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村上春樹は世界文学か 川村湊氏に聞く

2017年02月24日 09時10分34秒 | 市場動向チェックメモ
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO13259490T20C17A2000000?channel=DF280120166618&style=1

村上春樹は世界文学か 川村湊氏に聞く
 
2017/2/24
 人気作家、村上春樹氏の新作「騎士団長殺し」(全2巻)が24日、発売された。長編小説としては4年ぶりとなる今回の作品は、初版の発行部数が、自己最多の「1Q84 BOOK3」に並ぶ1冊50万部に並び、上下巻合わせて100万部。すでに重版も決まっている。翻訳本も現代作家では最も多く、海外でも広く読まれている。各国の文化を超えて世界中で読まれる作品の魅力はどこにあるのか。「村上春樹はノーベル賞をとれるのか?」などの著書で知られる文芸評論家の川村湊氏に聞いた。

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村上春樹は世界文学か 川村湊氏に聞く
 村上春樹氏の新作「騎士団長殺し」全2巻が24日発売された。各国語に翻訳され読まれる村上作品の文学的価値は何か。文芸評論家の川村湊氏に聞いた。
 ここ最近の村上氏の長編小説「1Q84」(全3巻)や「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」はいずれもミリオンセラーとなっている。大手書店も「村上作品は売れ方が別格。一般的に新作は100冊程度売れると、『売れた』と実感するが、村上氏の場合は数千冊の単位で仕入れても売り切れてしまう」(丸善丸の内本店)と話す。「騎士団長殺し」は実際には4年ぶりの長編小説なのだが、上・下巻以上の本格長編としては「1Q84」以来の「7年ぶり」と銘打つほど、販売にも力が入る。低迷が続く書籍販売の流れに逆行する現象だ。


インタビューにこたえる文芸評論家の川村湊氏(左)。聞き手は映像報道部・槍田真希子(2月21日、東京都千代田区の法政大学)=撮影 古谷真洋
■突出した売れ行き、なぜ?

 「村上作品に多くの人が共感を覚えるのは、現代人が日ごろ感じる喜びや悲しみ、苦しみなど身近な感覚がうまく表現されているからだ。読者は、まるで自分のことを描いているようだと感じ、深く共感するようだ」と川村氏は話す。もう一つ、村上作品の特徴といえるのが「解決しない物語」が多いこと。探し人も、謎の答えも見つからないまま終わるものが少なくない。川村氏は「それこそが現代的で、実生活の感覚に近いといえる。かつてはハッピーエンドでもそうでなくても、なんらかの決着があるのが小説だったが、解決したようでも、謎が深まる。あるいは、解決に向けて努力するけれど、結局解決はしないのだという、あきらめのような感情がうまく表現されている」と解説する。

 村上作品がさらに海外の読者にも響くのはなぜか。欧米はもちろん、韓国や中国、ロシアでも生活水準が向上し、暮らし向きや食事、ファッションなどが均一化している。そうなると「人々の悲しみや苦しみも似たものになっていく。村上的なものが受け入れられる下地ができてきたのではないか。意地悪な見方をすれば『グローバリズム』が村上作品の広く読まれる一因だと思う」と語る。

■村上春樹氏はノーベル文学賞をとれるのか

 毎年ノーベル文学賞の発表時期が近づくと、書店に村上春樹コーナーが登場するのは恒例となった。選考過程は50年後の情報公開まで一切伏せられ、実際には候補になっているのかどうかさえ分からない。村上氏の受賞はあり得るのか。「かなり近いところにいるとは思う。5年以内に受賞があってもおかしくない。ただ、過去のノーベル文学賞の受賞者を分析すると言語や国籍、民族などに一定の規則があり、日本の『順番』を考えると少なくとも今年や来年はないだろう」と川村氏は予想する。


ほぼ全作品が各国語に翻訳されている村上春樹氏の作品。英語版の「ねじまき鳥クロニクル」(左)や「羊をめぐる冒険」「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」のほか英語版オーディオブック(右)も並ぶ(東京都千代田区の丸善丸の内本店)
 過去の日本人の受賞者を振り返ると、川端康成が1968年、大江健三郎が94年にそれぞれ受賞している。川村氏は「単純計算では25年周期で『日本の番』が回ってくる可能性が高いということ。ただ、アジアでは韓国やインドネシアなどからも受賞者が出てもおかしくない状況なので、東アジア全体から1人となると、村上氏は少し不利になるかもしれない」と懸念する。


 もう一つの懸念材料は、村上氏はエンターテインメントだと受け止められがちな作品が多いこと。「ノーベル文学賞は原則的に、エンターテインメント作品の作家に賞を出さない」。例えば、米国のジョン・アーヴィングや英国のジェフリー・アーチャーらベストセラー作家がノーベル文学賞候補として取り沙汰される雰囲気は確かに無い。「昨年の受賞者、(シンガー・ソングライターの)ボブ・ディランも詩の文学性が評価されたのであって、娯楽作品とは見なされていない。今の村上作品は、作品を出せば大勢の人に買われて読まれる、という大量消費型なので、それが変われば評価も変わるのではないか。日本だけでなく、海外でも文学作品として評価されれば、かなり影響があると思う」

村上春樹氏の作品が並ぶ売り場(東京都千代田区の丸善丸の内本店)
 その上で川村氏は村上文学の日本文学史上の位置付けを試みる。「過去の受賞者を振り返ると、川端氏は『日本にも文学がある』ということを、大江氏は『日本にも現代文学がある』ことを、世界に知らしめた。もし村上氏が受賞したなら、『日本にも世界文学がある』という評価になるだろう」。「ねじまき鳥クロニクル」「海辺のカフカ」といった各国語に翻訳されている村上作品が、世界中の様々な民族や社会にも共通する普遍性を持つとの見方だ。

 ノーベル文学賞といえば村上氏ばかりが候補に取り沙汰されるが、他にも受賞の可能性がある日本人作家はいないのだろうか。川村氏の見立てでは「昨年亡くなった津島佑子さんは有力候補だったと思うが、ノーベル文学賞は故人に賞を贈らない。作品が翻訳され、世界で読まれている作家を考えると、多和田葉子さんには可能性がある」となる。「犬婿入り」で芥川賞を受賞し、ドイツに暮らしてドイツ語でも著作が多数出版されている多和田氏は、欧州で有名な日本人作家だ。

■「ポスト村上」の文学界

 村上氏の登場は、良くも悪くも日本文学の流れを変えた。近年の文学は「社会性や思想、政治的なもの、観念的なものにとらわれがちだった。ところが村上氏がそういうものをうまく脱ぎ捨てることに成功し、『ポスト村上』の作家たちは思想的、政治的なしがらみから自由になれているのではないか」と川村氏は言う。ただ、逆に見れば「よってたつ根拠がない。言葉だけを並べて、軽いノリでしゃれた比喩といった表層を追うことにもなりかねない」とも指摘する。


各国語に翻訳され世界中で読まれる村上春樹氏の作品。英語版の「1Q84」(右)、「海辺のカフカ」(左上)、「ノルウェイの森」(右奥)が山積みとなった洋書売り場(東京都千代田区の丸善丸の内本店)
 「実はこうした風潮が、米国のトランプ政権の誕生のような現象をもたらした一因ではないかとも思う。なんだって面白ければいい。ウソでも構わずしゃべってしまう、その重みのなさが受け入れられているのではないか」。こうした川村氏の見解は、政治から離れたようにみえる現代文学が今もなお政治情勢と関係していることをうかがわせる。ただ、こう指摘する川村氏も「村上作品はすぐ読みたい、という気持ちにさせられる」と明かす。今回の新作は発売当日に手に入れる予定だが、「1Q84」発売の際は、なかなか買えずに、離れた駅まで出かけて入手した。

 村上氏の作品は時代を超えて読み継がれ、「世界文学」として残るだろうか。後世の評価はさておき、村上氏の作品が、とにかく大勢の読みたい気持ちをかきたてる力を持っていることは確かなようだ。

(映像報道部 槍田真希子)
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