尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

奈良岡朋子のカウンセリング力

2011年10月12日 00時14分59秒 | 演劇
 劇団民藝の「カミサマの恋」。新宿・紀伊國屋ホール。19日まで。「新劇」は今や伝統芸能に近く、歌舞伎や相撲みたいに働いてるといけないような時間にやっている。15公演中、11回がマチネ(昼公演)で夜は4回しかない。僕は昼でもいいようなもんだけど、夜だけの安いチケットで見た。僕はいわゆる「新劇」(俳優座や文学座、民藝などの「歴史ある劇団」のこと)をそんなに見てるわけではなくて、(文学座アトリエ公演はまあ別として)ちゃんとした公演は安月給の若い公務員には高く、宇野重吉も杉村春子も実は生で見てない。その頃は唐十郎や別役実、井上ひさしなどしか関心がなかったのである。

 この「カミサマの恋」は、青森の畑澤聖悟の作で、奈良岡朋子が主演。奈良岡朋子は「"カミサマ"遠藤道子のもとへは嫁姑問題、息子の受験、息子の結婚相手探しなどなど何かしら家庭の悩みごとを抱えた人びとがひっきりなしに訪れている。」という「カミサマ」役。これはイタコかと思うと、そういう死者の魂を呼ぶ「ホトケオロシ」もやらないわけではないが、普段は「竜宮さま」という神の言葉を伝えている。そこに様々な問題が持ち込まれるわけだが、だんだん自分の家族のイザコザも持ち込まれてくる。そこで、この「カミサマ」という装置が実にうまく働いて、いろいろ「解決」したりしなかったり…。

 奈良岡朋子、1929年生まれ、81歳の素晴らしい驚異的セリフ力で、実にみんな周りがなんとなく動き出していく。これは「カミサマ」を信じているのか、いないのか、信じてないけどフリをしてるのか。台本、演出、演技の見極めはいろいろ解釈もあるだろうけど、僕の考えを書いては詰まらないから書かない。それよりこんなすごい「カウンセラー」を僕は見たことないですよ。実際のカウセンラーや教師のどんな人より。まあ、そういう風に書かれているとも言えるが、やはり一番の功績は、長い芸歴で鍛えられてきた奈良岡朋子の存在の大きさそのものだと思う。奈良岡朋子と仲代達矢が共演した「ドライビング・ミス・デイジー」では、僕はスタンディング・オベーションを経験してる。

 作者の畑澤聖悟は青森中央高校の現役美術教員で、「修学旅行」「親の顔が見たい」などの作品がある。高校演劇の世界で活躍してるけど、「渡辺源四郎商店」という劇団を主宰している。東京でも公演予定があるが、それよりブログを見ると「もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の『イタコ』を呼んだら」を青森中央高校演劇部で被災地応援公演をすると書いてある。今年の地区大会出場作という。「27人の高校生(演劇部員全員)が舞台狭しと駆け回るこの舞台では、全員が劇中歌を歌い、全員がBGMを口三味線でハミングし、効果音さえも役者が声で発します。劇中に野球の試合の場面がありますが、その際の観客の歓声、応援団やチアリーダーの声援、バットがボールを捕らえる打撃音など、全ての音響効果が役者の肉声のみで表現されます。このように躍動する高校生の姿をお見せすることによって、観客に元気を届けたいと考えています。」という芝居という。これ、見たいですね。

 ところで、関川夏央「昭和が明るかった頃」(文春文庫)を読んだ。2004年に文庫されたので7年間枕元で積まれてた。(別に特に長い方ではない。)吉永小百合と石原裕次郎を中心に、日活映画の分析を通して「昭和後期」の精神史を追及した本。吉永小百合は、一人で家計を背負い、役柄通りのマジメ一途の青春を送ったさまが印象的。日活は戦時下に製作中止に追い込まれ、戦後遅くに製作に乗り出したときに圧倒的に俳優不足だったという。そこに「石原裕次郎」という新星が登場する理由があるが、同時に民藝とタイアップし民藝の俳優が助演者として大量に日活映画に出た。最近舟木一夫特集というので、「花の恋人たち」という変な映画を見た。そこでも吉永小百合は「超マジメ」な「女医の卵」をいつもように空回り気味に演じていたが、彼女には福島で病院の下働きをして娘を支える母親がいる。それが奈良岡朋子で、雇い主の医者が宇野重吉。吉永小百合の「真面目さ」は奈良岡の母親役の支えがあって(役としては反対だけど)、画面の中で意味を持っていた。こうして映画を通して、奈良岡朋子は実際に吉永小百合の年長のアドヴァイザーとして私的に付き合っていたらしい。吉永小百合が親に許されない結婚をしたとき、小百合側の知人として付き添ったのが奈良岡朋子だったと関川著に書いてある。奈良岡朋子と言う人は、現実に「カウンセラー」だったのだ。それを思うと、「カウンセリング・マインド」と言って教師が一生懸命研修しているものの意味を改めて考えさせられる。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 凄まじすぎる!「大阪府教育... | トップ | グル・ダット監督「渇き」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

演劇」カテゴリの最新記事