「君がどこから来て、どこへ行くのかなんて、僕は知らない。僕には僕の行くべき場所があるように君にもそういう場所があるんだろうということが大事なことなんだ。」
気がつくと僕は列車の中にいて、その声を聞いた。
「ここは列車ってやつですか?」
そう問うと、声の主はカラカラと笑って見せた。
シルクハットを礼儀正しくかぶり、タキシードを着て手袋をした手にステッキを持っている。
きっとどこかの血統の良い猫なのだろうと僕は思った。
「そうだよ、そして僕らを運んでくれるのさ。」
「えぇ、きっと僕はどこかへ行くんだと思いますよ。でも、どこへ向かっているのかさえ解らないんですよ。」
それを聞くと高貴な猫の金色の目がキラリと光った。
高貴な猫、つまり彼は何かがひらめくとキラリと目が光るらしい。
「ははぁ、君はさては何故ここにいるのかという基本的かつ、根本的なことが解ってないのだね。」
「どういう意味です?」
不思議に思った僕がその答えを聞き出そうと問うと、彼はさらっと受け流した。
「ふふ、それは君がまだ猫の形でいられるうちに答えを見つけ出さなくちゃ。」
「僕はどうなってしまうんです!?」
僕としたらその方が大問題だった。
ここはどこで、どこにむかっていて、何故ここにいて、僕自身がどうなってしまうのか。
でも彼からすれば、彼にとって彼の時間が大事なのであって決して僕のためには使わないだろう。
しばらく考えたものの、僕は心のどこかで彼にそんなことを問い掛けたことにたいして後悔していた。
「還るんだよ。」
不意に答えが返ってきて僕は面食らった。
面食らいつつ、彼を見くびってたかをくくろうとしていた自分自身を恥じた。
「どこへ?」
「生命の源、とでも言うんだよ。そういうものはさ。」
「ということは。あなたも?」
誰でも見たことも聞いたことも無い物に関わるとすると、一人でいるよりは誰かがいてくれたほうが気が幾分か楽である。
一抹の期待を覚えながら、僕はそう言葉を返した。
「私はやっと旅を終えたんだ。最後の仕上げに命の源へと還る。」
言いようのない恐怖が瞬時に僕を濁流の中に突き落とした。
「一緒に連れてってくださいよ!ここの勝手は解らないんです!!」
溺れてもがくようにそんなことを言った僕を彼は静かに見つめていた。
「誰かがいなくちゃ意味なんかないんですよ!助けてくださいよ!!」
「私は君ではないってことがここの原則なんだよ。君は君にしか解らないものの為に旅するんだよ。」
「一人で!?」
僕はもはや冷静な心は残っていなかった。
どこに行くのであろうと、一人で行くのなんかごめんだった。
「君は一人だろう?それも一つの答え。」
それを聞いた僕は激しい怒りを覚えざるを得なかった。
彼の答えをはぐらかされたと感じたからだ。
『無、無です。お忘れ物のないように。停車時間が短くなっておりますのでご注意下さい。』
そのアナウンスを聞いて高貴な猫はシルクハットを押さえて立ち上がった。
「おっと、いかん。乗り過ごすところだった。」
「行ってしまうんですか?」
「これで私の旅が終わると思えば、寂しい気もしますが。かえって清清しい気さえしますよ。」
「はぁ、そういうもんですかね。」
「きっと君もそう思うかもしれませんよ。では、これで。」
そう言うと彼は僕に丁寧なおじぎをして、駅へと降りていった。
走り出した列車の窓から外を見やると、さっきの高貴な猫は青白く発光したかと思うとあっと言う間に光の粒子になって砕け散った。
その光景を見た僕は、もう二度とこの列車の中では彼に会えないということを悟った。
「僕はいったいどこへ向かうべきなのだろう・・・?」
向かい合わせの席にはまだ誰も座っていない。
周りを見渡してみても誰一人の姿さえ確認することさえ出来なかった。
諦めて僕は席に座りなおして、光になって消えたさっきの猫の言葉を反芻してみた。
きっと、何かの答えが見つかる糸口があるんだ。
それは他人じゃない自分が見つけなくちゃならないんだ。
きっと僕が行くべき場所へも。
列車は走りつづけている・・・。
気がつくと僕は列車の中にいて、その声を聞いた。
「ここは列車ってやつですか?」
そう問うと、声の主はカラカラと笑って見せた。
シルクハットを礼儀正しくかぶり、タキシードを着て手袋をした手にステッキを持っている。
きっとどこかの血統の良い猫なのだろうと僕は思った。
「そうだよ、そして僕らを運んでくれるのさ。」
「えぇ、きっと僕はどこかへ行くんだと思いますよ。でも、どこへ向かっているのかさえ解らないんですよ。」
それを聞くと高貴な猫の金色の目がキラリと光った。
高貴な猫、つまり彼は何かがひらめくとキラリと目が光るらしい。
「ははぁ、君はさては何故ここにいるのかという基本的かつ、根本的なことが解ってないのだね。」
「どういう意味です?」
不思議に思った僕がその答えを聞き出そうと問うと、彼はさらっと受け流した。
「ふふ、それは君がまだ猫の形でいられるうちに答えを見つけ出さなくちゃ。」
「僕はどうなってしまうんです!?」
僕としたらその方が大問題だった。
ここはどこで、どこにむかっていて、何故ここにいて、僕自身がどうなってしまうのか。
でも彼からすれば、彼にとって彼の時間が大事なのであって決して僕のためには使わないだろう。
しばらく考えたものの、僕は心のどこかで彼にそんなことを問い掛けたことにたいして後悔していた。
「還るんだよ。」
不意に答えが返ってきて僕は面食らった。
面食らいつつ、彼を見くびってたかをくくろうとしていた自分自身を恥じた。
「どこへ?」
「生命の源、とでも言うんだよ。そういうものはさ。」
「ということは。あなたも?」
誰でも見たことも聞いたことも無い物に関わるとすると、一人でいるよりは誰かがいてくれたほうが気が幾分か楽である。
一抹の期待を覚えながら、僕はそう言葉を返した。
「私はやっと旅を終えたんだ。最後の仕上げに命の源へと還る。」
言いようのない恐怖が瞬時に僕を濁流の中に突き落とした。
「一緒に連れてってくださいよ!ここの勝手は解らないんです!!」
溺れてもがくようにそんなことを言った僕を彼は静かに見つめていた。
「誰かがいなくちゃ意味なんかないんですよ!助けてくださいよ!!」
「私は君ではないってことがここの原則なんだよ。君は君にしか解らないものの為に旅するんだよ。」
「一人で!?」
僕はもはや冷静な心は残っていなかった。
どこに行くのであろうと、一人で行くのなんかごめんだった。
「君は一人だろう?それも一つの答え。」
それを聞いた僕は激しい怒りを覚えざるを得なかった。
彼の答えをはぐらかされたと感じたからだ。
『無、無です。お忘れ物のないように。停車時間が短くなっておりますのでご注意下さい。』
そのアナウンスを聞いて高貴な猫はシルクハットを押さえて立ち上がった。
「おっと、いかん。乗り過ごすところだった。」
「行ってしまうんですか?」
「これで私の旅が終わると思えば、寂しい気もしますが。かえって清清しい気さえしますよ。」
「はぁ、そういうもんですかね。」
「きっと君もそう思うかもしれませんよ。では、これで。」
そう言うと彼は僕に丁寧なおじぎをして、駅へと降りていった。
走り出した列車の窓から外を見やると、さっきの高貴な猫は青白く発光したかと思うとあっと言う間に光の粒子になって砕け散った。
その光景を見た僕は、もう二度とこの列車の中では彼に会えないということを悟った。
「僕はいったいどこへ向かうべきなのだろう・・・?」
向かい合わせの席にはまだ誰も座っていない。
周りを見渡してみても誰一人の姿さえ確認することさえ出来なかった。
諦めて僕は席に座りなおして、光になって消えたさっきの猫の言葉を反芻してみた。
きっと、何かの答えが見つかる糸口があるんだ。
それは他人じゃない自分が見つけなくちゃならないんだ。
きっと僕が行くべき場所へも。
列車は走りつづけている・・・。