いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】ずべ公番長 東京流れ者

2009-08-31 18:13:08 | 邦画 さ行
【「ずべ公番長 東京流れ者」山口和彦 1970】を観ました



おはなし
ひょんなことからテキヤに「就職」したリカ(大信田礼子)は、女オヤブンの仇をとるために……。

もちろん、鈴木清順監督の「東京流れ者」とは関係ありません。ずべ公シリーズの第2弾で、1作目より「任侠」成分を増量しての登場です。

どどーん。いきなり「女性生殖器図」のアップ。国立性病センターの高崎(南利明)が、ご存知、赤城女子学園の生徒たちに、講義をしているようです。「以上、ご説明申し上げたごとく、女性の体には山あり谷ありトンネルあり。ハヤシもあるでよぉ」。いきなり、これですか。前作の冒頭では、美しい橘ますみのウエディングドレスだったのに。東映インフレの法則(ただし下品方向に限る)は健在のようです。

「そこで、これから諸君の身体検査を綿密に始めたい」と高崎はムフフな身体検査を開始。しかし、メリーという子だけは、どうしても裸になろうとはしなかったのです。それもそのはず、彼女は妊娠していたのでした。強引に迫る高崎に、「よしなよ、みっともない」と猛反発したのは、はまぐれのリカこと影山リカ(大信田礼子)。はい、そのまま乱闘に。

このあと、リカがメリーを脱走させるシークエンスなどを挟みつつ、はい「一年後」。出所したリカはおもちゃ工場で働いているようですよ。とはいえ、仕事はミスばかり。そのうえ、おさわりをしてくる課長(由利徹)にキレたリカは工場を飛び出したのです。

行く当てもなく、縁日をブラブラしているリカ。おや、ハンサムなテキヤ・常次郎(渡瀬恒彦)が、口上を述べていますよ。これは面白いと、のんびり見物していたリカは、自分のお財布がスリに取られたことにも気づいていません。しかし、それに目ざとく気づいたのが、ハンサムなテキヤ。「俺の客からスリ取ろうってのが気に食わねえんだよ」とお財布を取り返してくれたのです。「兄ちゃんよ、これやるよ」とお守りを差し出すリカ。二人はそのまま別れるのでした。どうせ、ここぞという場所で渡瀬恒彦は再び出てくると思いますけどね。

さて、新宿にやってきたリカは、チョボ松というテキヤ男にスカウトをされて、仕事をすることに。今度は、ガセ寅一家というテキヤ稼業のようですよ。オヤブンは、ガセ寅蘭子(宮城千賀子)と言って、やっぱり赤城の卒業生。見事にパターン化してますね。しかし、このオヤブン、なんだか頼りないです。リカがとうもろこしを売っている間に、ホストクラブとかに出入りしているみたいだし。

ちなみに、蘭子のお気に入りは、ホストクラブ「美男館」のナンバー1。ジミーことツナオ(左とん平)です。ようやく、願いがかなってツナオとラブホテルに行った蘭子。「うーん、ぼく怖いん」「まあウブなのねえ」。と、そこに長子(橘ますみ)がやってきましたよ。「なんだい、お前さん」「なんだとは、なんやねん。おうオバハン。うちの男、どないさらすちゅうんじゃい」。えーと、これは典型的な美人局じゃないですか。「じゃかましい」と怒鳴って、モロ肌脱ぎに刺青を見せる蘭子。「おう、ガセ寅一家五代目。うわばみのお蘭と知ってのことだろうな」。とりあえず長子とツナオはヘヘーッと平伏です。

はい、シーン変わって、ここは黒江組の事務所。組長の黒江(南原宏治)に、浜村という組員がボコられています。「足を洗いてぇだと」ボカリ。「実弾だ。実弾で100万持って来い」。と、そこに「錦糸町のオヤブンがやってきました」との報告。浜村をボコり終えた黒江は、さっそく錦本(上田吉二郎)と密談です。新宿のカンバンが欲しいと言い出す黒江。しかし伝統的に、新宿はガセ寅一家の縄張りということになっているようです。「何とかしてガセ寅のカンバンを取り上げねえといけないな」「何分、よろしくお願いいたしやす」。はい、つまり黒江組と錦本組が敵になるってことですね。了解です。

ほら、言ってるそばから、黒江組の妨害が始まりました。とうもろこし売りのリカに、黒江組のチンピラたちが因縁をつけてきましたよ。とりあえず、リカキックで対抗だ、とりゃー。しかし多勢に無勢。このままじゃやられちゃう。と、そこに「大の男が女ひとりに4人がかりかい」と助太刀が。そう、リカと赤城で同級生だった知床のオタマ(夏珠美)です。うりゃー。よかった、チンピラたち(小林稔侍など)は逃げていきました。

「悔しいねえ。あたしに力がないばっかりに」。黒江組に屋台をメチャクチャにされたと聞いて、嘆くガセ寅お蘭。「大丈夫ですよ、姐さん。それに、ここにもう一人、助っ人があらわれましたしね」とリカは知床のオタマを紹介します。「あたしもね、二人ばかりスカウトしてきたんだよ」。はい、長子とツナオです。「長子!」「リカ!」。そう、みんな赤城の卒業生だったのです。って、前作とまったく同じ展開なんですけどね。さらにオカマのはるみ(六本木はるみ)やセンミツ(集三枝子)といった仲間も加わって、賑やかになっていくガセ寅一家周辺です。もっとも、トルコ嬢をしているセンミツは、カレと結婚するので協力できないそうですが。「で、そいつ何してんの」「組員なのよ」。えーと、もしかして。

「ただいま」と部屋に帰るセンミツ。ああ、やっぱり。相手は黒江組を退職希望な浜村でした。「俺よぉ、オヤジさんに思い切って言ってきたんだ。足を洗わしてくれって」。しかし100万が必要だという浜村にセンミツは言うのです。「いいわ。それであんたがカタギになってくれんなら、あたしが何とかする」。ヒシッ。抱き合う二人です。

さて黒江組の妨害が本格化してきました。テキヤ稼業に必要なネタの供給を止めてきたのです。売るものが手に入らなければ、テキヤ稼業は成り立ちません。それに、今度は新宿で大きなタカマチ(縁日)が行われる予定。思わず「ボンがいてくれたらなあ」とつぶやくチョボ松。そう、ガセ寅蘭子には、家出をした息子がいるそうです。って、どう考えても渡瀬恒彦だと思うんだけどなあ。

リカが勤めていたおもちゃ工場や、怪しげな漢方薬屋などを回るみんな。ほとんど脅迫同然にネタをかき集めます。ガセネタだろうが、おかまいなし。とにかく売るものを集めなくては。錦本組の妨害もあったものの、どうにかタカマチを終えることができたガセ寅一家。しかし、それはさらなる悲劇への幕開けに過ぎなかったのです。

センミツの頑張りのおかげで、どうにか100万円をそろえた浜村。さっそく黒江に持って行きます。「それじゃ私はこれで」。イソイソと去ろうとする浜村を黒江が呼び止めました。「俺は確かに100万で、おめえの足を洗わせてやると言ったが、だがスケの足抜けまでさせてやると言った覚えはないぜ」。ガガーン。足を洗ったらセンミツと田舎に帰る計画がバレてます。どうしてもスケの足抜けをさせたいなら、ひとつだけ条件がある、と持ちかける黒江。「条件?」「殺しをやれ。うまくやったらスケはくれてやる。どうだ」。ワナワナと震える浜村です。

「4時に上野だ。いいな」とセンミツに言う浜村。どうやら、殺しをしたら、その足で逃げる気のようです。もちろん、殺しのターゲットは。グサッ。墓参り中のガセ寅蘭子を刺す浜村。やっぱり、そうでしたか。

一方、墓参りに行ったガセ寅蘭子を待っているみなさん。「姐さん、遅いねえ」。しかし、迎えに行ったチョボ松は蘭子の死体を担いで帰ってきたのです。「姐さんっ」。

上野駅、午後4時。人待ち顔のセンミツのところに、浜村がやってきました。手を振るセンミツ。しかし、浜村の横に二人の男がスッと近づいてきましたよ。グサッ。浜村を刺し、何食わぬ顔で雑踏に消えていく二人の男。「ケンちゃん、しっかりして」「バカだった、オレが。ガセ寅をやった。お前を……。騙されたんだ、黒江に」、ガクッ。「ケンちゃーん」。絶叫するセンミツ。と、そこに「突然」、赤城の卒業生のマリ(賀川雪絵)がダッシュしてきました。「センミツ、センミツ、センミツー」。

ガセ寅蘭子の遺体の周りに集まっているみんな。そこに、マリに抱きかかえられたセンミツがやってきました。「ここのオヤブンをやったの、黒江組の……」うわーん。リカ、長子、そしてマリは深くうなづきます。そう、これから殴りこみですね。みんなは、そろいの真っ赤なレインコートを羽織り、出撃していくのです。もちろん、カメラがそんなみんなを、前から後ろから横から、縦横無尽に捉えます、とりあえず、血がたぎる瞬間。東映の映画はこうでなくっちゃ。

みんなが出撃したあと、ノコノコと帰ってきた常次郎。「ボン、遅かったぜ」とチョボ松に言われ、「いったい誰がやったんだ」と目をクワッと見開いています。というか、とっとと殴りこみに行きなさい。

黒江と錦本は、まんまと邪魔なガセ寅を殺して、祝杯をあげています。と、ドアが蹴破られました。「誰だっ」「ガタガタ言うない。ずべ公番長の殴りこみだい」。ババッと赤いレインコートを脱ぐみなさん。すると、その下には、刺青がプリントされた揃いのダボシャツがキラリン。さらに、長ドスまで持っているみたいですよ。どりゃー。斬って斬って斬りまくるみなさん。ピンチになったらオッパイポロリンで度肝を抜く作戦です。おっと、常次郎も駆けつけて、バッサバッサ斬り始めました。「黒江、親の仇だ」、グサグサグサリ。おっと、連続刺しです。常次郎は返り血で真っ赤になってます。

ぴーぽーぴーぽー。警察が駆けつけてきました。「お騒がせしました」と素直に手錠をはめられる常次郎。「ボンっ」「チョボ松、後は頼むぜ」。「常さんっ」「また、どっかのタカマチで会おうぜ」。常次郎はパトカーに乗せられ、連行されていきます。えーと、ずべ公たちは?かなり、斬り殺してるみたいですけど。

「常さーん」と、走るパトカーを追いかけるリカ。しかし、パトカーには追いつけません。地面に転び、リカは叫ぶのです。「つねさぁーーーーん」。


前作は、大信田礼子、橘ますみ、賀川雪絵の3人で主役を張っていたのが、今作では大信田礼子が一歩抜け出したようです。そのかわり、橘ますみはオッパイ要員に、そして賀川雪絵に至っては最後の殴りこみ要員に格下げですよ。まあ、そうは言っても、オイシイところは渡瀬恒彦が持って行っちゃうんですけどね。

それにしても、刺青プリントなダボシャツ。ユニクロあたりで売り出したら、バカ売れしそうなんですけど。すくなくとも僕は即買いです。もっとも、イキオイで買ったはいいものの、外には着ていけそうにないですが。







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【映画】ずべ公番長 夢は夜ひらく

2009-07-10 18:20:37 | 邦画 さ行
【「ずべ公番長 夢は夜ひらく」山口和彦 1970】を観ました



おはなし
女ネリカンを出た影山リカ(大信田礼子)は、やはり同じ女ネリカン出身のママがやっているキャッチバーのホステスになって……。

山口和彦監督のデビュー作です。いかにも東映の新人監督らしく、コテコテの東映流な演出と、新人らしい感性がブレンドされた映画でした。

壇上で花嫁衣裳を着ている女の子(橘ますみ)。画面が引いていくと、おや、ここは講堂のようです。それも、そろいの制服を着た女の子たちがいっぱい。騒ぎ立てる女の子たちに、やはり壇上の先生が言い出しました。「世間では、この赤城女子学院を女ネリカンと呼ぶ。しかし、諸君はそんな色眼鏡に屈してはいかん、世間には諸君をもっと暖かい目で見守って下さる方が大勢いる」。そう、壇上の女の子が花嫁衣裳を着ているのも、チャームスクールの人がやってきて、みんなに花嫁さんのステキさを教えるためだったようですよ。しかし、そんな大人の見え透いた手には引っかからないぞと、暴れだす女の子(夏純子)。そして、それを止める女の子(大信田礼子)。もう、講堂は乱闘騒ぎです。結局、花嫁衣裳の子、暴れた子、それを止めようとした子の三人は独房に入れられてしまうのでした。

テーマ曲「圭子の夢は夜ひらく」をバックにしたタイトルロールが終わると、独房の第1号房が映りました。パンツを丸出しにして逆立ちしているのは、先ほど、乱闘を止めようとしていた子。ここに東映流のテロップがどーん。「影山リカ 19才 横浜出身 傷害」。ははあ、そうですか。

次は第2房。頭に包帯を巻いているのは、花嫁衣裳を着ていた子。「八尾長子 19才 大阪府八尾出身 詐欺」だそうです。

そして、第3房は暴れだした女の子。「ミラノのお春 18才 東京出身 恐喝」です。

はい。それから1年後。赤城学園を出たリカ(大信田礼子)は、まじめにクリーニング屋さんで働いています。もちろん、ミニスカートで自転車を漕ぐというサービスカットつき。ま、ミニスカはどうでもいとして、こういった境遇の子に付き物なのは、周りの偏見。リカはまじめに働いているにもかかわらず、店主から言い寄られるは、店主の奥さんからはスーツを盗んだ疑いをかけられてしまったりと散々です。ぶちーん。「よお、クソババア。耳の穴かっぽじって、よーく聞いときな。本来なら、このリカさんをコケにした奴はとっくに鼻そがれてるんだい。だけど、お前さん、その値打ちもないね」。大見得を切ったリカは、そのまま店を飛び出すのでした。

やってきました、新宿の歌舞伎町。今ではシネシティ広場なんてカッコイイ名前がついていますけど、要はミラノ座の前のヤバそうな場所です。ほら、さっそく男(左とん平)がナンパしてくるわ、怖いお姉さんたちがカラんでくるわ。歌舞伎町はこうでなくっちゃ。とりあえず、怖いお姉さんたちを軽くボコっておいたリカは、男に仕事を紹介してもらうことに。

渉外部長(実はただのバーテン)の綱夫に連れてこられたのは、バー「紫」。なんと、そこには長子(橘ますみ)がいたじゃありませんか。「このお店の人な、みーんな赤城出身ばっかなんやで」「そんじゃ、ママも」。「そうよ。あんたたちの先輩ってわけ」と言いつつ、タバコをぷかーっと吹かすママ(宮園純子)。「渡辺梅子 26才 東京出身 傷害」だそうです。えーと、宮園純子の場合、実年齢も27くらいですが、どうみても30代中盤な感じ。っていうか、迫力あり過ぎだろうと。

とりあえず、紫はキャッチバーなので、適当なお客を物色して店に連れてこないと話になりません。いたいた。ゴールデンハーフが「黄色いさくらんぼ」を熱唱しているゴーゴークラブに、スケベそうなオヤジ(坊屋三郎)がいましたよ。お客さんゲーット。さっそく、オヤジが紫に連れて来られると、そこでは流しの歌手が熱唱中。っていうか、藤圭子が「命預けます」を唄っているんですけどね。いやあ、豪華だなあ。「あ、リカちゃん、紹介するわ。圭子ちゃん。あんたの先輩で、赤木の卒業生よ」とママに言われて感激したリカは、とりあえず「命あずけますぅぅー」と歌マネです。これがまたスゴクうまいんですけどね。さすが、大信田礼子も歌手になっただけあります。

と、そこに安室奈美恵ソックリな女の子・バニー(五十嵐純子=淳子)がやってきました。「お店に来ちゃダメじゃないか」と困り顔なホステス(賀川雪絵)の妹のようです。「お金ちょうだい」「またクスリ」。そんな様子を見ていると、どうしてもひとこと言わないと気がすまないのがリカ。「よお、今の妹かい。見たところヤクボケみたいだけどよ、いいのかいネカ(金)なんてやって」。「余計なこと言わないでよ」フンッ。怒っているホステスにテロップがどどーん。「冬木マリ 21才 名古屋出身 傷害」だそうです。

千客万来というか、なんというか、今度は悪そうな人たちが大挙してやってきましたよ。歌舞伎町を牛耳る大羽興行の大羽(金子信雄)と、その子分たちです。しかし、ここでの金子信雄のメイクが最高。褐色の肌に、ちょこんとカールした髪の毛。それに原色のヘンなシャツ。どうみても、コロンビアマフィアにしか見えないんですけど。ともあれ、この大羽は、ママのお父さんの兄弟分でありながら、ママの幼馴染を使ってママのお父さんを殺し、今はまたママのお店を狙っている悪ドイ奴なのです。

さて、リカが買い物をしていると、幼馴染のトニー(谷隼人)と出会いましたよ。なんか二人はいい感じです。これはくっつくな。さらにトニーと別れたリカがテクテク歩いていると、今度はヤクボケのバニーが猛ダッシュで走ってきました。バニーは売人のずべ公たちからクスリをかっぱらって追われているようです。先輩の妹だし、そもそも困っている人間を見たら助けなきゃ気のすまないリカは、さっそく手近な場所にバニーを匿うことに。ずどどどど。バニーを追ってずべ公たちが走ってきましたよ。よく見ると、それはミラノ座前でリカにケンカを売ってきたずべ公たちじゃありませんか。それにもう一人、懐かしい顔が。そう、赤城でケンカ相手だったミラノのお春(夏純子)です。そうか、ミラノってのは縄張りのことだったんですね。「おう、今、ここに女が逃げてきたろ」「来なかったぜ」。「こいつだよ、昨日の女」と口々に訴えるずべ公たちの言葉に、リカをギロリと睨むお春。子分をよくもかわいがってくれたなあ。

はい、リカとお春はは新宿の空き地で決闘することに。ばばっ。巻きスカートを放り投げると、二人はパンツ丸見えの超ミニです。とりゃー。おりゃー。サービスカットのハイキックなどを見せつつ戦う二人。まあ、志保美悦子じゃないんで、二人のアクションといっても形ばかりですが、そこは山口監督のカット割りで、それなりにカッコイイ感じに。どさっ。倒れるお春。リカの勝ちです。しかし、そこに大羽興行のチンピラたちが大挙してやってきましたよ。そう、お春のずべ公グループは、大羽興行の手先だったのです。衆寡敵せず、ボコボコにされて拉致されてしまうリカ。当然、バニーが盗んだクスリも、リカのせいにされてしまいました。

リーン、リーン。さっそくママに脅迫電話が。リカを返して欲しかったら、クスリ代300万円をもってこい。「分かりました。しかし、明日まで待ってください」。もちろん、大羽の真の狙いが「紫」の土地なのを百も承知のうえで、ママは300万円を作ることにしたのです。それを聞いて、困っちゃったのがマリ。なにしろ、もとは自分の妹のしでかしたことですから。しかし、素直になれない性格なので、ついリカに当たってしまいます。「リカ。あんたたち頼みもしないのに余計なことしないでよ」「余計なこと」「バニーがスリク(薬)盗んだことは悪いわよ。だけど、あんたやママがノコノコ大羽興行に出て行って、300万払うだなんて約束、してもらう筋合いはないわ」。がーん。ママが自分を解放するために300万を払う約束をしたなんて。ショックを受けるリカ。さらに親友の長子から、バニーは元「紫」のホステスで、大羽興行のチンピラに輪姦されたショックからクスリに手を出すようになったと聞いて、さらにががーんです。し、知らなかった。

姿を消した妹のバニーを懸命に探すマリ。しかし、どこにも見つかりません。それもそのはず、バニーはお経が鳴り響き、ヌードダンサーがクネクネ踊っているサイケデリックな秘密クラブでラリっていたのですから。しかし、ラリってヘロヘロなところを、ミラノのお春一味に発見され、バニーはそのまま地下室に拉致監禁。さあ、タイヘンなことになってきました。

タイヘンといえば、ママもタイヘン。亡き父の旧友から、店の権利書を担保に300万円借りたママは。それを持って大羽興行に向いました。しかし、大羽は利子が一日で50万とかトンデモないことを言い出しましたよ。そのうえ、大羽の手には店の権利書が。そう、父の旧友は裏で大羽と手を結んでいたのです。ぐぬぬ。悔しいけど、大羽に権利書がある以上、さらにお金を作らなくては。

傷心のママは、父の墓参りに行くことにしました。しかし、そこには先客がいたのです。「慎さんっ」と呼ばれ、ピクっと固まる慎二郎(梅宮辰夫)。「あんたが憎い。あたしを捨てたあんたがっ」。そう、ママの恋人だった慎二郎は、渡世の義理からママのお父さんを殺し、たった今まで刑務所に入っていたのです。なんか、だんだん先の展開が見えてきましたね。

一方、リカはお気楽モード。幼馴染のトニーとデートです。オープンのマスタングに乗りブラジャーいっちょになってみたり、砂浜をキャハハと走り回ったり、さらに「あんたにあげる」と、テトラポッドの陰で抱き合ったり。

ところが、リカのお気楽には理由があったのでした。意を決して大羽のところに向ったリカ。「何しに来た」「あたいを買って」。そう、自分の体と引き換えに、借金を棒引きにしてもらおう。でも、せめてその前に、トニーに処女を捧げたいという女心だったのです。下着になって目をつぶるリカ。ニヤリと笑う大羽。

懸命にバニーを探し続けているマリ。おや? ずべ公の一人が、バニーのブレスレットをつけていますよ。もしかして、バニーはこいつらに。とりあえず、ずべ公軍団をボッコボコにして締め上げるマリ。バニー、待ってて。廃屋の地下室からバニーを救い出したマリ。しかし、時すでに遅し。ミラノのお春たちに強力なクスリを打たれていたバニーは「姉ちゃん、姉ちゃん」と言いつつ息を引き取ったのです。ガクッ。

吐き気がしそうな行為に耐えたリカに、大羽は一万円札をぽい。「とぼけないでよ。約束が違うじゃないかよ」「甘く見るな。お前にゃ一万円でも出しすぎだ」。横でお春が高笑いをしている中、リンチされたリカは、そのまま事務所から放り出されたのです。ボロボロのヨロヨロになりながら、下宿先のママの部屋に戻ったリカは、無言でドスを引っ張り出します。ぜったい、やってやる。しかし、そんな姿をママに見つかってしまいました。「どしたの、そのカッコは。それに、そんな危ないもの持って」「……」「黙ってないで、言ってごらん」。

バニーの死でキレたリカは、一人でビリヤード場にいた大羽たちのもとに殴りこみ。「バニーが死んだわ」「それがどうかしたか」「死ねーっ」。しかし側近(曽根晴美)がキューを一閃させると、服が破けておっぱいポロリです。「やめてぇーっ」。

バニーの遺体を前に、ヘコンでいるみんな。って、ここらへんは東映のお約束。そして、ママがそっと一人で、長ドスを持って出かけましたよ。土砂降りの雨の中、傘も差さずに歩くママ。しかし、橋の上で番傘を差して立っている男が。もちろん、慎さんこと梅宮の兄ぃです。って、なんだか、このシーンはよく見たような気がしますよ。歩いてくるのが健さんで、待っているのが池部良。そう、まるで「昭和残侠伝」の世界じゃありませんか。ちなみに、この映画の併映は「昭和残侠伝 死んで貰います」だったりします。いや、「昭和残侠伝 死んで貰います」の併映が、この映画だと言ったほうがいいのかな。

「親分。たった今、親子の盃、けぇさしてもらうぜ」と盃を叩きつける慎さん。「じたばたするんじゃないよ」とママ。大羽の「叩っ斬れ」を合図に乱闘開始です。リカたちも棒やフライパンを片手に助太刀にやってきました。ジャズのメロディとともに、あちこちで戦いが続きます。あっ、ママが大羽に斬られるっ。そこに割り込んで背中をざっくり切られた慎さんは、振り向きざま、ドスを横に一閃。そして、ママ必殺の長ドス突きが大羽の腹に突き立ちます。ぐわー。「慎さん。慎さん、しっかりして」「梅子。おらぁ、足を洗っておめえと。おめえと……」ガクッ。遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきます。

護送バスに乗せられているみんな。これじゃ、また赤城に再入学だね、わっはっは、と大笑いです。そんな中、ママはひとり寂しげな笑みを浮かべていますよ。藤圭子の「夢は夜ひらく」が流れてきました。明け方の新宿を護送バスが走っていきます。♪恋ははかなく 過ぎて行き 夢は夜ひらくー♪


いちおう、大信田礼子のシリーズということになりますが、「不良番長」から梅宮辰夫と谷隼人が参戦。さらに姐御の宮園純子の迫力がありすぎて、なんだか目立てないまま終わった感じが。さらに、脇の橘ますみ、賀川雪絵、夏純子もビッチな存在感を示しているうえに、藤圭子まで唄ってますからね。これじゃあ、大信田礼子としても、いかんともしがたいところでしょう。

同じ東映の「女番長(スケバン)」シリーズのシリアス路線に比べて、「昭和残侠伝」と「不良番長」を足して2で割ったような、不思議な味わいです。もちろん、パンチラやおっぱいなどのサービスカットも抜かりなく、とても新人監督の撮った作品とは思えない手堅い作品でした。

強いて言えば、少しくらい破綻してもいいから、もっとハチャメチャな勢いがあったら良かったとは思いますが、それは傍目八目な、好き勝手な言い草っていうもんでしょうね。







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【映画】錆びた炎

2009-06-29 18:12:26 | 邦画 さ行
【「錆びた炎」貞永方久 1977】を観ました



おはなし
病院から血友病患者の男の子が誘拐された。早く発見しないと、子供の命が危ない。しかし、病院長は身代金の支払いを拒否し……。

出演者は豪華。筋立ても大きい。なのに、このショボサはなんなの、って感じの映画でした。まあ、いろんな意味で、熱意の空回りというか。


シャムネコのアップ。画面が引いてくと、なんとそのシャムネコは鳥かごの中に入っているようですよ。どうやら、ここはラブホテルの一室のようです。女の手が映りました。女はストッキングをベッドの端に結びつけ、そして、寝ている男の首に巻きつけてから、片方を……グイッ。ウグググ。ムギュッ。と、ここで「二月六日 午後三時二十二分」のテロップが。この後も煩雑に、日付・時刻のテロップが挿入されますが、基本的に「何のためにいれてるのか疑問」なので、以後は割愛させていただきますね。

渋谷医大セミ学院のトイレで、浪人生の多木(中島久之)が双眼鏡を使ってノゾキをしています。アイタタって感じですが、これが趣味なんだからしょうがない。と、一人の女が目に入りましたよ。まあ、女がトリカゴにシャムネコを入れて歩いていたら、ノゾキマニアじゃなくても見ちゃうでしょうけど。しかし、どうも多木の様子がヘンです。毛皮につば広の帽子、それにサングラスという素顔ガッチリガードな女ですが、多木はその女を知っているようです。あわててトイレを飛び出し、シャムネコ女のところにダッシュしていく多木。なにやら、二人は話し合っているようですから、やはり知り合いだったみたいですね。

ぼろアパートに帰った中島久之は、とりあえずラジオのスイッチをポチ。ニュースが流れてきました。なんと、渋谷でサン・ジョルジュ病院の医師・佐島が殺され、トリカゴにシャムネコを入れた女が重要参考人だというじゃありませんか。とりあえず、思わせぶりな顔をしてみる多木です。

それから一週間ほど経って、種村総合病院から血友病患者の丸山和也ちゃんが誘拐されるという事件が起きました。副院長の種村光晴(大林丈史)は「丸山和也ですか」と絶句していますが、院長の誠一郎(丹波哲郎)は「外部にもらすな。医大設立の認可に差し支える」と冷酷な感じです。もっとも、和也ちゃんの母親・雅子(二宮さよ子)が「すぐ警察に届けてください」と半狂乱になっているので、届けないワケにはいかないかなあ。あ、お父さんですか。いちおう横にいますけど、影が薄いです。

しばらくすると犯人から丹波哲郎に電話がかかってきましたよ。って、声からノゾキ浪人の中島久之だというのはバレバレなんですけどね。「警察へ届ければ子供の命はない。交渉の相手はあんたと、あんたの家族以外には認めない。いいな」ガチャ。えーと、遅いよ。もう連絡しちゃったよ。

高台にある豪邸(なんと天文台つき)に、スキール音も勇ましくやってきたガス会社の車。キキーッ。一群の男たちが、辺りを見回しながらサササッと豪邸に入っていきます。はい、もちろん豪邸は丹波哲郎のお屋敷で、やってきたのは刑事さんたちです。しかし、せっかくガス会社の社員に変装しても、なんかヘンに目だってますけど。

そんな愉快な刑事さんたちは、以下のとおり。まず、リーダーの遠丸警部(平幹二朗)。おじいちゃん刑事の池広(村田正雄)、若造刑事の浦山(重田尚彦)、そして顔がコワイ永本刑事(綿引洪=勝彦)です。

愉快な刑事さんたちは、柱の陰にササッと隠れたり、匍匐前進したりと、なんだかヒートアップぎみ。きっと、初めての誘拐事件なんでしょうかね。まあ、そのペースに乗るとバカをみるので、副院長の大林丈史は淡々と和也ちゃんの病気について説明します。それによると、和也ちゃんは血友病のため、今日の午後7時に輸血をする予定だったようですよ。「きょう!!!!」と驚愕の表情を浮かべる平幹二朗。って、あんた驚きすぎだ。いやいや、でもね、明日の午後7時までに輸血できれば大丈夫だから、と大林丈史がいうと、今度は「どうしてすぐ知らせてくれなかったんですか」と逆ギレしちゃってます。どうも、平幹二朗警部は血が熱いというのか、そそっかしいというのか。しかし、ここで院長の丹波哲郎が、ポソっと言います。「バカげてる。誘拐された子供の身代金をどうして、私が払わなくちゃならないんだ」。キリッ。平幹二朗は、いかに身代金を払う必要があるのかを「熱く」語りだしました。もう、暑苦しいくらいに。これには、さすがの丹波哲郎も、「命令か。フフ。まあいいだろう」と答えるしかありません。えーと、平幹二朗の「勝ち」ってことでいいんですかね。

と、そこに光晴の奥さんである登志子(梶芽衣子)が、シャナリシャナリと降りてきて、お手伝いの比佐子(原田美枝子)に、「比佐子さん、お食事にするわ」と言い出しましたよ。いやあ、相変わらずのクールビューティぶりです。これには、ヒートアップした平幹二朗も、少し頭が冷えたようす。リーンリーン。種村家の金ピカ・ウルトラゴージャスな電話機が鳴り始めました。せっかく落ち着いた雰囲気は壊れ、意味もなくドタバタ走り回る愉快な刑事さんたち。「種村さん。種村さんっ!!」。いや、いいから少し落ち着け。

丹波哲郎が電話を取ると、案の定、それは犯人からのもの。「まず3600万、用意しろ」と要求しています。「冗談言っちゃいかん。なぜ、私が払わなくちゃいけないんだ」と丹波哲郎が言っている横では、平幹二朗が必死に手振り身振りで払え、払えといってます。って、ジェスチャーゲームですか、これは。

お腹が空いたので、原田美枝子の作ったカレーをパクパク食べている愉快な刑事さんたち。コワイ顔の刑事さんが、「ボーイフレンドはいるの」と原田美枝子に声をかけてきましたよ。「……」、無言で立ち去った原田美枝子のかわりに、若造刑事が答えます。「永本さん、ヒドイなあ」「何が?」。いやね、事前の調査で、お手伝いの原田美枝子は、恋人に死なれたってあったじゃないですか。しかし、怖い顔の刑事さんは「フーン」といいつつ、カレーをムシャムシャ食べているのです。なんていうか、緊張感ゼロ。まあこれは伏線なんですけどね。どうも張り方がスマートじゃないです。

はい、またゴージャス電話機が鳴り始めましたよ。意味なく右往左往する愉快な刑事さんたち。悠然としていた丹波哲郎がおもむろに受話器を取ると、やっぱり犯人からの連絡です。「警察に連絡をしたようだな」と犯人、というか中島久之。お昼にガス会社の車が入ったのに、作業員たちは帰る様子もない。あれは警察だろ、とすっかりバレバレみたいです。「すまん、私が連絡した」と謝る丹波哲郎ですが、きっと内心ではすごくムッとしているに違いありません。「金は用意したか」と犯人が聞くと、横で平幹二朗が「用意した」というメモを書いて、しきりにアピールしています。さすがの丹波哲郎も空しくなったのか、投げやりに用意したと答えてます。もう好きにしてくれ。えっ、逆探知ですか。もちろん、失敗ですよ。

そうこうするうちに、夜も更けました。バイオリン協奏曲かなんかを聴きつつ、優雅に画集をめくっている梶芽衣子に、葉巻をふかしている丹波哲郎。しかし、愉快な刑事さんたちには、どうもバイオリンは苦手のようです。特におじいちゃん刑事さんは、演歌しか興味がないんでしょうね。「音楽を切っていいでしょうか」とか言い出しました。ひとのうちなのにね。無言でステレオを切る梶芽衣子。ほら、イヤーな感じの沈黙が部屋に充満してきちゃったじゃないですか。と、そこにゴージャス電話機がリーン。「子供が血友病関節を起こした」と犯人。「知っていたのか」と唖然とする丹波哲郎に、犯人は「すぐに適切な治療が必要だ」と言い捨て、電話をガチャンです。……。……。犯人は医者なんだろうか、と悩む愉快な刑事さんたち。

ピンポーン。ピンポーン。呼び鈴がなり、女が乱入してきました。これは和也ちゃんのお母さんじゃないですか。「和也を助けてくださいっ!」と叫びだす二宮さよ子。横で梶芽衣子が怖い顔をしているのに気づいているのか、いないのか、「光晴さん、あなたがお父様に頼んでみて下さい」と言い出しましたよ。「こんどこそ、お父様に負けないでください」と光晴こと大林丈史に迫ったりして、どうも穏やかではありません。そう。二宮さよ子と大林丈史は昔付き合っていたらしく、丹波哲郎が金を渡して、強引に別れさせたのでした。「あたしのお腹に和也ができたと知って、慌てて別れさせたくせにぃ」と、自ら壁に激突しつつ泣き崩れる二宮さよ子。っていうか、なんで、この映画にでてくる人はテンション高めなんだか。ま、結局、丹波哲郎がお金を「貸してあげる」ということで、話がついたみたいで、よかったですね。

その夜中。お屋敷のリビングにあるソファーで雑魚寝をしている愉快な刑事さんたち。と、若いのが、ふと目覚めると、シャムネコを抱いた梶芽衣子が部屋をスーッと出てきたじゃありませんか。そのまま、梶芽衣子は丹波哲郎の部屋に。あっはーん。もう、こうなるとしゃべられずにはいられませんよ。翌朝、おじいちゃん刑事に、その話をする若造刑事。「嫁とオヤジがぁ。どうなってんだ、このうちは」と歯磨きをしながらボヤクおじいちゃん刑事。っていうか、人間だから噂話をしたいのは分かるけど、誘拐事件の捜査で泊り込んでいる家で、その家人の噂をしている図っていうのは、いかがなものかと。分かった。この人たちは、本当は刑事じゃないんだ。大人気刑事ドラマでも、そんな話があったぞ。

さて、犯人の中島久之ですが、いくら誘拐の真っ最中だろうと日課はやめられません。あ、もちろんノゾキね。双眼鏡で向かいのマンションをじーっ。やった、女の着替えだ。オッパイ丸見えだ。ひゃっほう。しかし、相手にバレちゃいましたよ。ギクッ。

まあ、それはともあれ、電話、電話。「金を持ちやすい黒いカバンにつめろ。そして、それをすぐお手伝いの伊山比佐子に持たせるんだ」「比佐子に」「そうだ、比佐子だ。カバンを持たせたら、今日の午後4時ジャストに、高田馬場駅、西武新宿寄りの広場にある公衆電話の右端のボックスに入らせろ。もちろん、警察の張り込みは許さん」。

他の刑事に任せればいいのに、大慌てで高田馬場に散っていく、愉快な刑事さんたち。いや、普通、別の刑事がその任務にあたるだろ、なんて思ってはいけません。なぜなら、彼らは愉快な刑事さんたちだから。指示通り、高田馬場ビックボックス前にやってきた原田美枝子を、喫茶店の中から、隣の公衆電話ボックスから、はたまた通行人のふりをして見張る愉快な刑事さんたち。おっと、原田美枝子が誰かと話をしています。きっと、犯人からの指示を受けているんです。よっしゃ、後を尾けるぞぉ。

ちなみに、土地鑑のない人には、どうでもいい話ですが、高田馬場ビッグボックスは、西武新宿寄りではなく、反対側。所沢寄りにあります。自分がよく知っている場所だと、気になります。

はい、券売機にある「子供運賃表示板」の裏をまさぐっては、次々と地下鉄を乗り継いでいく原田美枝子。当然、血が熱いだけでオバカサンな平幹二朗はまったく気づく様子もありませんが、本部から応援に来ていた刑事(稲葉義男)は気づきましたよ。「点字っ」。そうです、表示板の裏には点字のテープが張ってあり、次の行動を指示していたのです。カワイイ原田美枝子と、オバカサンな平幹二朗をよそに、稲葉義男は近くにいた盲人の人を連れまわし、どうにか先回りをしようとアセルのです。

しかし、先回りをするのはムリでした。さらに、折悪しく、夕方のラッシュで地下鉄は大混雑。同じ電車に乗っている平幹二朗ですら原田美枝子を見失ってしまいそうです。見失ってしまうかも。ウガッ。見失った。原田美枝子は謎の白人女性に声をかけられ、現金の入ったカバンを渡し、その瞬間を平幹二朗は見過ごしてしまったのです。もちろん、犯人の後を追うなんて、夢のまた夢。金を渡してシクシク泣いている原田美枝子をパトカーに乗せて、平幹二朗は困り顔。で、これからどうしよう。と、そこに無線が。「モーテル"ダン"に向ってください。和也ちゃんが発見されました」。

どうにか和也ちゃんも助かり、最悪の事態は避けられました。とはいえ、オマヌケな警察の対応にマスコミは非難の嵐。ま、そりゃそうですね。それにしても、いったいどこから捜査をすればいいのやら。

はい、ここで無意味に平幹二朗のシャワーシーンが。さらに洗濯シーン。そして、バスローブ姿の平幹二朗が湯上りのビールをクイクイッと飲むシーンへと、怒濤の展開。えーと、これは誰に対するサービスカットなんだ。まあいいや。ともあれ、そこに電話が鳴りました。「遠丸です。君か……」。どうやら別れた奥さんからの電話みたいですね。ぽわわーん。ここで回想シーン。実は平幹二朗の子供は交通事故に遭い、病院をたらいまわしされた挙句、死んだのです。そのおかげで夫婦仲も悪くなり離婚。うーん、強引な態度の陰には、そんなツライ過去があったんですね。

事件は思わぬ展開に。というのも、ノゾキ魔にオッパイを覗かれたお姉さんが、腹いせに双眼鏡で覗きかえしたところ、ノゾキ魔の部屋に男の子が監禁されていたのを目撃したという有力情報が入ったのです。えーと、話にムリがありますか。そうですよねえ、ボクもそう思います。ともあれ、その部屋になだれ込む愉快な刑事さんたち。すると、なんてことでしょう。ノゾキ魔こと中島久之が、目をくわーっと見開いたまま死んでいるじゃありませんか。「青酸カリだ。杏の匂いがする」と重々しくいう平幹二朗。なんてこでしょう。ノゾキ魔が犯人の一人なのは間違いないとして、お金はどこに。そして、謎の白人女性の正体は?

愉快な刑事さんたちがウロウロしている間に、またも別の方角から事件の突破口が見えてきましたよ。それはラブホテル医師殺人事件を捜査している北原警部(藤岡弘)からもたらされたものです。独自の捜査を続けていた藤岡弘は、殺人事件の犯人が梶芽衣子ではないかと疑いました。それというのも、ラブホテルから逃げた犯人はトリカゴにシャムネコを入れていましたが、梶芽衣子の趣味もシャムネコをトリカゴに入れておくこと。ほら、なんて偶然。そのうえ、事情聴取に行ったところ、梶芽衣子は死んだシャムネコをトリカゴに入れたまま、優雅に部屋をウロウロしているんですから。さらにさらに、ネコからは青酸カリの匂いまで。これは、ちょっと怪しいんじゃないでしょうか。(すごく怪しいと思う)

えーと、梶芽衣子が犯人だと思うでしょ。これだけ怪しければ。しかし、そうならないのが、この映画のエライところ。それというのも、若造刑事がこんな証言を手に入れてきたのです。いわく、原田美枝子の死んだ恋人っていうのが、腸閉塞で死んだんだけど、病院をたらいまわしにされなければ助かったかもしれない。そして、たらいまわしにした病院は、いずれも丹波哲郎の経営する病院だった。ががーん。なんですとー。

話を聞いて、閃いた平幹二朗。っていうか、これで閃かないと、一生閃く機会はないでしょうね。比佐子の逮捕状を請求しよう。重々しく語ってみる平幹二朗です。

何の迷いもなく、原田美枝子は犯行を自白。ラブホテルで殺した医師は、たらいまわしにした病院の医師だったそうですよ。そして、いかにも梶芽衣子な変装をしたのは、丹波哲郎を困らせるためだったそうです。ついでに言うと、ノゾキ魔の中島久之は幼馴染で、犯行を手伝ってもらったところ、医大の寄付金目当てに金を独り占めしようとしたので、梶芽衣子の青酸カリを盗んで殺したと。さらに、謎の白人女性は、何も知らない点字サークルのお友達だったそうです。「ごめんなさい」と平幹二朗に謝りつつ、今はなき恋人について熱く語りだす原田美枝子。その背後には、意味不明ですが炎が燃え盛っています(完)。


いやあ、(完)を観て唖然です。なんだ、こりゃ。血友病の少年を救え、タイムリミットはあと何時間!みたいなドキドキに、地下鉄を使った現金受け渡しのトリック。そのうえ、丹波哲郎に平幹二朗。梶芽衣子に原田美枝子の豪華メンバー。

これだけの、言ってみれば、ガチガチに本命な要素を組み合わせて、どうしてこんな映画が作れるのか。ある意味、つまらなく撮るほうが難しそうなんですけど。まあ、ツッコミどころ満載すぎて、別の意味では面白いんですけどね。

ちなみに、原作、製作、そして脚本は、松竹の助監督からプロデューサーに、そして乱歩賞を取って「推理作家」に転進した小林久三。「推理作家」の小林久三。「推理」の小林。……。ど、どこが推理やねん。逆に、この人の書いた推理小説をちょっと読んでみたくなりました。ワクワク。どんなトンデモワールドが展開するんだろう。

ついでに言うと、この人原作の「皇帝のいない八月」も、最初はどんなスゴイ映画なのかとワクワクして見始めると、最後は脳死になっちゃいそうな、かなりスカタンなお話ですので、念のため。

あと、強いて、この映画の見所を挙げるとすると、平幹二朗のシャワーシーン!なワケもなく、ざっくりしたセーターでも隠しきれない原田美枝子の巨乳っぷりです。これは、ちょっと譲れません。あと、ゴージャスな電話機もステキなので、これも目に焼き付けておきたいですね。







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【映画】女医絹代先生

2009-06-22 18:21:00 | 邦画 さ行
【「女医絹代先生」野村浩将 1937】を観ました



おはなし
女医の絹代ちゃんは、幼馴染のお医者さんにドッキドキ。

70年以上前の作品ですが、作りは完全に「アイドル主演のラブコメ」で、今観ても、何の違和感もありません。まあ、PCやケイタイなどのガジェットがあるかないかだけの差で、人間そのものは70年前からちっとも変わっていないんだから当然ですね。

「絹代ちゃーん」と呼ぶ声に、クルっと振り返ってニッコリ笑ったのは、山岡絹代(田中絹代)です。角帽姿も凛々しい女子医専の制服を身にまとい、颯爽としていますね。

「どうしたの」と言う絹代に、同級生のメガネっ子な神田和子(東山光子)は答えます。「さっき、教わったところ、ちょっと忘れちゃったのよ」。「頭がお悪いわね、カズボウは」と和子の角帽をつつきながら、ドイツ語を訳しはじめる絹代ちゃんでした。

って、スゴイ。もうノリノリにアイドル映画になってます。

さて、和子と別れ、地元のバス停を降りた絹代ちゃん。ふと見ると、幼馴染で医大生の浅野(佐分利信)が、友人と一緒に歩いてるじゃありませんか。もちろん、絹代ちゃんは、浅野に軽く会釈をしたんですけど、浅野はドギマギしつつ無視してますよ。思わずムットした絹代ちゃんはスタスタと浅野を抜きにかかりました。抜かれた浅野もムキになって早足になり、気づけば二人は競走に。ゴキっ。おっと、靴のヒールが折れて、絹代ちゃんがよろめきましたよ。慌てて抱きかかえる浅野。ハッ。浅野に抱きかかえられているのに気づいた絹代ちゃんは、ツンとした顔をして、ヒョコヒョコと歩き去るのでした。

って、なんなの。このお約束な展開は。とても戦前の映画とは思えない。

「なんでえ、あれは。男だったぶん殴ってやるんだ」と息巻く友人の小山(大山健二)に、浅野は言います。「どうだい、癪な奴だろ。あいつだよ、例の山岡って医者の娘は」。そう、絹代ちゃんのお父さんと、浅野のお父さんは、漢方医と西洋医の差はありましたが、ライバル同士。しかし、浅野の父は、競争が祟ったのか、過労で早くに死んでしまったのでした。つまり、二人の家は、犬猿の仲なのです。まるでロミオとジュリエットのように。

絹代ちゃんの壊れてしまった靴を見て、お父さんの山岡鉄斎(坂本武)はガックリ。なにしろ、浅野の家と患者を取り合ったのも今は昔。今では漢方も廃れて、すっかり閑古鳥なのですから。しかし、理由を聞いて納得です。そうか、山岡の倅と張り合ったんだな。それで抜いたんだな。そうか、よしよし。

一方、浅野のやっぱり壊れてしまった靴を見て、お母さんのよね(吉川満子)もタメイキ。どうにか、この靴を卒業までもたせようと思ったのに。しかし、絹代ちゃんと競走したと聞いたら話は別です。「抜き返しましたよ」「そうかい、そりゃ良かったねえ」。なにしろ、お母さんにとっては、山岡の家は、夫の仇も同然。浅野は胸を張って言うのです。「あんな娘なんか、今にギューッと言わせてやるから」。

「約一年ののち?」。山岡医院には、真新しい看板がかかっています。「内科 小児科 山岡医院」。一年前までの閑古鳥がウソのような大繁盛で、まさに門前市を成すのイキオイ。それというのも、やはり美人の女医さんというのが評判になって、若い男がワンサカ押しかけているのです。もっとも、繁盛しているからといって、これじゃあね。絹代ちゃんは嘆息して、相棒の和子にグチります。「どうして、うちはこう、客種が悪いのかしら」。「どうしてって、聞く手はないでしょ。いい女よ、あんたは」。そんなこと言われても、心は晴れない絹代ちゃんです。

一方、浅野は大学を卒業したあと、外科を究めるために大学に残りました。しかし、やることといえば、来る日も来る日も切り傷や擦り傷の治療ばかりで、つまらないことおびただしいようです。もっとも、友人の小山にいたっては、実験用の動物の世話しかさせてもらえないので、まだマシかもしれませんね。

さて、仕事にウンザリな絹代ちゃん。「こんないいお天気。また一日中、働くのかなあ」「どっか、遊びに行きたいなあ。ねえ、カズボウ」。どうも、これから仕事だっていうのに、朝からやる気ゼロです。なんか、よく分かりませんが、和子が絹代ちゃんに寄りかかって歌をうたいだし、絹代ちゃんは絹代ちゃんで和子の首に手を回したり、なんだか百合っぽい映像が展開してますけど。ノリは吉屋信子の少女小説って感じでしょうか。えーと、現在なら「マリア様が見てる」みたいな。(まあ、読んだことはないですが)

絹代ちゃんの医院に、足しげく通ってくる青年(谷麗光)がいます。前田総一郎といって、お金持ちな前田家の御曹司。この総一郎は絹代ちゃんにモーションかけまくっていますが、当然、絹代ちゃんにはその気はゼロ。その代わり、和子がこの総一郎を好きだったりするという、ラブコメ王道な展開が。ほら、今日も総一郎が「ハロー」とかいって、やってきましたよ。「ねえ、カズボウ。あの人、あんたが診てあげなさいよ」と和子に振る絹代ちゃん。「困るわ」と和子はモジモジしていますが、マンザラでもなさそうです。と、そこに前田家から電話が入りました。なんだか、総一郎のお父さんの具合が悪いそうですよ。

いちゃついてくる総一郎を後ろの狭い席に押し込んで、ダットサンを颯爽を運転する絹代ちゃん。っていうか、戦前なのに自家用車ですよ。それもオープンカー。どうしてくれよう。ぼくだって、ダイハツのコペンでいいから欲しいです。ぶろろー。はい、それはともあれ、前田家のお屋敷に到着です。しかし、何事かと思ったら、お父さんは元気もいいとこ。単に絹代ちゃんの顔が見たくて、呼び出しただけのようですね。そんなデレデレのお父さんを見て、総一郎は苦い顔。思わず書生にグチるのです。「オヤジの奴、先生にラブしてるんじゃないかなあ」。「してますね、あの様子じゃ」と断言した書生は、「別な主治医を探すんですね」とアドバイスするのでした。ふーむ。別な主治医ね。

山岡医院に「午後休診」の看板がかかっています。和子をお供に、気晴らしのドライブ中の絹代ちゃん。ルームミラーに延々と、絹代ちゃんの笑顔が映し出されていますよ。おそらく、ここは当時の男性ファンへのサービスカットじゃないかと思われます。ポンッ。おや、タイヤがパンクしました。「あーあ、たまの休みに」と和子が嘆いてますが、ともあれタイヤ交換しないとね。せっせとジャッキアップして、タイヤを外してと。うんしょ。外してと。うんしょ。タイヘンです。ボルトが全然回りません。と、そこに浅野が通りがかりました。黙って絹代ちゃんからレンチを取り上げ、顔を真っ赤にしてボルトを回す浅野(モノクロなので、イメージですが)。どうにか、交換が終わったようです。汚れた手で顔をこすったものだから、顔を真っ黒にしつつ、「あまり得意になって飛ばして、怪我でもしないよう、用心なさい」と言って去っていく浅野。絹代ちゃんは「憎いなあ」と言っていますが、顔は全然憎そうじゃないのがミソってもんです。しかし、和子にからかわれると、「嫌いよ、あんな男。フン。あんな高慢ちきな浅野なんか」と強がりを言うのは忘れません。いや、ラブコメはこうじゃなくっちゃね。

将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、って言います。お坊ちゃんの総一郎は、早速、絹代ちゃんのお父さんに接触。酒を飲ませ、「ぼくは絹代さんのために、こんな大きな病院を建ててあげるつもりなんですよ」と図面を見せてきました。お父さんはすっかりその気になっちゃいました。お父さんが家に帰ってくると、偶然にも浅野のお母さんと遭遇。ほろ酔い気分の舌はよく回ります。「いよう、これはこれは、浅野の奥方。お宅のご子息はいつご開業ですかな」。「……」。何も言い返せない浅野のお母さんに、お父さんは続けます。「ハハハ。どうやら、この勝負はうちの娘に軍配が上がったようですな」。

はい、上機嫌なまま、絹代ちゃんに総一郎のことを切り出すお父さん。しかし、意外なことに絹代ちゃんは「あたし、いやあよ。お断りして」とケンもホロロです。もちろん、その時、絹代ちゃんの心には、顔を真っ黒にしてパンクを直してくれた浅野の姿が浮かんでいることは言うまでもありません。ぽわわーん。

「そりゃ、おじさん。絹代ちゃんが怒るのもムリないわ」と和子が絹代ちゃんのお父さんに説教しています。「おじさん、あんまりムリ言うと、絹代ちゃん死んじゃうわよ。飲み薬でも注射でもお手の物ですからね。死ぬくらい、ワケないわ」。そんなこと言われても、お父さんにはサッパリです。「ワケを聞かせろよ」「おじさん、怒らない。怒らないなら聞かせてあげるわ」。いいから、早く教えてプリーズ。「絹代ちゃんはね、浅野さんが大好きなのよ」「バ、バカな」「ほら怒った。いいわ、私、絹代ちゃんに同情して、同性心中しちゃうから」。そう言われてしまうと、お父さんとしては、まず娘の命第一ですよね。

さて、前田家の書生は若主人のために、新しい主治医を見つけてきました。近所に住んでいて医大出身の秀才。もう、お分かりですね。浅野です。そして、浅野と絹代ちゃんが前田家で鉢合わせをしたから、さあタイヘン。ぽわわん気分な絹代ちゃんは、ひざをまげて、かわいらしく挨拶をしたものの、浅野はムスっとしたまま。もっとも、浅野の場合、コレが素で悪意はないようなんですが、さすがの絹代ちゃんもムカッです。

機械的に診察をしていた浅野は、やがておもむろに言い出しました。「山岡さん、これを見逃してはいかんですねえ」。「だって、患者さんが訴えて下さいませんもの」という絹代ちゃんの言い訳を押しのけるように、浅野は続けます。「それはそうでしょうけど、この患者にゴルフを許してはいかんですよ」。というのも、患者である前田家のお父さんは、リュウマチをわずらっていて、ゴルフなどの運動をすると、弁膜症になる危険があるそうなのです。医者としての未熟さを思い知らされ、屈辱のまま前田家を出た絹代ちゃんは、家に帰るなりサメザメと泣き出すのでした。

「どうして、ああ急にメソメソし始めたかなあ」「決まってんじゃないの。察しが悪いなあ」。お父さんと和子は、絹代ちゃんの落ち込みを、浅野との恋愛問題と勘違いしているようです。これはタイヘン。慌てて、浅野の家に向かうお父さん。もちろん、絹代ちゃんと浅野を結婚させようというのです。しかし、浅野のお母さんは、山岡憎しで凝り固まっているうえに、お父さん自身が、つい最近、浅野のお母さんをバカにしたばかりですからね。これはうまくいくハズがありません。門前払いもいいとこです。

浅野が歩いていると、絹代ちゃんがダットサンに乗って、やってきました。思わず、その前に立ちはだかって、車を止める浅野。「先日はたいへんすまんことをしてしまいました。あの時はぼくもあがっていたもんで、つい言いたいことをズケズケと言ってしまったんですが、後で考えてみると男として、あまりいい図ではなかったと思うんです」。しかし、ボタンの掛け違いというんでしょうか。珍しく素直で優しい浅野の言葉も、絹代ちゃんには届かず、二人は結局、ケンカ別れをしてしまうのです。とりあえず、ここらへん、ラブコメの必須条件ということで。

浅野が家に帰ると、お母さんがハッスルしています。いきなり、山岡の娘をどう思うと聞かれ、「母さんだって、ぼくがあんな女、大嫌いなのをよく知っているじゃありませんか。まかり間違ったら。坊主になってお詫びしますよ」と答える浅野。っていうか、そう答えるしかないですよね。ソレ見たことか、とうれしそうな表情のお母さん。実は縁談の話があったと言い出しました。「えっ、ホントですか。まさか担ぐんじゃないでしょうね」。いや、ホント。断ったけど。「そうですかあ」。浅野は深いタメイキをついて、頭をかかえちゃうのです。

「おい、絹代のやつ、どこか気の晴れるところに連れ出してやってくれないか」とお父さんが和子に言い出しました。それもそのはず、すっかり落ち込んだ絹代は、医院を開く元気もないのです。ということで、金持ちの総一郎をお供にスキーにしゅっぱーつ。

はい、スキー場です。場所も変わって、少し元気になった絹代ちゃん。と、絹代ちゃんが滑っていると、誰かにゴチーンとぶつかってしまいました。見ると、それは浅野のお友達の小山じゃないですか。ってことは。うわっ。横には浅野もいます。浅野たちは、スキー部のOBとして、現役の合宿に付き合っていたのでした。すかさず、「ねえ、浅野さん、ご一緒に滑りません」と和子がナイスフォロー。絹代ちゃんもうるんだ目で、浅野を見つめてみますが、浅野はぶっきらぼうに「ぼくは断るよ」とシュプールを描いて滑っていってしまうのです。しゅしゅー。

夜。ヘコんだ絹代ちゃんを中心に、和子と総一郎が、盛り上がらない食事をとっていると、そこに電報が。なんと前田家のお父さんが重態だそうですよ。キラリン。和子の目が光ります。「ねえ絹代ちゃん。いいことがある。浅野さんにも来てもらいましょうよ」。そうねえ、と煮え切らない絹代ちゃんに和子は言います。「そうねじゃないわよ。そう決めた」。

気まずい雰囲気の中、みんなは東京に戻ります。戻ってみると、前田家のお父さんは、本当に重態でした。どうやら、浅野の禁止を守らず、雨の中ゴルフをやったのが命取りだったようです。二人は懸命に治療をしたものの、このままだと、今日明日がヤマでしょう。後は天にまかせ、二人は夜通し見守るだけです。「どうです、少し休んだら」「いいえ、あなたこそ」。浅野に押し切られ、別室のソファーで横になる絹代ちゃん。とはいえ、なかなか眠れるものじゃありません。眠るのをあきらめて、病人のいる部屋に戻ると、疲れが出たんでしょうか。浅野が椅子でウトウトしています。浅野にそっと毛布をかけてあげる絹代ちゃん。ハッ。目を覚ました浅野は、横に絹代ちゃんがいるのに気づきました。「ダメですねえ。言うことを聞いてくれなくちゃ」。そういって、ごく自然に、絹代ちゃんの腕を取った浅野は、絹代ちゃんをソファーに連れて行き毛布をかけてあげました。ふむ。さらに、自分のコートをそっと絹代ちゃんにかけてあげる浅野。「これなら風邪もひくまい。こんど起きてくるとコレですよ」と、ゲンコを落とすフリをする浅野に、絹代ちゃんも屈託の無い笑顔を浮かべます。「浅野さん」「何です」「いいえ、お休みなさい」。毛布をかきあげ、恥ずかしそうに顔をかくす絹代ちゃんです。って、書いてて恥ずかしくなってきた。

翌朝、病人はすっかり元気になりました。これなら、もう大丈夫でしょう。一足先に前田家を辞去した浅野を、絹代ちゃんが追ってきましたよ。思わず見つめあう二人。絹代ちゃんは思い切って言います。「浅野さん、あなた一生、私のうちとは仲直りしてくださいませんの」「仲直り?」「ダメですの」。「ぼくたちはもう、ケンカなんかしてないじゃありませんか」と言った浅野を、「ホント、ホントですの」と背が低い絹代ちゃんは、じっと見上げます。「しつこいなあ。ぼくは君が好きなんだ。あまり聞かないでくれたまえ」と言って、恥ずかしそうにスタスタと歩き去っていく浅野。思わず走って浅野を追いかける絹代ちゃん。あっ。ヒールが折れてバランスを崩した絹代ちゃんは、浅野の腕の中にスッポリです。

家に帰った浅野は、帽子も取らないままお母さんの前でウロウロしています。「どうしたのさ。うちの中じゃないか。帽子くらいお取りな。ねえ」。「ええ、それが」と浅野が帽子を取ると、なんと浅野は坊主頭に。「ぼく、エライことをしちゃったんですよ」「どうしたの」「母さんの一番嫌いな女が好きになったんです。お詫びします」。

「どうも、ぼくは初めから、こういうことになると思ってたよ」と総一郎が和子に言っています。二人はデート中のようす。総一郎は、ポケットかた図面を取り出して言います。「こういう病院、建てようよ」。

山岡のお父さんが医院の看板を架け替えています。「内科 小児科 外科 浅岡医院」。横で見守っている浅野のお母さんに「どうです」と尋ねる山岡のお父さん。「お宅の浅野の浅。うちの山岡の岡。あわせて浅岡医院」。ひとしきり笑いあった二人は、「どうです、一杯いきましょ」「けっこうですねえ」と、建物に戻っていくのでした。


どうです。このラブコメっぷり。ライバル同士のうちに生まれ、いつもケンカをしている二人の恋。恋のキューピッドになるメガネっ娘。道具立ては、お医者さんに、オープンカーにスキーですからね。なんていうか、直球ど真ん中な作りで、キャストさえ替えれば、今でも通用しそうですね。

田中絹代は、原節子や入江たか子といった美人女優に比べると、美しいというより可愛いといったタイプ。そのため、こういった役柄がとても似合います。前の二人に比べ、あきらかに背が低いというのも、この映画においては高ポイントなんじゃないかと。

一方、相手役の佐分利信も、戦後に見せた重厚な雰囲気からは想像がつかない感じです。もちろん、堅物でもっさりしているんですが、そこに面白みがあって、なかなか素晴らしかったと思います。

さて、盧溝橋事件によって、日本が日中戦争の泥沼にはまり込んだのは1937年の7月のこと。そして、この映画はそれを遡ること、2ヶ月ほど前に公開されています。そう考えると、とても感慨深いものがあります。なにしろ、「戦前」の映画というと、どこか軍国調のものを想像しますが、この映画にはカケラもそういった部分が見当たりません。というか、能天気すぎるくらい。そう考えると、一般的にいわれる「戦前」というのが、それこそ1937年から45年までのわずかな期間だったこと。そして、逆にいうと、そのわずかな期間にもかかわらず、いかに多くの影響を文化・芸術に与えたのか、そう思ってしまいます。

われわれは(ぼくだけかも知れませんが)、つい十把一からげに「戦前」とはこんなものだ、という思い込みがありますけど、つい昨日までラブコメ観て笑っていた人が、いきなり軍国主義が来ましたよー、と言われて、本当のところ、どう思ったのか知りたいです。個人的には、人間なんてそう変わるものではないと思うので、最初のうちはイケイケドンドン、気づいたら戦争に負けてたなあ、あたりじゃないかと踏んでいます。

まあ、この映画を観て、そんな感想を持つのもどうかとは、思いますけど。

ちなみに、まったくの偶然ですが、この映画を観るまえに、熊井啓監督の「サンダカン八番娼館 望郷 」を観ました。田中絹代末期の作品で、田中絹代は元娼婦のおばあさん役でした。そのおかげで、両者のイメージが混ざって、混乱すること、すること。なにしろ、年をとっても声は同じなので、ワケが分からなくなってきます。食い合わせというか、観合わせって、大事だなと思いました。









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【映画】惜春鳥

2009-04-24 18:20:59 | 邦画 さ行
【「惜春鳥」木下恵介 1959】を観ました



おはなし
不始末をしでかして、故郷の会津に帰ってきた青年を、暖かく出迎えた4人の幼馴染。彼らの辿る運命は……。

会津を舞台にした5人の青年の友情譚です。当然、会津なので「白虎隊」が重要なアクセントになっていることは言うまでもありません。

ぽー。汽笛を響かせ汽車が疾駆しています。車窓の外に広がる雄大な磐梯山を眺めているのは、岩垣(川津祐介)。と、「キミは康夫の友達だったね」と翳りをおびた男(佐田啓二)が声をかけてきました。「ああ、牧田くんのおじさんでしたか」と返事をする川津祐介。しかし、佐田啓二に「キミは大学に行ったんだってね」と言われて、思わず「はぁ」と目を伏せちゃいます。きっと東京で問題でも起こしたんでしょうね。もっとも、佐田啓二もなんかワケありげで、「キミ、知らないの」「康夫に会ったら聞いてごらん」とか言ってますので、こちらも問題ありそうです。

さて、会津の東山温泉にやってきた川津祐介は、早速、友人の峯村卓也(小坂一也)の実家がやっている旅館を訪ねました。大喜びの小坂一也の手を握って、「懐かしいな」と見つめる川津祐介。とりあえず一緒にお風呂に入って歌ったりして。はい、そこに川津祐介の帰郷を待ち構えていたんでしょう。友人の馬杉(山本豊三)や、牧田康夫(津川雅彦)が駆けつけてきました。風呂をがらっと開けて、「会いたかったよ」と川津祐介に抱きつく山本豊三。なんか、いきなり川津祐介の背中をさすりさすりしているのが気になるんですが。

後からやってきた手代木(石浜朗)を加え、幼馴染の5人組が勢ぞろいで、宴会開始。しかし、やってきた芸者のみどり(有馬稲子)を見て、津川雅彦はヘンな顔をしていますよ。「みどりっていうんだろ、キミは」「おじさん、帰ってきたよ」。どうやら、有馬稲子と佐田啓二の間に「何かが」あったようですね。っていうか、実は二人は駆け落ちをしたものの見つかり、みどりは連れ戻され、佐田啓二は肺結核でボロボロって、設定なんですけど。ま、それはともあれ、有馬稲子が「白虎隊の歌」をバックに剣舞を始めました。♪戦雲暗く 陽は落ちて 孤城に月の 影かなし♪ えーと、有馬稲子の剣舞がうまいのかどうかは、サッパリ分かりませんが、有馬稲子の性格を考えると、きっと猛特訓をしているでしょうから、きっとスゴイんだと思います。はい、これで宴会シーンは終わり。

翌日、飯盛山の白虎隊墓前に詣でる5人。「墓前祭の剣舞を思い出すよ」「19人か、みんな散り散りばらばらになっちゃって、どうしてるかなあ」「オレが詩吟をやるから、4人で剣舞をしてみろよ」「キチガイかと思われるぞ」「バカっ。お前はそんな気持ちで、奉納剣舞をしてきたのかっ!」。口々にそんなことを言いつつ、踊りだす4人と詩吟担当ひとり。♪少年団結す白虎の隊♪ ここで、各自剣舞のシーンと働いているシーンを交差させつつ、さりげなく(もないけど)、各人のプロフィールを紹介。

まず詩吟担当の山本豊三は、ビッコのため外に働きに出られないので、実家の会津塗りのお手伝い。津川雅彦は、母のやっているバー「サロンX」でバーテン修行。川津祐介は苦学生らしく、学帽をかぶって肉体労働。小坂一也は実家の温泉旅館で、板前修業。そして、工場労働者の石浜朗は赤旗をバックにデモの真っ最中です。

さて、シーンが変わると、「白虎隊奮戦の地」碑の前にいるみなさん。おや、川津祐介がさめざめと泣き始めました。地元の有力者、鬼塚さんの書生になって、大学に通っていたのに、そこを追い出されたというのです。「あのこと、本当なのか。女中とヘンなことになったって」と聞く石浜朗に、川津祐介ラブな山本豊三は「やめろよ」と血相を変えています。「いいんだよ、馬杉。本当だよ。大学にやってもらってる書生が、女中に手をつけたんだよ」と語る川津祐介。「オレみたいな田舎出の小僧をいじめてじめて、いじめぬきやがったんだ」「一番、癪に障ったのは、いちいちオレの会津訛りをマネしやがるんだ」。これには、他の4人も思わず同情の表情。うん、それはヒドイ。結局、川津祐介は女中を誘惑して捨てました。それがささやかな復讐だったそうです。「自分を傷つけて、相手を倒したってとこか。偉いよ、会津の男らしいよ」と津川雅彦はすっかり感心しちゃうのでした。

さて、遠方から朋(友)が来るのは楽しいことですが、それでも日常生活は進むのです。今、ちょっと問題になっているのは、蓉子(十朱幸代)のお婿さん問題。って、蓉子って、いったいダレだよ?ですね。順を追って説明しましょう。津川雅彦はお妾さん(藤間紫)の子供。お父さん(伴淳三郎)は、手広く商売を営むお金持ちですが、正妻との間には子供がいません。ということは、このままだと財産は津川雅彦のものに。到底、それに納得できない正妻は、自分の姪である十朱幸代を養子にして、そこに婿を取ろうという計画なのです。で、そのお婿さん候補が、貧乏士族の息子である石浜朗だったと。実は津川雅彦と十朱幸代はラブラブだったりするので、このままだと津川雅彦と石浜朗が対立する関係になるのは必至な状況です。

さらに、おじさんの佐田啓二が駆け落ちに失敗して、家でゴロゴロしているので、津川雅彦としては、なかなか気が休まる暇もない、っていうところでしょうか。

一方、川津祐介の方は、人のいい小坂一也や、川津祐介ラブな山本豊三に、しきりに借金を申し込んでいます。なんか最初は、かわいそうな苦学生って雰囲気だったのに、陰でニヤリと笑ったりして、なんだかアヤシイ感じですよ。このままだと、人のいい小坂一也やら山本豊三はどうなっちゃうんでしょう。しかし、そんな川津祐介の正体を見抜いたのは芸者の有馬稲子でした。「騙そうたってダメよ。あんた大学に行ってるなんて嘘だべ」「どうして」「卓也さんならごまかされっけど、芸者の目はダメよ。なんさ、この手は。甘えるようなフリをして。ほうら、人相が悪くなったじゃないか」。確かに、さっきまで甘えん坊な表情で、有馬稲子の手をさすりさすりしていた川津祐介が、いかにも憎々しげな、邪悪な表情になってますよ。まあ、しかし、有馬稲子は酸いも甘いも噛み分けた芸者なので、黙っててやるから、とっとと出て行くようにとだけ諭すのです。

有力者、鬼塚さんを仲人に、小坂一也の旅館で、石浜朗は十朱幸代とお見合い中。しかし、十朱幸代がいきなりバックレちゃいました。シラーっとした雰囲気が漂うなか、鬼塚さんに電話が入ります。なんと、東京の本宅に警察が来たというのです。かつて書生だった川津祐介が詐欺の容疑で手配されているというじゃありませんか。「わしから警察に電話をしてもいいんだが」という鬼塚さんですが、とりあえずは石浜朗に下駄を預けてくれました。友達同士で、うまくヤレってことみたいです。

早速、小坂一也と相談をする石浜朗。どうやら、逃がしてやることに決めたようです。しかし、野生の勘で危険を察知した川津祐介は、逃亡準備中。行きがけの駄賃とばかりに、小坂一也の腕時計をポケットに入れたりして。そこに、小坂一也と石浜朗がやってきました。「卓ちゃん、世話になったけど、今夜の汽車で帰るよ」と言う川津祐介の嘘を信じているフリをして、汽車の時間を調べる小坂一也ですが、アレ、アレレ、腕時計がないぞ。「何か無くなったのか」という石浜朗の固い声音に、川津祐介は知らんぷり。と、いきなり小坂一也がメソメソと泣き始めましたよ。「岩垣、ひどすぎるよ」。「そっか、知ってて逃がしてくれるのか、アリガト」と腕時計をポケットから出す川津祐介を、しかし小坂一也は憎みきれず、クルマを手配してあげちゃうのです。

駅に向かって去っていった川津祐介。後に残された石浜朗は、拳をプルプルさせていましたが、意を決したように警察に電話。もしもし、詐欺の犯人が駅に向かいました。それを見た小坂一也は「バカっ。お前は友達を」と受話器のフックを連打です。「そうだけど、この時計を見たら……。オヤジさんの形見だろ」と弁解する石浜朗を相手にせず、小坂一也は津川雅彦のところに電話しました。カクカクシカジカ。ここからじゃ間に合わないけど、お前のところからなら、駅に行った川津祐介を呼び止めることができるはず。自首を勧めてくれー。ラジャー。津川雅彦と、遊びに来ていた山本豊三が飛び出します。「馬杉、岩垣が詐欺をしたんだって。捕まる前に自首させるんだ。先行くぞ」とダッシュする津川雅彦。山本豊三も、不自由な足を引きずり、引きずり商店街を走ります。ちなみに、ここのシーン、「惜春鳥」のテーマ曲が叙情的に盛り上がり、木下監督の「陸軍」で、田中絹代が群集をかき分けて走る名シーンを思い出しちゃいました。

ま、それはともかく、駅についた二人。しかし、時すでに遅し、川津祐介は警察に逮捕され連行されていくところです。思わず、悲しむ山本豊三の肩を優しく抱く津川雅彦でした。

翌日、城跡でタソガれている津川雅彦たち。「手代木は蓉子の養子(婿?)になるんだよ」と告白する津川雅彦に、「あいつはそういうヤツだ」と山本豊三は吐き捨てるように言います。「いや、俺にはあいつの気持ちが分かるような気がするんだ。さみしいけど」と答えた津川雅彦は、寂しそうに嘆息して言います。「そういうもんさ。友情なんて、消えてゆく春の雲みたいなもんだよ」。

小坂一也が旅館に戻ると、芸者の有馬稲子が消えたと大騒ぎ。どうやら、佐田啓二も消えたようなので、二人は再び駆け落ちでもしたんでしょうか。

一方、ラブラブだった川津祐介を警察に逮捕された山本豊三は、怒りのあまり、石浜朗の勤務先に押しかけました。なんで、警察に売った。友達じゃないか。しかし、石浜朗は冷たく言うのです。「なんでもいいよ。友達だの友情だの、何甘ったれたこと言ってんだ。あの赤旗を見ろよ。戦って生きていくしかないんだ」。うん。確かに、ストライキ中の工場には赤旗が翩翻とひるがえっていますね。そんな石浜朗に山本豊三は決闘を申し込みます。「明日は日曜だ。戸ノ口原で待ってるぞ」。

いきなり、裏磐梯の中ノ沢では、佐田啓二の詩吟で、有馬稲子が剣舞中。月が冴え冴えと、そんな二人を照らしています。えーと、なんですか。

温泉で、裸になって見つめ合っている津川雅彦と小坂一也。なんか、佐田啓二と有馬稲子のことを話しています。と、そこに「ちょっと話があるんだ」と、石浜朗が訪ねてきました。十朱幸代との縁談に心が動いていると言う石浜朗。「金に何不自由ない牧田と卓ちゃんが、それを責めるなら責めてもいいよ。もう一つ、ゆんべ、蓉子さんに会って、ワガママなカワイイ、とても貧乏人の我々じゃ付き合うことのできなかった人に会って、牧田には悪いけど、俺もこんな人と一緒になれるんならって思った。それだけだよ」。津川雅彦は言います。「それでいいよ、それで」。間髪入れずに「そうか、ありがとう」と言う石浜朗。「じゃ、馬杉に会いにいってくるよ」、12時に戸ノ口原で決闘の約束をしているんだ、じゃあねえ。

去っていった石浜朗を見送りもせず、マッタリしている津川雅彦と小坂一也。と、そこに電話が入りました。「えっ、分かったの」うんうん。「卓ちゃん。おじさん、みどりと心中しちゃったよ。裏磐梯だよ。中ノ沢だって。雪の中で抱き合って」。いきなり服を着替えだす津川雅彦。「卓ちゃん。戸ノ口原行こう。俺、気が変わったんだ。手代木に会って、取り消すよ」「何を」「承知できなくなったんだ。俺もおじさんみたいに、恋に生きたくなった。蓉子が好きだ。むざむざ、手代木にやってたまるもんか」。

びゅーん。車で急ぐ津川雅彦たち。やってます。やってます。山本豊三と石浜朗が決闘中です。とは言え、ノタノタ木刀で殴りかかる山本豊三を、石浜朗が華麗なるステップでかわしているようですが。「手代木、俺が相手になるぞ」と駆け寄る津川雅彦。「よし、久しぶりだ。やろう」と石浜朗も本気モード。そんな二人を見て、ううっと泣き出す山本豊三。小坂一也はいつものように「牧田、よせよう」と宥め役に。なんか、意味不明ですが、津川雅彦もううっと泣き始めました。よく分かりませんが、みんなは肩を組んで車に乗り込みます。ぶろろー。車は去っていきます。


まるでミルフィーユのように細かくシーンが積み上げられ、叙情的な映画に仕上がっています。白虎隊のゆかりの地や歌を多用して、無垢な青年の心を象徴させたのも、素晴らしい。ヘタをすれば、ただの観光地とのタイアップ映画みたいになってしまうところですが、木下監督の手腕で、宣伝くささは皆無です。

しかし、困っちゃうのは、木下監督の趣味丸出しなところ。というか、はっきり言ってしまうと、妙にホモっぽいんですよ。何かと言うと、手を握り合い、肩を抱く。さらに、無意味なお風呂シーンとかがあったりして、友情の映画なのか、(禁断の)恋愛映画なのか、観ていて分かんなくなっちゃいました。ほとんど「モーリス」みたいなノリです。

もちろん、松竹の男優は、(あくまで実際の人物像じゃなくて役のイメージとして)、美形だがデクの坊ばっかりなので、こういった耽美的な映画には向いているのは事実なんですけどね。

ゲホゲホとかいってるだけの、佐田啓二の憂いを帯びたハンサムっぷり。津川雅彦のプリンスっぷり。さらに山本豊三や石浜朗の美しさは、美形にうるさい女の人も文句はないんじゃないかと思いました。

ちなみに、大島渚がデビュー作の「愛と希望の街」を撮るまえに手がけた、松竹期待の新人を紹介する5〜6分の短編映画「明日の太陽」というものがあります。そこでは、ナビゲーター役の十朱幸代を初め、川津祐介、山本豊三、小坂一也など、「惜春鳥」の出演者が勢ぞろい(他には桑野みゆきや、杉浦直樹なんかも)。

その短編で、最後に飛行機のタラップからジャジャーンと降りてきて、「日本の恋人、スクリーンのプリンス」とか紹介されていたのは、津川雅彦でした。やっぱり、これだけ期待されたプリンスが、松竹に移籍して第一作目ですからね。まして、美少年好きの木下監督がメガホンを取るとなれば、「惜春鳥」がホモっぽくなるのも仕方ないのかもしれません。

なんかホモホモ言ってますけど、映画としてデキがいいのは間違いありませんから、誤解なきよう。







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【映画】地獄花

2009-04-03 18:17:45 | 邦画 さ行
【「地獄花」伊藤大輔 1957】を観ました



おはなし
平安末期。琵琶湖に程近い山の中には、盗賊が跋扈していて……。

舞台は平安時代。主演はグランプリ女優の京マチ子とくれば、どうしたって「羅生門」「地獄門」「雨月物語」あたりと比較したくなります。しかし、その点ではちょっと残念なデキと言わざるをえません。もっとも、期待の大きさゆえか、お金はすごくかかっている感じです。


霧のなか、馬にのった野伏りの一団が進んでいきます。「おーい、どうだぁ」「見つかったかぁ」「この霧でとんと見通しがきかないんだが、いまだに姿を見せないぞぉ」。ここは、琵琶湖の北側で、各種野伏り、山賊、さらには湖賊が跳梁跋扈するデンジャラスゾーン。そして、声を交し合っているのは、袴野の麿(香川良介)を首領とする野伏りの一団(党)です。狙っているのは、輿を中心にした貴族の行列。これを襲えば女はもちろん、お宝ザクザクでしょう。

「ミヤノマキ(字不明)に回れば峡(かい)の御坊の手に落ちるぞ。せっかくここまで獲物を追い込んで、むざむざと馬介の党に盗られてたまるか」

さあ、ライバルに盗られる前に、貴族の行列に追いつかなくては。歩みを急ぐ袴野の党でした。

一方、こちらは貴族の行列。「いよいよ九十九坂にかかるぞ。これさえ越せば本街道だから、もう野伏りどもに狙われる心配はない。今、一息だぞ。がんばれ」。しかし、危地を脱したという一瞬の油断があったのでしょうか。キャー。女官の悲鳴が聞こえたかと思うと、向こうからワラワラと僧兵の一団が襲ってきたのです。これこそ、馬介率いる峡の御坊の一団。一歩遅れて、袴野の党も行列に襲い掛かりました。いくら貴族が護衛の侍を伴っていても、二つの野伏りに、同時に襲い掛かられてはひとたまりもありません。男たちは散々に討ち取られ、残ったのは女官たちと輿に乗った姫だけです。

山の掟で、緩やかな協力関係があるとはいえ、袴野の党と峡の御坊はしょせんライバルですから、戦利品を巡って一触即発です。場所的には、ぎりぎり袴野の党の縄張り。しかし、先に襲ったのは峡の御坊。このままでは、血で血を洗う争いに……なるかと思いきや、峡の御坊の馬介(山村聡)はあっさりと引きました。「ただし、麿どのにご不要のもの。一品だけいただいて参る」。「なに、不要の品」といぶかしそうな表情を見せる麿。「さよう。それなる輿の中のにょしょう、一人だけ我ら申し受ける」。ふむ。悪い取引ではありません。よし、その話乗った。

ひめー。オイオイ泣いている女官たちから引き離され、輿は僧兵たちの手によって運ばれていきます。と、輿の中の二ノ姫(市川和子)が「お願いが。聞いてたもれ」と言い出しました。それを聞きつけたのが、袴野の党のステの姫(京マチ子)です。女だてらに刀を佩き、馬に乗ったステは、立派な野伏りにしか見えません。それもそのはず、ステは袴野の麿の養女でもあり、女房でもあるのですから。しかし、そんな男勝りのステも、二ノ姫の必死な呼びかけには、少し心動かされるものがあったようです。

「何の御用」「この数珠の珠を。これをあの女たちに分けてやってはたもらんか。生きてはもう二度と逢えないだろうが、せめては死んでまた、あの世で巡りあって、みんなでこの珠を一つに綴りながら……」。ううっ、と泣き伏す二ノ姫。これには、ステもすっかり同情してしまいました。主従の強い結びつき。そして、自分自身が盗賊の養女にされ、さらにムリヤリに女にされた境遇を思ったのかも知れません。「おーい、馬介どのー」と馬を飛ばすステ。「馬介どの、お願い。あの姫をステに譲ってくだされ。助けてあげたい」。

「姫と引き換えに何をよこされるの」と問う馬介に、ステは答えます。「今、急に思いつけないが、後でそなたの得心のいくものをなんなりと」。しばし、思案した馬介は言います。「よし、確かに聞いた」。

「ステどの。形見にもお礼にも、ただこれ一つしかお贈りできるものとてございません。もしも、何かの場合、都に御用がおありでしたら。いつなんなりと、この品を証に」と虫垂衣を差し出す二ノ姫。ちなみに虫垂衣って、笠にベールみたいのがついたやつです。さらに、姫は岩清水を手ですくってステに差し出しましたよ。えーと、よく分からないけど飲めってことですかね。ゴクゴク。そのまま、固まってる姫。えーと、どうしろと。あっ、そうか。姫の手を握って、残った岩清水を飲ませてあげるステ。ゴクゴク。おっ、いきなり姫が和歌を詠みはじめました。

「むすぶ手の 雫に濁る 山の井の あかでも人に 別れぬるかな」

テロップも出ますが、ハッキリ言って、達筆すぎて読めませーん。調べてみたところ、この歌は古今和歌集にある紀貫之の歌で、まあ「お別れが寂しい」くらいの意味だそうです。って、そんなの知るかぁ。劇中のステ、そしておそらく、この映画を観たほとんどの人をキョトンとさせながら、去っていく二ノ姫。さすが平安時代です。

さて、その頃、袴野の麿たちは、国司の館を襲う計画を検討中。これは、旅の貴族を襲うのとは違って、ビッグプロジェクトですよ。なにしろ警備の侍もたくさんいるでしょうし。と、そこにステが帰ってきました。姫から貰った虫直垂をかぶって、いきなり踊りだすステというか京マチ子。その情熱ダンスに、麿はメロメロです。「これは一段と」「一段とどう?」「一段とカワイイ」。もう、部下たちは、やってられねえよな気分です。

さあ、しゅつげきー。意気揚々と国司の館に向かう袴野の党の面々。しかし、その留守を狙って馬介がやってきました。「何の御用で」と尋ねるステに、「はて、都の姫と引き換えに、なんなりと得心のいくものをと約束した。それをいただきに」。馬介の目が妖しいですよ。もしかして、もしかして。あれー。刀で抵抗するステですが、馬介は弓の先で、ステの帯をクイッと引っ掛けました。とりゃっ。あれれー、クルクル。帯が解けてクルクル回るステ。なんてこと、下着になっちゃいました。スタコラ、スタコラ。ステは逃げ出します。そのまま、山間を流れる急流にドボン。おっと馬介も追ってきます。ドボン。

国司の館は手ごわかった。ズタボロになって帰ってきた袴野の党の面々。おやっ、川原でうめいている男がいますよ。「誰だ」「峡の馬介だ」「死に掛けてる。舌を噛み切られてる」。ワイワイガヤガヤ。「おっ、ステの姫じゃないか」。こちらを向いたステは放心状態で、口にはダラリと血をつけています。

それからというもの、麿のステに対する愛情は倍増です。自分に操を立てて、馬介の舌を噛み千切ってまで抵抗したステが、かわいくてならないのです。その上、ステが懐妊したことを知り、愛メーターは青天井にヒートアップ。オレの子供ができる、ひゃっほー。しかし、妊娠の月数を数えてみたら。ん。んん。んんん。えーと妊娠したのは、国司の館を襲った時だよな。でも、あの時、オレはズタボロでステを抱いてないぞ。「相手はいぬでか、小熊か、名彦か、まさかガキの信夫……野伏の勝か、相手は誰だ」「相手は死んだ。峡の馬介」。ガガーン。「ぬしはあの時、わしへの操を立て通して、あいつの舌を噛み切ったのではなかったのか」。可愛さ余って憎さ百倍とはこのことでしょうか。ステをぐるぐる巻きに縛り上げ、裸馬に乗せる麿。「寿命があったら、勝手に助かれ。無ければそれまで。地獄へなり、極楽なり、好きなとこへ行け」、とりゃっ。尻を蹴られてヒヒーンと走り出す馬。ここで伊福部昭の「ラドン追撃せよ」の音楽が高まります。っていうか、伊福部昭の場合メロディラインの使いまわしがムチャクチャ多いので、こういう愉快な偶然が起きちゃうんですね。別に京マチ子がラドンってワケじゃなくて。

暴れ馬に運ばれたステを助けたのは野伏の勝(鶴田浩二)。この男、麿の台詞にもチラリと出てきたように、一応は袴野の党の一員ですが、その実は一匹狼。腕が立ち、軍略をわきまえ、その上ハンサムという三拍子そろった勝が、どうして袴野の党にいるのか。それは誰も知りません。もしかしたら都で、名のある侍ででもあったのでしょうか。

それはともあれ、勝にかくまわれ、洞窟で暮らすことになったステ。無事に男の子を産んだそうです。もっとも、いくら追放されたとはいえ、同じ山の中に暮らしていれば、なんとなく動向は分かるもの。袴野の党の子分たちは、口々に噂します。「姫は子供を産んでから、びっくりするほど色気が出てきてよ、ぼってりと女らしゅう、それこそ見る目もとろけるばかりだとよ」「麿殿は知ってるのかなあ」「知ってる。かといって、ああして、いったん放り出したものをよう」。

はい、子供をあやしているステがいます。おおっ。確かに色っぽくなっている。というか、前半は褐色メイクで、ここからは美白メイクってだけですけど。そこに、麿がやってきましたよ。「入らないで」というステに、ヒッヒッヒと下卑た笑いを浮かべながら迫ってきます。言うことを聞け、聞かないと子供を殺しちゃうぞ。ちくしょー。子供を抱いて逃げ出すステ。ああ、勝が帰ってきました。「あっ、野伏。麿がこの子を。ステが言うことを聞かないから、この子を殺すと」。「なにっ、子供を。よしっ」、うなづくや、勝はお説教を開始しました。やっぱり、前職は侍ででもあったんでしょう。理路整然とまくしたててるのです。「麿、もとより正道でない野伏り、切り取りの世界にも自ずから道をいうものがあるぞ。人間の道をいうものが」。しかし、これで恐れ入るような人間が野伏りの首領になれるでしょうか、いいや、なれません。「ほざいたなあ」。

はい、戦いが始まりました。それはもう延々と。やっぱり、鶴田浩二にだって見せ場が必要ですからね。……。……。それにしても長いな。あ、勝が麿の杖を叩き落しました。「麿、杖のない片輪を相手にするわけにはいかん。待っていてやるぞ」。覚えてろー。逃げていく麿。さあ、この隙にステと子供を逃がしてしまいましょう。

さ、都に逃げるんだ。そして、二度と山に来るんじゃない。「都へ」といぶかしげな表情をするステ。「ああ、そう。藤原の二ノ姫さまを頼ってか」。そうです。姫からは、何か困ったことがあったら、虫垂衣を証に都に来るように言われていたじゃありませんか。でも、勝、あなたは。オレはここで追っ手を食い止める。さあ行くんだ。そう言われてもねえ。今まで、いっさいステに手を出そうとせずに、面倒だけをみてくれた勝の真情は、ステも理解しているつもりです。唇を突き出すステ。そこに勝の唇が近づきます。あと、5センチ。あと1センチ。あと5ミリ。と、勝は体を翻しました。「命さえあったら。な」。

やっぱり、ここでもスペクタキュラーなシーンが展開。子供を抱いて逃げるステ。カッコイイ勝。まあ、擬音でいうと、ズドドーンで、バッキューンな展開とでも言えばいいんでしょうか。全然、意味が分かりませんが。

さあ、追っ手を逃れて、琵琶湖に漕ぎ出した勝とステと赤ん坊。スローなテンポの「ゴジラのテーマ(にソックリな曲)」が流れ、否が応でも緊張感が高まってきましたよ。「勝どの。あれは追っ手の船では」。確かに、ワラワラと船が近づいてきます。どうやら、袴野の麿は、湖賊にわたりをつけて、二人を追撃してきたもよう。もはや、これまでか。

小舟をみっしりと取り囲んだ、湖賊の軍船。舳先には麿が得意げに立っていますよ。「罪は一人、死ぬのは一人でいいはずだ。麿どの、麿どの、男の話は男でつけよう。女子供は知ったことか」と言ってみる勝。コクッ。麿がうなずいています。結構、イイ人かもしれません。「かたじけない」と、石を抱きかかえて琵琶湖に飛び込む勝。ドボン。おおーっ、と取り囲んだ湖賊たちがどよめいています。みんな、結構、イイ人かも。

そんな様子をみていたステは、そっと赤ん坊を小舟において、ドボン。おおーっ。二人が消えた波紋もすぐに消え、琵琶湖は何も飲み込まなかったかのように、静まりかえっています。それをウルウルした目で見つめている麿。時間が流れていきます。……。……。「おーい、助けろー」と麿が叫びました。待ってましたとばかりに、湖に飛び込んでいく湖賊のみなさんです。

「野伏よ、頼んだぞー。末始終、二人を守ってやってくれよー。わしの娘の産んだ、わしの孫だ。人間らしゅう、立派な人間に育てあげてくれよ。よいか、二度と再び、山には戻るでないぞ。ステ、分かってくれたなー」。麿や湖賊のみなさんは去っていきます。それを見送っている勝とステ。いつまでもいつまでも、二人は船に手を振って、湖畔の道を歩いていくのでした。


まあ、「羅生門」「地獄門」「雨月物語」と比べたらいけませんね。確かに船が集まるシーンを始めとして、スゴク金がかかってるなあと思わせますが、逆にいうとそれだけ。しかし、ぼくが思うに、この映画の価値はそこにはありません。

伊藤大輔監督の前作は「いとはん物語」。これは、顔はちょっと不細工ですが、心のきれいないとはん(京マチ子)が、ハンサムな番頭(鶴田浩二)を好きになるものの、番頭に恋人がいることを知って、身を引くお話です。そんないとはんが夢想したお話だと、この映画を考えてみるとどうでしょう。大好きな鶴田浩二と繰り広げる冒険、そして愛。いかにも、オトナシイいとはんが、白昼夢に描きそうな話じゃありませんか。

もちろん、実際のところはグランプリ狙いとか、大人の事情にあふれているんでしょう。だけど、伊藤監督が、「京クン、こんどは鶴田クンとの恋愛を成就させてあげるよ」と笑っているような、そんな気がする作品でした。

あ、京マチ子ですか。もちろん、いつものとおり、全身全霊を入れ込んだ演技で圧倒されますよ。大物になっても、手を抜く姿勢がいっさい無いところが、素晴らしいと思います。まあ、たまに「そこまでやらなくても」と思いますが。


(野生児、京マチ子)


(浦島太郎かと思った)


(美白系、京マチ子)
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【映画】セクシー地帯

2009-03-09 18:51:14 | 邦画 さ行
【「セクシー地帯」石井輝男 1961】を観ました



おはなし
普通のサラリーマン吉岡(吉田輝雄)と女スリ(三原葉子)は、コールガール組織の内実を探ったことから……。

地帯(ライン)シリーズの一本です。サブタイトルには「call girl sexy line」とあるとおり、コールガール組織を巡る殺人のお話ですが、別段セクシーすぎることもなく、フランス映画みたいな雰囲気のある映画です。

銀座にある服部の時計塔(銀座和光)が5時半を指しています。そのまま画面が下にさがると、銀座の雑踏の中を走っているひとりの女スリ・まゆみ(三原葉子)が。たまたま歩いていた東洋貿易のサラリーマン・吉岡(吉田輝雄)はまゆみに腕をつかまれ、グイグイ。「キミ、君はいったい誰だい」「あなたすごいハンサムね。じゃあまた今度、一緒に遊ぼうね。バイバーイ」。よく分からない展開に唖然としている吉岡。しかし、そこに刑事たちがドヤドヤと走ってきて吉岡は捕まってしまったのです。えーと、あれっ。なんか、懐には誰のものとも知れないお財布が入っているし。その上、部長から預かった大事な書類がすられてるぅ。俺じゃない。俺だって被害者だよう。そんな叫びも空しく、吉岡はスリの一味に間違われて逮捕されてしまうのでした。

時計塔がお昼の12時を指しています。ここ東洋貿易では、スリに疑われて捕まってしまった吉岡の噂でもちきり。「迎えに行くんでしょ。吉岡さんのこと」と同僚にからかわれているのは、タイピストの玲子(三条魔子)。どうやら、吉岡と玲子は周りも公認のカップルのようですね。しかし玲子は「あら、そのことなら課長さんが貰い下げに行ったはずでしょ」と、急いでいる様子でお昼休みの銀座に飛び出していくのでした。

それもそのはず、玲子はお昼休みを利用して、大阪のパトロンと密会していたのです。一方、散々な目にあった吉岡は、出社してさらにショッキングな事態に。屋上に呼び出された吉岡は、お使いを頼まれた森川部長から、大阪支社への転勤を命じられちゃいました。ガーン。やっぱり書類を盗まれたからですか。「出発は明後日、月曜日」。ガガーン。7時の第一こだまの切符も用意しといたから。ガガガーーン。放心した表情で、銀座の町並みに見つめる吉岡の前には、時計塔が一時を指しています。

時計塔が夕方の5時半を指しています。こっそり待ち合わせた吉岡と玲子は、そのままボート乗り場に。気が重いけど、言っておかなくちゃね。えーと、大阪に左遷されることになりました。ほら、書類無くしたりしちゃったし。しかし、玲子はこともなげに言うのです。「頼みに行けばいいのよ」「何を?」「大阪行きはイヤだって」。いや、そんな簡単にはいかないんじゃないんでしょうか。しかし、「あたしが保障してあげるわよ」と妙に自信ありげな玲子の気迫に押された吉岡は「分かったよ。じゃ、行ってくる」と重い腰をあげるのです。イヤだなあ。

さて、まゆみが銀座のショーウインドーを見つめていると、誰やら肩をポンポンと叩く男がいますよ。パッと振り返ると、そこにいたのは刑事の須藤(細川俊夫)じゃありませんか。どうやら、昨日のスリ事件を調べているようです。もちろん、証拠があれば逮捕するはずですし、こうやって探りを入れてくるってことは、まだまだ大丈夫ね。ということで、須藤刑事の警察手帳をスリ取って、からかってみたりするまゆみです。

はい、玲子は森川部長に会って脅迫中です。吉岡さんの転勤を取り消さないと、二人の関係をバラスわよ。ほほう、これだったんですね、玲子の自信の源は。しかし、部長も負けてはいません。「うん、ぼくが肯定すればね。だが、ぼくが否定して、君が普通のタイピストじゃなく、会社がある組織から雇っている接待用の特殊の女性だと発表したら、第三者がどっちの言うことを信用するかな」。えーと、説明くさい台詞ありがとうございました。っていうか、ええっ、何ですって。そんな秘密がっ。

まあ、発表したら浮気は否定できたとしても、部長だって会社の秘密をバラしたんですから馘。玲子だってマズイことに。しかも、事はたかだか平社員の転勤問題ですからね。ここで、こだわるのはお互いに損ってもんじゃないでしょうか。えーと。えーと。やめとく。うん、やめとこ。よかった、転勤話はウヤムヤになりそうです。

そんなことが起きているとは知らずに、部長の高級アパートに行ってみたりウロウロしている吉岡。しかし玲子は行動力抜群です。自らが所属しているクロッキークラブに乗り込んで、辞めたいと言い出しましたよ。ここは、名前のとおり、女性の裸体をクロッキー(速写。スケッチみたいなもん)するクラブですが、それは表向きの姿。実は、スケベなおじさんたちが、写生しつつ女の子を品定めして、ムフフなことを楽しむ売春組織なのでした。もちろん、それだけではありません。「じゃ、どうしても辞めさせないと言ったら」というボスに、言い返した玲子の言葉を聞いてみましょう。
「警視庁保安課へ無記名で当初一本出せば解決がつくでしょ。一流商社へ特殊な接待婦を提供する秘密組織、ビザール・クロッキークラブ。電話一本で、いつでも、何人でも素晴らしい美女がお相手します……なんて書いてね」。あっ、ボスがニヤリと笑っていますよ。これは、マズイ兆候かも。

やっぱり、そんなことが起きているとは知らずにウロウロしている吉岡。玲子のアパートに行ってみたところ、玲子が不在だったので、またも部長の高級アパートに逆戻りです。しかし、アパートのフロント女性が聞いているラジオが聞こえてきてビックリ仰天。なに、玲子が殺されたって。容疑者はその直前に、玲子の部屋の前でウロウロしていた男だって。さらに、森川部長が警察に出頭して、吉岡が犯人だと言っているって。えーと、吉岡って。……。うわーん、オレじゃん。

とりあえず、スタコラとその場を逃げ出す吉岡。と、逃げていたところまゆみに鉢合わせです。「君だな。君のためにぼくは」と腕をつかむ吉岡。「手、離してよ。みっともないじゃない。逃げないから大丈夫。ちょうどいいわ、自家用車で行きましょう。ヘーイ」。ヘーイじゃないよ、まったく。って言うか、呼び止めたのはパトカーじゃないですか。やっぱり、スタコラとその場を逃げ出す吉岡でした。

銀座の裏路地を、追いつ追われつする二人。「待って。鬼ごっこはもうたくさん」と言うまゆみに、立ち止まる吉岡。よし、警察はいないよな。えーと、盗んだもの返してくれよ。いいわ、でも二つだけ、条件が。とりあえず、ここじゃなんだから、どこかお店に入りましょ。ということで、二人は「バーばっかす」のカウンターに座るのです。

「じゃ、質問が二つ。あんた、あたしがポリを呼んだとき、なぜ逃げ出したの」「……」。まあ、答えにくい質問ですね。じゃあ、ということでスリ取った封筒から紙片を取り出すまゆみ。「なんなの、こんなもの大切がっているワケは」。えーと、真ん中にBの文字が大きくうかび、下にはクロッキー・クラブとNo18って書いてありますね。会員証でしょうか。「こんなものだったの」と逆に唖然とする吉岡。しかし、その会員証を見たバーテンが、いきなり態度を変えて「あのう、場所と時間をどうぞ」と慇懃に尋ねてきましたよ。こ、これは。

「サンライズホテル6号室。10時キッカリにして」「かしこまりました」。まゆみとバーテンの意味ありげなやりとりに、吉岡はワケが分かりません。「なんの真似だい、いったい」「うーん、分かんない。でも面白そうじゃない」。えーと、テキトーに言ってみただけみたいですね。「あたしのね、一番好きなのはスリル。それからハンサムな男の子」「ぼくのことかい」。なんか、ずっとボケーっとしているのに、ここだけはすばやいリアクションの吉岡がおかしいです。「うん、今んとこはね。じゃ、スリルの方、一緒にやってみようか」。れっつごー。

時計塔が10時を指しました。ノコノコやってきたコールガールを脅す二人。「さ、怪我をしないうちに、素直に答えなさい」。しかしコールガールは、クロッキークラブが売春組織であることは認めたものの、ボスの名前も知らないようです。ただ、そのコールガールは明日の朝、別のお客さんと会うようですから、そっち方面から手がかりがつかめるかもしれませんね。

「あーあ、君とこんな道草食ってる時じゃないんだ、ぼくは」とぼやいている吉岡は、自分が置かれている状況を包み隠さずにまゆみに告白しました。まゆみは「森川部長がクサイわね」とひとこと。ショボーン。吉岡はヘコんでいます。「元気お出しよ、キミ。明後日の7時の第一こだまに乗るはずだったのね。あたし、この事件解決して、きっとその汽車に乗せてあげる」。「だからさ、キミはさっきの"ばっかす"っていう酒場を当たってみたら」「それでキミは」「うん、明日の朝。うふっ、東京駅に行って、あの女の客に当たってみるわ」。

翌朝、まゆみは目印のウインキーちゃん(ダッコちゃん)を腕につけて東京駅に。そのまま、客と旅館にしけこむものの手がかりはまったく得られません。もっとも、スケベな客がお風呂に入っているあいだに、お財布を失敬したので、まったくムダではなかったようですけど。

一方、吉岡は"ばっかす"に。なんか手がかりはないかなあ。うーん。おやっ。店先に小さく「B」のバッチが張ってるじゃありませんか。こ、これは。銀座の裏路地を彷徨い、他にバッチをつけている店がないか探す吉岡。あ、ありました。ル・フランセスという喫茶店にもバッチがありましたよ。ゴリゴリ。ゴリゴリ。コッソリと鍵でバッチをはがし、店内で様子を伺う吉岡。案の定、バッチがないことに気づいたマネージャーがウエイトレス(池内淳子)になにやら話をしています。さりげなく別のウエイトレスから、そのウエイトレスが秋子という名前だと聞き出した吉岡は、早速秋子の尾行を開始。きっと、秋子はクロッキークラブに行って、新しいバッチを貰ってくるに違いないのだあ。……。……。見失ってしまいました。……。

手がかりをつかむのに失敗したまゆみは、銀座の場外馬券売り場に。おや、札束でポケットをパンパンにしている男がいますよ。むずむず。職業意識がうずきます。むずむず。むずむず。よし、いただいちゃえ。そぉーっとね。グィっ。うわっ、腕をねじ上げられちゃいました。それもそのはず、この男はただの男じゃありません。なんとクロッキークラブのボスだったのです。そのままクロッキークラブに連行されてしまうまゆみ。でも、これってラッキーなんじゃ。ボスは、まゆみをコールガールにしようとしているらしいので、ここは調子を合わせておいた方が良さそうですね。

「体、良さそうだな」「うっふーん。バスト99、ウエスト64、ヒップ99よ」。「外人好みだね」「国際的水準よ」「なるほど、お前さん、野郎泣かせのオッパイしてるね」。じゃあ味見、味見と手を出そうとするボスをバコーンと殴り飛ばして、「ダメっ。商品に手をつけるなんて、チンピラのやることよ」と啖呵をきるまゆみでした。しかし、このままじゃ体を売らなければいけなくなっちゃう。どうにか脱出しなくちゃ。しかし、チンピラががっちり見張っていて、とても逃げられそうにありません。困ったわ……。そうだ。画用紙に「新橋ビル四階のクロッキークラブにカンキンされています。これを拾った方は警察に知らせてください 小田まゆみ」と書いて、紙ヒコーキにして窓から飛ばすまゆみ。どうか、うまくいきますように。スーッ。紙ヒコーキは、屑屋のリヤカーの上にポトッ。リヤカーに乗っていた子供が、うれしそうに紙ヒコーキを見ています。飛ばすまねなんかしちゃったりして。おいおい。ダメです。紙を開いてみようという気はゼロの模様。

さて、秋子の尾行に失敗した吉岡は、しかたなく喫茶店を張っています。おや、秋子が帰ってきましたよ。入れ替わるように店の外に出てきて、クロッキークラブのバッチを取り付けているマネージャー。うわーん。やっぱり、秋子はクロッキークラブに行ってきたんだ。俺のバカ、バカ。仕方ありません。別の手を考えましょう。うーん。うーん。ユリイカっ。いいこと思いついた。持っている会員証を使って、会員のフリをする吉岡。クラブにピンハネされるのバカらしいじゃないかと、秋子を誘い出すことに成功です。あとは世間話を装って、クラブの場所やボスの名前などを聞き出せば完璧じゃないの。俺って頭いい。

なんと秋子から、玲子がクロッキークラブに勤めていたことも聞き出し、勇躍クロッキークラブに向かう吉岡。しかし、ホテルに呼び出して脅しつけたコールガールの口から、「会員番号18番」のカードが吉岡たちに渡っていることはバレバレだったのです。そんなことも知らずに会員証を自慢げに出した吉岡は、はい、捕まっちゃいました。芋づる式にまゆみも吉岡の仲間だとバレて、そのまま地下室に監禁。ピストルの銃口がギラリと光り、大ピーンチ。

とっさの機転で、「ねえ、やるにしてももう少し、後にしない。最終が1時半でしょ」と切り出すまゆみ。地下室で撃ったら、銃声が反響して外に聞こえるわよ。うーん、それもそうか、とボス。よし、じゃあ、終電が通って人気の無くなるまで生かしておいてやろう。

吉岡とまゆみは、背中合わせに椅子にグルグル巻きに縛られちゃいました。さあ、二人は脱出できるのでしょうか。「ね、ジッパーはずしてよ」とまゆみ。さすが、スリが本職、まゆみは、ちゃっかりボスから爪きりナイフをスリ取っていたのです。もぞもぞ、もぞもぞ。「女の子って、不思議なところにポケットがあるんだね」「スペッシャルよ。あん、少し横」、もぞもぞ、もぞもぞ。後ろ手でまゆみのズボンをまさぐる吉岡。あ、あった。ナイフだぁ。ポロっ。うわっ、吉岡はナイフを落としてます。つかえないヤツですねえ。「うーん、ついてないわ。しょうがない。行くわよ。ワン、ツー、スリー」、どってーん。椅子もろともひっくり返った二人は、ズリズリ移動して、どうにかナイフを拾ってロープを切ることに成功したのです。

時計塔は12時20分を指しています。「どうだい、指が自由に使えるようになった気分は」「はじめてエレベーターに乗ったときみたい」「なんだい、そりゃ」「フクザツよ」。さあ、それはともかく逃げなくちゃ。1階に続く階段は、見張りがいるでしょうし、どこか逃げ道はないものか。「こっちから出られるかもしれない」、地下室の奥へ奥へ進む二人。やった、ドアがあります。ここから出られそうですよ。「お父さんが錠前破り専門だったの」とゴソゴソ始めるまゆみ。さあ、鍵は開くのでしょうか。

空から降ってきた紙ヒコーキで遊んでいる子供。しかし、こんな夜中に道路で遊んでいると危ないよ。キキーッ。ほら、タクシーに轢かれそう。危機一髪の子供を助けたのは、刑事さんでした。さあ、どうなる、どうなる。そのまま、子供と紙ヒコーキで遊んでいた刑事さんが、ハッとした顔で紙ヒコーキを広げています。さあ、どうなる、どうなる。

時計塔が1時20分を指しています。鍵はまだ開きません。あきらめ気分の吉岡は言い出しました。「まゆみちゃん。ぼくはキミみたいないい子にあえて、人生悔いなしって感じだよ」「なにゴソゴソ言ってんの。気が散ってしょうがないじゃないの」。カリカリ、カリカリ。なかなか開きませんね。ドンガラガラ、グワッシャーン。吉岡はコケて、ものすごい音を立ててますよ。まったく使えないヤツです。

真剣なときの癖でしょうか。唇をかわいらしく突き出して鍵穴を探っているまゆみ。カチリ。「開いたわよ」。ギギーッ。錆付いたドアをあけると、そこは川。いえ、正確には川の埋め立て現場です。細く渡された道板を歩き出す二人。タイヘンです。敵が追ってきました。「ダメだ、下降りよう」、地下の工事現場に逃げる二人。ずんずん進むと、上りの階段が。やったあ。ちょうど警察車両が駆けつけてきました。あの刑事さんもいます。悪者たちは、そのまま捕まるのでした。

翌日の早朝。取調べを終えた二人が銀座四丁目の交差点に立っています。「これでやっと、こだまに間に合うわ」「ぼくをひとりで行かす気かい」「え、なんて言ったの、さっき聞こえなかったから、もういっぺん言って」「ぼくは同じことは二度言わない主義なんだ」。「もう知らない」と駆け出すまゆみ。「待てよぉ」、吉岡がまゆみを追いかけていきます。


全編をつらぬくジャズのビートに酔い、銀座の裏町を始めとする「盗み撮り」の迫力に圧倒されます。月並みな感想ですが、お洒落な映画としかいいようがありません。新東宝の末期ですから、予算もなかったんでしょう。苦肉の策ともいえるゲリラロケが、なんともいえない効果を生んだようです。

ハンサムなのに、どことなくマヌケな主人公をやらせたら天下一品の吉田輝雄。まあ、演技というより地なんでしょうが、これが最高にハマっています。

そして、なんといっても三原葉子のカワイサ。もちろん、この人より美人な女優さんはいくらでもいますが、新東宝いち、いえ日本の女優さんの中でも、この人の愛らしさは最高レベルでしょう。演技の背後に、性格の良さと、一生懸命さがにじみ出ています。その点で、今回の役どころは、三原葉子のカワイサを余すところなく引き出しました。

ともあれ、色々な要素が、偶然にも完璧にかみ合い、奇跡的な映画ができたようです。







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【映画】零戦燃ゆ

2008-10-29 18:19:50 | 邦画 さ行
【「零戦燃ゆ」舛田利雄 1984】を観ました



おはなし
世界に冠絶した完成度を誇った零戦。しかし、徐々に旧式化していき……。

柳田邦男の原作を、笠原和夫が脚本化したものです。さすがに調査魔の笠原和夫だけあって、零戦の発進シーンなどは、かなり細かく書き込まれています。もっとも、それでもかなりカットされたらしく、舛田監督にぶーぶー不満をもらしていますけど。

夜中の飛行場。居並ぶ零戦にとりついて点検に余念のない整備兵たち。ブー。搭乗員起こしのブザーが鳴り、興奮で寝られなかっただろう搭乗員たちが、次々飛び出していきます。「台湾 高雄基地 午前三時」、整備員たちの手によって、一斉に零戦のエンジンが始動しました。轟々と響く爆音。全開テストも問題ないようです。増槽をつけ、20ミリの60発ドラムをガチャっと取り付ける整備兵たち。いっぽう、搭乗員たちは、おにぎりをほお張り、別杯をかわし、さあ出撃です。時間の整合をし、「かかれ」の合図。浜田正一(堤大二郎)は、三舵の点検をしたあと、友人の整備員、水島(橋爪淳)と笑顔をかわしました。「頼むぞ」「まかしとけ」。

操縦席に乗り込んだ浜田は、さっそく三舵の動きを確認して、命じます。「イナーシャ回せー」。整備兵が二人がかりで、イナーシャの重いハンドルを回しはじめます。「前、離れー」「前よろし」。「コンタクト!」。ズドドド。零戦の栄一二型エンジンが唸り始めました。

スルスルと列線に並んだ零戦たちは、轟音とともに、一機、また一機と飛び立っていきます。朝焼けの空を進撃していく零戦。OPLのスイッチを入れ、照準器の具合を確認します。そして機銃の試射です。まずは、7.7ミリ。タタタタタ。そして20ミリ。ドドドド。ここまで、やってようやく、操縦員たちは、一息ついて、これから始まる戦いに、思いを馳せるのです。

って、ここまで書いたことは、興味のない人にとっては、どーでもいいこと。「零戦が台湾から飛び立った」で、いいじゃんと思われそうです。しかし、ここにこそ、この映画の真髄があります。というか、笠原和夫脚本の真髄、といったほうが正確かもしれません。

「昭和十六年十二月八日 太平洋戦争 開戦第一日」、零戦と一式陸攻からなる戦爆連合が一斉にフィリピンにある米軍基地に襲い掛かりました。迎撃にあたったカーチスP40なんて、あっさり撃破です。しかし、マッカーサー将軍は、事実を認めることができません。参謀長に「シェンノート将軍のレポートをご存知ですか」(中国にいた合衆国義勇軍「フライイングタイガース」の親玉)と、言われても、まさか日本軍が高性能機を持っているだなんて、信じられないのです。「デタラメだ。自動車も満足に作れん日本人に、航続距離の長い戦闘機が作れるはずがない」。まあ、そうはいっても、実際にやってきちゃった日本軍。実際に落ちてきちゃった爆弾。そして機銃掃射。まあ、そういうことです。

さて、お話はいきなり戻って、昭和14年。二人の水兵が夜の町を走っています。浜田と水島です。「おい、ホントに脱柵(脱走のこと)するつもりなのか」とビビっている水島に、浜田は言います。牛みたいに殴られているのはマッピラだ。おまえ、怖いのか。えーと、そりゃまあ怖いです。と、いきなりやってきたサイドカーから、「待てっ。こんな時間に何をしとる。官姓名を名乗れ」と声がかかりました。ギクッ。タイヘンです、相手は海軍大尉みたいですよ。「横須賀海兵団、第18分隊、海軍四等航空兵、浜田正一であります」「同じく、海軍四等航空兵、水島国夫であります」。背中に鉄の棒でも入れられたように、直立不動で申告をする二人。しかし、海軍大尉(加山雄三)は、「初めての外出で、帰る道が分からなくなったのか」と、意外と優しい感じです。「俺は横須賀航空隊の下川大尉だ。道を教えてやるからついてこい」。

つれてこられたのは格納庫。そこには、ジュラルミンの地金の銀色もまぶしい、ピカピカの戦闘機が静かに羽を休めていました。見たこともない戦闘機に、口をアングリ開けている二人。下川大尉は愉快そうに言います。「ハハハ、お前たちは初めてだろ。これは、わが海軍が近々、正式採用することになっておる新型の戦闘機だ。来年は我国の皇紀2600年にあたるので、その末尾のゼロをとって、零式艦上戦闘機と呼ぶことになっておる」。超々ジュラルミンでできた全金属製。1000馬力のエンジン。500キロを越える速度。引き込み脚。そして、20ミリ機銃の凄さ。しかし、そんな説明は、二人の耳に入っていません。ただただ、その零戦の美しいたたずまいに圧倒されていたのです。

「お前たちが、何を考えながら夜道をうろついておったのか分かっておる」。ガーン。いきなり現実に引き戻される二人。そうだった。脱走しようとしていたんだった。もし、下川大尉がコトを荒立てたら、二人は身の破滅です。しかし、下川大尉は言います。「よーく、聞け。今のお前たちの身分で月給いくらもらえるか知っておるか。四等水兵の月給は5円60銭だ。この零式戦は一機、5万5千円する。お前たちの月給だと880年、働きづめに働かないと、こいつは買えないワケだ」。ポンポンと浜田の肩をたたく下川大尉。「しかしだ。お前たちが、ここ一二年辛抱すれば、国がお前たちに、この零式戦の新品を一機ずつ、黙ってタダでくれるのだ。どうだ、欲しくはないか」。そりゃ欲しいに決まってます。零戦を欲しがらない男の子が、この世に存在するでしょうか。しかし、二人は気づいていません。零戦を手に入れる代償は、5万5千円なんかではなくて、まさに命そのものだということに。「こいつに乗って、田舎の空、飛んでみてえな」とつぶやく浜田。水島も言います。「海兵団に戻ろう。なっ、浜田」。

適性検査の結果、浜田はパイロットに。そして、水島は整備に回されることになりました。猛訓練が続きます。そして、2年経った「昭和十六年四月」、二人は久々に再会したのです。二人の目的はひとつ。かつてお世話になった下川大尉にお礼がてら、今の自分たちを見てもらいたい、それだけです。おう、と優しく迎えてくれた下川大尉。しかし、今はちょっと時間が取れないんだ、とのお言葉です。というのも、零戦には、補助翼のタブバランスが起こすフラッターという厄介な症状があり、これからテストで飛ばなくてはならないのです。

やはりテストパイロットの小福田大尉(あおい輝彦)や、浜田、水島が見守る中、下川大尉の零戦は蒼穹に舞い上がっていきました。高度2千からの急降下。急激なGの変化に、下川大尉は失神しそうになりながらも機体を引き起こします。そして、もう一度。「下川さん、無理しないでください」という小福田の声が、無線で聞こえたのかどうか。最再度、急降下をした下川大尉の零戦は、補助翼が吹き飛び、キリモミ状態になって海に突っ込むのでした。

早速、設計主務の堀越次郎(北大路欣也)や、副主務の曽根嘉年(大門正明)たちは、風洞実験を始めました。確かに、補助翼のフラッターは深刻です。しかし、欧米の飛行機に比べ、ギリギリまで軽量化を進めた零戦にとって、強度不足は宿命だったようです。食って掛かる浜田に、堀越は言います。「先進国の欧米に比べたら、国産機はエンジンひとつ取ってみても、まだまだ力不足です。特にアメリカと戦争にでもなったら……」。

はい、戦争中です。真珠湾で、南の島々で、そして南方資源地帯で、零戦はP39、スピットファイア、F4Fといったライバルたちを叩き落しています。しかし、そこに登場したのが、空の要塞B17でした。いくら銃弾を叩き込んでも落ちないB17。業を煮やした浜田は、ギリギリまで接近して、自らの翼で相手の尾翼を叩き切ったのです。

フラフラとした姿勢で降りてくる零戦。隊長・宮野善治郎(目黒祐樹)の「体当たりしたんか」という質問に、「いえ、避け損なってぶつかっただけであります」と元気に答える浜田。宮野は笑って、「これから気をつけろ」と言うだけでしたが、しかし、問題は別のところにあったのです。

それは墜落したB17の防弾板をテストしてみたところ、一目瞭然に明らかになりました。なにしろ零戦の誇る20ミリの九九式一号銃では、防弾板を撃ち抜けないのです。「これじゃ落ちんな。かすり傷しか、付いとらんやないか」と嘆息する宮野です。と、「緊急ちゃくりーく」と声が響きます。どうやら、負傷した搭乗員が着陸してくるようです。滑走路を猛然と走り出すトラック。って、これはサニー。サニートラックじゃありませんか。戦前に、こんなものがあるかあ。まあ、いいや。ともあれ、ほとんど墜落と大差ない着陸をした零戦に、みんなが駆け寄ってみると、搭乗員はすでに絶命していました。「ペラペラの紙みたい」な防御版は、搭乗員の命を守らなかったのです。

ミッドウェイで大敗した日本軍は、大量の機体と、そしてなにより大切なベテラン搭乗員を数多く失いました。ここ、海軍航空本部では緊急の対策会議が行われています。飛行機が足りない、と文句を言う参謀たちに、小福田大尉は発言します。今は防弾板の充実など、搭乗員の生命を守る方策が必要じゃないんでしょうか。しかし、空技廠担当官(森次晃嗣)も、航空本部の担当官(中山昭二)も否定的です。というか、ここは絶対に狙ってますね。セブンとキリヤマ隊長を出してくるなんて、嬉しすぎです。ともあれ、結局のところは、軍令部参謀(神山繁)の鶴の一声で会議は終わりました。「防御など気にすることはない。攻撃こそ最大の防御だ。アメリカは個人主義の国だから、消極的な防御力に頼っているだけだ。こっちには大和魂があるじゃないか。攻撃力を犠牲にしてまで、余計な改修などする必要はない」。

さて、たまたま内地に帰ってきた水島は、自転車のチェーンがはずれて困っている少女を見つけ、助けてあげました。そして、曽根技師や、東条輝雄技師(宅麻伸)と意見を交換している時にも、その少女・吉川静子(早見優)と再会。もう運命感じちゃいます。ま、それはそうとして、天下の三菱の技師と、堂々と論じ合う若い下士官っていうのも、かなり設定としてはスゴイと思うんですが。

ま、それはともあれ、静子(しーちゃん)にひと目惚れした水島は、やっぱり内地に帰っていた浜田に頼み、零戦の曲芸飛行をみせてあげることに。すっかり大喜びのしーちゃんの笑顔には、水島も癒されちゃうのです。

なんて、楽しい時も夢のように過ぎ去り、二人はまた最前線に。ガダルカナル島を巡る日米の戦いは、ラバウルの海軍航空隊を消耗させ、ソロモン海をまさに零戦の墓場にしていきました。というか、ハッキリ言って、日本はジリ貧になりつつあります。そんな中、前線激励のために、山本五十六長官(丹波哲郎)がラバウルを訪れます。浜田たちが食べていたウミガメスープに舌鼓をうつなど、気さくなおじさんの山本は、そのまま、さらに前線のブインに視察に行くことに。えーと、ラバウルまででも危ないのに、やめてくださいよ長官。護衛はいらないと言い出した山本に、どうにか納得してもらって、わずか6機の零戦が護衛につくことになりました。もちろん、その中にはエースの浜田も入っています。

ブーン。うわっ、敵機だ。なんと暗号を解読していた米軍は、双発双胴の悪魔P38を送り込んできたのです。奮闘する浜田たちですが、衆寡敵せず。哀れ、山本長官の乗った一式陸攻はブーゲンビル島に墜落していくのでした。

長官を守れなかったと、暗い顔の零戦搭乗員たち。そんなみんなに、浜田は言います。「長官への詫びは、俺たちが明日も明後日も生き残って、一機でも多く敵機を撃墜することだけです。他に何がありますかっ」。「浜田の言うとおりや」と宮野隊長。「ただし、海軍には海軍の伝統がある。出処進退の伝統いうもんがな。誰も何も言わんが、俺たちの進むべき道は、ハッキリ決まっとる。生きている限り、内地の土は踏めんという覚悟だけは決めておけ」。ますます、ドヨーンとする搭乗員たちです。

それからは連日の出撃。サニートラックも、ますます元気に走りまわっていますよ。そして櫛が欠けるように、死んでいく仲間たち。もちろん、死んでいくのは零戦搭乗員だけではありません。一式陸攻の搭乗員たちは、火の吹いた機体から、悲しそうにこちらを見て死んでいきます。逆に、零戦が庇ったおかげで助かった一式陸攻の搭乗員たちは、悲しそうに墜落する零戦を見送ります。まあ、いずれにしても一式陸攻に乗っている搭乗員たちは、なんだかやるせない気分いっぱいのようです。

そんな中、まずは水島が負傷して内地に帰り、そして浜田もF4Uコルセアとの戦闘中、大火傷を負って内地に帰ることになりました。水島の方は怪我も軽傷で、そのまま内地の小福田のもとで働くことになりラッキーです。なにより、しーちゃんと再会できたので、ルンルン気分がスロットル全開な雰囲気。

一方、浜田の方はひどい火傷で、もう二度と飛べない体になってしまいました。傷心のまま実家に帰る浜田。しかし、貧乏なお母さん(南田洋子)を見ていると、とても、ここで厄介にはなれません。それに、そもそも、ここは俺のいる場所じゃない。俺のいる場所は空なんだ。浜田は懸命にリハビリに励むことにしました。

水島、浜田、しーちゃんの夢のような日々が始まりました。戦時中、楽しいことの少ない青春が、つかの間燃え上がった瞬間でもあります。三人一緒に、自転車をこいで、ただもう楽しく笑っている。たった、それだけのことでも、彼らにとってはかけがえのない時間なのです。

リハビリを終え、前線に戻るという浜田。水島としては、どうして内地で教官にならないんだ、なんで前線に戻りたいんだ、と不思議でたまりません。きっと、結婚でもすれば浜田の考えも変わるんじゃないか。そう思った水島は、一計を案じて、しーちゃんと浜田をくっつけようとするのですが、浜田はそれにのらず、そのまま前線に戻っていくのでした。

サイパン、テニアンが失陥しました。米軍がフィリピンに上陸を開始します。さらには特攻が始まり、B29は本土を爆撃。菊水作戦で大和は轟沈。日本は急坂を転げ落ちるように敗戦への道をまっしぐらです。しかし、そんな中、浜田は不死身の戦いを続けていました。そして、再び、水島と再会したのです。補充機を取りに来たと笑っている浜田に水島は言います。「お前、まだ零戦に乗るつもりなのか。あいつじゃもうB公(B29のこと)もグラマンも落とせんぞ。紫電改なら太刀打ちできるだろうが」。「バカ。ここが違うよ、ここが」と腕を叩いてみせる浜田。「ヘタクソなジャク(若年搭乗員)が零戦に乗ったら、たちまち棺おけだがな。第一、この期に及んで零戦を見捨てたんじゃ、下川大尉に会わせる顔がねえよ」。

自然と、二人の話は、しーちゃんのことに。こんな火傷だらけの男に惚れる女はいない、と言う浜田。「あの人は、お前がしっかり捕まえていてやれ」。怒る水島ですが、浜田の屈託のない笑顔を見ると、何も言えなくなってしまうのです。

と、しーちゃんこと静子は、三菱の工場にいます。折からの空襲で、工場は疎開することになったので、九州にいる浜田を追いかけていくつもりです。結局、しーちゃんは水島ではなく浜田を選んだようです。曽根技師に祝福されるしーちゃん。しかし、突然の空襲で、しーちゃんは爆死です。

九州の築城基地では、連日の邀撃戦闘が行われています。浜田も、非力な零戦で立ち向かっています。高空の薄い空気の中、なかば失神しながらの背面急降下。ぶつかる直前まで接近して20ミリの連射。やった、落ちました。しかし、基地に降りると、すぐにまた敵襲が。「発進急げ」の命令に、「まわせー」と愛機に駆け寄る搭乗員たち。いかん、敵はすぐそこです。これでは間に合わない。「発進中止」「発進中止」「搭乗員たいひー」、命令が変わり、バラバラと退避壕に駆け込む搭乗員たち。しかし、浜田はただ一人、離陸しました。敵は大馬力のF6F。相手にとって不足はありません。速度の乗らない状態で、すれ違いざまに一機撃墜する浜田。しかし、浜田にできるのはここまででした。大量の機銃弾が浴びせかけられ、浜田はズタズタになって機上で死んだのです。

第5航空艦隊の宇垣纏中将(加藤武)が、感状を読んでいます。個人撃墜70機、共同撃墜40機。母の前で、浜田の功績が称えられ、そして「よって、ここにその殊勲を認め、全軍に布告する」だそうです。お母さんは泣き崩れ、そして帰りの汽車の中、鉄橋の下で無心に遊ぶ子供たちを見たとき、また涙するのでした。

そして迎えた8月15日。プロペラを外された零戦が、一機、また一機と整備兵に運ばれていきます。もはや、飛ぶ力を失った零戦たちです。そんな有様を見ていた水島は、小福田に直訴することにしました。「小福田少佐。お願いがあるんですが、零戦を一機いただきたいんです」。なにっ、と目をむく小福田に、水島は続けます。「私の手で最後を飾ってやりたいんです。あいつが、あんな古道具みたいに処分されたんじゃ、あいつに乗って死んでいったやつら。浜田のやつだって、泣くにも泣けんでしょ。最後くらいは使い捨てじゃないと言って、逝かせてやりたいんです」・

ブロロロロ。エンジン音を轟々と立てている零戦。燃料コックを開き、水島は機関銃を撃ちました。ボッとガソリンが引火します。メラメラ。炎が零戦をおおっていきます。主翼が火に包まれ、エンジンカウルにも火が回りました。水島、小福田、そして整備兵たちが泣きながら敬礼するなか、零戦は、死にたくない、まだ空を飛びたい、と訴えるかのようにプロペラを回し続けるのです。


この映画のために零戦のレプリカが作られたそうです。それも三菱で。ということは、ある意味、ホンモノと言っても差し支えないかもしれません。そのため、冒頭の発進準備シーンなどは、とてもリアル。一方、空中戦などは、過去作品の流用らしく、かなりチープ。このギャップがものすごいです。とは言え、イナーシャを回したり、20ミリのドラム弾倉を装着するシーンなど見所も多く、かなりの満足度でした。

堤大二郎が演じる浜田正一は、杉田庄一という実際の人物がモデルになっています。実際に70機撃墜の戦果を誇り、最後は離陸中止命令を無視して離陸、被撃墜というところまで同じです。もっとも、杉田さんは、最後は紫電改に乗っていたそうで、それだと「零戦燃ゆ」にならないので、架空の人物ということにしたんでしょう。それにしても堤大二郎は、いかにもヤンチャなパイロットという感じがよく出ていました。俳優としてウマイヘタの部分はともかく、浜田正一という人物になりきっていたように思います。

一方、しーちゃんこと早見優。えーと、初々しいですね。もっとも、ぼくは同い年なので、リアルタイムのアイドルだったイメージが強くて、イマイチ評価が甘くなるんですけど。まったく早見優を知らない人からしたら、「なんだこりゃ」という演技かもしれません。

映画としては、ポイントはただ二つ。三人の若者の青春ストーリーという側面と、プロジェクトX、零戦版の側面です。前者は、ジャニーズの映画を多く手がけた舛田監督が得意とするところ。後者は笠原和夫という脚本家の得意とするところ。結果、それぞれの、持ち味がうまく出て、良かったんじゃないかなあ、と思うんですが。

ちなみに、浜田のお母さんが、鉄橋下の川で遊んでいる子供を見て、涙するシーン。これは笠原和夫が、実際に杉田さんのお母さんに会って聞いた実話だそうです。しかし、舛田監督は、お葬式でお母さんに泣かせてしまった。そうじゃない、それじゃダメなんだ。葬式からしばらくして、ふっと無心に遊ぶ子供たちを見て、泣くのがキモなんだと笠原和夫は怒っています。その著書で「本当にお前はバカか」と舛田監督に言ったとまで、書いています。一方、舛田監督の本では、わざわざ、そのことに触れ、「でも、そんな話は本人からは、いっぺんも聞いたことなかったけどね」だそうです。

まあ、娯楽映画の巨匠と、脚本界の大御所。言ってることは、正反対ですが、これでいいんだと思います。とにもかくにも、それだけアツクなるくらい、映画が好きだという証明ですから。







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【映画】地獄(1979)

2008-10-20 18:23:28 | 邦画 さ行
【「地獄」神代辰巳 1979】を観ました



おはなし
姦通の罪で地獄に堕ちたミホ(原田美枝子)の娘、アキ(原田美枝子)。彼女もまた、近親相姦の罪で地獄に真っ逆さま。

「地獄」というと、中川信夫監督版、石井輝男監督版も存在するわけですが、なんていうか、そのテーマが映画監督のイマジネーションを怪しく刺激しちゃうんでしょうか。とにかく、全開バリバリな怒涛の展開に、唖然とするばかりです。

「人はいつか死なねばならぬ。死に至るまでに多くの罪を犯す。法の裁きは仮の罰となる。死後の世界そのものが、真の刑罰として存在するのではないかと、人々は何千年もの長きにわたって夢想してきた。それが地獄である。地獄は恐怖の夢である。人は今も地獄を道連れにして生きているのだ」。地獄絵を映し出しつつ、そんなナレーションが語られます。語っているのは、天本英世。って、その段階で怖いんですけど。

「昭和30年」、山崎ハコの歌をバックに、手に手を取って逃げている二人の男女が映し出されました。お腹の大きな女は生形ミホ(原田美枝子)。そして男は生形竜造(西田健)です。ミホにとって竜造はダンナのお兄さん。つまり、二人は不倫の果てに子供ができてしまい、こうして道無き道を逃げているのです。

「あの人が追ってくる。殺される、私たち」と心配するミホに、「大丈夫だよ。誰も山越えなんかすると思っちゃいない」と宥めすかして、山小屋に逃げ込んだ竜造。しかし、全然、大丈夫じゃなかったようです。いきなり踊りこんできた雲平(田中邦衛)が猟銃をぶっ放し、さらには猟銃を棍棒代わりに竜造をボッコボコ。哀れ、竜造は撲殺されてしまうのでした。ひぃー。小屋を逃げ出したミホですが、いきなり獣罠(トラバサミ)に足をバックリと挟まれてしまいました。なにしろ、大型のトラバサミは人の足の骨だってくだいてしまうくらい強力ですからね。これは痛い。ついでに追いかけてきた雲平に腹を足蹴にされ、これまた痛い。「腹の子は兄貴の胤だ」と腹をグリグリされたミホは、そのまま雲平に見捨てられ、野垂れ死にを待つしかないようです。

家に戻った雲平は、竜造の妻のシマ(岸田今日子)に報告です。「ミホは獣罠にかかったまま死にかけてる。朝まで持つまい」。しかし、「殺さなかったの」とシマは不満げ。早速、死にかけてるミホを見物に出かけます。いるいる。ミホが死にかけてます。「許して、子供だけは」と哀願するミホに、「地獄で産めばいい」と悪態をついたシマは嬉しそうに去っていくのでした。

ここからが最初の驚愕シーン。「ミホさんがいたぞー」「見つかったぞー」。ワラワラと村人たちがやってきました。時既に遅し。ミホはすでに死んでいるようです。しかし、股がぐぐぅっと開き、羊水があふれ出し、赤ん坊が股間からせり出してきました。オンギャア。そして、赤ん坊を残したまま、ミホの死体がスルスルと滑り出しましたよ。それも坂の上の方に。そのままミホの死体は断崖絶壁からジャーンプ。まるで、鳴門の渦潮みたいなところに、ドンドンと落ちていくのです。

はい、ここは地獄です。正確に言うと、三途の川と賽の河原なので、まだ冥途になりますけどね。そこには、懸衣翁(浜村純)と懸衣嫗(毛利菊枝)が、ミホを待ち構えていました。衣領樹という、罪の重さを測る樹に、ミホの着物を引っかけてみます。ぐぃー。うわっ、思いっきりしなっていますよ。うわーん。これだけ衣が重いと、ミホの地獄行きは間違い無さそうですよ。ぽわわーん。空のスクリーンに、現世の光景が映し出されました。ミホに懸衣翁が言います。「生まれながらに地獄を背負った赤子の生き様、見届けるのだっ」。

ということで、赤ちゃんは、村人の手によって、生形の屋敷に運ばれました。「まさか、死人から子供が生まれるなんて」と愕然としているシマ。シマの幼い二人の息子は、母の愕然っぷりをよそに、突然の妹出現に大喜びです。え、雲平ですか。雲平は「似てる。ミホに似てる」と言いながら、横でゲロを吐いていますよ。しかし、連れてこられた以上、いりません、とは言えずに赤ん坊を引き取るシマ。しかし、見れば見るほどムカツキます。赤ん坊のお尻にある、赤い牡丹の痣も気に入りません。いっそ、このまま風呂に沈めてやろうかしら。そぉーっと。と、いきなり風呂の窓から使用人の山尾(加藤嘉)が顔を出しました。「いけません、奥様。それでなくても村の連中は奥様が赤ん坊をどんな具合に育てるか、面白がって見物してるんだ。その赤ん坊が風呂の中で溺れ死んだりしたら、みんな何て言いますかね」。この山尾というのは、とても気の利く召使というか、悪人なので、背中の駕籠に、ちゃんと身代わり用の赤ん坊を運んできていたのです。持つべきものは、加藤嘉ですね、まったく。じゃあ、赤ん坊をすりかえて、ミホの子供はどこかに捨てておきましょう。

「20年後」。いきなりですが、ここは鈴鹿サーキット。今しもフォーミュラ選手権が始まろうとしています。ここに出場するのは、水沼アキ(原田美枝子 二役)や、生形松男(石橋蓮司)といった面々。もちろん、もうお分かりですよね。アキは、ミホの子供が大きくなったもの。松男は、シマの息子のお兄さんの方です。さあ、因縁の対決、いったいどうなるでしょうか。ブオンブオン。排気音が高まり、レース開始。周回遅れのアキのマシンに、「どけえ。一周遅れ」と怒鳴り、抜きにかかる松男のマシン。しかし、その時、どこからか「アキィ。アキィー」と不気味な声が響いたかと思うと、いきなり白い霧が立ち込めてきちゃいましたよ。あっ、デカいミホが登場しました。その上、アキのマシンのノーズに、(多分)ミホの生首がチョコンと乗っています。うわーん。接触したアキの松男のマシンは、そのまま爆発するのでした。それも、かなりいいイキオイの大爆破です。

事故のショックを癒すために、ローカル線に乗って、センチメンタルジャーニーなんかしちゃっているアキ。しかし、デッキで外を見ていたところ、いきなり「アキィ。アキィー」と不気味な声が再び聞こえてきましたよ。ガタン。いきなりドアが開いて、外に転げ落ちそうになるアキ。ウギャーッ。しかし、捨てる神あれば拾う神があるもので、列車にぶらさがって絶叫するアキの声を聞いたハンサムな青年が走ってきて、落ちそうになっているアキを救ってくれたのでした。

行く当てのないアキを、自分の出身地に誘ってくれたハンサム青年。名前を生形幸男(林隆三)と言います。もちろん、シマの息子で、松男の弟だったりするのは、言うまでもありません。

都会での生活に疲れ生形村に戻ってきた幸男を、喜んで迎えるシマですが、連れてきた娘の顔を見てビックリ。まるでミホに生き写しじゃありませんか。まあ、一人二役だから当然ですけどね。その上、幸男とアキはいきなりイチャついているので、怒りすら覚えちゃいます。ど、どういうこと。早速、入浴中のアキの裸をノゾキ見る、忠実な使用人の山尾。おお、あるある。お尻に見事な牡丹の形をした痣が。「説明して、どういうことなの」と山尾に食って掛かるシマ。「まさか、お前が呼んだんじゃないでしょうね」。「そんな。私は奥様のためを思って、赤ん坊を取り替えて、東京の養護施設に預けてきたんですぜ。しかも、こっちの身元も何も明かしちゃいねえんです」とベランメエな口を聞く山尾ですが、なんだろうなあ。ベランメエ口調で、やたらと風呂場を、あの黒目がちの目でウルウル覗いている加藤嘉っていうのが、とりあえずオカシクてたまらない気分です。

ま、加藤嘉の子犬のような目付きは横に置いて、シマはアキが村から出て行くように、山尾に命じました。「村には若い者が大勢います。精力を持て余した若い男がね」と言って、ニヤリと笑う山尾。うーん、やっぱり、加藤嘉には似合ってない。

さて、生形村の名物と言えば、笠卒塔婆と金輪。よく分かりませんけど、卒塔婆の真ん中に、鉄の回転する輪っかがついているものです。で、この金輪と呼ばれる鉄の輪っかを回して、そのまま止まれば良し、逆回転を始めると、その人は地獄に落ちるそうなのです。なんか、よく分からないけど怖いですねえ。ぞろりとした母の形見の着物を着て、墓場に行き、その金輪の回転にチャレンジしてみるアキ。止めとけばいいのに。案の定、金輪は思いっきり逆回転です。ぎゃあー、と叫ぶアキ。ついでに地面までがグラグラ。うわっ、地震です。あれー。崖から落ちたアキは、たまたま首に巻いていた包帯で、宙ぶらりんになってしまうのです。首が絞まり、クラクラするアキ。鳴門の渦潮な地獄の入り口が見えてきちゃいましたよ。遥か下方の地獄では、針山地獄にいる母のミホが叫んでいます。「アキィー。私は雲平に殺されたのよぉー(ちょっと違う、見捨てられただけ)」「アキィー。私をこんな目に合わせたのはシマよぉー(いや、自業自得)」「アキィー。よくお聞き。お前は私の分も生きるのよぉー。私の恨みを受け継ぐのよー」。

はっ。気がつくとアキは、小屋に横たわっていました。横には大事故以来、久々に再会した松男が「大丈夫か。また会ったな」と心配しています。はあはあ。いきなり喘ぎ始めたアキは、「早く抱いて。骨が軋むほどに」と松男にむしゃぶりつくのです。いったい、何事が。

はっ。もう一回、目覚めたアキ。「どこなの」とか寝ぼけたことを言っていますよ。そして、自分の体の異変というか、情事の名残に気づいた様子です。「あたし、何てことを。あたし、どうしたんだろう」と言うアキに、「首つってたんだよ。ガケっぷちで」と極めて冷静な松男。とりあえず、「地すべりがして、地獄を見たんだわ」とアキは、自分の世界に没頭しちゃうのです。

そのまま松男につれられ、生形の屋敷に帰るアキ。幸男は、アキと松男の間になにかあったんじゃないかとイライラ。シマは、またも帰ってきたアキに、「汚い」と言い捨てムカムカ。そして、アキの代わりに娘として育てられた久美(栗田ひろみ)は、大好きなお兄ちゃん(幸男の方)がアキに取られそうでツンツンです。

そんな久美にアキは言い出しました。シマに借りていた着物がミホの形見だったこと。そして、袂に入っていたお守りを落としてしまったことをです。「お守りは久美さんが探してくださいね」。そう、あなたが本当にミホの「実の娘」なら、あなたがミホの着物を着て、ミホのお守りを探さなければならない。まあ、よく分からないリクツですが、負けじ魂で、着物を着て出かける久美。しかし、そこには山尾こと加藤嘉が手配した、村の「精力を持て余した若い男」たちが、精力マックスで待ち構えていたのです。わっしょい、わっしょい。顔に布切れをかぶせ、お神輿のように久美を担いでいって、レイプする村の精力あふれる若い男たち。かわいそうに、さっきまでアキが着ていた着物で出歩いたため、久美はズタボロにされてしまうのでした。ちょっと、展開が強引すぎるような気が、しないでもないんですけど。

廃人のようになった久美の頭をナデながら、「久美はうちの子よ。赤ん坊の時から育てた娘なのよ。百倍にして、あの女に返してやるわ」と気合を入れているシマ。さあ、だんだん怖くなってきましたね。

さて、タタリを恐れて、人里離れたところにポツンと一つだけ建てられたミホのお墓。そこに、アキはやってきました。おっと、たまたま通りがかった尼さん(佐藤友美 特別出演)が、「ミホさんのお墓です」とか、案内を始めましたよ。それを聞いて、卒塔婆についた金輪をそっと回してみるアキ。「信じておいでですか。カネの輪を回して、止まれば極楽。もし逆に回ったら地獄」と尼さんが言っている側から、ものすごいイキオイで逆回転を始める金輪。止めようとしたアキの手から血しぶきが飛ぶほどのイキオイです。ごごー。

思わず、ちょっとビビル尼さん。アキが言い出しました。「私には地獄が見えるんです。血のつながった兄を愛して、愛してもいない別の兄と、男と女の交わりをしたり。地獄に落ちないんですか。地獄に落ちないんですかああああぁぁぁぁー」。そのあまりの迫力に、完全にビビって、尼さんはスタコラ逃げ出しちゃいました。「分かったわ、母さん」と言いつつ、猛回転する金輪をパシッと止めたアキ。「救いなんて、ありゃしないってことが」。

開き直ったアキは、幸男を誘うことにしました。イヤイヤと言いつつ横たわれば、あっけないほど簡単に、幸男は欲情しちゃったみたいです。と、そこに久美が棍棒を持って乱入。ドカスカ。二人を殴り始めましたよ。もう、完全に瞳孔が開ききっています。「殺してやる、殺してやる」と殴りかかってくる久美に、さすがに辟易した二人は川に逃げ出し、そこでイチャイチャ。さらに、カットが変わると、いきなり滝つぼで、裸になって抱き合っていたりするのです。しかし、そんな二人を、遠くからグワーッと久美が睨んでいたりするので、物騒でしかたありません。とりあえず、「久美さんが見てる。今夜来てっ。離れで。約束して」と幸男と約束をして、アキはその場を去るのでした。

さて、シマに呼び出されたアキは、蔵に出かけました。「ミホさんの形見を見せてあげようと思って」と三味線を取り出すシマ。「ミホさん、温泉を流れて歩く女芸人でね。この辺にやってきたのは、あなたの生まれる三年前」と語りだすシマ。アキの写真を見せつつ、罵詈雑言の嵐です。思わず髪を掻き毟りながら、それを聞いているアキ。「母親だけ見せたんじゃ不公平ね。父親も見せてあげなくちゃね」と言って、床下をあけるシマ。なんと、床下には大きな地下室があるじゃありませんか。とりゃっ。アキを突き落とすシマ。「竜造は?父親はどこっ」「そこよ」。ふぎゃー。なんと、そこにはミイラ化した竜造がいるのでした。「体の中は防腐剤でいっぱーい。だけど、こうしておけば、いつまでたっても、私だけの竜造。もう浮気も駆落ちもできやしない」と言いながら、クスクス笑い出したシマは、三味線を地下室に投げ捨てるのでした。岸田今日子ちょっと怖すぎ。

一方、約束の時間になっても離れにやってこないアキを、ぼけーっと待っている幸男。と、そこに松男がやってきました。寝転がっている幸男にまたがり、「どこが気に入ったんだよ。体か」と、腰をグラインドしたりしてますよ。さすがに石橋蓮司に、そんなことされても嬉しくともなんともないので、パンチを繰り出す幸男。そのまま、拳と拳で語り合う兄弟げんかの始まりです。ドカッ。ボコッ。バシッ。あ、シマがやってきて、絶叫しています。「やめなさい。やめて、久美がかえってこないのよー」。「匂う、匂う」と言うシマにくっ付いていく兄弟二人。陶芸用の窯にやってきた三人は、ドッカン、ドッカンと窯を壊し始めます。あ、いました。久美がいました。と、その瞬間、ズゴーッと久美は燃え上がるのです。どうしてなんて、聞かないでくださいね。

地下室のアキは三味線を弾いています。「母さん、不思議だわ。あたしにも三味線が弾ける」。ついでに歌い始めます。「この歌、なにっ?」「地獄が呼んでるの?」と、デンパな発言を繰り返していたアキですが、ふと気づくとミイラが泣いていますよ。メキメキ。おや、ミイラが急速に白骨化しはじめ、あわせるように壁が崩れてきましたよ。ドカーン。なんと、ミイラの奥には、どこまでも広がる地下道が続いているじゃありませんか。もう好きにして。穴から洞窟に入ったアキは三味線を弾きながら歩きます。「地獄に行く道なの。うがあ」。しかし、それは地獄への道ではなかったようで、気づけば古井戸の真下に出ていました。「助けて、誰か助けてぇ」。「誰かいるのか。アキじゃねえか」と答えたのは雲平。そう、竜造を殺した雲平です。

なんか、いきなりキレイな着物に着替えて、雲平と座敷に座っているアキ。もう、さっぱり分かりません。ともあれ、そこで雲平はアキに欲情しました。「殺してぇなあ。抱きてぇなあ」とアキにのしかかる雲平。しかし、そこに「アキィ。アキィー」と不気味な声が響き、力を貰ったアキは、三味線のバチを横一閃するのでした。バシュッ。両目を切り裂かれる雲平。しかし、欲情しているので、ゾンビのようにアキに迫ってきますよ。ボロン。ボロン。三味線を弾きながら後ずさりをするアキ。ボロン。ボロロン。いつのまにか、三味線だけがズルズル、ズルズルと進み、それを追っていった雲平は、ガケから真っ逆さまに転げ落ちるのでした。

久美の葬式に、雲平の死体が担ぎこまれました。そして、三味線の音がボロロン。「ミホっ」と呟きつつ、フラフラ歩き始めるシマ。そのまま蔵に行き、「まだ生きてたのね、ミホっ」と階段を降ろして地下室に降りていきます。見れば、夫のミイラは白骨化しています。ズゴゴ。いきなり地震が起きて洞窟が埋まりました。そして、頼みの階段も上に、引き上げられてしまいます。ボロロン。ボロロン。地下室を見下ろしているのは、ミホじゃなくて三味線片手のアキ。「あなたが瀕死のミホを見殺しにしたように、私もあなたを見殺しにする」ボロロン。「負けない。あなたには絶対、負けないっ」と夫の頭蓋骨を抱きしめて叫ぶシマ。「地獄で待ってるわ」というシマに、アキも負けじと言い返します。「そうよ、ミホが地獄で待ってるわ。私はあなたを、そこへ送る案内人なのよ。ミホの恨みの落とし子なのよ。私はあなたをミホと同じ苦しみを味あわせるために生まれてきたのよ。私はミホなのよ。死ねばいい。死んで地獄に行けばいい。死んでしまえばいい。死ねーっ。死んでしまえーっ」。髪を振り乱しているアキ。「あたしはどこにもいなくて、ミホだけがここにいるのよ。死ね。死んでしまえ。死ね。死んでしまえーーーーーーーっ」。こ、怖い。

幸男と逃げ出したアキ。岩場だらけの荒野をひたすら歩みます。そして、それを松男たちが追ってきました。やめましょうよ、と説得する山尾こと加藤嘉を猟銃でボコボコに殴り殺して、気勢を上げた松男は、ドッカンドッカン、猟銃を乱射しはじめましたよ。目の前には、いかにも危なっかしげな岩の塊。ズゴゴゴ。ほら、言わんこっちゃない。松男たちはみるみるうちに岩に体を潰され、一人、また一人と息絶えていきのでした。

さて、どうにか危機を脱した幸男とアキは、岩場に張り付くように建っている、これまたイカニモな小屋に入りました。止めておけばいいのに、そこで愛し合いはじめる二人。ズモモモモ。うわっ、小屋が、小屋が。山を滑ってる。「落ちていく」「いいの、いいの、殺してぇ、いやああああ」と絶叫するアキ。もう、小屋はなんだか尋常じゃないスピードで地面に落下していくのでした。

はい、鳴門の渦潮を抜けて地獄にやってきたアキ。ここからは、いよいよお楽しみの地獄めぐりの始まり。とりあえずアキは閻魔大王(金子信雄)に、どんなヒドイ地獄に落とされてもいいから、ひと目だけでもお母さんに会いたい、とお願いをしてみたところ、OKをもらえました。ということで、茶吉尼天(天本英世)を案内人に歩きだすアキ。石臼で、グチャグチャにミンチにされているシマや山尾がいます。幻のアキを求めて、体をズタズタに切り裂かれつつ木登りをしている幸男、松男、そして竜造、雲平兄弟もいます。さらに進む、アキと茶吉尼天。「やっと着いた。ここがお前の母の地獄。そこだ」。おお、確かに、そこにはケモノと化したミホがいるじゃありませんか。角が生えているけど、どちからというと、ミュージカル「キャッツ」っぽいです。

「これが地獄だ。ひと目会いたいと願った母親は、もはやわが子の判別さえつかぬ。ただのエサにしか思えぬのだ。戦え、さもないと餌食にされるぞ」と言って、剣をくれる茶吉尼天。しかし、アキは母と戦う気はありません。「お母さん」、返事の代わりにパクッと噛まれるアキ。「声を出すな。戦え」と茶吉尼天が言うと、ミホがアキをさらにパクッ。そう、地獄では声を出しちゃいけないお約束みたいなのです。そんなことを無視して、「お母さん」と絶叫するアキ。何てことでしょう。アキの足が木になっていくじゃありませんか。見る見るうちに一本の桜の木になってしまうアキ。うごー、うごー。ケモノ化したミホが、桜の木に体当たりをかまします。うごー、ドカン。うごー、ドカン。ペキッ、ペキペキッ。木が割れて、そこからまばゆい光がほとばしります。やがて、その光は全てを覆いつくし……

どこかの、陽光降り注ぐ海岸。生まれたばかりの赤ん坊が砂浜で泣いています。オギャー、オギャー。お尻には赤い牡丹の痣が。「あきーーーぃ」とどこかから声が聞こえます。


まあですね、ムリヤリまとめれば、男と女の愛の行き着くところは地獄。そして、親子の愛の究極は天国に通じるとか、言えないこともないと思うんですよ。でもね、それはあくまで比喩的な話であって、閻魔大王がいらないような気もします。ということで、やっぱり、この映画はなにかトンデモないものを観てしまった、という満足感に浸るのがよろしいんじゃないでしょうか。なにしろ、矢島信男のチープでいながら、ツボをおさえた特撮は、一見の価値がありますしね。

それにしても、原田美枝子ですよ。ダメな母と、その犠牲になった娘。それを一人二役で演じるというのが凄い。まんま平山秀幸監督の「愛を乞うひと」そのまんまですから。「愛を乞うひと」はぼくにとって、お気に入りを越えた、本当に感動に心震えた作品なんですが、その20年前に、こんなことやってたなんて。なかったことにしたい。観なかったことにしておきたい、そんな風に思ってしまいます。

もちろん、それは原田美枝子さんの名演技を汚したくないという意味からで、この映画の原田美枝子さんだって、怒涛の迷演技ではあるんですけどね。「愛を乞うひと」が、自陣から果敢に打ち込んだ、猛スピードのシュートだとすれば、この映画は、自分のゴールに向かって打ち込んだ猛スピードのシュートな感じです。壮烈な自爆点とでも言えばいいんでしょうか。いずれにしろ、原田美枝子さんが素晴らしいことには変わりないので、結果オーライということにしておきます。

ちなみに、岸田今日子、田中邦衛、石橋蓮司、加藤嘉などの助演も、ヘンな方向にピカピカ光っています。うーん、素晴らしい。







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【映画】新選組始末記

2008-10-01 18:52:13 | 邦画 さ行
【「新選組始末記」三隅研次 1963】を観ました



おはなし
近藤勇に惚れこんで新選組に入った山崎烝ですが、土方歳三の陰険な策略に遭って……。

もちろんフィクションなので、現実の歴史とは違うことを念頭においてください。これから書くのは、あくまでこの映画の中の「新選組」ですから。

四条河原(多分)では、群集が集まって磔を見物しています。どうやら、磔にされた侍は、新選組の天誅に遭ったようです。「崩壊寸前の徳川幕府と、それに代わろうとする新勢力との激突地帯となった京の巷では、暗殺事件が横行していた」というテロップが流れます。

さて、それを見ていた志満(藤村志保)は、家に帰り、想い人の山崎烝(市川雷蔵)に不満をぶちまけています。「分かりません。あなたが新選組に入るというお気持ちが。いいえ、勤皇方が正しいのか、徳川を守るのが良いのか、それも私には分からないんです。ただ、どちらも気が狂ったように人を殺して、中でも新選組は、あれが武士の集まりでしょうか。町の人たちが新選組を何と呼んでるか知ってるでしょ。壬生狼、壬生狼。牙をむいて野良犬のように。イヤです、イヤ、イヤ。あなたがそんな人殺しの群れに入るなんて。ねえ、何のためにあなたは自分を殺しに行くんです」。と、志満の顔のアップのまま、山崎の声だけが聞こえます。「違うよ、志満さん。俺は今日、見たんだ。そして心が定まった」。

偶然、二人の侍が斬りあっている現場に出くわした山崎。どうやら勤皇方と新選組の隊士が戦っているようです。勝負は新選組の隊士の勝ちで終わったようですが、その隊士も深傷を負って助かりそうにありません。それを見て介錯を申し出る山崎ですが、隊士は、死ぬのはイヤだと見苦しく転げまわるのでした。

それから数刻。隊士の遺品を持って、新選組の屯所にやってきた山崎。しかし局長の芹沢鴨(田崎潤)は、隊士の死を嘆くわけでもなく、はたまた山崎の労をねぎらうでもなく、とにかく傲慢なイヤーな男だったのです。しかし、そこに「あっ、君」と現れたのが、新選組副長の近藤勇(城健三朗=若山富三郎)でした。「ありがとう、わざわざ届けてくれて」と、行き届いた挨拶をする近藤に機嫌を直した山崎は、隊士は立派に死んだと報告するのです。

しかし、そんな山崎に近藤は言います。「武士らしく、武士らしく。私は百姓の生まれだから、よけいそれにこだわるんですなあ」。「なぜ、それを私に言うんです」といぶかしげな山崎に近藤は続けます。「君が森を立派に死んだとかばってくれたが、あれはそういう男ではなかった」。そういうことか、と納得した山崎は答えます。「腑抜けが立派に死ぬこともある。百姓が武士らしく死ぬこともあるように」。これには、今度は近藤が呵呵大笑する番です。「これはまいった。私のいつものお株を取られてしまった。山崎君。私は言っているんだ。武士というやつは形じゃない。男子の心意気だとね」。

「武士とは心意気だと、その男が言った。俺は京に来て、あのように澄んだ目を初めて見た。近藤という男が信じられる気がした。このままでは俺は駄目になる。志満さんは女ながら医術という人の命を救う仕事がある。生きる道がある。俺にあるのは剣だ。それしかないんだ」と、今度は山崎のアップのまま、志満の声だけが聞こえます。「捨てて、捨てて欲しゅうございます」「俺に武士を捨てろというのか。俺にはできん」。

そんなこんなで、新選組に入った山崎烝。しかし、芹沢鴨、新見錦(須賀不二男)といった、いわゆる水戸派の腐敗は目を覆うばかりで、山崎は今日も理由を告げられないまま豪商のところに使いに遣らされるのでした。行ってみれば何のことはない、隊費の名目での押し借りです。もちろん、その金が隊のために、ひいては徳川のために使われるならまだしも、実際は芹沢や新見の遊興費に充てられるのですから、真面目な山崎としては、やってられないよ、といった気分でしょう。

芹沢に金を渡しに行くと、部屋では犯された女が泣いています。なにやってんだ、こいつ。憤然として立ち去ろうとする山崎に「どうした」と近藤が声をかけてきました。「中に獣がいるんです」と答える山崎です。

これは見過ごせない。近藤は芹沢に直談判をすることに。しかし芹沢は金を前にしながら、「わしは知らん。山崎に新見が命令したんじゃろ、新見が」と責任逃れなことを言うのです。「局長、借用金の取立てに来た商家の女房を力ずくで犯す。この件については、返答がありますか」。さすがに、これについては芹沢も言い逃れができません。なにしろ横で女が泣いているんですから。うがあーっ。とりあえず、金をぶちまけて、暴れてみることにする芹沢でした。

道場で、隊士たちが汗を流しています。そこに、「やめろ、稽古をやめて座に戻れ」と土方歳三(天知茂)の声がかかりました。ガヤガヤ、ガヤガヤ。何事だろう。土方は言います。「隊規によって、新見さんに切腹していただくことになりました」。ワナワナしている新見。激怒する芹沢。しかし、土方が理路整然と新見の悪行を述べ立てるに及んでは、芹沢も何も言い返せません。「局長、裁決を」と近藤が迫ります。見れば、隊士たちがスゴイ目で芹沢を睨んでいます。ウカツなことを言うと、自分の身にも危険が及びそうな不穏な雰囲気。うーん。うーん。「切腹っ」。

しかし、新見が切腹させられた後も、芹沢の放蕩はやむことがありません。山崎も近藤、土方に、またも直談判をしたりしていますよ。「歳さん、あの男の言うのは道理だね」と土方に言う近藤。土方も「この機会にやりましょう」「粛清するなら今です」と同意しました。「局長らしく最期を飾らせるんだね」「立派に切腹させるんだよ」と念押しする近藤に、「そうです。隊の規約ですから」と答える土方。ところが、蓋を開ければ思いっきり闇討ちで芹沢は死んだのです。

そんな卑怯な振る舞いに怒り出す山崎。さらには、芹沢の葬式を利用して、近藤、土方一派が自分たちの権力を磐石なものにしようとしているのを見て、すっかりイヤになってしまいました。ということで、隊を抜け出し志満に会いに行っちゃうのです。まあ、それもどうかと思いますけど。

恋をしている女は敏感。まして、シャーマンというかイタコ体質な藤村志保です。志満は山崎に会った瞬間に「何かあったんですの。新選組に入ると言った時、あなたの目は生きて光っていました。だのに今は……死んでいる」と言い出しました。「あなたは新選組にいても幸せじゃない。いいえ、嘘っ。分かります。近藤勇という人は信じられる相手ではなかったんでしょ」。「近藤さんはそんな人じゃないんだ。立派な武士だぞ。立派な武士だ」と、自分自身の迷いを切り捨てるかのように、言ってみる山崎。しかし志満に「では、なぜそんな悲しい目をして、仰るんです」と言い返されて、思わず絶句しちゃうのでした。

とりゃーっ。いきなり勤皇方の侍がひとり斬り込んできました。果敢に立ち向かい、それを斬り斃した山崎。しかし、志満はギャーッ、グワーッと絶叫中です。別に斬られたわけじゃないんですけどね。なんか狐でも憑いたんじゃないかと思うくらいのイキオイですよ。「志満さん、志満さん」と山崎が抱き起こしても、志満は絶叫中。パシッパシッ。二三回引っぱたいて、どうにか志満は落ち着いたようです。そんな志満と思わず抱き合ってしまう山崎ですが、大丈夫かなあ。かなりエキセントリックな性格っぽいですよ、志満は。

高級料亭で飲んでいる「局長」の近藤勇と、「副長」の土方歳三。田舎を出てから10年。ようやく、ここまでのし上がることができました。「あんたは何にも言わず、そうやって微笑んでいさえすれば、自ずから衆望は集まり、やがて天下一方の頭領になる」と遠慮の無いことをいう土方。「ハハっ。まるで俺は木偶(でく)だな」と言う近藤に、さらに遠慮のないことを。「木偶でいながら、俺はいつまでたっても、何となくあんたが怖い。これも格というもんかねえ」。

一方、山崎も場末の飲み屋でいっぱい引っかけています。こっちは、鬱屈したマズイ酒です。と、そこに沖田総司がやってきました。「君は腕が立つのに、どうしてそう物事にムキになるかなあ。結局、損だよ」。ムカッ。小僧っ子のくせに、妙に老成したことを言う奴です。ますます酒がまずくなるじゃないですか。

ある日のこと、沖田が「おーい、山崎。手を借りたいんだ」と言ってきました。ある隊士が力士を問答無用で斬り殺して捕まったので、報復に奉行所の役人を斬り殺そうというのです。しかし、いくら「近藤さんの命令だよ」と言われたって、できないものはできません。と、思ったら沖田の姦計にハメられてやむなく、山崎は役人を斬り殺すはめに陥ってしまうのです。その上、土方は会津藩の叱責に、「犯人は山崎という男ですが、とにかく隊規に反抗しがちな暴れ者でしてね」などど言い出す始末。やっぱり江戸からの仲間じゃないと、こんな扱いしかしてもらえないんでしょうか。

役人を斬り、脱走したことにされてしまった山崎は、そのまま探索方(スパイ)をやらされることに。まあ、うがって考えれば、山崎を探索方にするために土方が仕組んだ深謀遠慮と言えなくもありませんが、実際のところは行き当たりばったりに探索方にさせられてしまった感じです。とは言え、仕事は仕事。助手の大津の協力も受け、薬売りにバケて勤皇方の動静を探っていた山崎は、とんでもない情報を入手しました。それはなんと、勤皇方が祇園祭に乗じて、御所に火を放って帝を拉致し、ついでに一橋慶喜たちを暗殺するという、仰天の計画だったのです。

早速、それを隊に報告して、そのまま志満のもとに身を隠す山崎。いやあ、こうしてみると、志満と暮らしているのも平和だなあ。ぼけーっ。「何を考えてらっしゃるの。ねえ、ねえ」「ん、何か言ったか」「いやん、知らない」。しかし、「やっぱり私のところに帰ってきてくれたのね」と言われて、サッと素に戻っちゃいます。そうだ、志満は俺が隊を辞めたと思っているんだ。でも、俺はしがない探索方。そして、今さら、俺が密偵をしてますなんて、志満に言ったら……。はい、とりあえず置手紙を残して、志満のところから逃亡する山崎です。もちろん置手紙を見た志満は、ハァーンッ。アッハァーン。ヘンな泣き声で号泣です。いや、ホントにヘンな泣き声なんですよ。というか泣き声というより鳴き声、いや咆哮かも。さすが藤村志保、一味も二味も違います。

山崎の報告で、長州間者の親玉、古高俊太郎を捕らえることに成功した新選組。土方が嬉々として拷問を開始しました。「俺はな。腹が立つとどんなことでもできる男だぞ。吐けば命だけは助けてやる。誓って助けるが、どうだ」。しかし、古高も筋金入りの志士ですから、簡単に吐くものじゃありません。「おい、足の甲から五寸釘を刺せ。それに蝋燭を立て、火をつけろ」。いやあ、なかなか吐きませんね。むしろ、勤皇方の策略で、食中毒になった隊士たちが、次々に吐いている始末です。これはこまった。しかし、しばらくして土方が喜色満面で出てきました。「とうとう吐きましたよ。やつらが今夜集まるのは、三条繩手の四国屋です」。しかし、近藤はちょっと困り顔。「いや、今、大津が山崎からの報告をもたらした。それによると池田屋だが」。ぷぅーっとする土方。「四国屋に間違いない。古高は俺が責めたんだ。あの血みどろの告白に偽りはないよ」。それでも近藤は言うのです。「やはり俺は池田屋を取りたい」と。

「総司。出動できる隊士は何名残っているんだ」と聞いてみる近藤。「我々を含めて二十七人」。むう、いかにも少ないです。その上、応援を頼んだ会津藩も、いつまで経っても来やしません。仕方ない。隊を割ろう。「君は二十名連れて四国屋に行け」と土方に言う近藤。「大丈夫か、あんた。六人で」「君の判断が正しいかもしれん。俺はアホかもしれんが、やはり侍よ。山崎を信じよう」。

その頃、池田屋の向かいで、いつまで経っても来ない新選組に山崎と大津がジリジリしています。私が連絡に行ってきますと、飛び出す大津。と、いきなり勤皇方とバッチリ目が合っちゃいましたよ。うわっ。そのまま池田屋に引きずり込まれる大津。山崎はあわてて、隠れ家を飛び出し、池田屋に飛び込みます。しかし、その時、既に大津は斬られて虫の息だったのです。バラバラ。敵に囲まれる山崎。まさに絶体絶命。どうしよう。

ドンドン。ドンドン。新選組だ、開けろ。ああ、その声は懐かしの近藤じゃありませんか。山崎が戸を開けると、「山崎よくやった」と近藤がのっそりと入ってきました。良かった、これで助かった。「局長、味方は?」「俺たち六人だ」「えっ!」。敵は二十名以上で守ってるのに、こっちは六人ですか。えーと、ダメだ、死亡だ。

とは言え、そこは市川雷蔵の華麗なる剣さばき。そして若山先生の変幻自在な体さばきです。とりゃー。それー。負けてません。いや、むしろ押してるかも。それに遅ればせの土方隊も到着して、戦況は一気に逆転です。「一人も逃がすなー」。

「俺の負けだ、山崎。近藤さんはあくまで君を信じぬいた。兜を脱ぐよ」とサワヤカに言う土方。「私も脱がなくちゃなりませんかね」と沖田も笑っています。沖田と握手をしつつ、近藤勇を見る山崎。ぽわわーん。やっぱり、やっぱり、この人について行こう。山崎は今までの行きがかりを忘れて、初めて新選組のみんなと一体になったような気がするのです。

夜が明け、隊伍を組んで京の町を行進する新選組。京の町人たちが、その様子を恐るおそるうかがっています。もちろん、その中には志満もいます。隊列について歩く志満。しかし山崎はわき目も振らずに歩いていき、残された志満はトボトボと家路につくのでした。


いやあ、主役にもかかわらず市川雷蔵がぜんぜん目立てない映画でした。なにしろ相手が悪すぎるというものです。新選組、さらには近藤勇さえも自分の「作品」として扱い、極めて怜悧に策謀を巡らせる土方歳三を演じた天知茂は、まさにハマリ役。それに、豪放磊落なようでいて、あえて土方歳三に「乗せられてみせる」近藤勇のズルさ。これを演ずるには、大胆なようでいて慎重。粗暴なようでいて繊細な若山先生以外には、やっぱり考えられません。その上に、藤村志保の何かに取憑かれたような演技が加わってしまうんですから、雷蔵としてはどうしたらいいのか、ってところでしょう。

さらに、ここに芹沢鴨を演じる田崎潤の、野獣派な演技まで加わり、さながら、どれだけ目立てるかを競う場と化したこの映画。文句なく、傑作の予感です。あ、傑作じゃなくて、あくまで傑作の「予感」ですからね。ぼく個人としては、今挙げた俳優さんたちはみんな大好きなので、最高だなあと思いますが、特に思い入れがない人に取っては、まとまりのない映画な予感がするので。







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【映画】出世子守唄

2008-09-10 18:23:28 | 邦画 さ行
【「出世子守唄」鷹森立一 1967】を観ました



おはなし
遠藤文吾は、一人息子の健一のためにカタギになって、木こりとして働き始めますが……。

浪曲子守唄、続浪曲子守唄に続く、子守唄シリーズの第三弾です。主人公と子供の名前も一緒だし、もちろん演ずるのも千葉真一と真田広之。こういうのは安心して観られますねえ。

夕焼けをバックにドスを振るう二人の男。ぐさっ。一人の男が刺されて倒れました。刺したのは、ご存知、遠藤文吾(千葉真一)。刺された男は息も絶え絶えに言います。「文吾さん。お互ぇ恨みっこなしの勝負だったな。俺の仲間は必ずおめえさんを追う。ヤクザなもんよ。消えてくんな。子供のためによ」。

旅をしている千葉ちゃんと、息子の健一(下沢広之=真田広之)。千葉ちゃんは呟きます。「あれから3年。健一、おめえだけは何とかして明るいお天道様の下で、立派に育ってくれと。だが堪忍してくれ。今日も影が追ってきやがる。また旅だ」。「♪逃ーげたぁ女房にゃあ、未練はなーいぃがぁ♪」、そうそう、この歌が流れないとね、気分が出ません。

テクテク。線路を歩く千葉ちゃんと真田広之。線路なんか歩くとアブナイですよ。ほら看板にも「軌道内通行禁止」って書いてあるじゃないですか。「父ちゃん。これなんて書いてあるんだ」「んーっ。これはな、立小便するなって、書いてあるんだ」。そんな千葉ちゃんは字が読めないのでした。ガタンゴトン、ガタンゴトン。プーッ。あーあ、千葉ちゃんは材木運搬列車の運転士さんに怒られていますよ。でも、運転士さんは優しい人だったんでしょう。千葉ちゃんと真田広之は材木の上に乗せてもらうことができたのです。

そしてやってきたのは、木曽の山奥の飯場。千葉ちゃんは、ここで木こりとして、まっとうに暮らすつもりです。早速、親方の岩崎(石山健二郎)に頼んでみましょう。「おめえさん、戸籍謄本持ってるかい」。えーと、コセキトウホンって何だろう。「いや、そんな厄介なものは」と答える千葉ちゃん。どうしよう。しかし、そこに現れたのが、親方の孫娘の美樹(小川知子)です。すっかり、真田広之のキュートさにKOされた小川知子は、いいじゃないお爺ちゃん、と親方を説得してくれて千葉ちゃんは無事に職にありつくことができたのでした。

木こりの飯場は、キツイ仕事ですが、周りの人はいい人ばかり。一本気な留次(玉川良一)や、その奥さんで鉄火肌のお時(三原葉子)、そしてもちろん、親方に小川知子など、みんなが真田広之をかわいがってくれて、千葉ちゃんもひと安心です。しかし、良かった良かったでは、話が終わってしまうというもので、やはり、こんな平和な山奥でも、揉め事のタネは転がっているのでした。それというのは、この山林の権利を狙っている富高組の存在。木こりを怪我させたり、やりたい放題の挑発をしかけてきます。しかし親方は断固として脅しに屈せず、非暴力主義を貫くのです。

すっかりアイドルの真田広之は、材木列車に乗って、三原葉子とお昼のお弁当を届けに行くことになりました。ガタンゴトン、ガタンゴトン。そして、その帰り道。「おばちゃん、山は高いから空に近いな」と言い出す真田広之。「うん、そりゃまあ、町に比べれば、ちっとは近いさ」。「空から俺のことが見えるかなあ」、そんな言葉にハッとする三原葉子。「健ぼう、寂しいんだね。お母ちゃんがいなくて」「健ぼう。もし何だったら、このおばちゃんがお母ちゃんになってやろうか」。しかし、真田広之はとってもストレートな子供なので、こういうのです。「俺の母ちゃんはなあ、目が細くて、きれいで優しいんだ。夢を壊さないでくれよ」。えーと、三原葉子の立場ゼロ。

さて、山奥の飯場から、町に住む小川知子のところに遊びにきた真田裕之は、途中で怖いオバサン(小畠絹子=小畑絹子)に出会いました。このオバサンは真田広之の竹とんぼを踏んづけても、ろくに謝ってくれないような怖いオバサン。すっかりムカっとする真田広之です。

小川知子にカバンを買ってもらって、ニコニコの真田広之。そう、真田広之も大きくなったので、小学校に通わなくてはなりません。しかし、これにムクレテいるのが千葉ちゃん。「おい、健一。おめえ何かい。学校行きてぇんなら、行きてぇって何で父ちゃんに言わないんだい」。どうやら、自分に最初に言ってくれなかったので、すっかりふて腐れているようです。そんな千葉ちゃんの様子を察した真田広之は言い出しました。「父ちゃん、俺、学校に行かねえや。学校なんか行きたくないもん。だからよ、父ちゃん機嫌なおせよ」。周りの気のいい木こりたちは、千葉ちゃんを責めるような目で見ていますよ。えーと、困ったな。うーん、そうだ。真田広之に一升瓶を持ってこさせた千葉ちゃんは、「さあ、おめえもやれい」とコップ酒を真田広之に差し出します。あわてて止める周りの人たち。しかし、「いいか健一。おめえが学校にあがる祝い酒だ」と千葉ちゃんが言い出したので、ちょっとひと安心です。まったく千葉ちゃんは素直じゃないんだから。

富高組の嫌がらせは増すばかり。とうとう、山にタバコの火をポイっと捨てるという荒技に出てきました。これには千葉ちゃんも、プチーンとキレてしまいます。早速、町にある富高組の飲み屋に乗り込み、親分(遠藤辰雄)に直談判です。「木一本、首ひとつ。これは昔からの木曾谷の掟だ。お山の木は日本人みんなのものじゃねえんですかい。ちょっとした不注意で、お山を焼いちゃ申し訳が立たねえ。親分さん、どうぞこれっきり、不心得者を出さねえように、お願い申します」。さすがに、これには親分も閉口して、シドロモドロに言い訳をするのです。

意気揚々と引き揚げようとした千葉ちゃんは怖いオバチャンこと小畠絹子に出会いました。ハッとする千葉ちゃん。「いつ、この土地に帰ってきた」「帰ってきた?そうだったね、この土地はあんたの故郷。亭主だ、女房だって仲のときもあったんだね」。やっぱり、小畠絹子は千葉ちゃんの元女房だったようです。「子供のことは考えちゃみなかったのかい」と、プイと出て行った小畠絹子を責める千葉ちゃん。もちろん、小畠絹子だって負けてはいません。「男の子は男親。子供がいりゃ、あんたも少しは真っ当な人間になっていると思っていた。でも今日のあんたの目を見て、あたしはゾッとしたよ。5年前と同じヤクザの目だ。かわいそうに。親の道を子供が歩いていってしまう。健一だけは、そんなにさせたくない。あたしが産んだ子だ。あたしがちゃんと育てますよ」。「言いたいことはそれだけかい。健一の夢の中に出てくるお袋はな、酒の匂いはしてねえぜ」。はい、交渉決裂です。

真田広之に、もう町に行くな、と命令する千葉ちゃん。分かったよ、と素直に答えた真田広之は言います。「俺な、大人になったら、木こりになってもいいか。山は空に近いんだ。母ちゃんに教えてやるんだ。かあちゃーん」。グワっと目を見開く千葉ちゃん。さすがにお空にいるはずの母ちゃんが、町で、それも富高組の飲み屋で飲んだくれの酌婦をしているとは、さすがに言えません。

さてさて、一杯飲み屋では、富高組に一人で乗り込んできた千葉ちゃんのことを組員たちが噂しています。それを隅で聞いていた一人の男が、ドスを握り締めました。あれ、このドスは、千葉ちゃんが斃した男のドスじゃありませんか。すると、この男は。

男は辰(丹波哲郎)といって、死んだ男の兄弟分だったのです。ようやく見つけたと、富高組に仁義を切りにいく丹波哲郎。「実はおめえさんのとこのシマで、人を一人斬らしてもらうぜ」。これには、親分も否やはありません。というか渡りに船。ラッキー、な感じです。早速、下にも置かぬ扱いで客人として迎えられた丹波哲郎。酒は飲み放題、ついでに小畠絹子のサービス付きです。

丹波哲郎と小畠絹子が差し向かいで飲んでいるところに、竹とんぼが飛び込んできました。外を見れば、キュートな真田広之がいるじゃありませんか。なんだか、捨てた子供に似ている、と飲み屋を飛び出した小畠絹子は、アレコレと世話を焼きます。「俺の母ちゃん、空にいるんだ」と言い出す真田広之。ハッ。「空……坊や、名前なんて言うの」「健一」。こ、これは。思わず抱きしめちゃう小畠絹子。しかし、真田広之はとってもストレートな子供なので、「オバチャン、お酒の匂いがする。嫌いだ」ピューッ。ガ、ガーンな小畠絹子です。

ヨロヨロ戻った小畠絹子に、「捨てちまったんだろ。ムシが良すぎるぜ」と、何もかもお見通しの丹波哲郎。「あの子の父親が悪いんだよ」と言い訳する小畠絹子に、丹波哲郎は追い打ちをかけます。「俺もガキのころ、棒っ切れみたいに捨てられちまったんだ」「俺は許さねえ。俺にはたった一人、兄弟分がいた。そいつは死ぬまで、俺を捨てなかった野郎だ。そいつが死んだのは、恨みっこなしの勝負の果てだ。だから殺した奴に恨みはねえ。しかし、俺は息の続く限り、そいつを追い続けなくちゃなんねえ」。

「ところが、そいつの横にはちびっこい野郎が一人いた。今度はそいつが俺を追い続ける番だ」。も、もしや、とイヤな予感に震える小畠絹子。「あんた、まさかその男、文吾っていうんじゃないだろうね」。丹波哲郎は何も答えず、ただギロリと小畠絹子を睨むのでした。

名古屋の森林組合の塚田さんを誘拐したものの、なかなか埒が明かないのにイラだった富高組の親分は、思い切った手で、山林の権利を取ることにしました。それは、鉄橋を爆破して、材木運搬列車を谷底に落としてしまえ、という乱暴なもの。ついでに、分教場の子供たちが通る時間を狙って、子供たちも殺してしまおうという鬼畜っぷりです。もう、この時点で理解不能な感じですけどね。だって、鉄橋を爆破したら、自分が山林の権利を手に入れても、どうしようもないじゃないですか。その上、子供たちの大虐殺なんかしたら、警察、というより国家の総力を挙げて追われる立場になると思うんですが。まあ、親分は遠藤辰雄なので、そこまで考えていない可能性もありますけど。

ともあれ、そんな情報を察知した丹波哲郎は、小畠絹子に教えてやることにしました。「一遍でもいいや。おめえの力で子供を救ってみな」。「健一が危ないんだねっ」と叫んだ小畠絹子は猛ダッシュ。ズドドド。ドテッ。コケている小畠絹子を見つけたのは千葉ちゃん。「健一が、健一が危ないんだ。列車が爆破される」。「何っ」と、代わりに走り出す千葉ちゃん。道路を走りぬけ、岩山をよじ登り、そして問題の鉄橋へ。シューシュー。ダイナマイトの導火線が燃えています。止まれ、止まれーっ。列車に向かって叫びながら、ダイナマイトにスライディングした千葉ちゃんは、ダイナマイトをむしりとり、谷底に投げ込むのでした。「健一、けんいちーっ」。しかし真田広之は列車に乗っていませんでしたよ。慌てて崖を滑り降り、真田広之を探して走り回る千葉ちゃん。あっ、いました、いました。真田広之は婚礼の行列にくっ付いて歩いています。バッコーン。真田広之を殴り飛ばして、「バカ野郎っ。こんなとこノンキに歩いていやがって」と怒る千葉ちゃん。「何すんだよ」「何すんだよもクソもあるかい。心配ばかりかけやがって」。そうは言いつつ、すぐに仲直りをして、真田広之を肩車して、楽しそうに笑っている千葉ちゃん。それを恨めしそうに見ているのは、小畠絹子です。

「なあ、健一。二人で山降りるか」「また旅か」「おう」「悪い奴がここまで追いかけてきたのか。俺、ここがいいや、俺、木こりになるんだ。(お空の)母ちゃんと約束したもんな」。そうか、そこまで、こいつは。ぐぐぅっとこみ上げるものを感じる千葉ちゃん。よし、お前の夢は父ちゃんが必ずかなえてやるぞっ。

未遂に終わったとはいえ、富高組が鉄橋爆破まで考えていたことに恐怖している親方と小川知子。もう、山を閉めるしかないんだろうか。でも飯場のひとはどうすれば。と、そこに千葉ちゃんが言い出しました。「親方、その話、あっしにまかしてくれませんか。今度こそ、きっぱりと決着つけてまいります」。「文吾、お前にはかわいい子供がいる」という親方に、その子供のために行くんですと答える千葉ちゃん。なにしろ真田広之は「この山、てめえのものだと思ってやがんですよ」だそうですから。

ドスの準備をして、寝ている真田広之の顔をいとおしそうに撫でた千葉ちゃんは出撃。しかし、道の途中には丹波哲郎が待ち構えていました。「抜けっ」「分かった、だが今日だけ待ってくれ。どうしてもやらなくちゃならねえ用事がある」「抜かねえなら斬る」「逃げも隠れもしねえ。子供を預ける。頼むっ」。火を吹くような男と男のにらみ合いが続き、やがて、丹波哲郎はスチャっとドスを収めるのです。

パチッ。真田広之が目覚めると、そこには知らないおじさんが。「父ちゃんはどうしたんだ。お前がどうかしたな」と怒る真田広之に丹波哲郎もちょっともてあまし気味です。しかし、大事な人質ですからね、見守っていなくてはなりません。トイレの紙持ってこいとか、すずりと筆持ってこいなど、厳しい要求にも、丹波哲郎はガマン、ガマン。なにしろ子供の言うことだし、なによりキュートですからね。貰った筆で、真田広之は板切れに、なにやら書き出しましたよ。へったくそな字で「成田山」と書いています。「お守りか」「父ちゃんの割れちまったからな。父ちゃんがお前に負けないように作ってるんだ」。ズキン。思わずハートがドキドキしちゃう丹波哲郎です。こ、こいつカワイイじゃねえか。

単身、親分のところに乗り込んだ千葉ちゃんは直談判。今度山に手を出したら、「そんときゃ、あんたの命ハッキリといただきますぜ」。そんな千葉ちゃんのイキオイに恐れをなした様子の親分は、無事に名古屋の塚田さんを解放してくれました。いやあ、行ってみるもんですねえ。

一方、その頃の健一といえば、丹波哲郎のもとを脱走。町にいる父ちゃんのもとにひた走っています。「おい待て、坊主。おい坊主、待て待て。その橋は危ねえんだ」。確かに通行禁止の橋は、今にもワイヤーが切れそう。ぐいっとワイヤーを掴み、懸命に真田広之を助けようと必死な丹波哲郎。そんなこととは知らない真田広之は、さっさと橋を渡ってピューです。バチン。その瞬間、ワイヤーが切れました。ふう、どうにか間に合った。思わず、「やーいバカ坊主ぅ」と怒鳴る丹波哲郎です。

町にやってきた真田広之は、怖いオバチャンこと小畠絹子のところを訪ねたところを見つかり、、あっさりと敵の手に。敵からすれば、子供さえ人質にとっておけば「あの」千葉ちゃんだって怖くないですもんね。早速、小川知子に電話、電話。「文吾に伝えてくれ。ガキの命が惜しかったら、契約書にハン突いて、一人で持ってくるようにとな」。それを聞いた千葉ちゃんの怒るの怒らないの。もうグワーッと眦が裂けそうなくらいに、虚空を睨んでいますよ。幸い、親切な小川知子が「こんなものと健ぼうの命、どっちが大切なの」とハンコをくれたのですが、それに甘えちゃ、男が廃るっていうもんです。「あの野郎は生まれて初めて夢を持った。山のおかげだ。子の命は親の命。あっしの身が万が一の時は、健一のことを頼みます。頼みます」。

どりゃあーっ。殴りこむ千葉ちゃん。敵から長ドスを奪い取り、当たるを幸い、斬って斬って斬りまくります。えっ、それじゃ真田広之が危ない。いえいえ、大丈夫。丹波哲郎が助けに来てくれましたから。「おじちゃん、さっきはありがとう」と言われ、「うん」と言いつつ目がデレデレな丹波哲郎。目の毒だからな、と真田広之に目隠しをしてあげちゃうくらい、真田広之がカワイイみたいでえすね。

あっ、父ちゃんの戦っている音がするっ。「父ちゃん、お守りっ」と手作り「成田山」お守りを投げる真田広之。「それ持っとくと負けないぜ」。おう、ありがとよ。さらにパワーアップな千葉ちゃんと、丹波哲郎のダブルアタックに、敵も防戦一方です。しかし、親分は卑怯にも飛び道具を持ち出しましたよ。ダーン。銃声に慌てて身を隠す千葉ちゃんたち。「文吾、辰。出て来い。どっちからでもいいや。順繰りに地獄に送り込んでやる」。ズダーン。銃弾は真田広之めがけて、音の速さで飛んでいきます。「あっ、けんいちーっ」、その銃弾に身をさらしたのは小畠絹子でした。千葉ちゃんはその隙にさっと身を躍らせ、親分をバサッ。敵は全滅です。

さっき聞こえた「けんいちーっ」という声。目隠しをしているけど、真田広之には分かります。「母ちゃんだな。俺見えないけど分かるんだ。ちっちゃい時死んだ母ちゃんが呼んだっ」。目の前で息を殺して泣いている小畠絹子。会っちゃいけない、こんな母親失格の女が。でも、母と名乗りたい。手を真田広之の方に伸ばしていく小畠絹子。あと少し。もう少し。しかし、直前で手を伸ばすのをやめ、小畠絹子は死にました。ガクッ。

「健一、ここを動くんじゃないぜ」「うんっ」。千葉ちゃんは、丹波哲郎と外に出ます。決着をつけなければなりません。ドスを構える二人。シャッ。風がうなりました。カラン。手作り「成田山」お守りが落ち、千葉ちゃんは顔を斬られています。完敗です。ドス捌きでは、丹波哲郎の方が二枚も三枚も実力が上のようです。しかし丹波哲郎は、「拾え。そのお守りにはかなわねえ」と言って、持っていた宿縁のドスをぽーんと投げ捨てるのでした。

夏も終わり、木曽では盆踊りが行われています。「行くの?」と問う小川知子に千葉ちゃんは、「生まれ故郷はおふくろ。そいつを血で染めた裁きは受けなくちゃならねえ。健一の野郎に初めて夢が生まれた。山のみんなのおかげだ。野郎が生まれて初めて……」と絶句します

「待ってるわ。健ぼうと一緒に」、そう言って、踊りの輪に入る小川知子。親方も、三原葉子も、学校の先生(川津祐介)も、みんな千葉ちゃんが見ているのに気づいていますが、ただ真田広之だけはそれを知らないのです。石灯籠の影から、おかめの面で顔を隠した千葉ちゃんが顔を出し、熱い視線で真田広之を見ます。「けんいちっ」、万感の思いをこめて呟く千葉ちゃん。「♪逃ーげたぁ女房にゃあ、未練はなーいぃがぁ♪」、唄が終わったとき、千葉ちゃんの姿はそこに無く、ただ石灯籠にポツンとおかめの面が置いてあるだけでした。


いやあ、もう最高。なんていうか、父と子の心の交流っていいですねえ。不器用な中に滲み出る愛情っていうんでしょうか。クレイマークレイマーのダスティン・ホフマンを髣髴とさせるようです。もちろん、こっちの映画の方がはるかに古いですけど。

それはともかく、助演に丹波哲郎、小畠絹子、三原葉子とかつての新東宝の面々が顔をそろえているのも、新東宝ファンにはうれしいところ。特に、丹波哲郎、三原葉子はともかくとして、小畠絹子は新東宝が倒産してから、出演作が激減しているので、なかなか貴重な一本でした。

もちろん、千葉ちゃんと真田広之の息はピッタリ。ホントの親子じゃないのと思うくらい、細やかな情があふれていて素晴らしいです。千葉ちゃんの場合、細かい演技より、イキオイ、インパクト勝負なところがありますが、この子守唄シリーズでは、実に細かい緻密な演技を見せてくれるんですよね。やっぱり、大スターは違うなあと思います。やればデキル子、とでもいうんでしょうか。

ちなみに、千葉ちゃんが真田広之を洗ってやるシーンで、真田広之はかわいいおちんちんを丸出し状態。今では世界的なスターなのに、こうして永遠におちんちん丸出しが残ってしまうんですから、子役出身って、辛いものがありますねえ。









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【映画】そのときは彼によろしく

2008-08-22 18:05:54 | 邦画 さ行
【「そのときは彼によろしく」平川雄一朗 2007】を観ました



おはなし
眠ったら二度と起きない奇病の世界的トップモデルと、アクアプランツショップの店長さんの恋を描きます……で、いいのかな

海に面した場所に建つ、まるでオシャレなリゾートホテルを思わせる病院。その一室では、滝川花梨(長澤まさみ)が静かに寝ています。ベッドサイドで、そんな花梨を見つめるのは、遠山智史(山田孝之)と五十嵐佑司(塚本高史)。

「子供のころに聞いたことがある。眠ると起きられなくなる病気。夢に捕らわれたら、目を覚ますことなく、そのまま死んでいくって」と言っている智史。それに答えるように、祐司も言います。「夢の中で花梨にあったんだ。早く帰れって言われた」。智史は言います。
「ねえ、花梨。ぼくらは目に見えない力でつながってたんだ。13年前のあの場所から」……。

アクアプランツショップ「トラッシュ」をやっている智史。まあ、要は水草屋さんなんですけどね。雑誌にも紹介されるくらいオシャレなお店ですが、経営は苦しめ。というか、火の車。映画中を通じてお得意さんといえば、ベーカリーシバタという、これまたコジャレタパン屋さんくらいしかないみたいですしね。あとは、実家の医院の水草を世話したり、まあ趣味の延長みたいなお店とでもいったらいいんでしょうか。

そんな「トラッシュ」にある日、絶世の美女がやってきました。森川鈴音(長澤まさみ)という、その美女は、お給料はいらないから、と勝手に「トラッシュ」に居ついてしまったのです。まあ、若い男性が一人で暮らしているお店に、絶世の美女が住み着くなんて、ちょっとアブナイ気もしますが、でも大丈夫。なにしろ、智史は「鈍感」なそうなので、間違いは起こったりしないことになっています。

さて、ここから映画は回想シーンに。13年前のある日のこと。転校してきたばかりの智史(子役 深澤嵐)は、大好きな水草を採取するために、湖にひとりやってきました。目当ての水草を取って、ニッコリの智史が、ふと対岸を見やると何かキラキラしたものが見えますよ。ナンだろう。行ってみると、そこはゴミ捨て場。そして、そこにある廃バスの中には、一人の少女が寝ていたのです。と、いきなり目覚めた少女が「誰だお前。ここで何してんだよ」と怒り出しました。とりあえず、凝固する智史。しかしそこに、後ろから「僕の友達だよ」という声が聞こえます。「ほら、自己紹介して。自己紹介しないとぶっ飛ばされるよ」。そんな声に促されて、「一週間前に転校してきた遠山智史です」と自己紹介をする智史です。結局、怒っていた女の子は滝川花梨(子役 黒田凛)。助け舟を出してくれたメガネの少年は五十嵐佑司(子役 桑代貴明)。ついでに横にいた犬はトラッシュといい、三人プラス一匹はあっという間に仲良くなったのです。

はい。話は現在に。「水草だけ売って、儲かるもんなの」とストレートな質問をぶつけてくる花梨に、智史はオドオドと答えます。「正気ギリギリです。でも子供のころからの約束なんで」。しかし、そんな子供の頃からの約束を大事に守っているわりには、どうして幼馴染の顔が分からないのかなあ、と思わないでもありません。でも、それには理由があるのです。

「知らなかったんですか店長。彼女、海外でも有名なトップモデルですよ」と、バイトくんにたしなめられている智史。「世の中の八割の人が、彼女のことを知っていますよ」とまで言われています。しかし、それを知らない智史は、残り2割な男。というか鈍感。だから、幼馴染の顔と、トップモデルの顔が結びつかなくても当然なのです。。。いや、当然じゃないかもしれないけど、そこは当然ということにしておかないと、話が続かないので。

さて、ベーカリーシバタの柴田美咲(国仲涼子)さんと、お食事をしている智史。智史のことが好きな美咲さんは、智史がトップモデルな鈴音/花梨と一緒に暮らしていると聞いて、内心穏やかではありません。「えーっ、一緒に住んでるんですか。ドキドキしません」とか言いつつ、反応をうかがっています。でも大丈夫。鈍感ですから。

と、また回想シーン。智史のバースディパーテイが家で行われています。優しいお医者さんのお父さん(小日向文世)、やさしいお母さん(和久井映見)、それに花梨や佑司に祝ってもらいニコニコの智史。でも、花梨はちょっと暗い顔です。佑司は言います。「花梨さ、生まれた時からお父さんとお母さんの顔知らないんだよ」。そう、花梨と佑司は施設にいるのです。花梨には父も母もいません。そして佑司は父が死に、母には捨てられた子供だったのです。

はい、今度は花梨のバースディパーティが智史の家で行われています。ちょっとドギマギしながらも嬉しそうな花梨の顔。智史と佑司は、落ちていた双眼鏡から取り出したプリズムをプレゼントに送りました。そして、お母さんからは白いドレスが。うちの子にしたい、とギュムーっと抱きしめられて、もうどうしていいか分からないほど嬉しい花梨です。まあ、和久井映見みたいなお母さんからぎゅむーっとされたら、誰でも舞い上がるくらいうれしいとは思いますけどね。

はい、また現在。ようやく智史は思い出しました。鈴音/花梨のしていたプリズムのペンダントのヒミツを。「やっと分かったよ。キミが探しているもの。どうして僕の店に来たのか。僕と佑司があげたそのプリズム……花梨」。花梨は怖い顔で「鈍感」と言ったあと、智史の「久しぶり」という言葉にニッコリするのです。

「どうして言ってくれなかったんだよ」と言われて、「こっちだって意地になっちゃうわよ。全然、思い出してくれないんだもん、智史」と答える花梨。しかし、智史に「ずっと、ここにいられるんでしょ」と聞かれると、顔がさっと曇りました。思わず「佑司って、どうしてるのかな」「まだ絵を描いてるのかな」と、話題を変えたりして。

はい、回想シーン。せっせと絵を描いている佑司。佑司は捨てられたことが影響していて、ゴミを詳細に描くのが大好きで、「有名な画家になったら、お母さん帰ってきてくれると思うんだ」というケナゲな少年。そして、智史の夢はもちろん水草屋の店長。ねえ花梨はどうするの、と聞かれた花梨は「画家のモデルと、水草屋の看板娘」と答えるのでした。

はい、現在。いつまでもこのままじゃダメだよね、とアパートのチラシとかを集めだした智史に花梨は困惑しています。「あのね智史……何でもない」。
智史と花梨は、懐かしいお父さんのところに行きました。お母さんはすでに病気で亡くなっていますが、お父さんは昔懐かしい、あの優しい笑顔のまま。智史が寝てしまったあと、花梨はお父さんにクスリを見せて言います。「一番、強いクスリです。このクスリも効かなくなっちゃいました」。「治ってなかったんだあ」と言うお父さん。そう、13年前、花梨が謎の奇病にかかったとき、最初に診察したのが、智史のお父さんだったのです。「もう限界だと思います。どんどん眠りが深くなってきています。今度眠ったら、二度と目が覚めなくなるんじゃないかって……」。優しいお父さんの顔を見て、張り詰めた気持ちが解けていき、泣き出してしまう花梨。「智史には黙っていてください」。その言葉は、13年前に診察を受けたときに、お父さんに言った言葉とそっくり同じでした。

「トラッシュ」に葛城桃香という女性から電話が入りました。それは、なんと音信普通だった佑司が交通事故にあったという連絡だったのです。慌てて行って見ると、13年ぶりにあった佑司は人工呼吸器につながれ、植物状態でした。「佑司くん、うちの画材店でバイトしてるんです。その帰りにオートバイで転倒して」という桃香さん。そう、佑司は画家になる夢を諦めていなかったようです。しかし、行方不明だったお母さんの紹介で、いよいよ個展が開けると張り切っていた矢先に、そのお母さんにお金を騙し取られ、そのうえ、バイクで事故ってしまったというかわいそうな境遇なのでした。

はい、また回想シーン。智史はまた引越しをすることになりました。「でもさ、また会えるよ」と指を出す佑司。ふくれていた花梨も加わり、三人で固く固く指きりをしました。また、会えますように。そして、ローカル線での別れ。一両だけの電車に乗り込む智史。そこに花梨は走りより、そして、キス。

今、昔別れた同じホームに、花梨と智史は立っています。「行こう花梨」「私、佑司の傍にいる。ここに残る」。「僕は本当は花梨を……」という智史の言葉を振り切るように、「もう戻らないと思う。智史に会えてよかった。元気でね」と言う花梨。ぷしゅー、ドアが閉まり電車は走り出しました。「さよならー」。って、大人なのにキスなしですか。恐るべし、長澤まさみ。

ショボーンと店に戻った智史。ふと気づくと、花梨が落としたクスリがありましたよ。それをじぃーっと見つめていると、いきなり後ろから、「それ花梨ちゃんの飲んでたクスリだろ」と声がかかりました。お父さん登場です。「父さん、不眠症のクスリでしょ」「いや、眠らないようにするクスリだ。花梨ちゃんにはもう時間がない。花梨ちゃん病気なんだ。深い眠りに入ると、起きられなくなる病気なんだ。小さい頃から睡眠はせいぜいまどろむほどしか許されなかったんだよ。もう一番、強いクスリも効かないそうだ」。智史は初耳の情報にビックリです。「眠ったら、どうなるの」「そのまま植物状態となって、いずれ死んでゆく」。とりあえず、ドタドタと走り出す智史でした。

懐かしの廃バスに駆けつけた智史。そこには予想通り、花梨が寝ていました。「花梨、起きてよ。起きてよ」。ぱちっ。良かった花梨が目覚めました。「智史、どうして」「花梨のことが好きなんだ。あの頃からずっと好きだったんだよ」。それを聞いた花梨は、ニッコリ微笑んで、「智史、さよなら」、ぐーぐー。ああ、寝てしまいました。

ぱちっ。病室で植物状態だった佑司が目覚めました。ここで映画の冒頭のシーンに戻ります。つまり、「夢の中で花梨にあったんだ。早く帰れって言われた」そうです。ベッドサイドで、昏々と眠り続ける花梨を見ている二人。佑司は、「智史に見せたら、花梨に怒られちゃうかもしれないけど」と言って、スケッチブックを差し出しました。そこには、花梨が佑司の看病をしている間に書き留めた、佑司へのメッセージが書いてあったのです。

「実はね、智史に会えたの」で始まる長い長い手紙。「私、あの日から智史を好きになっていったんだと思う」「智史は私の初恋だった。だから、智史とは別れたほうがいい、好きだと言えないかわりに、私は初めてのキスをした」と切々と、智史への想いが綴られています。「残された僅かな時間。何としても智史に会いに行こう。あの時、言えなかった気持ちを伝えたい」。「私は智史と佑司がこれからずっとずっと幸せでいてくれることを願ってます。だからもし、あなたが目を覚まして智史に会えたら、そのときは……そのときは彼によろしく」。

お父さんに会いに行く、智史と佑司。お父さんは言います。「三人は強い力で引き合っている。この世にはね、物理学の教科書にも載っていない強い力がひとつあってね、それはそんなに距離が離れてても、どんなに時間が経っても、少しも弱まることがないんだ。だから十年以上離れていても、こうやって再会できたんだと思うよ」。そんな話を聞いた智史は内心で、こうつぶやきます。「ねえ、花梨。僕らは目に見えない力でつながっていたんだ。13年前のあの場所から」。

それからの智史は、毎日まいにち病院に通う日々です。「ねえ花梨、覚えてる。オニバスの種、発芽するまで50年以上眠っているかもしれない。でもいつか必ず芽が出るんだよ。目覚めるんだよ」。そう言いつつ、枕元にオニバスの種を置き、病室の水槽の世話をし、そして、いつまでもいつまでも飽きることなく、眠っている花梨に話し続ける智史。いつか、お父さんも亡くなり、佑司は個展が大成功。そんな環境の変化も、智史の日課を変える事はありません。病院に行き、水槽の世話をして、花梨に話しかけ、そして芽の出ないオニバスの種をじっと見つめる。そんな毎日です。

そして、ある日のこと。奇跡がおきました。オニバスの芽が出たのです。雪の降るクリスマスイブの夜。店に戻ってきた智史。そこに懐かしい声が響きます。

「アクアプランツショップトラッシュ。ここあなたのお店。あなた店長さん?」、そう言って、以前とまったく変わらない笑顔で立っていたのは花梨でした。「夢の中で、あなたのお父さんに会ったの。智史が待ってるから、戻ってやってくれって、帰り道を教えてくれた。お父さん、最後に言ってた。幸せだったって。智史を愛していたって。花梨ちゃんはきっとまた智史に会えるだろうから、その時は智史によろしく伝えて欲しいって」。感動的な音楽が高まり、花梨が智史に抱きつきます。
「お帰り、花梨」「ただいま」。


いやあ、ナルコレプシーといういきなり眠っちゃう病気はありますが、この映画の病気は、もっとスゴイですね。いったん眠ったら、二度と目覚めず、植物状態になって死ぬ、ですから。さすが恋愛小説の旗手、市川拓司さん、トンデモない設定を持ち出してきました。どこをどうしたら、こんな病気を考え付くのか分かりません。

ちなみに、いわゆる植物状態は「遷延性意識障害」と言って、定義としては、自力移動ができない、自力での摂食ができない、大小便の失禁がある、などが挙げられています。つまり、病院であれ、自宅介護であれ、その看護はハンパではありません。で、この映画ですよ。長澤まさみの寝ている病室は、どこのリゾートホテルだよ、と思うようなシンプルモダンな雰囲気。もちろん、点滴用のチューブもなけりゃ、モニター類もゼロ。あとシモの世話をどうしているのかも、まったく不明な有様です。もちろん、長澤まさみはご飯なんか食べない、ましてオシッコなんか絶対しない、って言うなら話は別ですけどね。

それに、話のオチが、三途の川でお父さんに会って、戻れって言われたってのもスゴイ。なんていうか、ここだけ妙にクラシックな雰囲気が漂ってきませんか。まあ、あの世があるとかないとか、それは分かりませんし、そういった題材の映画を否定する気持ちはありません。でも、この映画の、この流れの中で、いきなりソレはないだろと。

あと、最後、お店の前に現れた長澤まさみの頬っぺたがパッツンパッツンなのもどうにかして欲しいポイントです。人間、風邪をひいたって、もう少しやつれそうなもんですが、まして植物状態だったわけですからね。なんていうか、全てリアルでガチガチに固めろとは言いませんが、少し、ほんの少しで良いから、頭を使って映画を作って欲しいと思います。

そうはいいつつ、長澤まさみがカワイイので、まあ何もかも水に流してやろう、という気持ちになれる映画でもあります。お父さん役の小日向文世も、このムチャな設定の映画を、その演技力でどうにか引き締めていますし、トータルで見れば、そんなに悪い映画ではないんじゃないかと。特に「いま、会いにゆきます」のファンの方だと、泣ける映画なのかなあと思います。まあ、僕は、そういったスイーツ(笑)な、癒される、私らしいひと時な世界には、「まったく」共感を抱けないのでダメですけどね。でも、ハーレクインロマンス的な意味で、こういったお話とか世界観が好き、というのは趣味の問題ですし、東映の千葉ちゃん映画が好きというのとドッコイドッコイですから、否定はしません。

多分、みんな「分かった」うえで、それでも楽しんでいるんですから、あれこれ言うのは野暮というものですよね。

でも、一つだけ言いたいんです。長澤まさみが世界的トップモデルっていうのには無理があるんではないでしょうか。どう見ても肩幅ありすぎるし、体格が立派すぎです。やっぱりここは、パリコレにも参加している小雪さんこそがヒロインに相応しいと思いませんか。あと、智史役の山田孝之もちょっとカッコよすぎ。鈍感な役なんですから、ここはググっと演技派の吉岡秀隆あたりを起用してはいかがでしょう。ついでに、サブキャラとして、堤真一とか薬師丸ひろ子でも呼んで、時代もさかのぼって昭和30年代くらいに。えーと、違う映画になっちゃいました。


(小学生の秘密基地のレベルを、はるかに超えているような)

(シンプルイズベスト、なのかなあ)


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【映画】ジャコ萬と鉄

2008-07-30 18:30:51 | 邦画 さ行
【「ジャコ萬と鉄」谷口千吉/深作欣二 1949/1964】を観ました

 

おはなし
ニシン漁を舞台に、無頼漢のジャコ萬と正義漢の鉄が大活躍(なのかなあ)。

色々な要素が混ざっている映画ですが、えーと、一言で言えば「あらくれ系」とでも言えばいいんでしょうか。ただでさえ一攫千金の博打に近いニシン漁を舞台にして、網元に復讐を誓うジャコ萬と、網元の息子・鉄が、恋に殴り合いに大暴れ、みたいな汗臭そうな作品です。

どちらの作品も、谷口千吉と黒澤明の脚本を使用しているので、お話は細かいギャグも含めて、基本的に一緒。そのため、僅かにある相違点にこそ、二人の監督の資質の違いや、時代性が現れているような気がしました。

まず、共通しているあらすじ部分を、ざっと追ってみましょう。

東北各県から男たちが続々と、北海道のある漁場に集まってきます。やん衆といわれる男たちは、3月下旬にやってくるニシンの大群を獲るために、網元のもとに出稼ぎにくるのです。
そして、今、海をじっと見つめている九兵衛も、そんな網元の一人。もともとは樺太の網元でしたが、ソ連の侵攻から命からがら逃げ出してきて、ここ北海道で再起を図っているのです。

なにしろニシン漁は大博打。あちこちに金をばら撒き、どうにか漁場を手に入れても、きまぐれなニシンが他を回遊してしまえば、それっきり。大勢の男たちをあつめて網を建て、万全の準備をしたとしても、その網にニシンが入らなければ、借金も返せず首を吊るしかありません。しかし、当たれば大儲け。男の血がうずくというものです(多分)。

さて、そんな九兵衛の番屋に、ひとりの流れ者がやってきました。その男の名前はジャコ萬。片目にアイパッチをして、背は大きく、顔は凶暴そう。ちょっと、お友達になりたくないタイプですが、それは九兵衛にとっても同様。なにしろ、九兵衛は樺太から引き揚げるときに、ジャコ萬は死んだと家族に嘘をついて、ジャコ萬の船をかっぱらったのですから。それからの一年間、ジャコ萬は苦労に苦労を重ね、九兵衛に復讐するために、どうにかソ連から日本に帰ってきたのです。

欲しいのは金か、という九兵衛にニヤリと笑うジャコ萬。欲しいのは金じゃない。お前に血の涙を流させたいんだ、とジャコ萬は番屋に居座ってしまうのです。家族の手前もあるし、まさかジャコ萬を殺してしまうわけにもいきません、九兵衛としては辛いところですが、それをいいことにジャコ萬は傍若無人に振る舞い、やん衆たちなどは、どちらが親方か分からねえ、といぶかしがるのです。

そんな、ある日。戦死していたと思われていた九兵衛の息子、鉄がひょっこり帰ってきました。この鉄というのも、喧嘩っ早い性格でジャコ萬に負けず劣らずの男ですから、偉そうに昼間から酒を飲んでいるジャコ萬を見て、ムカムカです。さっそく、拳と拳で語り合うことになったのですが、とりあえずジャコ萬の驚異的なパワーに圧倒されちゃいます。さらに、自分の親父が船を盗んだと聞けば、「悪いのは親父の方だ」と矛を収めるしかないのでした。

さて、そんなキナ臭い雰囲気が続くある日、ジャコ萬を尋ねて一人の女がやってきました。ユキという山猫のように気の強い女は、ジャコ萬に惚れて、もう3年も追い掛け回しているそうです。しかし、ジャコ萬といえば、白熊を倒すことと、浴びるように酒を飲む事にしか興味がないという、ワイルドもいいとこなので、ユキはムキーといつも怒っているのです。

一方、鉄はと言えば、土曜日になると、いそいそと番屋を出て、どこかに行っています。と、この行き先が谷口千吉版と深作欣二版ではまったく違うんですけどね。まあ、いずれも女のところではあるんですが、これについては、あとで書きます。

津波が襲ってくるというので、いったん建てた網を、夜通しかけて撤去したりと、やん衆の労働条件は苛酷。そのうえ、口ばかりでケチな九兵衛に、とうとうやん衆はストライキを起こすことにしました。手当てを増やしてくれない限りは、もう一切働かねえ。ジャコ萬が煽り、鉄までもが「親父、それは安いぜ」と言い出したもんですから、九兵衛としては困ってしまいます。とは言え、もしニシンが獲れなければ、自分も破滅するだろうが、やん衆だって金は一銭も手に入らないのです。そんなことをやん衆がするわけあんめえ、とちょっと高をくくっている部分もあります。

さて、南風が吹き、ニシンの大群がやってきました。ニシンが数の子や白子を出す前に、獲ってしまわないとなりません。そのためには、この30分が勝負。しかし、やん衆は動こうとしませんでした。焦った九兵衛が土下座をしてもダメ。さすがに人望がゼロだと違いますね。そんな中、ひよわで作業の邪魔でしかなかった男がひとり立ち上がったのです。と、ここも谷口版と深作版では、まったく人物造形が違います。名前すら違うし。まあ、それはともあれ、その若い男の説得で、よしニシンを取るかと、立ち上がったやん衆ですが、そこにジャコ萬の持つ銃が火を吹きました。動くな、動いたら撃つぞ。このまま、待っているんだ。おい九兵衛、悔しいだろう。血の涙を流したいくらいだろう。

この瞬間、ジャコ萬が待ちに待った復讐のチャンスが訪れたのです。まあ、そこでジャコ萬と鉄の対決があったりして、ともあれニシン漁に走るやん衆たち。和解した鉄とジャコ萬も手伝って、ニシンがとれたよ万々歳。と、そんな感じです。

最後は、一人去って行こうとするジャコ萬と、山猫女のユキの間を鉄が取り持って、鉄自身も船乗りになる、と去っていく。とまあ、こんなお話です。

ジャコ萬を演じたのは、谷口版が月形龍之介で、深作版が丹波哲郎。マタギで、飲んだくれで、復讐の鬼という設定を考えると、これは月形龍之介の方に分があるような気がします。暗い情念というか、鬱屈した気持ちをうまく演じていたような気がしました。丹波哲郎だと、どうも都会的というか、マタギというよりはギャングのボスみたいに見えてしまうんですよね。

ジャコ萬に惚れるユキの役は、谷口版が浜田百合子で、深作版が高千穂ひづる。設定としてはアイヌとの混血で、それを苦にしていることになっていますが、両映画とも「少しの台詞」で、サラっと触れるだけ。真正面から取り組むならともかく、興味本位な設定ですから、ちょっとうなづけないところです。まあ、それはともかく、野性味なら浜田百合子に軍配があがり、気の強さや、総合的な演技力では高千穂ひづるの方が勝ちかもしれません。

鉄が帰ってきたことで、財産がもらえないんじゃないかと、戦々恐々とする姉夫婦役もいます。谷口版では清川虹子と藤原釜足、深作版では南田洋子と大坂志郎でした。これはもう、観た瞬間、勝負あったというか、清川虹子と藤原釜足でキマリでしょう。南田洋子と大坂志郎も上手いと思いますが、上手さの質が違う感じです。それに、清川虹子がそんなに太っていなくて、意外とキレイなのにもビックリできますしね。

あくどい男、九兵衛。谷口版では進藤英太郎。深作版は山形勲。とにかく悪そうな雰囲気なのは進藤英太郎で、鉄を思う父の情愛みたいな部分では山形勲が勝っています。まあ、これはどっちもどっちなので、その人の趣味次第でしょうか。

さて、両作品が違っていた部分は、ひよわな若い男についての部分。谷口版では、若い男のあだ名は「大学(松本光男)」といい、なにやら事情があって流れてきたインテリという扱いでした。当然、インテリなので、ストライキをしているやん衆を説得するときも、日本の食糧事情を考えようとか、割と理路整然な感じです。一方、深作版では、この役が「大阪(江原真二郎)」という人物になります。かつて浮気した女を殺して、刑務所に入ったものの、出所いらいずっと悪夢に悩まされ、とうとうここまで流れてきたという設定です。そのため、やん衆の説得というよりも、ジャコ萬の説得係という側面が強かったような。

この設定の違いに関しては、時代性が色こく影響しているような気がします。深作版が撮られたのは、すでに日本に食べ物があふれきっている時代ですが、谷口版の1949年と言えば、まだまだ戦後の食糧不足の記憶が生々しいころです。ですから、大学の言う、まずはニシンを獲って、それを日本のニシンにしよう。賃金も大事だけど、まずは飢えている国民に食糧を届けなくちゃ、という主張は、観ている人にとっても当然のこととして感じられたと思います。しかし、深作版では、まずはニシンと獲ろう。そのニシンは俺たちのものだから、親方が賃上げをしなければ、勝手に売ればいいじゃないか、というロジックに変わりました。まあ、良い悪いではなく、ホント時代の差ですね。

もう一人の主人公、鉄を演じたのは谷口版が三船敏郎、深作版は高倉健です。もう、この二人については、比較することが畏れ多いというか、無意味というか。とは言え、二人ともまだまだドスが効いていないというか、大御所ではありませんから、その若々しい感じがとてもいいです。もっとも、彼女の扱いについては、映画会社のカラーの違いがハッキリしていて、そこが面白いところ。

三船敏郎は、土曜日になると町に出かけます。目的は憧れの少女を見るため。教会でオルガンを弾いている美少女(久我美子)を、離れたところから見守ることだけが楽しみなのです。もちろん、声もかけられないし、ただニマーっと見ているだけ。最後は、美少女を見るだけ見たおして、意気揚々と去っていく三船敏郎でエンドマーク。なんだか、ミサ、オルガンという要素も含めて、東宝の都会志向を表しているようです。

一方、健さんが土曜日に出かけるのは、開拓農家。そこで、戦友の妹(入江若葉)と老いた父のために、斧をふるって根っこほりに汗を流すのです。吹き出す汗。戦友の妹への忍ぶ恋。なんだか浪花節な世界です。そして、最後、船に乗るといって浜を出た健さんが、開拓農家にいそいそと行ってみると、そこではトラクターに乗って、恋人と楽しく根っこ掘りをしている妹の姿があるのでした。ガーン。傷心の想いを抑えて、渋く去っていく健さんでエンドマーク。もう、東宝版と全然違う、いかにも東映な感じですね。

ともあれ、ほぼ同じ脚本を使いながら、これだけテイストが分かれてしまう。映画って、その時代とか、映画会社によって、こんなに変わってしまうものなんだ、と驚きました。

あ、ジャコ萬ですか。えーと、名前の由来はジャコウ鹿から来ているようですよ。ジャコウ鹿の萬吉だったかな。ぼくは、てっきりチリメンジャコのジャコだと勘違いしていて、「小せえ」男だよなあ、と思っていたのはヒミツです。

 

 

 

 


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【映画】サインはV

2008-06-27 18:11:41 | 邦画 さ行
【「サインはV」竹林進 1970】を観ました


おはなし
朝丘ユミたちは、バレーボールに青春をかけるのです。そう、Vをつかむために。

テレビで爆発的な人気を博した(らしい)スポコンドラマを再編集して、映画公開したものです。30分ドラマとはいえ、全45話を80分に縮めたわけですから、大河ドラマの総集編にも負けない怒涛の展開。元のテレビドラマを観ていないと、ジェットコースターすぎて、クラクラします。

手垢で汚れたバレーボールが映し出されました。そして、そこにナレーションがかぶさります。
「サインはV。監督牧圭介の掲げたビクトリーの頭文字。勝利を表すVサインのもとに、全国から有名選手が続々と立木大和に集まった」

監督の牧(中山仁)が鬼の形相でボールを投げつけるのを、ひたすらレシーブする選手たち。ということで、ここでサクっとメンバーの紹介です。キャプテンの松田(岸ユキ)。魔の変化球サーブの名手・朝丘ユミ(岡田可愛)。その力、高校生ナンバーワンと言われ、スパイク・レシーブに抜群の力を持つ椿麻理(中山麻理)。チーム随一の頑張りや、東北出身の小山チイ子(小山いく子)。今やチームになくてはならぬ存在となったオールラウンドプレイヤー、岡田きみえ(和田良子)。関西出身のファイトの塊のような久保田さち子(青木洋子)、だそうです。
まあ、覚えておくべきはユミと麻理くらいなんですけどね。

それはともかく「立木大和バレー部合宿所」では、監督の牧が練習後のお説教タイム。
「Vサインの合言葉は、自分自身に勝つことだ。お前たちの、その若さと青春を賭けて、悔いのない立木大和を作るんだ」「はいっ!」。
ありがたいお説教を噛み締めているユミに、麻理が声をかけてきましたよ。
「朝丘さん、今の監督の演説。私たちへのあてこすりかしら。でも、あなたには負けないわ」「どんなところでも、ヒロインは一人よ。立木大和のヒロインは私よ」。
さすがに、ホーホッホと笑いませんでしたが、得意げな顔で去っていく麻理に、ユミは思わずカメラ目線で誓うのです。
「そう、それならあたしだって負けない。負けるもんですか」。

典型的なお嬢様キャラの麻理は、とにかく口が悪いったらありゃしません。今日も、練習中にユミのジャンプ力不足を指摘してきました。「あなたを除いて、私たちみんな、ネット上40センチ以上のジャンプ力を持っているわ。たとえ、魔の変化球サーブがあっても、あなたのジャンプ力ではレギュラーとして失格ね」。
クワっと目を見開いて、「何ですって」と言い返すユミですが、口で麻理に勝てるわけもありません。

夜の体育館で、思いつめた表情のユミは、ジャンプの特訓。でも、下半身が微妙に重いのか、なかなかネット上40センチは難しそうです。そんな姿をじっと見ていた監督の牧が、「朝丘」と声をかけました。
「監督っ。ダメっ。あたしはダメだ」。そんなユミに「これを履くんだ」と黒いシューズを取り出す監督の牧。「今日から、これを履いて特訓だ」。受け取ったユミは「ええっ、重い」と絶句しますが、それもそのはず、シューズは鉛入りです。
「それでジャンプ力をつけるんだ。さあ履け。履くんだ。俺がいいと言うまで、絶対に脱ぐんじゃないぞ」。ええと、監督、お風呂の時はどうしましょう。

ま、それはともあれ、近所の公園で特訓開始。監督の投げつけるボールをひたすらレシーブです。「負けるもんか。負けるもんか」、ドタっ。倒れるユミにボールを投げつける監督。もう情け容赦ありません。「もうダメ。こんな重い靴履いて、あたしにはできない」。「さあ立て。立つんだ」と監督は、顔にボールをぶつけてきましたよ。ぐわーっと睨むユミですが、監督は「お前が自分自身に勝てないなら、何をやってもダメだ。バレーなんかやめちまえ」とスタスタ去ってしまうのです。

傷心のユミが合宿所に戻ると、みんなは食事をしないで待っていたようです。みんなっ、ありがとう。感激したユミは、監督の部屋に謝りにいくのです。「監督、すいませんでした。私、忘れてました」とVサインをするユミ。「よーし、そのファイトだ。飯を食ったら、また続けよう」と監督は喜んでいますが、人の部屋に謝りに行って、Vサインはないだろう、Vサインは。

それはともかく、ユミは夜の体育館でひとりジャンプ。麻理のバカにする声が、頭によみがえっては、ムカムカしながらジャンプ。木にぶらさげたボールに向かってジャンプ。とにかく、ジャンプ、ジャンプ、ジャンプです。
ここで、また重々しいナレーションが流れます。
「己に勝つ。それがVだ。ブラックシューズを履いて、いかに厳しく険しくとも、必ずこの試練に勝つのだという決意に燃えて、ユミは来る日も来る日も頑張った」

そして迎えた試合の日。監督はユミの肩をポンポンと叩きつつ言いました。「朝丘。その黒いシューズを脱げ。普通のシューズに履き替えるんだ。そして、思いっきりジャンプしてみろ。君は今までとは違う体になっているはずだ」。
いぶかしげな表情のユミですが、試合になってビックリ。「軽い、軽いわ」。もちろん、試合はユミの活躍で勝利です。

試合後、合宿所ではみんながユミを褒めまくり。ユミの顔も喜びに輝くというものです。しかし、なんだか監督は怒っているようですよ。「朝丘、何か忘れてることはないか。特訓だ」「ああ、あれはもう。ジャンプ力ついたから」「馬鹿っ」ベシっ。監督、ユミのホッペを張り飛ばしています。「ジャンプ力がついたから、それでいいのか」。いや、いいと思うんですけど。「そこの林で、何が起こっているのか、自分で確かめてみろ」と監督に言われ、公園に行ってみるユミ。そこでは、なんと。なんと。

麻理が特訓中でした。使用人をお供に、レシーブの特訓です。しかし、この特訓が並じゃありません。体に、大リーグボール養成ギブスが裸足で逃げ出しそうなスプリングをジャラジャラつけて、ついでに鉢巻で目隠しをしているのです。「お嬢さん、もうやめましょうよ」と心配する使用人に、「あたしは命を賭けているのよ。さあ投げて。朝丘さんにだけは負けたくない」と言い切る麻理。物陰から見ていたユミは、「麻理さん、あなたって人は。あのトレーニングから、どんなプレイが。麻理さん、私は負けた」とガックリです。
しかし、ここで諦めたら負け犬のまま。ユミはさらなる特訓を自分に課すことにしました。「あたしも、魔の変化球サーブを作り出す」。

試合はユミと麻理の活躍でトントン拍子。初出場ながら決勝戦までやってきました。対する相手は、強豪ミカサ。特に、エースの大本が放つ殺人サーブは要注意です。なにしろボールがぐにょーんと楕円になってますから。しかし麻理は自身タップリです。「いよいよ、私の出番のようね。見ていなさい、朝丘さん」。ぐにょーん。殺人サーブが麻理を襲います。しかし、麻理はなんなくレシーブっ。「分かった、音だわ。あの目隠しの秘密はコレだったのね」と冷や汗をダラダラかきながら納得するユミ。しかし、あたしだって特訓したのよ。「あたしも負けないわ。見ていて、私の新しい魔の変化球サーブを」。ユミは中腰で後ろを向きました。おっ、腕をぐるんぐるんと回しています。とりゃっ。おおぉぉ。サーブが変化しています。もう物理法則を無視した動きで変化しています。ドッカーン。サーブは敵エースの大本に当たり、大本を撃破です。その後も次々と敵選手を血祭りに挙げていくユミの魔の変化球サーブ。す、すごすぎる。ちなみに、このサーブは実況アナ(羽佐間道夫)によって「稲妻落とし」と命名されたのでした。

「あたし立木を出て行くの」と試合後、麻理が言い出しました。寝耳に水のユミは、「えっ、どうして。どうして麻理さん」とビックリ。「あたしが出て行くのは、今度こそ、あなたと正々堂々と勝負がしたいから」「ナンですって!」「あなたに挑戦し、あなたに勝つことが、私のVだって……かならず稲妻落としを破ってみせるわ」。

いきなり主力選手の麻理が名門レインボーに移籍して、困ってしまった監督。しかし、去るものあれば来るものあり。テンガロンハットに、ギターをかかえたガンマンみたいな女の子が道場破りにやってきたのです。女の子の名前はジュン・サンダース(范文雀)、いちおう黒いドーランを塗っているので黒人さんとのハーフということになっているようですね。テストの結果、「荒削りだが、素晴らしい運動神経だ」と監督も認め、めでたくジュンはチーム入りをすることができました。

しかし、せっかくチーム入りをしたのに練習に出てこないジュン。ユミが心配して探しに行くと、寺の石段をウサギ跳びで登っていましたよ。今ではウサギ跳びは否定されてしまいましたが、根性アイテムとしては、やっぱりウサギ跳びは欠かせませんね。それはともあれ、「ジュン。どうして体育館に来ないの」と言うユミに、「あんたが稲妻落としを見せてくれたら、一緒に練習してもいいわ」とあくまで挑戦的なジュン。「私の色が黒いからって同情してるのね。そうなんでしょ」と被害妄想も入っているようです。と、思ったら満更妄想でもなかったようで、チームメイトたちはジュンを混血と馬鹿にして、やめてもらうべきよ、と口々に語り合っていました。
もちろん、そんな動きにユミは大反対。「あの人は私たちにないものを持っているわ」「そう、素晴らしい根性よ」、いや、ユミも根性の塊だと思いますけど。「やるわ私。稲妻落としで、あの人に挑戦する」。そう、それこそがジュンの心のシャッターを開けるために必要なことでもあるのです。

早速、体育館で勝負です。後ろを向いて、中腰になって、腕をぐるんぐるん。エイッ、ビューン。ドカッ。ジュンは稲妻落としの直撃を食らっています。エイッ、ビューン。ドゴッ。エイッ、ビューン。ズゴッ。4発目で口から血を噴き、6発目でジュン、ノックアウト。
「バカモノっ」と監督の怒声が響きます。あーあ、怒られちゃった。「お前たちは明日から、特別訓練に入る」と宣言する監督。そして、その特訓は厳しいものでした。とにかくダッシュ。ひたすらダッシュ。ユミとジュン。完全にタイミングを合わせて、ひたすらグラウンドをダッシュ。「そして秘密兵器は完成した」そうです。

東京都の大会。これくらいの試合では、まだ秘密兵器は使わないようにとの、監督のキツイお言葉。しかし、大観衆の声援にジュンの目の色が変わりました。もっとハッキリ言うと、調子に乗っちゃいました。それに敏感に気づいたユミが「まさか。ジュン、いけない」と言ったものの、ジュンは「れっつごー」と動き出します。徹底的な特訓の悲しさで、頭ではいけないと思っても、体が自動的に動き出すユミ。二人はジャーンプ。空中で交錯した二人の体からは、よく分かりませんが、すごいアタックが飛び出したようです。テレビで観戦していた麻理も「恐ろしいプレイだわ」とつぶやくほどの。

ちなみに、このサーブは、またも実況アナ(羽佐間道夫)によって「X攻撃」と命名されたようです。

監督は、決勝戦まで大事に取っておこうと思ってた秘密兵器を、勝手に使われ大激怒。二人は出場禁止になってしまいました。しかし、ジュンは全然、反省していないようすです。むしろ、私たちがいなかったら勝てなかったくせに、と挑発的。立木大和を出て行くと言い出しちゃいました。あわてて止めるユミ。「あなたにだって夢があるんでしょ。バレーにかけた夢が」。おおっ、動揺しています。ジュンが動揺しまくっています。ここでもう一押しすれば、ジュンはバレーボールを止めないかもしれませんよ。「これ履いて」とユミが取り出したのは、鉛入りの靴。通称ブラックシューズです。ブラックシューズを履かせたジュンに「いくわよ、それっ」とボールを投げつけるユミ。おや、ユミの内心の声が聞こえます。「ジュン。何もかも忘れてボールにぶつかるのよ」。確かに、これでは何も考える暇は無さそうですね。

泣きながらボールをぶつけるユミに、持ち前の反抗心を刺激されたジュンは、懸命にレシーブします。しかし、そのまま肩を木にぶつけて転倒。ついでに、足からも血がダラダラです。ここでジュンの頭に昔の光景がよみがえりました。
ハーモニカで「ねんねんころりよ」が流れる中、幼いころのジュンが、母ちゃん待ってぇ、と叫んでいます。だって、あたし足に怪我しちゃったんだよ。でも、それを無視して去っていく母ちゃん。そう、母ちゃんはジュンを置いて、アメリカに行ってしまったのです。
ハッ。気づくとユミが「あなたとお友達になりたかったの」と言いながら、足の怪我を手当てしてくれているじゃありませんか。思わず泣いてしまうジュン。きっと、内心ではユミのことをカアチャンと思っているんでしょう。まあ、口が悪いのは変わりませんが。

その後、ユミになついたジュンを従え、立木大和は連戦連勝。しかし、好事魔多しという言葉もあるように、いいことがあれば、必ず悪いことがやってくるものです。なんと、試合中に倒れたジュンが、骨肉腫で余命が三ヶ月ということが判明してしまったのです。それを偶然、立ち聞きしてしまい泣きくれるユミ。そんなユミに監督はやさしく言います。「泣くな朝丘。さあ練習だ」、えーと鬼すぎ。「ジュンができなくなったバレーをお前がやるんだ。ジュンの分まで、お前が頑張るんだ」「頑張るんだ、朝丘。それがお前のVじゃないのか」。とりあえず、Vって言っとけな感じです。

全日本の決勝戦。病床のジュンもテレビで見守っていますから、負けられません。しかし、相手は麻理を擁するレインボー。まさに東洋の魔女の名をほしいままにした最強チームです。熱戦のさなか、麻理が言います。「朝丘さん。負けないわ、試合はまだまだこれからよ」。もちろんユミも言います。「麻理さん。あたしは負けない。お互いに全力を尽くして戦いましょう。それがVよ。私たちのVよ」。

後ろを向いて、中腰になって、腕をぐるんぐるん。エイッ。うわっ、自慢の「稲妻落とし」を麻理はレシーブしてしまいました。な、なんてこと。そのうえ、麻理は怪しい動き。ま、まさか。行くわよっ。おおっ、麻理(ともう一人)の「X攻撃」です。完全にコピーされてしまいました。

「やっぱりX攻撃は盗まれたんだ。あたしのせいだ。行かなくちゃ」と病室のジュンも、動かぬ体を引きずって、バレーボールのユニフォームに着替えています。しかし、強烈な痛みで、のた打ち回っています。大丈夫でしょうか。

監督の「X攻撃をやったお前なら拾えるはずだ」というムチャな理屈でレシーブさせられるハメに陥るユミ。うーん、そうだ。よく分かりませんが、空中で逆さになってレシーブするという荒技でピンチを乗り切ることに成功しました。いやあ、原理はさっぱり分かりませんけど、インパクトはありますね。インパクトは。その後、デュース、デュースで決着のつかない試合。ジュンもテレビを見て「ユミ、これで決めるのよ」と応援しています。麻理は「受ける。私は受ける」と迫力です。そして、ユミ。これが最期と、渾身の力で、ぐるんぐるん。エイッ。稲妻落としを麻理は受けました。しかし、この稲妻落としは「根性」が入っていたので、甘いレシーブです。フラフラと上がったボールをユミはアターック。

病床のジュンも苦しみにのた打ち回りつつVサイン。やった、立木大和が全日本の優勝です。

MVPに選ばれ、トロフィー片手にインタビュー責めにあうユミ。「これは私一人のものではありません。チームメイトと、立木を支え、私を支えてくれた、私の心の友。ジュン・サンダースのものです」。それをテレビで見ながら、「ユミ、ユミ、ありがとう」とつぶやいたジュンは、ひときわ苦しんだ挙句、誰も見守らないままに死んでいくのでした。

今や全日本の監督に選ばれた牧が、黙ってVサインを出します。それに答えるかのように、全日本メンバーたちもVサイン。ユミがいます。麻理がいます。みんなは、河川敷をランニングして去っていくのでした。

さすがスポコンドラマ。やっぱり面白いです。なんていうか、日本人の琴線に触れるというか、お約束の連発ではありますが、無条件に「熱く」なります。何分、再編集のために、話が唐突すぎて、口ポカーンな場面もありましたが、その分、話にスピード感が出たのも良かったと思います。

ところで、劇中のバレーボールチームは、本物のもじり。ミカサはヤシカだし、レインボーは「東洋の魔女」と言われた日紡貝塚のことです。そして立木大和。なんだか、これだけでは人の名前みたいですが、これは日立武蔵。正確に言うと日立製作所武蔵工場バレーボールチームのことです。しかし、日立を立木にするのはともかくとして、武蔵を大和に変えてしまうのも中々のセンス。確かに、武蔵より大和の方が強そうですもんね。

余談ですが、ぼくの通勤路の途中に、西武多摩湖線の「武蔵大和」という駅があります。個人的に、この駅の名前は日本最強だと思っています。なにしろ、武蔵と大和ですからね。46cm砲が計18門。排水量があわせて14万トンですよ。むむむ、Vすぎます。すいません、本当にどうでもいい話でした。でも、書きたかったんです。





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【映画】春雪の門

2008-06-25 18:40:55 | 邦画 さ行
【「春雪の門」佐伯幸三 1953】を観ました



おはなし
柔道に青春をかける龍太郎は、博徒に襲われる伯爵令嬢を助け……

いったい何本あるんだと思っちゃいますが、菅原謙二の柔道物です。山本富士子と若尾文子がそろい踏みですが、今回のヒロインは山本富士子でした。

ポクポク。ポクポク。馬車が進みます。バシャっ。車輪の跳ね上げた泥水が、乱暴そうな博徒たちにかかっちゃいましたよ。「待て、待て。待たねえか」と馬車を追いかけてくる博徒たち。馬車に乗っているのは、金持ちの東小路(高松英郎)と仙石伯爵令嬢の真理子(山本富士子)。「君たちは東小路と知ってのことか」と威張る東小路ですが、なあに博徒はそんなことを意に介しません。御者はとっとと逃亡。引きずりおろされた東小路も、スタコラ逃げてしまうのです。

下卑た笑いを浮かべつつ、「おい姉ちゃん。お前も降りろよ。いいじゃねえか」と真理子に迫る博徒たち。ああん、どういたしましょう。「君っ!」。おっ、腰に手を当てた青年が立っています。「乱暴はやめたまえっ」「何を。おっ、貴様は八丁荒らしの龍太郎」。突然現れた、凛々しい姿の杉龍太郎(菅原謙二)に、ポーッとする真理子のアップ。「貴様たち、博打ばかりかゆすりもやるのかっ」、エイッ。次々と投げ飛ばされる博徒たちですが、驚いた馬が走り出してしまったのです。パカラッ、パカラッ。ああん、どういたしましょう。困っている真理子ですが、駆けすがった龍太郎がインディ・ジョーンズばりに馬車にぶら下がり、御者台につきましたからひと安心。「びっくりなすったでしょ」と振り返る龍太郎のサワヤカ笑顔に、恥じらいまくる真理子。もう完全にホレホレ目線です。ああん、どういたしましょう。

仙石伯爵のお屋敷に馬車は着きました。婆や(浦辺粂子)とともに、家にお上がりくださいと勧める真理子ですが、龍太郎は固く辞退です。「じゃ、せめてお名前なりと」という声に、テレくさそうな龍太郎は、ドドドと走っていってしまうのでした。後に残されたのは、忘れ物のメダル。それを胸に、憧れの視線をいつまでも向ける真理子です。

そんな真理子が、部屋で杉の残したメダルを撫でていると、お父様の仙石伯爵(信欣三)がやってきました。東小路がお前を欲しいと言っている、と言う伯爵に真理子はキッパリ答えます。「わたくし、すいませんが、お断りしていただきとう存じます」。困ってしまう伯爵。というのも、東小路に金を借りまくっていたのですから。ああん、どういたそう。

さて、紘道館では問題が出来してしまいました。先日の復讐とばかりに、博徒から果たし状を突きつけられた龍太郎が、勝手に私闘をしてしまったのです。兄弟子の三国が懸命にとりなしますが、先生の矢野正五郎は厳しい処断を下します。「杉。紘道館柔道のの精神は人間修行の道じゃ。覆水は盆に帰らぬ。紘道館の不名誉をあえてした者は、その責任を取らねばならぬ」。泣きながら道場を去る龍太郎。果たして彼の行く場所は、どこに。

と、ちゃんと兄弟子の三国が紹介してくれて、行く場所は決まっていました。下谷にある大工の銀作の家です。行った早々、娘のおせい(若尾文子)の行水姿を見てしまったりする龍太郎ですが、おせいは、そんな龍太郎に好意を抱いたようす。それというのも、柔道以外はてんで不器用で、でも、何事も「すまんです」と言いつつ、一生懸命な龍太郎。ああん、どうしちゃおう。

部屋で琴を弾いている真理子。でも、心は上の空。ぽわわーん。腰に手をあててスックと立った、あの凛々しいお姿。御者台から振り返った時の、あのサワヤカな笑顔。思い出しただけで、顔が赤らんでしまいそうです。と、そこに婆やが戻りました。「婆や、杉さまにお会いできて?」「それが紘道館には、もういらっしゃらないのでございます」。ガーン。さらに、そこにやってきた東小路にまで言い寄られて、もう真理子の気持ちは……ああん、どういたしましょう。

「すまんです」。また、そんなこと言ってるよ、このスットコドッコイは。懸命にモーションをかけても、鈍感極まりない龍太郎に、イライラするおせい。「ぼくは柔道を離れては生きられない。紘道館は、ぼくの魂の道場なんだよ」。だからぁ、そんなことはいいって。あたしを見なさいよ。どうも、若尾文子の美貌をもってしても、菅原謙二のハートはゲットできないようです。

町を歩いている真理子と婆や。あっ、杉さまだわ。「婆や」と声をかけると、婆やが早速、龍太郎に声をかけてくれました。婆やの後ろでモジモジしている真理子。なんだか、テレつつヌボーッとしている龍太郎。おお、会話はないけど、二人は馴染んでいるようです。「お嬢様、お食事にでもお誘いしては」と言われ、コクっとうなづく真理子。そのまま、料亭に舞台は移ります。

たまたま、同じ料亭に来ていた東小路が、三人の姿を目撃してしまいました。ぬぬぬ、真理子さんめ、ぼくちんというものがありながら。早速、子分の増田に龍太郎排除を命令する東小路。「琉球生まれの唐手にはかないますまい」と増田は自信たっぷり。これはタイヘンですよ。

そんなことを知らない真理子はモジモジ。龍太郎はボケーッ。仕方ない、婆や一人で喋りまくっています。「ねえ、杉さま。お嬢様は今、とても困ってらっしゃいますの。お父様から気の進まぬご結婚を勧められております」。えーと、ほら、お父さんが勧める結婚ならいいんじゃないですか。適当なことを言う龍太郎に、真理子は「いいえ、わたくし死んでもイヤなのです」と、熱視線で見つめます。「杉さま、教えてくださいませ。わたくし、いったいどうすればいいのでしょう」。相変わらずハッキリしない龍太郎。これじゃ、埒が明きませんわ。こうなったら、
「いやっ。お嬢さんなどと。ねえ杉さま、お願い。真理とお呼びになって。九段坂で初めてお目にかかったあの日から、真理は杉さまをお慕い申しておりました」。「すまんです」と逃げ出す龍太郎。もう、杉さまったらテレ屋さんなんだから。ああん、どういたしましょう。

むむむ、と悩んでる龍太郎。と、そこに博徒たちといっしょに、なんだか強そうなのがやってきましたよ。琉球唐手の使い手、美奈島金城です。試合を申し込む金城に、「しかし、唐手と柔道では勝負になりませんよ」と断わる龍太郎。よーし、チェーイ。壁を叩き割って、「唐手が恐ろしいのか」フフフ、ハハハ、と挑発する金城ですが、龍太郎にとってそれどころじゃないんですって。

悩みつつ、寝ている龍太郎。と、そこに今度はドスを持った男が襲ってきました。えいっ、と投げ飛ばす龍太郎。なんと、襲ってきたのは、大工の銀作の一番弟子です。どうも、おせいが龍太郎にホレているので、嫉妬に駆られて襲ってきたもよう。「おめえを殺して、自分も死ぬつもりだった」とか言っていますが、さすがに男と無理心中なんて、まっぴらごめんです。いやいや、おせいとは何でもないからさ、と懇切丁寧に説明をして、お引取りいただきましょう。

お嬢様の真理子が、ひとり人力車に乗って、下谷までやってきました。もちろん、下谷なんて身分違いの場所、普通だったら怖くてムリですが、そこは龍太郎にひと目会いたい、その気持ちが真理子を駆り立てたのです。しかし、やっぱり下谷ですからね。人力俥夫に5円という法外な値段を吹っかけられて、困り果てる真理子です。ああん、どういたしましょう。と、そこにキップのいい声が。「箱根の山んなかじゃあるまいし。雲助の真似は止めた方がいいよ。20銭もあればいいんでしょ」。おせいです、おせいがピンチを救ってくれました。「あのぅ」と、この親切なおせいに、すがりつく真理子。杉さまが、ここらにいませんか。ピクっ。な、なにおう。恋敵の出現に、知らないよ、とトボけたおせいですが、やっぱりウソはつけません。「ついてらっしゃいな。教えてあげるわ」。一方、真理子も、このおせいが、龍太郎と同居していると気づき、「あのぅ。わたくし自分のことばかり考えていました。あなたと杉さまのことを……」とショボーンです。

しかし、肝心の龍太郎は書置きを残して家出。えーと、二人ともフラれた?そろって、ドヨーンです。「あの人、今ごろ信玄袋を片手に、どこかで、この花火を見ているんだわ。ノンキな人」とおせいは、夜空に咲く花火を見つめます。いったい、龍太郎はどこに行ってしまったんでしょうね。

はい、意外と近くにいたようです。友達の代わりに、煮込み屋台でアルバイト中でした。柳橋の粋な芸者、えん彌姐さん(村田知英子)に好かれたり、けっこう楽しそう。というか、なんでコイツばっかり、こんなにモテルんだか。

真理子は部屋でウジウジしています。「あなたさまが恨めしくてなりません。あの日、どうして真理を抱いてはくださいません。真理は女。恋に生きとうございます」、そう言いつつ忘れ物のメダルを胸にクネクネするのでした。と、そこにお父さんの伯爵登場。留守中に料亭で龍太郎に会っていたことを知り、怒っています。「お前はわしの留守中、何をしていた。身勝手なまねは許しませんぞ。東小路への体面もある。わしは明日、紘道館に行ってくるからね」。

煮込み屋台に先生の矢野正五郎、兄弟子の三国がやってきました。恐縮する龍太郎に先生は言います。「杉、おまえ仙石伯爵の令嬢の危難を救ったそうじゃないか」。どうも、伯爵は礼を言いつつ、暗に文句をつけてきたようです。「杉、柔道の方はどうだ。忘れられんだろう。帰りたくなったら、いつでも帰って来い」、そう言って去っていく先生。もちろん、このままでは単純な龍太郎にメッセージが伝わらないので、兄弟子の三国が補足します。「杉、先生の言うこと分かるな。仙石家には東小路が必要なんだ」。えーと、うーん、ああ。つまり破門を解いて欲しかったら、お嬢さんを諦めろ、ということですね。

雨に打たれつつ、むむむ、と悩んだ龍太郎。仙石家に向かいます。龍太郎が来たと聞いて、喜びに顔を輝かす真理子。しかし、龍太郎は言うのです。「お嬢さん、ぼく、ぼくはいかん男です。失策ばかりしています。ぼく、あの時、すまんことしました。男らしくない態度でした。申し訳ありません」「すまんです。下谷で厄介になってた大工の娘さんと婚約してたんです」。一瞬、グラっとした真理子ですが、愛する男の表情を見抜けないわけもありません。「ウソです。あなたはウソを仰ってます」「杉さま。何かワケがあるなら、どうぞ仰ってくださいまし。真理は聞き分けのない女ではないつもりです。もし、あなたの仰ることが正しければ、真理はあきらめます。でもそのようなウソを仰られたのでは、真理は、真理は」。

結局、トボケとおした龍太郎が、煮込み屋台でアルバイトをしていると、そこに増田の息がかかった博徒と唐手家の金城がやってきました。おいおい、今日のオレは何をするかわからないぜ。とりゃー。片っ端から、投げまくる龍太郎。しかし、ピストルには勝てなかったようです。ズドン。どさっ。逃げろー。

肩を撃たれて倒れている龍太郎を見つけたのは、柳橋のえん彌姐さん。「はっ!杉さん。これはいけない」。命を取りとめた龍太郎は、そのままえん彌姐さんの家で養生することに。えん彌姐さんは、東小路の手先で金持ち証人の増田の世話を受けている身でしたが、そんなこと関係ありません。むしろ、杉さんを狙った増田なんて、大キライだよ、イーっだ、な気分です。

しかし、えん彌姐さんがラブラブ気分で龍太郎の世話を焼いているところに増田がやってきてしまいました。「あっ、貴様」と怒る増田。しかし、とりあえずは龍太郎そっちのけで、増田とえん彌姐さんの言い争いです。てめえ、浮気しやがって。ヘン、金を借りてるからって偉そうに。なにをーっ、金返せすぐ返せ。返してやるよ、ああ返すとも。本当だな、本当だな。なんか、そんな会話の後、ドスドスと増田は帰っていったのです。一転、しおらしげに「杉さん、愛想つかした?」とカワイイえん彌姐さん。「ねえ杉さん、あたしゃ、どんなことがあっても、あんたが元通りになるまで、返しゃしないから」。ええと、龍太郎の意見は誰も聞いてくれないみたいですね。ぐっすん。

増田が龍太郎の所にやってきて、新聞を見せます。
「世界的拳闘選手ルドルフ・マリク来朝 我国柔道界に試合をいどむ」
「ぼくにやれと仰るんですか」と聞く龍太郎。賞金はいっぱい出すよ、そうすればえん彌の借金も返せるんじゃないかい、とニヤニヤ笑いの増田。こ、これは。別にえん彌姐さんに惚れているわけじゃありませんが、"義を見てせざるは勇なきなり"とも言います。まさに、龍太郎の男が試されているのです。ここで逃げたら龍太郎じゃありません。蛇太郎。いえ虫太郎です。

兄弟子の三国は、試合をやったら紘道館を辞めることになるぞ。でも、やるからには全力でやれ。と、応援してるんだかたしなめているんだか、良く分からないことを言います。でも、龍太郎は頭を使うことはどうせ苦手です。もうこうなったら、やるしかありません。

そして迎えた試合の日。おせいは職人と結婚してしまい、今日、お嬢様の真理子も東小路に嫁ぐそうです。しかし、龍太郎は、今この瞬間。ただ戦うマシンになるのです。

試合の勝敗はどちらかが気絶するまでという、なかなか苛酷なもの。そして龍太郎は苦戦気味。なにしろ畑違いのボクサー相手で、なおかつ相手はグローブの下にメリケンサックを仕込んでいるのですから。ダウン。龍太郎はダウン。

その時、真理子もまた、結婚式の後のパーティでダウンしていました。ごふっ。なんだか、血を吐いています。露骨にイヤな顔をして逃げ出す東小路。どうやら、真理子は結核か何かにかかってるようです。「東小路さまもあんまりだ」とメソメソする婆や。「ねえ、真理子さん、負けちゃイヤ、強くなってね」とおせいは励ましています。そして、「許してくれ。わしが悪かった」と謝っている仙石伯爵。なんだか、このまま死にそうなイキオイですが、そんなことはないので安心してくださいね。

さて、試合に戻ります。メリケンパンチに何回となくダウンを喫した龍太郎。もうダメだ。もう動きたくない。そんな龍太郎の脳裏に真理子の声が響きました。「生きてください」。体が動くような気がします。「生きてください。杉さまっ」、ふっかーつ。どりゃーっ。ボクサーを投げ飛ばす龍太郎。二回、三回と投げられ逃げ腰のボクサー。そして、だぁーっ。気合と共に、ボクサーをより高く、より遠くに飛ばす龍太郎。ボクサーはそのまま、リングの外にぴゅー。ばたんきゅう。失神しました。

そのころ、試合の結果を待たずに、えん彌姐さんを手篭めにしようとしていた増田。そこに、試合を終えた龍太郎が飛び込んできました。投げつけるように賞金を渡した龍太郎。これでえん彌姐さんの借金は帳消しです。まあ、そこで終われば平和ですが、そうは問屋が卸しません。博徒たちが、ドスをきらめかせて襲ってきました。もちろん、龍太郎は快調に投げ飛ばしていきます。「あっ、危ない」、ダーン。龍太郎を庇って撃たれたえん彌姐さん。もう、こうなったら、目に入るもの全部投げてやる。とりゃ、とりゃ、とりゃあ。最後に残ったのは増田ひとり。

「ひと目で社会の害虫と分かる博徒どもはまだいい。しかし、貴様のような紳士の仮面を被った悪魔は……」

てやーーーっ。裂帛の気合と共に増田を投げる龍太郎。増田は、窓を突き破って、そのままどこかへ飛んでいくのです。

ここは海岸。真理子の転地療養先です。結局、伯爵は屋敷を売って田舎に戻り、東小路から離縁された真理子は、こうして婆やと共に寂しい海岸を見ながら、体を癒しているのでした。「こんなことなら、最初から杉さまと」とグチる婆やに、「婆や、もう言わないで」と、やはり悲しそうな真理子。と、そこにおせいに連れられ、龍太郎がやってきましたよ。下を向いてテレている龍太郎に、真理子は一歩また一歩と近づいていきます。嬉しくてメソメソしている婆や。寂しそうに笑うおせい。やがて、並んだ龍太郎と真理子は、海岸をどこまでもどこまでも歩いていくのです。


なんだか、龍太郎が外人と対決するところなどは、黒澤監督の「続 姿三四郎」っぽいですが、それもそのはず。原作者が一緒ですから。講道館を紘道館に、嘉納治五郎を矢野正五郎に置き換えた、この一連の柔道モノは、まあ有体に言ってしまえば、全部いっしょ。柔道最強。柔道家モテモテ。ということで。

それにしても、菅原謙二は、自身が主役の柔道モノでもイヤミがなくて素晴らしいですが、若尾文子や山本富士子、京マチ子などの助演に回っても、うまく女優さんを引き立てることのできる、いい俳優さんでした。川口浩、田宮二郎が台頭してくるまでは、まさに大映東京のベスト男優と言っても過言ではありません。

高嶺の花・山本富士子と低嶺の花・若尾文子は、そのキャスティングも納得な感じ。これが逆だと、まあ山本富士子はそれでもケナゲな娘っぽくてイケそうですが、高貴な伯爵令嬢の若尾文子ってギャグですもんね。

そんなこんなで、手堅い話に適切なキャストですから、安心して観られる娯楽作品でした。







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