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クロモジの箸、クロモジ茶、クロモジの染色のことなど [森へ行く道 <22>]

2016年12月28日 | Weblog
先日、フェィスブック友達の寺原正さんの「クロモジの移植」に関する記事にコメントを書いたところ、早速、返信があり、その後少し情報のやり取りをした。その折、他人の仕事に難癖をつけているような気がしてきたので、クロモジに関する薀蓄はまだまだ山ほどあるのだが、控えた。そこで、自分自身のブログにクロモジに関する情報を整理し、掲示しておくこととする。今後、「薬草の栽培」を目指す皆さんの参考になれば幸い。



上掲は「百彩の森から」(鉱脈社/2016)の記事。



写真は、クロモジの箸、クロモジの葉、クロモジ茶。盆は「九州根来」とも呼ばれる米良の木地盆。いずれも九州深奥部、標高500メートル前後の山地から得られる「山の恵み」。

この箸は、私が40年ほど前に削ったもの。私は一年半ほど、クロモジの箸を削って生計を立てていた時期がある。長い療養生活を終えて由布院の町で暮らし始めた頃のことだ。由布岳の原生林に入り、一株の中の一枝または一本だけをいただき、持ち帰って箸と楊枝に削るのである。この頃、由布院の町は静かで、このようなささやかな手仕事を受け入れてくれる旅館などがあった。友人の竹工芸家・野之下一幸氏が竹の箸、私が木の箸を削った。そのころ、南九州に一人、北斗七星の象嵌された箸を作る名人がいた。この頃、箸削りの名人といわれる人が、「竹で三人・木で二人」がいるといわれたが、その人たちに出会う機会はなかった。野之下氏も南九州の名人もすでに故人となり、由布院の町もにわかに忙しくなってこのよう箸を使う文化も消えた。
私は、貧しくとも楽しかったその頃の記念に、一膳だけ、手元に残したものである。手に取ると、いまでも、ほのかな香りがする。

クロモジ茶は、秋に黄葉した葉を採集しておき、朴の葉、柿の葉、赤芽柏の葉、ドクダミ、ヨモギなどとブレンドして使う。夏から秋へかけて歯茎に痛みが出た時には、小枝を楊枝として咥え続けて、治した。たしかな薬効のある植物である。




以下は「クロモジの染色/2015年・諸塚」での記録。



黒文字(クロモジ)の木を見つけた。いつか染めてみたいと思っていた植物である。
クロモジは、落葉広葉樹林の中に自生する樹高3~4メートルほどの小潅木である。3~10本ほどが株をなす。幹周りは最大で直径4~5センチほど。木肌は森の中で目立つほど黒く、その黒い樹皮の表面に付く白い点々を「文字」と見立てて黒文字という名が付いた。
茶菓につく黒文字の楊枝は一般的だが、「亭主の削りたての黒文字の箸」が茶席での最高のもてなしとされることはあまり知られていない。
山仕事の男どもは、弁当の時、森に入り、黒文字の枝を切ってきて箸を作る。弁当が終わると、細枝を楊枝に使う。その芳香が珍重されるのだが、薬効がある。胃病の特効薬だという。利休が茶席に用いたのは、「鉈鞘」を取り上げた趣向とおなじく、このような特性を知っていたからに違いない。天下人となった秀吉が設えた金ぴかの茶室とは対極にある、究極の「侘び・寂び」の美学の樹立であった。



クロモジの葉は、初秋に紅葉し、落葉する。春、四月頃、林の中で淡い黄色い花を咲かせる。宮沢賢治の童話「なめとこ山の熊」には、そのクロモジの花が薫る森を抜けて熊を撃ちに行く猟師のことが描かれている。猟師と熊とは狩る者と狩られるものとの関係だが、そこには「友情」とも呼ぶべき交情がある。諸塚神楽に出る森の神「荒神」と神主との関係を思わせる。
クロモジの葉を煎じると、黄色い煎液が得られ、布を入れると、淡黄に染まった。それを30分ほど煮沸し、「銅媒染」をかけると「淡黄(うすき)」が染まった。それはまさしく、春の森に咲く花の色であった。
さらに「鉄媒染」では、最初、黒に近いグレイに染まったが、乾くと、光沢のある利休鼠(りきゅうねず)に仕上がっていた。秋の森の木漏れ日を浴び、絹の光沢と混合し、輝いているその色こそ、利休が好んだ「寂び」の美であった。



フェィスブックでの寺原氏とのやり取りをコピーしておこう。

・高見 乾司  寺原さん、クロモジは、池の窪グリーンパークのコテージ南側の林にもありますよ。諸塚なら六峰街道沿いの自然林ならどこにでも。「標高500メートル以上の落葉広葉樹林の中」が目安ですね。「群生」は見たことがありません。林の中に点在する潅木という認識です。去年と今年、クロモジの葉で渋い銀鼠を染めました。僕は目下、クロモジ茶と生枝の楊枝で歯肉炎の治療中。

・寺原 正 先生!有難うございます。コテージの辺りも少しは探したつもりですが、私には「群生」と云う先入観があってクロモジの木そのものを見る事をしなかったのだと、今更にして思っています。いずれにせよ葉を落としているだろうクロモジを見つけるのは少し無理かも知れませんが、また行ってみたいと思っています。クロモジ茶は私も好きになっています(笑)

・寺原 正 クロモジは「標高500メートル以上の落葉広葉樹の林の中に点在する潅木」という重要な指摘を頂きました。行政および私たちは「スギ林の中に植栽する」計画でしたが、再考の余地がありそうです。有難うございました。

・高見 乾司 おはようございます。杉林の中では、クロモジは生育できません。次第に消滅し、わずかに林の縁で生き延びている姿を目にすることがあります。痛々しい風景です。植栽場所はなるべく標高の高いところ。標高が低く、気温の高い地域でもいずれ消滅します。坪谷辺りは限界点でしょう。ヤマメの生息分布とほぼ同一。


・寺原 正 有難うございます。さっそく計画の洗い直しを行政側にも申し出たいと思います。因みに坪谷小学校は104㍍?です。

・高見 乾司 今年、杉山の中を走る林道の脇で採取したクロモジで染めましたが、ただの灰色にしか発色しませんでした。染料植物は環境によって「色」に違いが出ます。薬効も然り。坪谷では牧水公園の上辺部、天然林のある辺りが適地と思います。

・寺原 正 学術的な部分は大学より情報を入手しますが、やっぱり地域でなければわからない、相当な部分がありそうですね。今後ともよろしくお願致します。

*「学術」は平均値、地域差は「個性」というのが、私の神楽取材における実感。
*「茶花としてのクロモジ」について。京都あたりでは、茶庭にさりげなくクロモジが植えられていて、茶花として用いられます。利休が山仕事の人たちが使う「鉈鞘」を茶室の花入れとして用いたこと、同じく山人が日常的に用いていたクロモジの楊枝、クロモジの箸などを取り上げた「侘び・寂び」思想が基底にあるのでしょう。嵐山あたりでは普通に見られる植生です。緯度との関連で、九州には高山にしか分布しないのでしょう。


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