尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「野性の証明」「南極物語」のころー高倉健の映画①

2015年02月13日 00時11分44秒 |  〃  (旧作日本映画)
 新文芸坐高倉健の追悼特集を行っている。第一部ははすでに終わり、第二部が18日から30日までとなっている。第二部では東映時代初期のレアな映画も上映される。第一部をほとんど見たので、第二部の紹介もかねてまとめたおきたい。第二部のチラシは新文芸坐のホームページで簡単にみられるが、時間と作品紹介を最後にアップしておく。
 
 「万年太郎と姐御社員」「東京丸の内」はサラリーマンもので、そんなのもやってたんだという映画。「悪魔の手鞠唄」「恋と太陽とギャング」も珍しい。前者は高倉健が金田一耕助を演じている。「ならず者」「いれずみ特攻隊」も数年前に新文芸坐で見たが、石井輝男の確かな技量を楽しめる佳作だった。若き高倉健の魅力を確認することができる。今回は東映時代ということで「任侠映画」が多い。ちょっと前まで、新宿昭和館や浅草などで毎日のようにやっていたものだが、今では映画館で見る機会が少なくなった。全部見ているわけではないが、「昭和残侠伝 死んで貰います」や「網走場番外地 望郷扁」は傑作。任侠路線の先駆け「人生劇場 飛車角」なんかも好きである。でも、深作欣二「狼と豚と人間」「ジャコ萬と鉄」などの非任侠映画、組織ではなく「自己」を賭けた戦いの方が好きだという人も多いだろう。現在では、テレビやシネコンなどでは上映不可だと思われる「山口組三代目」もある。

 第1部作品中、「八甲田山」は前に見てるから、冬に見直しても寒そうなので敬遠した。それを言えば「南極物語」も寒かったけど、これは初めてだから見ることにした。他の映画は「野生の証明」(初めて)、「ブラックレイン」、「遙かなる山の呼び声」、「君よ憤怒の河を渉れ」が2回目、「幸福の黄色いハンカチ」は3回目。まとめて言えば、「思ったより面白く見られた」。公開当時に見た時は、ほとんどが好きな映画ではなかったからである。

 高倉健の役どころは、「サブリーダー」が多い。「中間管理職」と言ってもいい。東映任侠映画時代も、年齢的にも当然だけど、親分(組長)ではなく「代貸」(だいがし)や「若頭」を演じていた。だから上と下の狭間で苦しむことが多い。東映から離れても似たような役で、「ブラック・レイン」も「八甲田山」も上と下の間で苦しむ。「南極物語」も全く同じで、面倒見の対象が犬に代わっただけ。構造的には「任侠映画」なのである。何度か上訴して犬のために死地に赴こうとして止められ、ようやく第二次隊員として南極に「殴り込み」をかける。ずっと、そういう「こらえにこらえたあげく」「思いを果たすために最後に無謀に乗り込む」役柄を演じ続けた。これは日本民衆の心を映し出している。最後に殴りこみたいけど、現実の観衆はこらえているわけだが。年齢とともに、役柄もえらくなる俳優も多いが、高倉健は最後まで「出世」しなかった。総理大臣の役などは似合わない。

 「野生の証明」(78)、「君よ憤怒の河を渉れ」(78)は、どちらも佐藤純彌監督のアクション大作で、今見ても十分面白かった。「野生の証明」は薬師丸ひろ子のデビュー作だけど、当時は角川の大宣伝にウンザリして見なかった。三國連太郎、夏木(夏八木)勲など近年亡くなった俳優も多く、追悼のムードで見た。自衛隊の陰謀的なストーリイだから、自衛隊の協力は得られず外国で撮影したが、なかなか迫力がある。しかし後に中国で大ヒットした「君よ憤怒の河を渉れ」の方が面白かった。当時は原田芳雄を高倉健よりカッコよく思ったが、今見ると違和感がある。陰謀により追われることになる高倉健の検事が、逃げに逃げて反撃に向かう。北海道から飛行機で戻ったり、新宿で馬が大暴走したり、確かに迫力。まあ、日本映画としてはごく普通の娯楽大作だけど、楽しめる。
(「野性の証明」)
 「ブラック・レイン」(89)はリドリー・スコット監督がやたらに面白かった時期の映画。(「テルマ&ルイーズ」までがその時期。)「エイリアン」「ブレードランナー」の監督が日本を舞台にアクション映画を作ったと期待して見て、実は期待外れだった。今回見ても、どうも外してる感は強い。まあ、あんまりうるさいこと言わなければ面白かった。ただし、高倉健ではなく、やはり松田優作の怪演ばかりが印象に残る。だから高倉健のことは忘れてしまっていて、アンディ・ガルシアと一緒にレイ・チャールズを歌っていたのに驚いた。英語を話せる刑事という役である。大阪が戦前の上海かと思う「魔都」として描かれるリアリティ皆無のオリエンタリズム映画で、高倉健映画としては中程度か。

 「南極物語」(83)は犬の「演技」と「南極」(撮影場所の多くはカナダ北極圏)の自然ドキュメントとしては面白いが、劇映画としては非常につまらない。結末を知っているということもあるけど、うーん困ったなという映画。犬好きだから犬の姿を見てると泣けるんだけど、それだけでは映画としては弱い。83年度のキネ旬ベストテン号を探したら21位にランクされていた。「南極物語」を1位にしている人がいて、誰かと思えば小森のおばちゃま(小森和子)。
(「南極物語」)
 選評に「(前略)奇異に思われるでしょうが、人間ならぬ犬の、あれほど自然な演技を画面にとらえた点です。しかも、洋画に出演する犬とちがって、これらエスキモー犬は演技訓練などまったくされていない。だから実際にその状態に彼らを追いこんで、その反応をとらえたもの。その人間の役者と使ってする以上に苦労、苦心した点と、それに応えた犬たちの健気さに感動。」とある。確かに、そういう言い方をすれば、ベストワンになるかもしれないけど…。

 山田洋次監督作品に出て、高倉健は「国民的俳優」への道を歩き始めた。しかし僕は「幸福の黄色いハンカチ」(77)があまり好きではなかった。武田鉄矢のセリフが好きになれないのと、結果が判っている(ピート・ハミルのコラムというか、当時ドーンが歌ってアメリカでヒットした「幸せの黄色いリボン」の映画化だから)のも大きいが、高倉健の設定に感情移入できない。倍賞千恵子の妻が、前夫との間に妊娠(流産)歴があることを夫に言ってなく、それを知って隠し事をする女は好かんと切れてしまい、飲んで外出してケンカを吹っかけて相手を殺してしまったというのである。どこに同情できるのか。

 これは「殺された側」から見たドラマも成立すると思う。バカップルと暴力男のロード・ムーヴィーで、見た当時は楽しめなかった。10数年前に見直したが、その時も「犯罪被害者」を無視した映画のように思えて納得できなかった。しかし、今回見ると、シナリオのうまさと演出の巧みさは認めざるを得ないと脱帽した。ある意味、時間が経って、映画の成り立ちだけで評価できるようになってきたことが大きい。20年ぐらい前に毎年夏に北海道をドライブしていた時期があり、この映画の道をほとんど運転しているので、懐かしい思い出である。ただし、佐藤勝の音楽が僕にはうるさい時があった。(また、阿寒湖温泉は透明のはずではないかと思うが。)

 山田洋次監督のもう一本、「遙かなる山の呼び声」(80)は昔から割と好きな映画で、無理は多いと思うが、ラストで感涙を呼ぶ。健さん映画で一番泣けるかも。明らかに「シェーン」なんだけど、北海道の牧場で小さな吉岡秀隆を馬に乗せるシーン、高倉健が乗馬するシーンは名場面。高倉健はこっちでも「犯罪者」だけど、この映画では同情できる。(だから逃げる必要が判らない。)どっちの映画にも渥美清が特別出演しているが、昔は渥美清が出てきただけで、観客は笑ったものだ。今は無論そんなことはないんだけど、それが寂しい気もした。特に、この映画では「牛の人工授精師」という役柄だから笑わせる。ハナ肇も出ていて、高倉健と張り合った結果、子分になってしまう。この映画は、大傑作ではないと思うけど、好きな映画で、少なくとも「幸福の黄色いハンカチ」よりは納得できる。
 
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 海老原喜之助展を見にいく | トップ | 北欧ミステリーの魅惑-映画... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

 〃  (旧作日本映画)」カテゴリの最新記事