栗太郎のブログ

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「君の膵臓をたべたい」 住野よる

2017-08-09 01:28:25 | レヴュー 読書感想文

膵臓を患い、余命いくばくもない高校生、桜良。偶然にも彼女の秘密を知ってしまった【地味なクラスメイト】君。
君の名はなんて言うの?と思いながら、【秘密を知っているクラスメイト】君、【大人しい生徒】君、、、いくらクラスで存在感がないからとは言え、ずいぶんとつれない呼ばれ方をするものだと思った。
そんな彼は、自らを「草舟」と卑下する。それくらいに自分が好きではないのだ。
読みながら、この【  】内の名前が何を意味するのか、おいおい分かってくる。
<言葉は往々にして、発信した方ではなく、受信した方の感受性に意味の全てがゆだねられている>という。
なるほどその通りだ。あだ名だって、奇妙な呼び名でさえその名に愛情が含まれていることを本人が知っていれば受け入れてくれるものだ。

それにしてもなぜ桜良は、残り少ない自分の人生を付き合わせる相手として、彼を選んだのだろうか。
秘密を知られたからだけではないだろう。
桜良の言葉を借りれば、<医者は真実だけを与えてくれるが【仲良し】君は真実と日常を与えてくれるから>、と言うがやや説得力に欠けた。
クラス内で孤高であったその姿に憧れていたとも言うが、それだけで、最後の時間を託す相手として適当なのかの疑問はあった。
結果、桜良にとっては唯一無二の存在であったのは間違いないが、彼にとって心の重しとなってしまったのではないか。
涙を流す情緒に襲われることもなく、僕にはそんな感情が続く。
靴の中に、小さな砂利がずっと入ったまま歩いているような、そんな気分だった。
しかしその気分は、二人が仲直りした場面で言う桜良の言葉に、みごとにかき消された。

<偶然じゃない。私達は、皆、自分で選んでここに来たの。君と私がクラスが一緒だったのも、あの日病院にいたのも、偶然じゃない。運命なんかでもない。君が今までしてきた選択と、私が今までしてきた選択が、私達を会わせたの。私達は、自分の意志で出会ったんだよ。>

自分が君のそばにいてでいいのかという彼に、桜良は、運命でもなく、自分の意志でこうして出会ったのだと言い切った。
僕はこのセリフを何度も読み返してしまった。
いうまでもなく人生は、選ぶことの連続だ。この二人の出会いだけじゃなく、世の中の出来事は、全ての人たちのいくつもの選択で成り立っている。
思い通りにいかなことを運命だなんて片付けるのは、都合のいいコジツケだった。体のいい、「逃げ」の言い訳だったのだ。
いい歳こいたおじさんの僕が、女子高生に人生を説諭された気分になって恥ずかしくなった。

そこからの二人は、せめて、残された人生を悔いのないように生きよう、生きる手助けをしてあげよう、と健気だ。
二人の心が通い合う姿は青春小説の王道としか言いようがない。
しかし。まあ、なんとも残酷な結末を用意したものだ。意地の悪い落とし穴のようだ。
おかげで、二人の純愛が際立って仕方がない。
こんなやり切れない気持ちは『ららのいた夏』以来じゃないだろうか。

「君の膵臓をたべたい」。読み終えてみると、エキセントリックなそのタイトルが、とてもよく似合う。
世間では、最愛の人の死に際してその人の遺骨を食べてしまう人がいるらしい。
この先、もし僕がそんな現場に遭遇することがあるとしたら、おそらく、その深い愛情ゆえの行為に胸を打たれるのかもしれない。


最後の最後に、彼は自分の口から名前を言う。ありふれた名前だった。村上がらみの名前だろうという想像は片方だけ当たっていた。

満足度7★★★★★★★

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)
住野 よる
双葉社




そこで映画。
原作を読んでいたせいで、冒頭で桜良が笑顔で逃げ回ってるだけで胸が詰まってしまった。
しかし、10数年後の春樹と恭子が出てくるという映画版のオリジナルには、あまり納得できない。
桜良の死後の数か月という設定でだって、同じ筋書き(図書館であるものを見つけること)にできただろうと思う。
だいいち、10年以上も事実を知らなかった恭子が、自分の結婚式という場面で手紙を渡されて、ああも素直に全部許せるものなのだろうか?
大人になった恭子役の北川景子がいくら悲しんでも、どうも他人のような気がしてしまい、君じゃないだろう?、って思ってしまった。
桜良の死の場面も、原作ほどの衝撃がなかったのは残念だった。
だいたい、桜良の苦痛の表情のシーンを使わなければ、死を伝えられなかったとでも言うのだろうか。
原作ではその描写はない。映画を観に来た観客の想像力を侮ってはいないか。
淡々と軽すぎるくらいの扱いでこそ、彼女の死の切なさが浮き立つと思うのだが。

若者二人の演技はよかった。
北村匠海は、ドラマ『ゆとりですがなにか』の時の妄想彼氏とは打って変わって、静かなたたずまいが堂に入っていた。
桜良役の浜辺美波は、どこにでもいそうな少女のように見えたが、一人になった時の憔悴した表情のよさに、その認識を改めた。
素敵な子だった。


「君の膵臓をたべたい」予告

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