6月12日は入梅の日と重なり、あいにくの雨となったが、沢山の方が「小鹿田焼ミュージアム溪聲館」を訪れてくださった。まだプレオープン期間だが、第一期の展示も終わり、順調に開館準備が整ったことを祝って、集まってくれたのだ。
演奏者は、ヴァィオリン:梅原倫弦(みつる)、ピアノ:古賀美代子、クラリネット:梅原仁歩の三人。倫弦君とは、私は20年ぶりの再開。前回会った時はまだ小学5年生か6年生ぐらいの時だった。それが研鑽を重ねて立派な音楽家として目の前にいた。いうまでもなく、この館の館長・梅原勝巳君の長男である。勝巳君もギタリスト。小野谷には、野田高己先生という音楽の先生がいて、私たちは中学時代、高己先生の薫陶を受けた。声楽家の立川清人と同期性だったという野田先生は、放課後になると、一人、ピアノを弾きながら、声量豊かに唱歌から歌曲まで、多岐にわたる歌を歌った。その歌声は校庭の隅々にまで響き渡ったものだった。倫弦君は、このような音楽環境で育ったのだ。
小鹿田焼の古陶に囲まれた小さな音楽会。
仁歩さんは倫弦君の奥さん。古賀さんは現在人気沸騰中のJR九州「七ツ星」で演奏しているという気鋭のピアニスト。古賀さんの伴奏による倫弦君の「チャールダーシュ」は絶品で、まるでアンコールのような拍手が沸き起こったものだ。
チャールダーシュとは、「酒場」という意味のハンガリー語に由来する名曲である。兵士が居酒屋(チャールダ)で踊り、それが農民の改作も交えて次第に芸術的要素を加えながら普及したものである。
倫弦君の演奏を聞きながら、私は、初期の「ゆふいん音楽祭」の場面を思い出していた。この音楽祭は、1975年に「星空の下の小さな音楽会」として始まり、35回を重ねて2009年に終幕した。毎夏、高原の瀟洒な会場(町の中央公民館を主会場とし、旅館・ホテル・ペンション・喫茶店・美術館などを借りて開催)を舞台に繰り広げられる室内楽を中心としたサロンコンサートは、多くの音楽ファンを魅了し、若い演奏家もそこから巣立っていった。
私は初期の10年間、実行委員として参加したので、その成り立ちやコンセプトなどをしっかりと学ぶことができ、一流の音楽家たちとも交流することができたことは幸運であった。ピアノ・チェンバロ奏者の小林道夫氏が総合アドバイザーを勤めてくださっていた。気がつくと、小林さんが一緒に椅子を運んでいた、という一幕なども懐かしい。
設営を終えたばかりのリハーサル会場で、共演者たちが音楽を作り上げてゆく過程を見たり、演奏会が始まったばかりの舞台裏でアンパンをかじりながら聞いたり、ある一日は高原の風が吹き渡るベランダの一番後ろの席で聞いいたりした音楽が、今でも耳に残っている。
倫弦君は、大分県立芸術短大在学中に、小林道夫さんの共演者に選ばれてゆふいん音楽祭に出演したり、現在は品川フィルのコンサートマスターも勤めているということだから、私が彼の「音色」に独特の風合いを感じたのは、偶然でも身内贔屓でもない、自然な感受の仕方だったといえよう。
演奏会終了後は、旧知の友人・仲間たちなども集まって、乾杯。即席の「チャールダ」が出現した。前夜まで、東側を流れる小野川の両岸にはゲンジボタルが群舞し、西側の森ではヒメボタルが幻想的に明滅していた。激しい雨のため、この夜は蛍は少ししか飛ばなかったが、「小鹿田焼ミュージアム溪聲館」の出発を飾るにふさわしい、賑やかで、清々しい一夜となった。
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