尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

心打つ映画「ショートターム」

2014年11月17日 23時25分51秒 |  〃  (新作外国映画)
 「ショートターム」という映画を見た。あまり大規模な公開ではないし、キャストもスタッフも有名な人はいないので、知らない人が多いだろう。11月15日公開で、公開直後の映画を見ることは少ないんだけど、是非見逃したくない映画だったのでさっそく見に行った。心打つ映画で、現代の日本で是非見て欲しい映画。見逃し禁止。(特に教育や福祉を志す若い人に是非。)
 
 原題は“SHORT TERM 12”で、なんだかよく判らないけど、これは12カ月を期限とする短期の児童保護施設というか、親と暮らせない子供たちのグループホームのことである。もっとも事情により12カ月を超えて在籍する子どもも多いという話がプログラムに出ていた。そこの様々な子どもたちと、スタッフの事情が細かく描かれる。児童虐待と、その心の傷が残り続ける様子を非常に心に残る形で映像化していると思う。監督はデスティン・クレットンという人で、これが2作目。実際にこのような施設で働いた経験があり、その時のことをもとに短編を作り、認められて長編映画にしたという。

 
 映画の中心は、グレイス(ブリー・ラーソン)という女性スタッフとメイソン(ジョン・ギャラが-・Jr)という男性スタッフ。二人とも20代で、一応周りには公言しないけど、付き合っている。この二人が子どもたちと関わりながら、自分たちの問題とも向き合う。こういうように、子どもたちだけでなく、若い世代のスタッフの悩みも等身大に描くという構成は、とても貴重なのではないか。そう思って、この映画を見てみたいと思ったのだが、実はこの二人も壮絶な過去を抱えているのだった。だから子どもたちの悩みもよく判るのだろう。絶妙な距離を保ちつつ、子どもたちに関わり続ける。

 18歳になり施設を出ていく時期が近づき荒れているマーカスという黒人少年。メイソンはある日、彼の作ったラップを聞かせてもらう。また所長の知り合いから預かる15歳のジェイデンという少女は、最初は全く心を開かない感じである。グレイスは彼女と関わる中で、自分の過去とも向き合う。ジェイデンが作った「タコと鮫」の童話は、見たら一生忘れられない強烈な哀しみに満ちている。これらの素晴らしいシーンは絶対見る価値がある。毎日毎日何かが起きるような施設の中で、そうした子供たちの様子を見守る。精神的にも肉体的にも大変な仕事であるが、彼らはユーモアと協力で乗り切っていく。スタッフ二人の関係がどうなっていくかは、映画で見てもらいたいので、ここでは語らない。

 僕がこの映画を見たのは、間違いなく「テーマ性」のため。そして、大変ためになった。人間の心の奥にあるもの、それは闇でもあるけど光でもある。これは若い人のための映画である。同世代の10代の若者も、また教育や福祉を志す若者も。いわゆる「映画ファン」「映画マニア」のための映画ではなく、もっと直接にこの映画を必要としている人に届くといいなと思う映画。だから、見て感想を書いているけど、大都市でないと公開されない感じだが、どこかでチャンスがあれば是非見て欲しいし、若い人に薦めて欲しい。見れば必ず何かを感じるだろう。日本でもこういう映画を作って欲しいな。虐待は他人ごとではない。親や関係施設や社会一般を非難していれば済むという問題ではない。自分ならどうするか。ここまで真っ直ぐ関われるだろうか。
コメント
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