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世界の裂ける音

2006年09月22日 22時16分21秒 | 深秘探究学
世界が裂けていることを誰も知らないのに
敏感な耳を持った者にはその裂ける音が遠くに聴こえる
あたかも超能力の持ち主であるかのように

しかし無用の雑音をくぐりぬけ静かに目を閉じれば
世界の裂ける音は無名者にも聴こえるだろう

媒介者として存在する身体感覚を持っているので
身体は左右に引っ張られ
痛みのために今にも悲鳴を上げそうになる
その敏感な者は町々を歩き回り
あちこちに生息している人の無言の痛みを感じる

誰がこんな無名の人びとに痛みをもたらしたのか

遠くで声が呼び、死の淵に立っている無名者の悔恨を
救いにやってくる者がある
敏感な者には遠くの声もすぐ近くに聴こえる
遠くの声は救済者の声かと思われるが
普通の無名者には聴こえることがなく
町々ではおびただしい悔恨が雪崩れのように続いている

無名者にその声の意味を届けるのは敏感に媒介する者であり
あたかも受難者のような者である
この媒介する者は無名者に世界の裂ける音を知らせるが
無名者には膨大な悔恨の集積が世界の裂け目のように感じられ
無言の痛みの歴史的堆積となる

その声は救いの声であるはずだが
真空の中で耳澄ますような姿勢でしかとらえることが不可能で
世界の裂け目がさらに大きく広がれば
救済者の顔は浮き立ってくる
まるで獅子王のような顔が現れるが
それは幼いころに夢で見た親和性のある穏やかさであり
人の身体と獅子の頭を持ったまぼろしの救済者である

しかし獅子の頭の中は空洞で無限の知恵が反響するのみであり
敏感な媒介者はひたすらその反響を読みとろうとする

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無限と沈黙

2006年08月04日 23時36分40秒 | 深秘探究学
秋にはまだ枝々のあちこちで風になびいていた葉群(はむら)も今は池の水に浮び、また水底に沈む。おびただしい枯れ葉の中には大きなとんぼの骸が沈んでいる。冬の訪れとともに池の水が凍ると、凝固したままの枯れ葉と大きなとんぼの死体が生きたように凍りついて眠り込む。

氷の中に封じ込められた朽ちた骸の姿は命の記憶であり、その形態がひとつの美を示している。あたかも不滅の形を示しているかのようだが、風が激しく吹き、季節がひとつ動くと、不滅と思われた形はまた違う形態へと移ってゆく。

不滅から変転へと、いく年ものあいだ繰り返されてきたこの無限の循環。その変転の声に耳を傾け、凍る風景を凝視しているモノがある。不滅は空虚を背負い、変転はさらに異なる変転を求めるが、そのモノは無限の沈黙のなかにいて、無言の旋律を奏で始めるように見える。

羽を広げて冬の氷の中に封じ込められたとんぼの骸は、凝視する目の魂から見れば骸ではなく、生きたままのような羽とんぼの動かない肉であり、氷の中で液化した羽音である。強固なまなざしで見ているそのモノだけに視える音の城。そのモノだけに聴こえる音楽である。

季節が動くと液化した羽音は気体になり、不滅の空虚を去って、春の溶解した氷の中で濡れた羽を重く垂らした死体となる。その時にそのモノが羽の死体にひそやかに話しかけると、妖気が立ち昇り、春の霞の中に羽とんぼの変性した姿を見るのである。

沈黙の声に耳傾けると、そのモノの声が水底から届き、気化した息吹が声の現前を伝えてくる。かつて在った死体に確かな心で話しかけると、それは気化した息吹で合奏され空に浮きでる。いまや羽は声の花となり、溶けるピアノの音のように存在する。

液化し、気化し、羽化して、無限への旅立ちを奏でる音楽に取り巻かれて上昇する声の羽に、不滅の空虚を体現したおびただしい花々が無限の空から降ってくる。かすかなピアノ音の奏でる中で、いまや花の無限に溶け入る存在となった声の羽の昇天と引き換えに、そのモノは沈黙の中へと消え去ってゆく。


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中有

2006年07月21日 23時31分38秒 | 深秘探究学
亜熱帯の土地を旅した者が告げたところによると
とうとうと水が流れてくる場所にはマングローブがあちこちに根を生やし
大きな森を形成して生命の息吹きを絶やさない

都市に住む旅人はその水脈を見て森の精を浴びよ、と雨音が伝えにくる
雨がやってくるのは遥かな中空からであり
見上げると顔に立て続けに雨滴が降りかかり
都市から来た旅人の汚れを容赦なく洗い流して行く

雨滴の落ちる跡を視線が天上へと追い求めると、中空の彼方には
中有(ちゅうう)にある死者の魂がゆくえを定め、天の狭間に昇るマボロシが視える
雨滴に心の髄の汚れが洗い流されたがためのようでもあるが
森の精を浴び激しい雨滴によって研ぎ澄まされた旅人の想像力の変性でもある
もはや汚れから抜け出すために見られた幾つものマボロシの仮面を捨てて

秘儀の領域へと足を踏み入れた旅人の現実は
宙に浮いたマボロシの世界だけである
マボロシの声なき声の意味など問うな、と雨音は言う
秘儀が指し示すのは、人がなぜそこに居るのかという問いだけであるが
答えはない。無いというのが答えであり、だからマボロシは変性し続ける
幾千の顔を持ち、幾千の声を雨音のように上げながら

マボロシがマボロシを果てしなく生み続ける
聴こえる声に耳を澄ませ、とも中空の雨音は言う
聴こえるマボロシを聴き
視えるマボロシを視よ、と言うのは
中有(ちゅうう)を抜け出す旅人の現実でもあり
亜熱帯の森に湧き立つ精霊の声でもある
いずれにしても真実の声を聴き姿を視ることができた者は

遥か中空に羽ばたきながら聖なる鳥のような叫びを叫ぶだろう
そうしてその限りない叫びは無音である


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二月の熱き雨(短歌)

2006年07月02日 23時35分18秒 | 深秘探究学

炎え落ちる金閣遠望まぼろしの記憶たどりし雪の二月に

夢に見し、あたごの山に登りきて退かざりし愛の逃避行

夢路ゆく愛蘭土(アイルランド)の西の果て幻劇のゴシック浪漫

二人見る沈黙劇のはねし日に帰りしのちは不死鳥となる

狂院のアルトーと居て声聴きし野獣の声は我に宿りし

雨しずく二月の花に熱く落ちこの逆説の天上の恋

地の果てし海の底より湧きいでし妖精舞踏の始まる宴(サバト)

口火切り氾濫の海泳ぎきり孤島の城に鬼は来たれり

追放者地球(ガイア)飛び出し群青に溶ける心を我に打ちあげ

口聞き屋おいらんと居てときめきし脳裏に走るマリア・マグダラ



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廃墟より(短歌)

2006年05月22日 00時50分19秒 | 深秘探究学

「永遠の歴史」書き上げ瞑目す山奥に棲む龍を筆とし

落日にまたふたたびの嵐呼び怒濤の街に来る一角獣(ユニコーン)

遙かなる星の廃墟が炎上す、わが棲む家は沈める寺か

霧深く雷落ちし森の家、母系家族の肖像ひとつ

声を聞き京の町家は劇化する、雪は降りつぐ鶴の舞う朝

風に舞う塵となりたる時の泡、酒の肴に聖誕生日

南天の上に積もりし白雪の真上につづく灰色無限

越境す他人の空のその下に狂気の愛を携えてゆく

ただひとり天の神秘を嗅ぎ取りし夜の調べに浸されて死す

浮き草に花の咲きたる山奥に棲家を作る導師のごとく

廃墟より記憶の花の咲きいずる宇宙的秋桜(コズミックコスモス)放射せり


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星の砂(短歌)

2006年05月21日 22時50分57秒 | 深秘探究学

滅びゆく村の古老の伝説はひたひた迫り夢の舌めく

崩れ落つ火の玄関(ファサード)より逃亡す夢の城まで果ての天まで

わが顔は亡くて久しき無名者の群れに混ざりて星沙とならん

今生(こんじょう)に雨降りつづく暁の我に無縁か昇天後なれば

回廊を歩く闇夜の月光派、失楽園に夢の枇杷の実

夕映えに沈む王都の寺屋根に浮ぶ龍尾(りゅうび)の泥の人型(マヌカン)

星を喰ひ完全言語さがす森あるべくもなし夢に溺死す

河むこう浮ぶ宿あり真綿村そこより縊死の伝説つづき

残酷史ひもとき出づる水妖の鬼子集いて沼沢会議

雪こぼれ凍れる音楽まなうらに鼓膜をぬけし天球音階

夢のなか怪物草紙書きつげば魂のみの響きこそあれ

湖に沈むピアノの連弾を耳の虚ろに聴きし群青

(sora.vol.1.Jan,15,2006)

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内奥の石塊

2006年05月06日 09時38分10秒 | 深秘探究学
遍歴の身体に記憶されたものは
遥かな銀河からやってきたという誕生譚だけで
身体の奥底にねむり続けている石塊は
いまだに溶けることがない

この石塊は「謎の神聖体」とひそかに名づけているが
内奥の石塊が微熱をもち
マグマの香りを発散するときには
地上の時が呼んでいるのである

この石塊をひそませている者には
よみがえりの使命がもたらされて、苦悩が目覚め
内なる血潮の尽きるまで、
「謎の神聖体」を解きあかそうと努める

共に解きあかす意志を持った魂の同質夢こそが求められるが
二百年の吸血幻想を生きたわたしには
いまだ、その魂のゆくえは霧の中におぼろにしか見えることがなく
危機はいやまし吸血の道はなお険しいばかりである

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奇妙な三角形

2006年04月21日 03時30分56秒 | 深秘探究学
消えた卵の中身を求めるかのように、旅立つのは
目覚めたときの夢の記憶による

そこに見えるのは、三つの形であるが
ひとつは夢の海からやってきた「身体という眼」であり
その眼の向かう方向には
赤い人影と青い人影と名づけるしかない
二つの人影が待っている

「身体の眼」は最初に赤い人影に浸透したが
その赤い人影に浸透し、川のように合流したのち
青い人影を意識の中で思い起こしている
だから行動は赤い影に向かったにもかかわらず
意識は行動から分離しようとして青い影に放射する

これはなんだろうかと「身体の眼」は
みずからの眼を見ながら考えている
青への意識の放射と
赤からの離脱という絵画映像として見直してみると
「身体の眼」は、青という意識へ同一化しようとしているのに
行動する「身体の眼」はまるで身体自らを忌避するかのように
赤い現実のなかに入りながら
赤からさらに旅立ち出ようとしている

これは忌避という意識によって
さらに忌避そのものを忌避しているという
出口のない、中心のない螺旋のようである

しかし、赤い影から完全に離脱を果たすなら
青い影はことさらに輝いて見えるのである
と螺旋の彼方を志向してみるのが
未来の「身体の眼」のありかを開き示すちからになる

いずれ眠りがやってくるだろうその時に
ありかは開き示され「身体の眼」は強いエネルギーの
救済の磁場を開くだろうか

開くならば青と赤と眼と身体が合一した四つでひとつの
過去は三角のやや丸みを帯びた四角だろうか
これが身体の所作で表さなければならないカタチだ





 

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聖音楽のための課外授業

2006年03月24日 12時18分32秒 | 深秘探究学
片の乳房を出した女は、右手で少女の左頭部の髪を強く引っ張り
課外授業で、楽器を間違って弾いた少女の罪を罰する
それは課外ではあっても生きる過程で
聖性を習得させるための記号のレッスンで
少女の姿を借りて、女がこの世に
体現しようとする比類ない記号美の形である

もはや過去の領域に属する女の記憶は
未経験の少女に自分と同じ間違いをさせないための
危うい存在への配慮が隠されていた

半眼の女の厳しい授業は、仰臥した少女の表情に苦痛を与え
少女は眼を閉じ口をうすく開き
未来の苦難を先取りするのである

女の左手は聖性の非在を責めるかのように
少女の裸の左腿に置かれ、腿をあたかも楽器のようにして
音楽記号の発生を促すのであるが
左腿から対角線上の位置にある少女の右頭部の髪には
花房が巻かれ、地下世界を指示する床面の方に向いている
すぐ横には授業で使われる楽器が打ち捨てられて
少女の奏でる音楽を待っている

頭部左につかまれた髪の痛みを感じ
右頭部に花の香りを湛えた少女は
全身で比類ない存在に不可欠の音楽を招き寄せる

女の求める音楽はこの世にいながらにして
この世の果てでしか聴けない音の記号学であるが
少女が時おり、閉じた眼を開けると女の姿は
もはや大理石のような骨だけで成り立つ弥勒の姿のように見え
恐れを通りすぎ、ただ素直に音楽のレッスンを
完璧に習得しようと決意させるのである

聖なる記号は、言いえざるもの
見えざるものを生み出す意志と等号で結ばれ
少女の全身に侵犯と自由への強い意志を与えるが
それはソレ、私はアナタ
という古典的ユートピアへの浸潤によって
音楽記号はかのヒトに与えられるときに
黒十字のごとく現れ、ついには少女自らが弾きながら磔刑にあうのである


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解体のまぼろし

2006年02月24日 23時37分35秒 | 深秘探究学
右の太腿が胴からはずれ、つづけざまに膝から下が更に離れてゆく
太腿の左のほうも同じように胴から離れ、その膝の下も更にはずれて浮いている
両方のかかとには銀の靴が履かされているが、歩む行き先は未知で、さまよい
首から上の頭部には金色の長い髪が漂い宙に浮いている
目は定まらない虚ろを見つめ
肩甲骨も左右がそれぞれ分断して宙に浮遊しているが
肋骨はうっすらと透き通り
胸の隆起が後ろからもかすかに見えている
すぐ下には拍動を打つ心臓が肩甲骨の領域から下へはみ出し
単独で宙空の中央に浮かび、何本かの血管を垂らしている
腹部はかなりの面積だが、やはり単独で他の体部からは分断されて浮いており
臀部は左右の盛り上がりをそのままにたたえて精神分析材料のように挑発している

こうして人体は十個の部分に分断されて
全体を欠きながら唯ひとつの統一的過去を彷彿とさせているのだが
瀕死の芸術家の目にうつるのが
こういうバラバラ死体まがいの解体のまぼろしであり
一切の私性を放棄したつもりが、放棄しきれない謎学(アナグラム)である
瀕死の芸術家の示すのは闇屋の裏に潜むものだが
知らされない歴史を背負った鉱物の声でもあり
したがって解体のまぼろしは美貌の空を更に狂わせるような代物である
狂う寸前の闇屋が更に隠そうとした秘密であり
死体の深い底に沈む沈黙の声であり
芸術家が瀕死の時にしか聞き得ない声であり
狂う寸前の闇屋が自分ではとうとう発見しえなかった狂気の原因であり
あり、あり、……それとしらずに
ふと闇夜を見上げれば明けている青い空の指し示す彼方の
集団の狂気の種である
それが見つかるならば、平安は訪れ
また再び、人体は統一されるのだ



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