尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

昔はもっと余裕があった-都立高入選ミス問題③

2014年06月07日 00時00分41秒 |  〃 (東京・大阪の教育)
 3回目は、以前の入選日程を振り返るとともに、入選業務とはどういうものかを解説しておきたい。さて、一回目の記事で、ここしばらく学力検査日は23日に固定されていたと書いた。実は、2005年に2月23日(水)に学力検査を行って以来、2005年から2013年までずっと9年間連続で23日に行われていたのである。その最初の年である2005年に、今後23日に固定すると決定された。(どのレベルで決定されたのかは知らないが。)

 その間の実施曜日を見ておくと、順番に、水、木、金、土、月、火、水、木、土、となる。1年は365日だから、毎年ひとつずつ曜日がずれていくが、うるう年が2008年と2012年にあったから、二つ曜日が飛ぶ年が2回あったのである。この間、土曜日が2回あったが、日曜はない。でも、それは日曜はやらないという方針ではなく、単にうるう年の関係で今まで23日が日曜に当たらなかっただけのことである。土曜にやっているわけだから、本来は学校の休業日、本庁の閉庁日に当たってもやるのである。だから、この方針を順守するなら、今年は23日(日)となるはずなのである。

 ところで、検査日が23日だった2005年は、発表日はいつだったのだろうか。それは、3月1日(火)だった(6日後)のである。その後の発表日の推移は以下の通りである。1(水)、1(水)、28(木)、27(金)、1(月)、1(火)、29(水)、28(木)、28(金)、となる。この発表日には、法則性はあるだろうか。それは、発表日の方は土日が一度もないということである。つまり、都教委の方針は、検査は23日に固定する(そのため土曜が2回あった)が、発表日は固定しないというものだったのである。「入選業務には何日が必要か」という観点で考えるならば、本来なら検査日を固定するなら発表日も固定しないとおかしい

 発表日の場合、土日を避けるという方針そのものは正しい。なぜなら、検査の実施だけなら、高校教員と中学生が来れるなら何曜日でもいい。しかし、発表日は業者にも来てもらう必要がある。(合格者は入学確約書を提出後、制服や体操着の注文や採寸という作業がある。)また、不合格者は直ちに中学担任と相談し、都立の二次募集(分割後期)や私立の二次募集への対応を決めないといけない。そういう事情を考えると、発表は土日を避けるというのは当然ではないかと思う。しかし、そのためにあまりにも発表までの日数が短くなってしまったら、本末転倒である。

 今年は「検査から4日目に発表」だったわけだが、今回のミスを受けてNHKが調査したところ、これは全国で3番目に短いという話である。(いつか忘れたが、夕方の首都圏ニュース。)さらに、東京より短い大分県などは、その間に授業は行っていないという話だった。つまり「東京が全国で一番厳しい採点環境にある」という指摘をしていた。他府県の日数までは知らなかったので、やはりそうなんだという感じで受け取ったけど、この「厳しい学校事情」は過去を振り返ることにより、歴史的に形成されたものだということが判ってくる。

 先に見たように、「23日に固定」方針でも、当初は検査日から6日目の発表だった。(2005年から2007年まで。)ところが突然、2008年になって、5日目の木曜となる。2009年に至っては、月に実施で、4日目の金に発表である。(今年と同じ。)これは、「検査は23日で、発表は土日を避ける」のが都教委の方針と考えるならば了解できる日程である。(前年の2008年に何故短くなったのかは、よく判らない。2008年はうるう年で1日多いんだし、翌29日の金曜にすべきだったのではないか。)その後、再び2010年から2012年まで、6日目の発表となる。やはり2008、2009は短すぎたと思ったのかもしれない。その後、2013年に再び5日後となり、今年は4日である。「過去に実施した前例がある」と都教委は考えたのだろう。だけど、今から検証することはできないのだが、2008年や2009年にも採点ミスが多発していた可能性は高いのではないだろうか

 さらにさかのぼり、「23日固定」以前は一体何日に学力検査を実施していたのだろうか。2004年は24日(火)で、発表は3月1日(月)。2003年は、20日(木)で、発表は26日(水)。いずれも6日目発表である。以下、過去30年間を調べてみれば、検査日は20日から25日の間に実施されていることが判る。発表日は25日から3月3日となっている。この間、入試制度が変わり、94年から総ての高校で自校単独選抜になった。それ以前はグループ選抜(全日制普通科の場合)だったので、より面倒な作業があったと思うが、日程には大きな関係は感じられない。1998年だけ、何故か20日(金)実施で25日(水)発表だったが、それ以外は大体6日目の発表が多い。

 その間の実施日の法則性を見てみると、土日だけでなく月曜日の学力検査もなかったということである。1984年から2004年までの21年間で、火曜=6回、水曜=5回、木曜=6回、金曜=4回である。この期間の最初の頃は隔週土曜日が授業だった時代だが、月曜実施だと土か金に準備をしなければならない。間が空くこともあるし、月曜が一番授業日数が少ないことへの配慮もあったのかもしれない。そして、その21年間の14回は、6日目の発表である。つまり、火曜実施なら翌週月曜、水曜実施なら翌週火曜という具合である。さらに、残り7回のうち5回は、翌週の同じ曜日に発表があった。(ただし、それはいずれもグループ選抜時代。)2回だけ発表が早い年もあったが、大きな方向性としては、「火曜から金曜に学力検査を実施し、翌週の6日目の日に発表する」というのが多くの年の日程だったと言っていい。昔はもっと余裕があったのである!

 そのことを確認しておいて、入選業務の説明を簡単にしておきたい。各校では校長を長とする「入選委員会」が組織され、組織的に事前準備、当日の試験監督、面接や実技検査(実施する学校のみ)、採点、素点の入力と進められていく。問題は最後の「素点の入力」である。「素点」(そてん)は学校用語だと思うが、生徒などの答案を採点した時の「ただの点数」のことである。それも意味はあるのだが(生徒からすれば、試験で100点を取ることが当面の目標だろう)、教師に取ってみれば素点は「成績評価」の一つの材料である。入選で言えば、学力検査だけで合否判断するわけではない。調査書点などと合計して、初めて合否判断の順番が決定される。東京都の場合、試験対調査書の割合を今まで各校で選ぶことができた。例えば「7対3」と決めていれば、5教科すべてで100点を取った時に、それを700点と換算するのである。(学力検査と調査書の総合得点は1000点満点とすることになっている。)

 「換算する」と今書いたけれど、もちろん業務としては「パソコン入力」である。事前にエクセル関数の式が作られていて、それは都教委から配布される。(僕が夜間定時制の教務だった時代は、フロッピーディスクが送られてきた。今は都庁用ネットワークの電子メールでやり取りするのだろう。)ところで、この「数字の打ち込み」というのは間違いやすい。そのため、詳細なマニュアルが規定されていて、準備段階で試験入力してみて報告したり、何段階かの細かい決まりがある。特に「調査書点の打ち込みミスがないか」の確認が非常に大変である。また、当日の欠席者がいるので(国立私立の難関校に合格して都立を受けない生徒が多いので、進学重点校ほど欠席が多い)、その扱いに間違いがないように気を使う。はっきり言ってしまえば、一問ぐらい採点ミスがあるより、欠席者を飛ばすのを忘れて間違った素点を入力したり、中学の調査書を間違って入力したりしたときのミスの方が段違いに致命的である。全く違う人と間違って合否が判断されてしまうのだから。学校レベルでは、そのような入力ミスによる致命的誤りを防ぐための入力チェックに多くの時間を取られるのである。そのためのマニュアルは整備されているし、今のところそういう誤りはないらしい。でも打ち込みミス以前の素点にミスがあったというわけである。

 今回のように「検査から発表まで間に3日」というのはどういう意味だろうか。今年は月曜検査、金曜発表だった。金曜に発表するためには、できれば木曜の昼に、どんな遅くとも木曜夕方には、全職員参加の「合否判定会議」を開く必要がある。そのため水曜日中には「入選委員会」を開き、合否判定の原案を決定しないと間に合わない。そうすると水曜日午前には「入力終了」にならないと、入力チェックの時間が取れない。逆算すれば、どんなに遅くても火曜日の夕方には採点を終了しなければ間に合わない。複数でやるのだから、採点そのものは終わるだろう。だが、「1次点検」「2次点検」「3次点検」(3検まではすることになっている)に掛ける時間はどうだろうか。2検、3検は「いい加減」とは言わないまでも、「すでに二人が見ているわけだから」と気持ち的にミスはないと思って見てしまいがちになる。忙しい中でやると、この点検作業に影響があるだろう。もちろんそこに時間をかければ、今度は入力チェックの時間が少なくなるから、もっと大変なミスにつながりかねない。全体的に発表までの時間にゆとりを持たせるほかに、手立てはないのだと思う。(次回以後には、東京都の不思議過ぎる入選制度や、どうしてこのような日程がまかり通ってきたのかなどの検討を行いたい。)
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