玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

素朴で正義感の強い人たち

2006年06月01日 | ネット・ブログ論
ブログのコメント欄に大量の批判・罵倒・侮辱を書き込む人々をこれからは「ネットイナゴ」と呼ぶことにする。

えっけんさんによる「ネットイナゴ」の定義
  • 自分の意見と異なる主張をする者に対して、相手の考えが変わるまでコメントを続ける者
  • 自分が直接コメントスクラムに参加しなくても、それを焚き付ける行為をする者
  • 他人のサイトが「炎上」するのを見て喜ぶ者
  • 「炎上」しているブログに対し、尻馬にのって罵倒コメントを残す者
  • それが恥ずべき行為ということを分かっていない者
  • 単なる荒らしと異なり、コメントの際に意味不明な単語の羅列などは行わない

ネットイナゴ(いなご)という言葉に反発する向きもあるが、私は「ネット右翼によるコメントスクラム」という表現よりはずっと適切だと思う。
集団的に(あくまで集団「的」であって、組織されてはいない)多量の批判コメントを書き込む人たちをひとまとめに「ネット右翼」と呼ぶのはおかしい。彼らを動かしているのは右翼的な思想というよりイデオロギー以前の素朴な正義感である場合が多いのだから。

たとえば先日炎上した藪本ブログの場合、藪本氏の主張は
  • 女性はミニスカートを履いたとき盗撮されないよう警戒すべき (自己責任論)
  • 男性の性的衝動は女性に想像できないほど強力で抑えられない (性差の強調、ジェンダーフリー否定)
  • 盗撮アナはすでに充分な社会的制裁を受けている (男性擁護)

これらの考え方はどちらかといえば保守的なものだ。
対して、藪本氏を批判する人たちの主張は
  • 性犯罪で被害者の非を問うのは間違っている (自己責任の否定)
  • 男性の性的衝動はコントロール可能 (性差の強調を否定)
  • 盗撮アナは(実名報道など)さらに厳しい処分を受けるのが当然だ (男性批判)

といったものであり、藪本氏よりむしろリベラルだ。
(「マスコミの身内擁護・隠蔽体質が問題」という批判は左翼とも右翼とも特に関係ないのでここでは問題にしない)

「保守的」な藪本氏の主張を「リベラル」な意見で全否定する人々をネット「右翼」と呼ぶのは不適切だ。
私の見るところ彼らは「素朴な正義感に従って動く、自分たちの集団性・攻撃性には無頓着な人々」ということになるが、これではあまりにも長すぎる。縮めて「素朴正義派」と呼ぶことにしよう。
素朴正義派の一人ひとりは善良な普通の人たちだが、「間違った」主張をしたブログのコメント欄に大量に集まると強い攻撃性を発揮してネットイナゴ化する。この場合は彼らのイデオロギーを問題にして(想像で決め付けて)「ネット右翼」と呼ぶよりも、彼らの行動に注目し群集心理の問題として考えたほうが適切だろう。

  群集心理学の理論~ル・ボンの「群衆心理」~「集合理論」~

ネット右翼ではないネットイナゴ現象の一例として、ワイドショーで「『日本も徴兵制をすればよい』旨の発言」をした(らしい)ピアニストへの批判の例をあげる。

  熊本マリ:Pilates

ここで強い調子で徴兵制導入論を批判している人たちを「ネット右翼」と呼ぶのは難しい。たぶん彼らは自らを平和主義者とかアンチ右翼と考えているはずだ。
「2ちゃんねるVIP系まとめブログ問題」でも、イデオロギーとは無関係なネットイナゴ現象が起きている。

  しっぽのブログ: 「嫌儲」についてと、vip系ブログを叩き潰すとどうなるか。
  花見川の日記 - VIP系まとめブログ炎上事件まとめ
  ekken♂:2ちゃんねるまとめサイト問題雑感

VIP系まとめブログを批判している人たち(「Vipper」)が何に対して怒っているのかよくわからないが、左翼とか右翼というイデオロギーとは無縁なことは容易に見てとれる。

素朴なのも正義感が強いのも何も悪いことではない。いや、そういう人は人間的魅力にあふれていることが多い。
私のようにひねくれていい加減な人間よりもよほど社会的に有為な人材だろう。
だが、素朴で正義感の強い人々が群集心理に動かされネットイナゴ化すると、「正義を求める声」がいつしか「意見の押し付け」「集団の圧力」に転化する。不思議であり恐ろしいことだ。


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20 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (なかなか寝ない人)
2006-06-01 20:42:16
こんばんわ。

「地獄への道は善意で敷き詰められている」という言葉を思い出しましたよ。
Unknown (えっけん)
2006-06-01 22:50:18
ネットイナゴの中でもうぜぇのが、私怨丸出しでとにかく「怒っている」事は分かるけれど、その主張・結局何がしたいのか分からんやつね。

ヒトサマのブログにやってきて、勝手にルール作り上げて、「これがスタンダード」とするヤツが一番鬱陶しい。てめぇのブログでやれや、と思う。



あー、

そろそろvipperがうざくなって来た。
正義の人 (玄倉川)
2006-06-02 00:29:36
>なかなか寝ない人さん

時として「正義の人」が一番頑固で話が通じませんね。



>えっけんさん

私怨の人は「素朴で正義感の強い人」とはちょっと違うのかな。重なる部分もありますが。

人それぞれの価値観を認められない(あるいは、自分の価値観の正しさを疑わずにいる)のは精神が若いというか未熟というか青いというかなんというか、そういう人なのでしょう。肉体的年齢は別としても。
Vipper (らぃ)
2006-06-02 08:45:37
今回の件では



ニュー速がアフィ系に文句をつける



Vipperがそれにのる



Vipperにはブレーキが付いていないので、アフィと関係のないBlogも叩き潰される



という感じでした。

馬鹿は馬鹿なのでVipperなのでしょうけど、馬鹿だなあと・・・
Unknown (Unknown)
2006-06-02 14:00:01
今回の件はVIPPERが単に面白がっているだけかと。

正義とかそういうのは暴れる建前で。

まあ俺もリアルタイムでガンガン潰れるのを見て面白かったですけどw

はた迷惑なのは確かですね。

あと、彼らに理性的判断を促すというのがすでに無理な話で。

逆に言うとVIPの面白さはそこにあるわけで。

今回はそれが悪い方向に出てしまったというわけで。
天真爛漫 (玄倉川)
2006-06-03 00:54:07
>らぃさん

「暴走、暴走、また暴走!!!」

…ってのが、気持いいんでしょうね。でもブレーキが付いてないのは怖いです。



>Unknownさん

どうやらVipperにとっては「自分たちが面白がること=正しいこと」らしいので、彼ら自身は正義の行動であることを疑ってないと思います。

実に天真爛漫でうらやましいというか恐ろしいというか何というか。
一般人のマスゴミ化 (kohbin)
2006-06-03 01:16:37
テレビのワイドショーと同じ構図のような気がしてきました。



正義感をもって糾弾するマスコミとそれを喜んで見ている視聴者。

犯罪者容疑者や被害者宅を取り囲む記者、カメラマン、中継車、それをさらに取り囲む野次馬たち。



一部の人たちにしか許されなかった「正義の糾弾」という「娯楽」が、インターネットの普及で普通の人々にも気軽に楽しめるようになったという感じがします。
いなごも (煬帝)
2006-06-03 05:17:22
後の方で喰い付く連中は「沢山他人が集まってるのだから美味しい餌に違いない」と思ってるんでしょうね。



その頃には最初に点火した連中は高みの見物だったり。
Unknown (N)
2006-06-03 12:46:29
善意からの行動ってのが一番タチ悪いのは事実ですね。

宗教勧誘とかその際たるモノです。

相手のためになるんだからと言う自己中心的な善意が勧誘行動を正当化してしまうんですねー。

怖いですね~。



オウムのサリン事件だってある意味彼らの善意?、最終的には社会のためになるって信じて正当化されてたんじゃないんでしょうかね。それ言ったらテロは全部そうか?w



共産党独裁国歌とかもこの口かな?

上辺のキレイ事をお題目にして、為政者に都合の悪い人々を次々粛清してく。でも、お題目には誰も逆らえない。お題目=正義、に見えるようにしてあるから。



そういう意味では国内のサヨク活動もほとんどキレイな言葉で飾ってあるような気がするなぁ



人のためにやるのはボランティアとか掃除だけにしてくれ、とw



しかし2chのまとめブログを叩くのってよくわからん・・・

あの膨大な書き込みから面白いのを拾い出すのは結構な作業じゃないのかな?報酬あってもおかしくないんでは?見る人に負担かけるわけじゃないし、むしろ2chを片っ端から見れるような暇人はそうそういないだろうしw

個人的には大変重宝してるので無くなるのは困るwww
飛蝗 (がう)
2006-06-03 17:11:28
 ネットイナゴと2ch騒動についてですが、たまたまえっけんさんのブログにおじゃまして違うエントリにコメントをつけさせていただいているなかで、vipperの大量コメントに遭遇するという貴重な体験をしました。



 あの行為が生み出すのは一種の恐怖心ですね。特に場馴れしていないブロガーだったら、一も二もなく逃げ出すだろうという感覚です。



 罵倒に近い一言コメントというのは、ヤジと言うより屋久座さんの意味不明な恫喝に似ています。それが大量に付くというのは、背景をうかがい知れない怖さを醸し出します。



 それが正義の心とはかけ離れたものなのか、どこかで変質するものなのか、よくわかりません。