尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

渡瀬恒彦の映画、石井輝雄の映画

2017年05月21日 21時12分59秒 |  〃  (旧作日本映画)
 土日は列島各地で猛暑となったが、僕は二日間とも古い日本映画を見に行った。ところで、2015年は「戦後70年」だったわけだけど、70年を二分すると35年になる。その分かれ目は、なんと1980年である。1970年代までは「戦後前半」であり、1980年代以後は「戦後後半」になる。となると、占領期から高度成長まで、前半期に重大な変化が起こり、80年代後はずっと「バブル」とその崩壊しかなかったような気になる。今回見た映画は、「戦後前半」の終わりごろということになるけど、この自由さは何だろう。

 20日から、池袋の新文芸座は「渡瀬恒彦追悼特集」、渋谷のシネマヴェーラ渋谷は「石井輝雄監督特集」である。けっこう見たい映画の日程が被っているいるが、だからと言って朝から夜まで4本見る元気はすでにない。まあ時々見に行きたいなという感じ。まず、20日は新文芸座で「暴走パニック 大激突」(1976)と「狂った野獣」(1976)を見る。その前に中島貞夫監督、俳優片桐竜次のトークショー。当日来ていた「狂った野獣」に出ていた橘麻紀が飛び入り参加。「狂った野獣」製作時を初め、当時の東映映画人のエピソードが面白い。中島監督はちょっと前に松方弘樹追悼特集で来たばかり。

 今回の2作は、渡瀬恒彦が自分で運転するものすごいカーチェイス映画として有名で、公開当時にも見て、すごく面白かった。最近も時々上映されているけど、見直す機会がなかった。やっぱりすごいなと思うカーチェイスで、どうしてここまでやれたのかと思う。「暴走パニック 大激突」ではドアがぶっ飛んでも運転してるし、「狂った野獣」では大型バスを横転させる。スターの渡瀬が自分で運転している。エアバッグどころか、シートベルトもない時代に、よくそんなことをしたもんだ。
(暴走パニック代激突)(狂った野獣)
 細かい筋を書いても仕方ないけど、「大激突」の方は銀行強盗を重ねる二人組がいて、最後にするつもりの神戸でドジを踏む。相棒は逃げる途中でトラックにひかれ、渡瀬一人が逃げていく。そこへ腐れ縁的愛人の杉本美樹が道連れになり、死んだ相棒の兄室田日出男やなぜかドジな警官役の川谷拓三が渡瀬を追い続ける。それだけでも面白すぎるけど、そこに一般のドライバーの野次馬、暴走族、ラジオ中継車まで出てきて、派手に壊しまくる。ここまで破壊的かつ反警察的な撮影が許されたか。

 「野獣」は銀行強盗に失敗した川谷拓三、片桐竜次が、路線バスを乗っ取る。そこに渡瀬恒彦はじめ、何人もの乗客がいる。運転手は心筋梗塞の持病があり、いつ倒れるかもしれない。渡瀬は一度うまく降りようとするが、荷物のギターケースを持ち出せない。そこに何が入っているのか。渡瀬はケースを取り戻すべく、バスを走って追い、自転車で追い、愛人のバイクで追い、ついには窓から乗り込んでしまう。と思ったら、運転手が死んでしまい、渡瀬が代わりを務めるが…。彼はテストドライバーだったが、目が悪くなってクビになったばかりだった…。バスの大暴走とは世界的にも珍しい。

 「カーチェイス映画」というのは、ピーター・イエーツ監督「ブリット」(1968)から大ブームが起こった。ちょうどその映画も新文芸座で最近見直したばかり。スティーヴ・マックイーンの運転は今も迫力があったが、さすがにちょっと今では物足りない気もした。だけど、サンフランシスコを舞台にしているので、坂道を上り下りするスリルがある。それ以後世界的に大ブームになり、70年代には何本も見た気がする。今もあるけど、最近はGPSもあるし、技術的に進んでしまったので、単純なカーチェイスが少ない。あまりパトカーをぶっ壊すのも、いろいろ問題なんだろう。大体は特撮か、そうでなくてもスタントマンがやる中で、主演スターが自分で全部運転したこの2作の魅力は、日本映画史上に特筆されるべきだ。

 一方、石井輝雄監督特集は、2005年に亡くなった監督の13回忌とうたっている。今回はあまり「代表作」的な作品が少ない。初期の新東宝では「黄線地帯」や「黄色い風土」、東映では高倉健の「網走番外地」第1作や、第3作の「望郷篇」、あるいは千葉真一の「直撃地獄拳」、さらに晩年につげ義春漫画を自主製作した「ゲンセンカン主人」や「ねじ式」…。これらはすべて上映されない。

 それでも見てない映画が山のようにあるわけである。特に僕は69年ごろに大量製作された「徳川異常性愛シリーズ」をほとんど見てない。70年代にも「悪名高い」映画で、さすがにやり過ぎと思われていたと記憶する。当時の名画座でもほとんどやってないと思う。それらの「異常性愛」映画が、それなりに評価されるようになるには時間が必要だったのだろう。

 一本目の「残酷異常虐待物語 元禄女系図」は、1969年に7本も公開された石井作品の最初。オムニバスで元禄の異常な残虐を描くけど…。最初の方はそうでもないんだけど、最後に出てくる小池朝雄の異常なお殿様が凄すぎる。実際に金粉を側室に塗りたくるシーンは異常さぶりが際立つ。次に見た「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」は1969年の7本目の映画。どっちも、暗黒舞踏の土方巽が出てくる。特に後者では、重要な役どころを演じている意味でも貴重だ。
(恐怖奇形人間)
 「恐怖奇形人間」は、日本映画史上に名高いカルト作品で、さすがにこれは前に見ている。乱歩の「パノラマ等奇譚」や「孤島の鬼」などを中心に、「人間椅子」「屋根裏の散歩者」などをアレンジして作られている。全編、異常な描写の連続と言ってよく、悪夢的なストーリイぶりはものすごい。だけど、前にも思ったけど、説明的な描写が多い。あまりにも雑多にたくさんのアイディアを詰め込んだ筋がちょっと弱い気がする。それにしても乱歩はすごいと改めて思う。

 映画とは関係ないが、この映画では「裏日本」という言葉がしょっちゅう出てくる。今ではほとんど死語だろうが、そういう言葉がムード醸成に一役買うわけだ。なお、どっちも吉田輝雄が主演している。新東宝で菅原文太らとハンサムタワーズで売り出し、その後松竹に移った。「秋刀魚の味」で岩下志麻に思われ、「古都」では岩下志麻と結婚する。木下恵介監督の「今年の恋」では岡田茉莉子の相手役という二枚目だったんだけど、次の東映では石井監督の異常性愛シリーズの常連になった。僕は吉田輝雄の再評価もして欲しいなと思う。
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