尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

イギリスEU離脱の衝撃

2016年06月24日 23時19分23秒 |  〃  (国際問題)
 イギリス(UK=グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)で行われたEU(ヨーロッパ連合)からの離脱をめぐって6月23日に行われた国民投票で、「離脱」(leave)が「残留」(remain)を上回った。衝撃は大きい。そろそろ参院選の話と思っていたが、今日はこの問題を書いておきたい。

 前々から「離脱」派が優勢と伝えられ、世界的に株安、通貨不安が起きていた。そのさなかに、コックス下院議員殺害事件という悲劇が起き、残留派が巻き直したという報道もなされていた。当日の予測も僅差ながら残留有利というもので、それだけに世界に衝撃が走った。票差が思ったより大きい
 離脱=17,410,742 (約51.9%)
 残留=16,141,241 (約48.1%)

 地域別の結果を見ておくと、
  ロンドン=残留59.9% スコットランド=残留62%、北アイルランド=残留55.8% なのに対し
  ロンドン以外のイングランド=離脱57%、ウェールズ=離脱52.5%
 人口が多いイングランドの票で決定したことが判る。スコットランドは完全に残留優位で、再び独立論議が起きることは避けられない。ロンドン圏は残留が多かったが、マスコミ等もロンドン世論に影響されて、イングランドの「田舎の庶民」の民意を読み切れなかったのではないだろうか。

 すでに世界の株式市場は大変動が起こり、日本市場も「リーマンショック以上の下落」を記録した。「世界はリーマンショック級の経済危機前夜にある」とサミットで「喝破」した、わが安倍首相はさぞや「予言的中」を誇っているのだろうか。もちろん、そうではないだろう。「リーマン級」は一種のレトリックであって、ほんとにリーマン級危機が起きた時には自民党は政権から転落したわけである。「円安、株高」で「アベノミクス」を成功と称してきた首相にとって、まさに選挙戦中に「予言的中」になるのは好ましくないだろう。選挙が終わる前に何とか一段落してほしいと思っているはずだ。

 しかしながら、日本では内閣の対応も、ニュースの解説も、ほとんど経済問題に終始している。それでいいのだろうか。なぜならEU(欧州連合)とは、一種の「哲学的実験」であり、「世界の希望」でもあったからである。70年間に3回の戦争が起きた、ドイツとフランス。「冷戦下」という状況もありながら、そのような「過去」を断ち切るために、そして米ソのはざまで存在感を失わないために、フランス、イタリア、ベネルクス3国と当時の西ドイツが経済協力をスタートさせていった。以来、60年ほどが経ち、当初は「鉄のカーテン」(ソ連圏)の彼方にあった東欧の国々もEUに迎え入れてきた。イギリスを含めて28か国。確かに多いし、矛盾を抱えた存在である。難しい問題を抱えながらも、強い方から抜けていっていいのだろうか。

 EUは単なる経済協力団体ではない。「価値観を共有する共同体」である。価値観というのは、自由、民主主義、平等、人権といったものである。だから、離脱派の主張も「移民」受け入れの問題が中心になっていた。確かに拡大されたEUレベルで考えると、EUを離脱した方がいいという「庶民感情」もありうるだろう。だけど、今回の結果が世界で「反移民」「反人権」を掲げる人々の背中を押すのは間違いない。具体的な名前を挙げるとすると、ドナルド・トランプマリー・ルペンのような人々である。「なんという愚かな一票を投じてしまったのか」と歴史の中で裁かれるかもしれないではないか。

 またEU内の各国にある反EU感情も抑えられなくなる可能性がある。ただ、僕もEU拡大を急ぎすぎたのではないかという危惧は感じていた。2004年にポーランド、チェコ、ハンガリー、バルト3国など10か国が一挙に新加盟を認められた。これが急すぎたかもしれない。この中にはスロヴェニアも入っていて、初の旧ユーゴ構成国である。スロヴェニアは地理的、歴史的に「中央ヨーロッパ」に入るかもしれないが、それならと他の国も希望を持つのも当然だ。そして、2007年にルーマニアとブルガリア、2013年にクロアチアが加盟を認められた。経済的な発展段階から、早すぎた政治的決定だという批判はあるだろう。そうすると、セルビアやボスニアも続きたいと思うし、やがてはウクライナも加盟できるのではと希望(あるいはロシアには反感)を与えたのかと思う。

 それらの新規加盟国は、右派や権威主義荻政治家が政権を握っている国が多い。加盟までは社会民主党などが人権などの改革を行うが、加盟後すると今度は厳しい経済政策などに反感が強まり、右派政権に変わるといったことがよく起こる。ポーランドやハンガリーはそんな状況ではないかと思う。Euも今のままでは、なかなか先行きが怪しい。内部の民衆的基盤が崩れてしまいかねない危機にあると言ってよい。イギリスの国民投票はその最初の例であり、今後のスペインやフランスの選挙でも似たようなことが起こってくると覚悟しないといけない。

 日本でも「ヨーロッパでさえこうなんだから」と語る人もいっぱい出てくるだろう。ヨーロッパ連合でさえうまくいかない現実を見れば、「アジア共同体」など夢のまた夢。アジアの「価値観を共有しない国」との付き合いは、よくよく考えないといけないんだ…。とそんなことを語る人がますます増えるんだろう。イギリスは島国、日本も島国。イギリスがヨーロッパから離れるように、日本も中国文明とは一線を画し、「米英日」協力こそ生き残る道だと主張するわけである。日本人は、イギリスが島国でヨーロッパとは少し違う「海洋文明」だから発展したなどという発想が大好きである。でも、安易な比較は禁物だろう。近隣アジア諸国との関係を日本は断ち切れない。中国や東南アジアの経済市場としての発展は、これからもしばらくは続く。文化的な独自性も今後どんどん現れてくると思わないといけない。
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