尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「9条改憲」論①-不要論

2017年05月14日 21時27分50秒 | 政治
 安倍首相が表明した「9条改憲」に関する問題を考えてみたい。9条の問題はいろいろな考えがあり、整理するのも大変だ。当面実現すると思えない提案を検討するのも面倒だから、今まで書いたことはない。今回は安倍首相の表明した提案にしぼって考えたいと思う。

 その安倍案というのは、「自衛隊が違憲という議論の余地をなくす」ために、「1項、2項を残しつつ自衛隊を明文で書き込む」というものである。これをどう考えるべきか。次回以後に書くように、およそマトモとは思えない「トンデモ提案」としか僕には思えない。だけど、これは「一種の曲球」で、現実的にはかなり成立可能性があると思っている人もいるようだ。

 僕は自衛隊を憲法に明文で書く必要など全くないと思う。それは自衛隊違憲論、合憲論に関係ない。あるいは「集団的自衛権」の一部を容認した安保法制への賛否とも関係ない。自衛隊を必要だと考えたとしても、憲法に書かなくてもいい。どうしてか。それは「日本国憲法の独特のあり方」によっている。そのことは案外意識されていないと思うので、まず最初に書いておきたい。

 日本国憲法は、統治機構のあり方に関してほとんど明文で書いていない。多くは「法律でこれを定める」と書いている。ときどき、「憲法を改正して道州制を導入せよ」などという人がいるけど、そもそも憲法に「都道府県制度」などどこにも書いてない。やりたきゃ法律でやればいいだけなのである。

 じゃあ、憲法では何が書かれているのか。ちょっと驚くかもしれないけど、国会(衆議院、参議院)、内閣(内閣総理大臣、国務大臣)、最高裁判所会計検査院。これだけである。国家機関としての「象徴天皇」を入れても、それだけである。会計検査院が明記されているのは普段あまり意識していないかもしれない。入った理由に関しては、古関彰一氏の著書に出てくるが省略する。

 そういう構造だから、例えば裁判所に関しては、「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」となっている。下級裁判所の具体像は書かないのである。だから、行政権に関しても同様なのである。こっちもはもっとすごくて、何の言及もない。「内閣のもとに、法律で定める省庁をおく」などという条項もない。外務省も財務省も…何も書いてないのである。

 統治機構に関する改革は今まで何度か行われている。一番大規模なのは、2000年に実施された省庁再編だろう。例えば大蔵省を財務省と金融庁に再編し、建設省、運輸省、国土庁を統合して国土交通省…など大規模に再編した。それも改憲を要せず、法律で済んだわけである。公害問題の深刻化で、1970年に環境庁が発足し、2000年に環境省となった。消費者庁観光庁スポーツ庁など、最近も新たな行政庁が作られている。新しい課題が生じれば、法律で対応できる国家構造になっている。

 どうしてそれでいいのだろうか。それは憲法で「国民主権」を明記し、国会が「国権の最高機関」とされているからだろう。正当に選挙された国民の代表が、国会で討論し議決したことは、一応時代に対応した国家の統治機関を作ったとみなし得る。もし、国会が違憲の法律を成立させたら、裁判所が違憲立法審査権を持っているので、最終的な判断を行う。そういう根本ルールを定めているので、「あとは法律で」となっているのだろう。

 ところで、自衛隊とは何だろうか。様々な言い方があるだろうが、旧軍と違って内閣総理大臣の指揮のもとにある行政機関であるのは間違いない。旧帝国陸海軍は内閣に所属せず、天皇が親率する天皇大権に属する特別な国家機関だった。だから、そのことを帝国憲法に書いておかないといけない。しかし、現在は内閣の下にある行政機関なんだから、他の行政機関がどこも書かれてないのにどうして自衛隊だけ特に書かないといけないのかということになる。

 「『違憲かもしれないけど、何かあれば、命を張って守ってくれ』というのはあまりにも無責任」と安倍首相は言うけど、危険な業務に従事するのは何も自衛隊だけではない。警察だって、消防だって危険もあるだろうが、憲法には何の規定もないではないか。それに、1項、2項を変えないんだったら、今後も「違憲かもしれない業務」は残ってしまうではないか。(その問題は次回に詳説。)

 このように、日本国憲法は統治機構のあり方について、くわしい規定を行っていない。それは何故かというと、憲法は「国のかたち」を定めるという以上に、「人権宣言」だったからだろうと思う。権利規定を中心にして書いている。先ほど、警察も書かれてないといったけど、確かに警察機構のありようは書いてない。だが、「司法官憲」という言葉で禁止規定はいっぱい書いてある。「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」などの条項も、直接には警察官に対する禁止規定である。

 だから、もし自衛隊に関して憲法に書き込むんだとしたら…。日本国憲法の他の条文と整合的な発想で考えてみると、次のようになるはずだと思う。「前項の目的を達するための組織は、法律でこれを定める」。そして、その項目には、かつて旧軍時代に行われた憲兵による政治や言論への介入などを厳しく禁止する規定が盛り込まれるべきだろう。また自衛隊も軍事的実力組織である以上、戦争犯罪に関与する可能性は存在する。そのようなことを禁じる規定こそが憲法には不可欠である。

 ということで、今回は憲法改正「不要論」である。自衛隊を仮に必要なものだとしても、他の行政機関がそうであるように、法律でそのあり方を定めればいい。自衛隊だけ憲法に書くというのは、軍事偏重だろう。法律で作ったものだから、必要ないと考える勢力が国会の多数を占めれば、法律を改正して廃止すればいい。一方、環境の変化に伴い「組織の拡充」や「新しい任務」が必要だという勢力が国会の多数を占めれば、2015年のようになるわけである。

 1項、2項を全面的に削除、改定して、旧軍のような軍隊を作るんだというなら、確かに全面的な9条改憲が必要である。そうではなくて、1項、2項を残しておくというんだったら、「自衛隊」などという組織名明示もいらない。それが日本国憲法の構造だからである。
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