尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

イザベル・ユペールがすごい、映画「エル」

2017年09月09日 20時42分20秒 |  〃  (新作外国映画)
 フランスの女優イザベル・ユペールが今年の米国アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされた「エル」が公開された。これはまさにイザベル・ユペールのすごさを堪能する映画で、レイプの扱いを含めて難しい問題もあると思うが、サスペンス映画として出色の映画だった。それも道理、監督がポール・バーホーヴェンとくれば「氷の微笑」を思い出さないわけにはいかない。あれはまた疑問だらけの映画だったけど、「エル」も真相はどうなんだという気がしてくる。気が抜けないスリラー映画。

 冒頭にまずレイプ場面があって、これが凄い。イザベル・ユペール演じるミシェル・ルブランは当然警察に行くのかと思うと、警察はノー。何でなのかはだんだん判ってくる。ミシェルの父は「大量殺人犯」で終身刑になっている。幼いころのミシェルの写真も広まってトラウマになっている。ミシェルは豪華な家に一人暮らしだが、売れない作家の夫とは離婚し、今度結婚しようという息子がいる。ミシェルはゲーム会社の社長だから裕福だが、会社では剛腕で社員受けは良くない。「エル」とはフランス語で「彼女」だけど、もうこれ以外に題名が思い浮かばない。

 なんていうことが次第に判ってくるけど、スキー帽をかぶって突然襲ってきた犯人は判らない。ミシェルは「やり手」タイプで、自分の生活は自分で築いてきた。父の悪名にめげず、自分の力で地位とカネを手にしたのである。だから、周囲の人間とはあまりうまく行っていない。会社でも嫌がらせ動画が全社員にメールされる。レイプ犯は会社にいるのか。当初は疑うが、どうも違うみたいだ。と思ったときに、再び襲われる。今度は抵抗してスキー帽をはぎ取るけど、そこには…。

 ということで、犯人当てという意味では終わる。では、すぐに復讐になるかというと、そこに屈折があり、すべて仕組まれているかのようにも思えるし、成り行きのようにも思える。ミステリーだから最後は書かないけど、そこに様々な「読み」が可能になる。冷徹にして、計算づくにも見えるが、自分に素直に生きているだけだとも言える。当初はアメリカの女優を起用としたが、なかなかうまく行かなかったというのも納得。難役というにとどまらず、ミシェルの描き方に疑問を持つ向きもあるだろう。

 イザベル・ユペール(1953~)は、もう60歳を超えながら若々しい肉体を披露している。カンヌ、ヴェネツィアの二大映画祭で二度づつ女優賞を取っていて、セザール賞(フランスのアカデミー賞)主演女優賞には14回ノミネートされているという、現代のフランスを代表する女優だ。ヴェネツィア受賞の「主婦マリーがしたこと」(クロード・シャブロル監督)やカンヌ受賞の「ピアニスト」(ミヒャエル・ハネケ監督)の演技には、僕も大変強い印象を受けた記憶がある。

 最近でも「アスファルト」「母の残像」「愛と死の谷」「未来よこんにちは」など注目フランス映画に出ずっぱりの感じ。演技派というか、派手でない静かな役のオファーが多いのか、どうも物静かな印象だから、映画ファン以外にはなじみが薄いかもしれない。でも、この「エル」で全世界に知名度を上げたんじゃないか。あまり筋に悩むことなく、イザベル・ユペールのすごさを味わいたいと思う。

 監督のポール・バーホーヴェン(1938~)も80歳近いというのに元気なもんだ。もともとオランダの人で、同じくオランダ人の俳優ルトガー・ハウアーと組んだ映画が評価され、ハリウッドに進出した。「ロボコップ」「トータル・リコール」などアクション映画をヒットさせ、シャロン・ストーン主演の「氷の微笑」を監督した。その後もいろいろと作ってきたが、近年はもう引退かと思っていた。鮮やかなカムバックという感じだが、この凄さ、怖さは並じゃない。今までのキャリアが生きた上での傑作だ。というものの…、一体ミシェルをどう評価するべきなのか、やっぱりよく判らずザラザラとした感触が残るなあ。
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