にタバコと交換してしまったからです。「今時、ヤミ屋なんて時代遅れだよ。ズレてるよ。おかしいよ。気の利いた奴は、とっくに商売替えしてら。間が抜けてるよ」とブツブツ文句を言う清太郎なのでした。

ということで、お京の動きで、さくっと主要メンバーを紹介する演出は、手堅くて分かりやすいです。さすが、松竹のベテラン監督。そして、お京とお春に、三好栄子と望月優子という貧乏くささでは、一二を争う女優を配置したのも効いています。いかにも大船調の映画な感じがしてきせんか。

最近、休みや遅刻が多いと、監督(伊藤雄之助)に怒られている藤田。それもそのはず、藤田は病弱な妻の看病に、どうしても手を取られてしまっているのです。その上、今度は父が上京してくることに。実を言うと、藤田と葉子は駆落ちの身。親に認められた結婚ではないので、ちょっと困っています。「まあ二三日、東京見物でもさせて田舎に追い返すさ」と言ってはみたものの、とりあえず先立つモノがないのでは話になりません。

一方、お京はお春から相談を受けています。娘の町子を株屋の高岡の元に嫁がせたいんだけど、という内容。聞けば、高岡が町子を見初めていてゼヒに、という話のようです。「そいでね、あんたのとこの清太郎さんが、町子をね、好きなんじゃないかと思うんだよ」と言われビックリなお京。まったく人の噂は大好きなくせに、息子のことなんかは知りもしなかったんです。

シーンが変わると、その清太郎と町子がデート中。とはいえ、古道具屋で熱心に「いいなあ」「いいなあ」と言いながらヒョウタンを見ている清太郎。これじゃ、町子にも不満がたまるというものです。それでも、どうにかヒョウタンから自分に頭を切り替えてもらって、高岡との結婚話が進んでいることを打ち明ける町子。「清ちゃんいけない?」「いけばいいじゃないか」「素直じゃないのね」。止めてもらいたかったのに、町子はガックリです。

さて、父が来るのに、金は無し。こまった藤田は親戚の叔母さんに金を借りにいきました。しかし、そこは駆落ちの身の悲しさ。「お金なんてね、スッキリ出してあげたいもんよ。でもあんたたち自分の責任で飛び出したんでしょ」と相手にしてもらえません。かわいい姪っ子(桑野みゆき)は、自分のお小遣いを少しばかり出してくれますが、それじゃとっても間に合いません。仕方ない。給料の前借りをするか。今度は監督の所にいく藤田。しかし、ここでも先手を取られ、あれこれイヤミを言われてしまう始末です。思わず「ついてねえな、今日は」とこぼす藤田なのでした。

奥さんの葉子は、身だしなみをキチンとしなくちゃと、お京と一緒に銭湯に。しかし、風呂を出て着替えていると、なんと脱衣場に時計が落ちているではありませんか。お京にそれを教えると、サッと拾って、懐にしまってしまうお京。最近はね、拾ったものは届けなくても良くなったんだよと、葉子に言い訳をしていますが、まさかそんなハズありませんよね。

それはともあれ、部屋に戻った葉子。しかし、ビックリ。明日来ると思っていた藤田の父が、怖い顔をして待っているではありませんか。「貧乏してると見えるなあ」と言われ、葉子も立つ瀬がありません。それにお茶菓子を出そうにも、そんなお金もないのです。慌てて、お京に頼み、たった一着のお召しを質屋に入れることにする葉子。しかし、お京は家にとって帰すや、こっそり隠したヘソクリを取り出し、それを葉子に貸してくれるのでした。おや、意外といい人ですね、お京は。「利子、たっぷり付けてね」。やぱり訂正、単なる強欲婆でした。

そんなことも知らず、お春の家の小上がりで、飲んだくれている藤田。やはり給料の前借りを断わられた青木(三井弘次)と、怪気炎をあげています。でもそろそろ遅くなってきました。「明日早出だから」と腰を上げようとする藤田ですが、「飲めっ」と青木に言われると、「よし、飲む」と結局、泥酔するまで行ってしまうのでした。

翌朝、大アクビをしながらバスを運転している藤田。一方、仏頂面の父は、お京の強引な説得もあり、葉子も交え、三人で東京見物をすることになったのです。とはいえ、能見物のつもりが、ストリップだったりと、波乱含みですが。

さて、どうにか早番の勤務を終えた藤田。今日はキツかったとひと安心です。しかし、出先でバスが故障したので、急きょ、監督から代車を運転するように命じられてしまったのです。前借りもさせないくせに、こんな時だけ、猫なで声を出しやがって。それに、今日は眠いんだ。そんな気持ちで、断わる藤田ですが、監督に強引に頼まれてしまっては、いつまでも断われるものでもありません。

出先のバスを修理するため整備士の清太郎を乗せて、バスを走らせる藤田。「藤田さん、大丈夫ですか」「大丈夫だよ。この路線なら眼をつぶってても走れるよ」。しかし、その時、急に角から子供が飛び出してきたのです。キーッ。ドスン。

藤田は警察に拘留され、清太郎はあわてて会社に戻り、監督に事故の報告をしました。監督は細かい事情を聴くよりむしろ、クラクションを鳴らしながら走ったと言え、と清太郎に言い出します。「いいか、もう一度言うぜ。スピード落としてカーブきったんだ」。

ともあれ、まずは病院に行って、子供の様子を調べないと。しかし、子供は手術中。予断を許さない状況に、子供の母(菅井きん)も泣き崩れています。思わず同情してしまう清太郎。しかし監督は、「君の証言でどうにでも変わっちまう」「同僚を前科者にする手はねえからなあ」と、あくまで「分かってるよな」というプレッシャーを清太郎にかけてくるのです。

「クラクションははっきり鳴らしたのかね」と刑事(山形勲)に怒鳴られている藤田。藤田は「そうです」とも「いいえ」とも言わずに黙り込んでいます。そこに監督と清太郎がやってきました。刑事はスリップ痕からして、どうみてもブレーキが遅すぎると言った後、清太郎に聞きます。「君はどう思う。ぼくはこういう場合、はっきり答えてくれん奴は、非良心的な奴だと思うが、君ははっきり答えてくれるだろうな」「状況からして、君の証言は重要視されるよ」。

清太郎は答えます。「過失です。藤田さんの過失です。藤田さんにはお気の毒ですが、ボクは間違ったことは言いたくないんです。確かに藤田さんの不注意です。ブレーキのかけかたが遅かったんです。藤田さん勘弁してください。ボクは本当のことが言いたい」。何もここまで、と思わないでもありませんが、それで藤田の気持ちもハッキリしたようです。「そうです、確かに僕の過失でした」とガックリするのでした。

家に帰った清太郎。お京に「おっ母さん。オレ本当のこと言っちゃったんだ」と言い出します。事情を飲み込まないまま、「そりゃ本当のこと言ったほうがいいよ」と答えるお京です。
そういえば、まだタイムカードも押していなかったと、会社に戻る清太郎。しかし、運転士の青木からは「バカやろう」と罵声を浴びてしまいます。「君は偉いよ。正直者だよ。立派な青年だ」と嫌味たっぷりに言う青木。清太郎は思わず、「ボクは間違えてませんよ。間違えたこと言ったわけじゃない」と言い返すのです。「そうだよ、それに違いないから、偉いなあーって言ってるんだ、バカやろう」。もちろん、監督も他の同僚たちも冷たい眼で清太郎を見ます。「でも、正しいことは正しいんだ」と一人つぶやく清太郎なのです。

ムシャクシャした気分の清太郎は町子に会いに行くことにしました。しかし、お春の店はすっかり荷造り中。株屋の高岡と結婚することに同意した町子は、明日には高岡と福島に旅立つ、その喧騒でした。黙ってきびすを返す清太郎を、町子が追ってきました。「なぜ帰っちゃうの、怒ってるのね」と言う町子に、ふくれっ面しか見せられない清太郎。そう、自分が悪いんだから仕方ありませんよね。

今度は、お京がお春の店にやってきました。今は荷物も片付き、お春と町子。高岡とその叔父の監督が、送別の宴をやっているところです。「おばさん、呆れたよ、おめえの息子には」と嫌味を言う監督。「清太郎が何か」というお京は、まだ何も知りません。監督は、清太郎のせいで藤田は前科者だと、口を極めて罵ります。ガーン。知らなかった。転げるような勢いで、家に帰るお京。早速、「清太郎、本当か。本当にお前、藤田さんを罪に落すようなこと言ったのか」と問い詰めます。ウン、と言われてバカだよ、本当にバカだよ、と怒り出すお京。しかし、清太郎が「分からないんだ。俺の気持ちなんか誰にも分からないんだぁ」と嘆き、会社を辞めて裏通りを歩くんだ、とまで言い出したので、すっかり清太郎に同情してしまうのでした。まあ、母親っていうのは、こういうものでしょう。

お前の気持ちは分かるよ、なんだいウチの息子をイジめて、とヒートアップしたお京は、再びお春の店に殴りこみです。このシーンは見もの。2大貧乏(顔)女優が、顔を数センチにまで近づけて、罵りあうんですから。かたや龍なら、かたや虎。それもとハブとマングース。とにかく、見事なまでの口げんかです。もちろん、お京にしたら、ウチの息子は正しいことをした、警察に正直に言った、それのどこが悪い、という正論ですから、微妙にお春の方がタジタジなんですけどね。と、そこに刑事さんがやってきました。以前、風呂屋でお京がネコババした時計。それをお京が質屋に売り払ったことがバレ、さらに家宅捜索をされてヤミ物資がゴロゴロ出てきたため、刑事さんがお京を逮捕しにきたのです。とたんに憐れっぽくなるお京。「お春さんからも何とか言っとくれよ」としおらしい態度を取ってみますが、今の今まで正義がどうしたとか言っていたのに、それじゃ通らないでしょう。

それを見た町子は慌てて清太郎の元に走ります。しかし、清太郎はすっかり苦い顔で、「みっともない」と言うばかりです。「時計がいけないのよ。拾った時計売るなんて」と言う町子。清太郎はビックリです。てっきりヤミ物資の売買で捕まったと思っていたのに。「そんなこともやったのか」「そうよ、だからバレたのよ。ヤミ屋をしてることまで」。「メチャクチャだ。もう何もかもメチャクチャだ」と大事にしていたヒョウタンを、家の前にあるドブ川に投げ捨て始める清太郎。ポチャン、ポチャン、勢いの割には頼りない音をたてて、ヒョウタンがポッカリポッカリとドブ川に浮かびます。「オレはお袋だけが、お袋だけが味方だと思ってた」と嘆く清太郎に、「あたしも味方よ」と言う町子。「嘘だ。君だって福島行くんじゃないか」「そうよ、清太郎さんがハッキリしないからよ。ハッキリ言えばいいじゃないの、行くなって」。しかし、この期に及んでも、「行けよ」と見栄を張る清太郎。その点、町子は大人です。「あたし行かないわ、福島へ。喧嘩しても行かないわ」。

さて、取調べを受けているお京。とにかく見苦しいまでにペコペコして、どうにか罪を逃れようと必死です。しかし刑事さんも「懲役だね」とあっさり一言です。もう二度としません、これからは更生します、とお京が言えば、「じゃあ立派に勤め上げてくるんだね」と言われちゃう始末。さあて、どうなるのでしょう。

藤田の父が、葉子の待つ部屋に戻ってきました。今、被害者の所にお見舞いをしてきたけど、子供も助かったと嬉しそうです。それに、何だか葉子を見る目が優しくなっています。今まで、ワシもこの結婚に反対してきたけど、とお父さん。「弱い嫁をもらったら、うちで丈夫にしてやるのが本当だ」と、これはお父さんなりの愛情表現なのです。そこに釈放された藤田も戻ってきました。そして、お京も。

息子に合わす顔がない、とヘコんでいるお京。「どんな顔して帰ったらいいの」なんて、ちょっとメルヘンなことを言っています。「笑って帰るんですよ。笑って」と言う藤田。「こうですか」とニイっと笑うお京は、ああ良かった、いつものお京です。

家に帰って、ゴメンヨ、というお京。清太郎も「オレ、おっ母さんの味方だよ」と、なんだか優しい感じ。それもそのはず、会社に行ってくると飛び出した清太郎の横には、町子が。二人は仲良く出かけていくのでした。やれやれ、と外を見るお京。あれれ、ヒョウタンがドブ川にプカリプカリと浮かんでいます。棒を取り出して、必死にヒョウタンをすくい上げようとするお京。その時、ウゥゥゥゥゥー、ウゥゥゥゥゥーとサイレンが鳴りはじめました。もう、お昼です。


もの凄く、判断に悩むストーリーですね。個人的には、コムヅカシイ映画よりハッピーエンドな映画を愛していますが、これに関しては、どうなんだろう。

佐田啓二と久我美子の夫婦が、貧乏なのに本当に愛し合っていて、その上、佐田啓二が爽やかないい男なので、見ている観客は、すっかり二人に感情移入してしまうでしょう。
そして、三好栄子演ずる婆さんは、これまたコテコテなくらいのケチな女。

そんな前提条件のもとで、引き起こされる交通事故。佐田啓二は本当は運転したくなかったんだよ、とか、飛び出したのは子供の方じゃないか、などと見ている方は、すっかり佐田啓二に同情してしまいます。そして、どうにか助からないかな、と不謹慎な思いすら抱いているところに、田浦正巳の「正義派」な証言。これでは、三井弘次の台詞にあるように、「そうだよ、それに違いないから、偉いなあーって言ってるんだ、バカやろう」と思わず言いたくなってしまいます。

それに、正義を気取ったって、自分の母親はなんだ。ヤミ屋をしているじゃないか。人の不正は見逃せなくて、身内は別物か、と思っていると、三好栄子も逮捕。

ここで見ている方は、どこに力点を置けばいいのか分からなくなります。ええと、ダレをオウエンすればイイですか、みたいな。そんな混乱した気分のまま、話は強引にハッピーエンドに。それも大事な問題は何一つ解決しないまま。

佐田啓二は復職できるんだろうか。田浦正巳は、職場の仲間に受け入れてもらえるんだろうか。お京はヤミ屋以外で食べていけるのか。そもそも、正義って大事なんでしょうか。そんなことを考えさせられました。

演技としては、とにかく三好栄子に尽きます。もちろん佐田啓二もカッコイイ。野添ひとみもカワイイ、それに望月優子も捨てがたい。でも、やっぱり三好栄子の「世話好きで親切なんだが……おしゃべりで欲が深い」という人間像は秀逸でした。今だと樹木希林あたりが、こういった役を一人で引き受けている感がありますが、昔はもっと上手い演技をする人が、それこそ映画各社にゴロゴロいた。これこそ、日本映画の全盛期の凄さだったんじゃないでしょうか。







いくらおにぎりブログのインデックスはここ

前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)


【映画】女番長(スケバン) 感化院脱走

2007-12-22 | 邦画 さ行
【「女番長(スケバン) 感化院脱走」中島貞夫 1973】を観ました



おはなし
るり子を始めとする5人の不良少女たちが感化院を脱走しました。途中で出会った菊村とともに、海辺に集まった少女たちですが……

鈴木則文監督が東映東京に人事異動になったため、監督が中島監督にスイッチ。そのせいか、今までのシリーズとは「まったく」毛色の違った作品に仕上がりました。

雑踏を逃げている女。それを男たちが追っています。そのままドブ川に逃げ込んだ女は、結局、男たちに捕まってしまい、しばきたおされています。
「青木るり子 18才 脱走暦七回」のテロップが。

捕まったるり子(杉本美樹)は、新入りの松本三奈(須永かつ代)と共に私立心愛女子学院に護送されることになりました。ここは優しげな名前とは裏腹に、金に汚い院長(金子信雄)と、鬼看守たちが支配する恐怖の感化院(現 児童自立支援施設)です。

とりあえず脱走常連者のるり子は、鬼看守の小池(今井健二)に「今度脱走してみろよ、少年刑務所に叩き込んでやる」と縛り上げられ、殴られたうえに、独房に叩き込まれるのでした。
一方、新入りの三奈は、「さる筋」に頼まれているということで、賓客待遇。三奈のパトロンで大阪商工会議所の大物遠山(名和宏)からの100万円の寄付が効いているようです。

とりあえず、感化院は刑務所同然。というか、ここらへんは完全に女囚モノのノリです。つまり、無意味に入浴シーンがあったり、作業中の喧嘩、少ない食事に暴動寸前、みたいな。

そんな中、法務省の視察が行われるという連絡が入りました。早速、院長と看守の黒田(室田日出男)は鳩首相談です。78名の収容者を113名と水増ししているのは、うまくやればごまかせそうですが、それにしても建物をキレイにしたり、独房からるり子を出しておいたりと、やることは一杯です。さらに、母親と面接ができなかった杏子(叶優子)がキレて院長室に怒鳴り込んできたりしたので、全員に減食処分をくだしたりと、シメルところはシメテおかなくてはなりません。

独房から出されたるり子は、「なんやしらん世間が騒々しいやんけ」とつぶやきますが、それもそのはず、もとは自分の脱走が発端で、全員ご飯が半分ですから、これはキナ臭い雰囲気なのも当然です。特にるり子と同室の杏子や、マキ、ユキの姉妹、さらに三奈などは、るり子と同室というだけで周りから敵視されているので、人相も悪くなっちゃうというものです。

「るり子、なんぞ挨拶せんかい」「面会ができひんやったのも、もとはコイツのせいやで」と煽る同室の仲間たち。しかし、杏子は「また騒動起したら、出るのが遅れるだけや」とじっと我慢するのです。というのも、母に預けてある自分の子供に、一日でも早く会いたくてしかたないのですから。

さて、法務省のお役人たちがやってきました。「マジメに更生した生徒が巣立つ姿を見送るときの気持ち。これはうれしいもんですよ」と善人面をする院長。「これが今夜の生徒食の見本でございます」とタンマリともられた食事をみせるのも忘れません。そして懲罰房(独房)を案内する黒田。「ここは昔の懲罰房です」「今は使用していない?」「とんでもありません。ここはあくまで教育施設であって、刑務所じゃございません、必要なのは懲罰より対話なのです」。
しめしめ、法務省の役人もすっかり感心しているようです。しかし、問題はミシン作業所で起こりました。視察の役人に、生徒たちが「腹減ってんのや」「半分しか食わしてくれてへん」「そや、もう一週間もや」と口々に言い出したのです。「飯食わせ」のシュプレヒコールが渦巻き、もう院内は大騒ぎ。役人も「院長、こりゃいったいどうしたことだね」と怒り出し、院長の面目は丸つぶれです。

すっかりキレた院長は、ムチャなことを言い出しました。「今日から反省の色が見えるまで、無期限に晩飯は抜きだ」。そしてそれだけではなく、「向こう半年間、全ての退院予定は取り消す」とも。これで、すっかり頭にきたのが杏子。あと一ヶ月で退院して、自分の子供に会えると思っていたのに、これではキレるのも当然です。

「るり子、今度いつ脱走するんや。頼む連れてってくれへんか」と言い出す杏子。三奈も「あかんクリームが全然のらへん」と、院内暮らしは美容に悪いので、脱走を決意。さらに付和雷同気味のマキ、ユキも脱走することになりました。「まあ、ええやろ。その代わりこっから出るまでは勝手な行動は許さへんで」とスケバンぶりを見せるるり子。「分かっとる。で、いつやるんや」「今夜や」。うわっ、行動が早いな。夜、熱が出たとか適当なことを言って、女看守を縛り上げるみんな。廊下に火を放ち、そのドサクサに紛れて脱走です。

感化院を脱走して、さて、みんな別れ別れになることにしましょう。とりあえずるり子は広いところに逃げるそうです。それはどこ?と聞かれて、「金網のないところや」と答えるるり子。いや、そんな抽象的な。まあ、実際は石川県の内灘に逃げるみたいですけどね。杏子は娘に会いに、三奈はパトロンのパパのところに、マキ、ユキは適当に、それぞれ自分の目指す場所に逃げていくのです。

杏子は母のもとに帰り着いたものの、しかし出迎えた母(菅井きん)の顔は暗く沈んでいます。粗末な祭壇には安そうな位牌と、そして小さな小さな骨壷が。そう、娘は死んでしまっていたのです。

明け方のドライブインの駐車場。車を物色している男(渡瀬恒彦)がひとり。ようやく納得したのでしょう。一台のトラックに乗り込み、直結でエンジンをスタートさせました。と、隣を見ると女が。「なんや、こりゃ」とビックリする男。「ごちゃごちゃ言わんと早く出し。見てたんや、さっきから」と余裕をかましているのは、もちろんるり子です。「知っとんのか、わいのこと」「知るわけないやろ」「わいとおったらパクられんど」「似たようなもんや」。そんなこんなで、二人の奇妙な旅は始まったのです。ちなみに、ラジオはるり子たちの脱走と、農協の強盗事件が報じています。犯人は菊村洋一20才。猟銃を持って逃亡中だそうです。「金持ちなんやな、あんた」と言うるり子。菊村も、もはや隠そうとはせずに、「それが落としてもうたんや、逃げるとき」と笑うのでした。

三奈はパトロンのパパのところに帰りました、ところが、パパは別の女とエッチの真っ最中。マズイところを見られたせいかパパは逆ギレ気味に、「とにかく少年院に戻れ。お前はやっぱりフーテンじゃ、ズベ公じゃ。はよ出てけ、出てかんかい」と言い出します。そんなことを言われて黙っている三奈ではありません。とりあえず、グサっとパパの腹を一突きです。

空き家を見つけて入り込んだるり子と洋一。しかし、この二人互いに信じあってはいません。「金出しな」と猟銃を突きつけるるり子。「落とした言うたやろ」「もうちょっとマシな嘘ついたらどうやねん」。結局、洋一は懐から金を取り出します。と、るり子が油断した隙に銃を奪う洋一。るり子を見る目付きが野獣のそれになっています。動じずに「飢えとんのか、一発5万円やで」と言うがはやいか、スルスルと服を脱ぎだするり子でした。と、ここでかなりネチっこいラブシーン。今までの女番長(スケバン)シリーズはどちらかというと、スポーツ的なそれでしたが、ここは濃厚な感じです。あと、凝っているのが、散らばった一万円札が減っていくところ。ここで回数を表しているんですね。洋一はヘロヘロになりながらも、床に散らばった一万円札をかき集め、「今、何回や」と尋ねます。「ええやないの、もう」と、こちらもヘロヘロなるり子。何となく、二人はラブラブになったようです。
「うちスケバンやったんや」とカワイクつぶやいてみるるり子。仲間はみんな裏切っていった。もう誰も信用できない、と弱音なんかはいちゃったりします。「わいもか」と言う洋一。「当たり前や」と強がってみるるり子。しかし、洋一の優しいキスでトロケちゃうのです。「ずっとここにいよか……」と言うるり子。いや、それではスケバンの名が廃るというものです。「嘘や。うちはやっぱり内灘に行く。そうせなアカンのや」。

海。日本海のちょっと暗みがかった海。砂浜を走る洋一とるり子。砂浜を転げまわり激しいキスを交わす二人。ベタだ。波打ち際で、水を駆けっこ。そして、また情熱的なキス。もう、ベタベタ。と、海の家の影から煙が上がっています。サッと緊張するるり子。「今頃、人はおらんはずなのに」。しかし、それはメザシを焼いているマキ、ユキだったのです。どうも、行くところもないので、るり子が話していた内灘にやってきたようす。さらに、パパを刺し殺した三奈までやってきました。

人気のない海の家で、仲良くご飯を食べるみんな。ついでに、金もみんなのもの、とるり子は言い出しました。「そやけど、うちの話に乗ってもろたらや」という条件つきです。脱走のたびに地道に集めておいたダイナマイト。これを使って、船を乗っ取り、海に飛び出すというのです。「飛び出してどないすんや」「どうもせえへん。金網の外に飛び出すだけや。うちらを縛ってとる金網の外に飛び出すだけや」。とりあえず、乗っ取る船は2〜3日で探すと言い切るるり子。しかし、ことはそう簡単には運ばなかったのです。

まずは、ユキが洋一を誘惑しました。「何をすんねん」と言いつつ、おっぱい丸出しの女の子に抵抗できるわけもなく、そっと抱き寄せキスをしようとする洋一。しかし、ふと気づくとるり子が、ものすごい眼力で、グオーッと睨んでいます。バシッ。るり子の平手打ちが飛びます。出て行く洋一。思わず追いかけてしまいそうになるるり子。しかし、「よしなよ、男より船の方がいいよ」と言って引き止めたのは、以外にも男好きの三奈だったのです。

いきなり杏子が顔を出しました。それも、知らぬうちに警察や鬼看守に尾行されて。喜ぶみんなですが、ほら、警察が見張っていますよ。「よーし。感づかれないように前進だ」。警察がヒタヒタと迫ってきます。ズドーン。発砲音とともに海の家に駆け込んできた洋一。「すぐに応援が駆けつけるで。やるか。それとも両手あげて出て行くか」。るり子はもちろん、逃げる気は誰にもありません。「みんなその気やったら、陣地作りや」と言う洋一の言葉にしたがって、バリケードを作り、火炎瓶を用意し始めるみんな。

杏子は、子供の骨をカリカリとかじり始めました。「この子はうちの体から出てこん方が良かったんや」と悲壮な覚悟、120パーセント。機動隊は催涙弾を撃ちこみ、楯に隠れてジリジリと前進してきました。みんなは、火を付けたタイヤを転がし、火炎瓶を投げつけ、徹底的に抵抗します。しかし、このままではジリ貧です。一瞬の隙をつき、隠してあるトラックに乗り込むみんな。銃を乱射し、手製爆弾を投げつけパトカーを蹴散らします。しかし、その時、銃弾が洋一を貫くのでした。ガクっと止まってしまったトラックからバラバラと逃げ出す女たち。「洋一、洋一」と絶叫するるり子。鬼看守がるり子を取り押えました。しかし「今度こそ、きさまを刑務所に送りこんでやる」と言う鬼看守に、るり子は、「刑務所だろうが何べんでも逃げたるわい。金網の外に逃げたるわい」と言って、唾を吐きかけるのです。


いや、今までとあまりにも作風が違うので、とても同じ女番長(スケバン)シリーズとは思えません。これじゃ、まるでボニーアンドクライドみたいじゃないですか。それにしても、何かと言うと、小難しい方向に突っ走る中島貞夫監督は、東映の監督の中でもあまり好きな方ではなかったのですが、この映画にはうかつにも感動しちゃいました。「ここではないどこか」「金網の外」というベタな設定なんですけど、なんか胸にしみるものがあったのです。

「鉄砲玉の美学」という映画を中島監督は撮っています(それもわざわざATGで)。これも泣かせるいい映画だったのですが、それをほうふつとさせる出来栄えでした。もっとも、主演はともに渡瀬恒彦、ついでに杉本美樹も両方に出ているので、似ていて当たり前かもしれませんが。

ともあれ、金子信雄に代表されるような、ベタな女囚モノの世界から、軽やかにアメリカン・ニュー・シネマ風の逃亡劇にスイッチして、最後は三里塚闘争みたいな過激派学生もので終わるという、映画としてはどうなんだ、というムチャさが素晴らしいです。

素晴らしいといえば、杉本美樹も素晴らしい。この映画の頃から、脱ぎたくないと言い出して、東映を困らせ、実際、このあとは半年ほど干されてしまったそうですが、それもうなづける演技です。正直、杉本美樹は棒読みだし、ヘタだと思っていましたが、少なくともこの映画で、見せる表情はとても自然でチャーミング。まあ、もとの期待値が低いせいもあるかもしれませんが、意外と演技うまいな、と思いました。





いくらおにぎりブログのインデックスはここ

前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)

【映画】女番長(スケバン)

2007-12-19 | 邦画 さ行
【「女番長(スケバン)」鈴木則文 1973】を観ました



おはなし
護送車から脱走した関東小政は、仲間と共に大阪でジプシー団を結成します。しかし、地元の暴力団、北龍会に目を付けられて……

女番長シリーズ第4段です。主役は杉本美樹、と言いつつも、どんどん影が薄くなっていくんですが。もちろん、主役をかっさらっていくのは、あの人。

高速道路をひた走る護送車。中には、いるわいるわ、柄の悪そうな女の子が過積載な感じです。とは言え、ピクニック気分で歌なんか歌っちゃったりして、カワイイところもあるじゃありませんか。まあ歌ってるのは「練鑑ブルース」ですが。「お前も歌いなよ」と言われ、「お断りだね」と断わるクールな女が一人。こうなると、いずれ劣らぬ血の気の多い女の子たちですから、いきなり喧嘩が始まっちゃいました。ワゴン車の中ですけどね。

クールな女は、柄の悪さ100倍な女の手を隠し持っていたナイフでぶっすりと刺し、「ゴロまきたいなら特別少年院に着いてからにしな」と凄みます。ちっくしょう、とキレる柄の悪い女。と、そこにもう一人のクールな女が、「やめな雑魚ほどいきがりたがるもんさ」と言い出しました。「てめえは雑魚じゃないっていうのかい」と、睨みつけるクールな女1号。しかし、クールな女2号は、すっくと立ち上がったかと思うと、健さん張りの仁義を切り始めたのです。

「わ、た、く、し、夜咲くネオンをねぐらと定め、度胸一途の喧嘩渡世。並み居る高校番長抑えましてのスケバン。大阪は梅田で番を切ります学ラン摩耶、で、す」

負けてはいられません。クールな女2号も立ち上がり、仁義を返します。

「仁義返します。わ、た、く、し、生まれは関東です。親の縁薄く、生まれついての独り者。グレだしたのが15の春。スケバン暮らしの西、東。さすらい無宿の関東小政、で、す」

ということで、関東小政(杉本美樹)、学ラン摩耶(池玲子)の紹介が終わりましたよ。ちなみに柄の悪い女は、黒菊団の団長、ゴロメン燎子(衣麻遼子)です。

さて、山道に入った護送車。しかし、後ろからダンプカーが追いかけてきました。護送車の前に急停車したダンプは、荷台からドラム缶をゴロンゴロンと落します。どっかーん。「番長、早く」と言われて、護送車から飛び出したのはゴロメン燎子。そう、ゴロメン燎子の子分が、番長を逃がすために襲撃してきたのです。「みんな、あたいらもズラかるんだ」と逃げ出す小政。気づけば、何となくダンプに乗り込んでいるみんな。さすが、機を見るに敏ですね。

いい加減、遠くに逃げたので、ダンプを飛び降りる小政。しかし、3人の女の子も、一緒に着いてきちゃいました。「あたしゃ、あんたたちのスケバンじゃないんだよ」と断わる小政ですが、「お願いします」「お願いします」と言われてしまえば、もう断われません。「分かったよ。だけど子分になるからには、あたしの命令には絶対服従だよ」という条件で、子分にすることにしたのです。ちなみに、子分になったのは、ラン子(丘ナオミ)、桃子(西来路ひろみ)、鈴江(太田美鈴)の3人でした。
「みんな、これからは一心同体だ」と手をガッシリと組む4人。「苦しいときも、悲しいときもみんな一緒のヤサグレ同士さ。いいね。グループの名前はジプシー団にするよ」

さて、大阪に乗り込んだジプシー団。もう、悪の限りを尽くしちゃいます。まずは、高級中華料理屋での無銭飲食から。とりあえず、地元のヤクザ組織、北龍会(会長は天津敏)に見つかりボコボコにされちゃいました。パチンコ屋での置き引き。地元のスケバン組織、黒菊会に見つかって、ボコられちゃいました。なんか、負けっぱなしですか。次の相手は梅田学ラン会。おお、ここは会長不在のため弱そうです。とりあえず善戦するジプシー団。しかし、そこに黒菊会のスケバン、ゴロメン燎子がやってきたではありませんか。あの、護送車で小政がぶっ刺したスケバンです。今度は、ジプシー団と黒菊団の乱闘になりました。でも、なんだか旗色が悪そう。しかし、そこに警官隊がやってきたので、ウヤムヤのうちに小政は、スタコラ逃げ出すのです。

警官から逃げている小政を、一人の男が助けてくれました。ゴキブリの一郎(荒木一郎)です。地下ポルノの監督をしている一郎の、しょーもないギャグを挟みつつ、ともあれ、小政と一郎が知り合ったということさえ分かればOKです。

さて、一郎の属している三星会は、北龍会の下部組織。そして、そのリーダーは達夫(宮内洋)です。とは言え、三星会は北龍会から多額の上納金を強制されているので、達夫はリーダーというより、金策に走り回る中小企業の社長みたいな感じ。毎日、一所懸命、カツアゲに精を出しているのです。今日も、気が弱そうな学生をちょいと脅して、金を取ってみました。しかし、これが大失敗。その学生は、北龍会が脱税で世話になっている税務署長のお坊ちゃんだったのですから。

速攻で組事務所に呼び出される達夫。そこには税務署長(遠藤太津朗)とその奥様(三原葉子)が文句を言いにきているじゃありませんか。おめえ、先生のお坊ちゃんに何てことしやがるんだい、とボコられる達夫。ついでに、上納金は今までの倍になってしまったのです。

そんなシオシオの達夫に歯がゆい思いをしている、弟分の一郎。それを見かねた小政は、「一っちゃん、達夫の仇取りたくない?達夫の代わりに、その税務署長をやっつけるのさ」と言い出しました。いったい、どんな計画でしょう。

税務署長の家に、テレビ局のクルーがやってきました。もちろん、一郎たちの変装なのは言うまでもありません。言葉巧みに、「氾濫するモーテル文化」について語っていただきたいと、モーテルに奥様を呼び出す一郎たち。もちろん、奥様は三原葉子ですから、隣室を覗いているうちに大興奮。乱れに乱れまくっちゃうのです。はい、その姿はバッチリ、フィルムに撮っておきました。あとは、これで税務署長を脅迫すれば完璧です。もちろん、税務署長はビビって、「その代わり、国家公務員上級職の体面は守ってくれよ」という条件で、言いなりに金を払うのでした。しかし、ここで問題。遠藤太津朗の顔の、どこをどう取ったら、エリート官僚に見えるんでしょう。どうみても、ヤク中の人間ブルドーザーにしか見えないんですが。

しかし、そんなことをすれば北龍会にバレるのは時間の問題。「こっちから先制攻撃をかけるのさ、勝負だよ」と小政の発案で賭場荒らしをしちゃったことも加わって、ジプシー団は全員、捕まったうえに、キツイお仕置きを受けちゃうのです。

お約束の拷問が始まります。小政こと杉本美樹は、裸でぶら下げられ、ムチを打たれてみたり、さらには針で指と爪の間を刺されたりと、エロティックandバイオレンスなお仕置きを。さらにジプシー団は、すでにゴロメン燎子に拉致られていた学ラン会の面々とともに、トルコ風呂に売られることになってしまったのです。

しかし、捨てる神あれば、拾う宮内洋あり。縛られていた小政は、達夫に助けてもらいました。この達夫は、もともと甲子園のエースピッチャーだったにも関わらず、ヤクザに襲われている学ラン摩耶を助けて、腕を折られことがある「正義の男」なので、小政が金を稼いでくれたことに恩を感じていたのかも知れません。しかし、ただ助けてもらったのでは、関東小政の名が泣くというものです。「寝て、借りは体で返すよ」と言い出す小政。躊躇する達夫に「いいから抱きな」と、ほとんど自分が楽しみたいんじゃないのか、という勢いで迫るのです。

そんなところに、学ラン摩耶がやってきました。そういえば、脱走したときにダンプに乗っていなかったので、学ラン摩耶は大阪までテクテク歩いてきたのかもしれませんね。ともあれ、遅ればせながらの登場です。あたしを救ってくれた憧れの王子様が、なんてこったい、関東小政といちゃついている。とりあえず、達夫を引っぱたく学ラン摩耶です。

一郎と出会った学ラン摩耶は、「達夫は、達夫はわたしを裏切ったんだ」と鬱憤をぶちまけています。まあまあ、そんなにこだわらなくても、とナダメにかかる一郎に、「こだわり続けていくのが私の青春なの」と断言する学ラン摩耶。そのまま、ぽわわーんと回想シーンに突入。

達夫は、北龍会のボスに、代人として警察に自首しろと強制されています。イヤだと断わり、ボコられる達夫。それを見ている学ラン摩耶は、怒りのあまりボスをナイフで刺したのです。しかし、そんな学ラン摩耶を助けるために、とんでもない上納金を払い続けている達夫。はい、回想終わりです。

さて、拉致られたジプシー団、それに学ラン会の面々は、トルコ嬢の特訓(これがクダラナイ)も終了して、いよいよ琵琶湖のトルコに運ばれることになりました。黒菊団の護送で、トラックに詰め込まれる女たち。しかし、それを見逃す小政じゃありません。「おじさん、車借りるよ」とクレーン車で追跡開始です。人気の無い道で、頃は良しとばかりにドッカン、ドッカンと体当たりをかます小政。トラックは大破、女たちは全員、助け出されたのです。

助けてもらっちゃったので、学ラン会のシマはジプシー団が握ることに。ついでに、小政は学ラン会に説教かましています。そこに、「説教って柄かよ」という声が響きました。学ラン摩耶です。「小政、ダチ公を助けてくれてアリガトよ。だがね、泥棒猫じゃあるまいし、人の留守中に入り込んで、でけえ顔をしようなんて笑わせるんじゃないよ」と言う学ラン摩耶。これは、完全に達夫の件で怒っていますね。そのまま決闘が始まりました。学ラン摩耶のパンチラキックがうなり、キャットファイトさながらの引っぱたきあい。さらには、小政がビール瓶を握り、学ラン摩耶は棒を持ち出します。と、そこに達夫がやってきました。バシっ。小政を殴る達夫。そのまま、学ラン摩耶を車に乗せて去っていきます。

学ラン摩耶としては、もう夢見心地。「聞かして。本当の気持ちを知りたいのよ。なぜ、あたしのことは殴らなかったの、なぜなの」。それはね、キミのことを愛しているからさ、ハニー。そんな答えを期待して、ウットリモードの学ラン摩耶ですが、車が止まったのは北龍会の事務所じゃありませんか。そう、達夫はボスの命令に屈して、学ラン摩耶を売ったのです。

ガーン。辱めを受け、そのままレイプされちゃう学ラン摩耶。一方、上機嫌なボスは達夫に、一枚の写真を見せました。関東協和会の坂東を殺して来いというのです。もし、これに成功すれば、出世は思いのまま。「会長、やらせてもらいます」と答える達夫ですが、だいたいにおいてヒットマンは使い捨てと相場が決まってるんですけどね。ところで、この写真が、最高に笑えます。坂東役は悪役俳優の名和宏なんですが、写真がすごくカッコつけてるんですよ。まるでマルベル堂のブロマイドかよ、と思うくらい。

さて、学ラン摩耶が北龍会に捕らえられたと知った小政は、単身助けに乗り込むことにしました。何と言っても、ヤクザとは違い、スケバンには血の通った仁義があるんだそうですから。「私も連れてって」と子分の桃子が言い出したので、連れて行くことにする学ラン摩耶。ああ、これは危ないな。案の定、学ラン摩耶の救出には成功しましたが、桃子は撃たれて死亡です。

さて、坂東を見事刺し殺した達夫は、ボスのところに報告にきました。ニコニコ笑うボス。「達夫、ついでに俺の前でひとつ死んで見せてくれ」。「ちきしょう」と叫び、暴れまわる達夫。善戦の結果、どうにか北龍会の事務所から脱出することに成功したようです。

その一部始終を一郎から聞いた学ラン摩耶。女の直感に従って、ある場所に向かいました。はい、甲子園で達夫がたそがれています。そこに学ラン摩耶がやってきました。とりあえず、学ラン摩耶にアレコレ言い訳をする達夫。うわっ、全然正義じゃない。もちろん学ラン摩耶も「あたしだって言い訳は聞きたくないわ」と怒っていますよ。スチャっ。飛び出しナイフを構える学ラン摩耶。「あんたを殺して、私も死ぬわ」。グサっ。ポタポタとマウンドに血が垂れています。「さあ、一思いにグサっと刺せ」と言う達夫。いや、もう思いっきり刺されてるから。

で、できないわ。達夫に抱きつき貪るようにキスをする学ラン摩耶。しかし、その時、北龍会のヒットマンが放ったライフル弾が達夫の体に突き刺さったのです。「たつおーっ」と絶叫しつつ、トリャっとドスを投げる学ラン摩耶。素晴らしい、ドスは数十メートルを飛翔して、ヒットマンに突き刺さるのでした。その有効射程はライフル並み。恐るべし、学ラン摩耶。

さて、達夫の通夜の席に、一郎が情報を持って飛び込んできました。「北龍会の情報やで。組長以下全員がな、明日琵琶湖のトルコに集合するんや」。「あたし一人で行く」と宣言する学ラン摩耶。しかし小政も「摩耶の気持ち分かるよ。でもね、北龍会に殺されたのは達夫だけじゃないんだ」と言いつつ、今は亡き桃子の写真を見つめるのです。

モーターボートが琵琶湖を疾走しています。目指すは、敵のいるトルコ「奥の院」(それにしても凄いネーミング)。小政、学ラン摩耶、それに生き残ったジプシー団員2名が、トルコに見事潜入しました。「それでは関東進出を祝ってかんぱーい」などと能天気な北龍会もチンピラたちは、次々と学ラン摩耶に倒されていきます。もちろん、ラン子も鈴江も大活躍。強いていえば、小政は目立ちません。っていうかいません、主役なのに。

「達夫の仇だ、命はもらうよ」と刀を振りかぶる学ラン摩耶。しかしボスも強いからボスなので、「アマ、なめるんじゃねえ」と刀を奪い取ってしまいました。と、その瞬間、隠しナイフを取り出して、ブッスリ刺す学ラン摩耶です。

敵は多いものの、どうにか一室に閉じ込めることに成功した、学ラン摩耶とラン子、鈴江。そこに小政が走ってきましたよ、ダイナマイトを持って。なんで、主役なのに、こんな脇役扱い。ともあれ、導火線に火をつけ、スタコラ逃げ出す4人。どっかーん。北龍会は全滅したのです。

サイレンを鳴らしながら突っ走る消防車。運転しているのは小政です。やがて、2台の車に追いつきました。「番長、凄い車盗んだな、さすがや」「あたいら、へんな車で恥ずかしい」と声をかける子分たち。乗っているのは霊柩車と汲み取り車です。しかし、そこに追っ手がかかったようです。ピーポーピーポー、「あかんサツや」。もちろんパトカーに乗っているのは学ラン摩耶でした。「摩耶、パトカーかっぱらってきたのかい」「うん、みんなどこいくんだい」「日本列島万引き旅行さ」「よし、あたしも行くよ」。4台の車が走り去っていきます。

正直言って、シリーズの中では、ちょっと一休み、な感じの作品です。鈴木監督のお下劣パワーも、ちょっと不発気味です。それに見ていて感じるのは、杉本美樹と池玲子の関係。新しく主役クラスになったものの、イマイチ地味な杉本美樹。それに対して、東映に喧嘩を売っていったんは干されたものの、スター性充分の池玲子。いったい、どっちをメインに撮ろうかという部分で、迷いがあったように見えます。それが、この映画を、どことなく中途半端にしたんじゃないでしょうか。

丘ナオミ、衣麻遼子といった2番手スターたちの使い方も精彩に欠けていて、面白いんだけど、笑いきれない感じがしました。しかし、その分、気を吐いたのが三原葉子の貫禄の演技。巨体をゆっさゆっさと揺らして頑張る三原葉子は、やっぱりいい人だよなあ。あとは、とことんいい加減な荒木一郎の演技も、いい感じでした。







いくらおにぎりブログのインデックスはここ

前田有一の超映画批評←こちらには最新映画情報満載です(ランキングに参加しているので、お駄賃代わりにポチっとお願いします)