万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

21世紀はユーラシアの時代の恐怖-領土拡張主義と特権グローバリズム

2017-09-01 16:22:03 | 国際政治
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 80年代後半に鄧小平政権の下で中国が改革開放路線に舵を切ったことも手伝って、マルタ島における東西冷戦の終焉宣言以降、世界の様相は一変しました。経済分野では市場のグローバル化が急速に進展し、恰もイデオロギー対立はこの世から消え去ったかのような空気に覆われたのです。

 しかしながら、今となってみますと、冷戦構造の崩壊と同時にイデオロギー対立が解消したとする認識には、あまりにも甘かったと言わざるを得ません。BRICSと総称された新興国は、グローバリズムの波に乗ることで急速に国力を伸ばし、今では、地域大国として頭角を現しています。21世紀は、ユーラシアの時代と持て囃されるのも、ユーラシア大陸に位置する大国の台頭が著しいところにあります。ユーラシアの時代は、海洋国家であるアメリカの衰退をも含意していますが、ソ連邦は消滅しても、依然としてロシアはプーチン大統領が軍事大国として周囲に睨みを利かせ、中国は、習近平国家主席が、目下、毛沢東体制の復活ともいうべき個人独裁体制の確立を目指して猛進しています。そして、インドもまた、軍事、並びに、経済の両面において大国への道を歩んでします。

 それでは、これらの諸国が、かつての西側諸国と同様に自由で民主的な国家への変貌したのか、と言いますと、そうとは言い難い状況があります。上述したように、ロシアは、政経両面で共産主義を捨て、中国は、経済面では共産主義から脱したように見えながら、その実、共産主義よりも歴史を古く遡るユーラシア的価値観が、両国において表面化してきているからです。

 ユーラシア大陸とは、歴史的には広大な草原地帯を様々な遊牧諸民族が割拠した地域であり、放牧を生活の糧とする遊牧民には国境や所有権の概念は希薄です。中国では、古来、“北馬”が漢人の農耕民にとって脅威であったのは、‘匈奴’とも称された北方の騎馬遊牧民族が、暴力で“奪うこと”をも生業としてきたからです。加えて、同大陸東部は、他者の人格や生命に対する尊重も薄く、しばしば、掠奪のみならず、大量虐殺や住民の奴隷化が繰り返された地域でもありました。

 やがてチンギス・カーンが登場すると、遊牧民は主役として歴史の表舞台に駆け上がり、モンゴル帝国は、世界の大半を支配の頸木に繋ぐこととなります。13世紀もまた、ユーラシアの時代の始まりであったのです。そして、モンゴルが、一過性の占領を越えて世界帝国となり得た理由は、ユダヤ商人やイスラム商人(両者は区別されずに“回回”と呼ばれた…)等、外国人の知識や技術を受け入れ、活用したところにあります。世界史上初めて政府紙幣を発行し得たのも、おそらくこれらの外国人の入れ知恵によるものでしょう。遊牧民の国境感覚の欠如は、軍事面においては帝国の版図の拡大をもたらす一方で、本質的に広域性を志向する商業とも結びつき、帝国全域から莫大な税を徴収する体制を構築するのです(物品の取引に課された税は、今日の用語で表現すれば消費税に近い…)。モンゴル帝国は、農耕民といった一般の定住民に対しては過酷でしたが、特に元朝では、勅許を与えた商人や手工業者に対しては極めて寛容であり、その振興にも努めたのです。

 13世紀から大航海時代の到来によってヨーロッパに世界の中心が移る15世紀頃までを第一次ユーラシアの時代としますと、今日における第二次ユーラシアの時代のリスクも見えてきます。モンゴル的思考を受け継ぐ中ロの国境感覚の欠如は(因みにインドのムガール帝国の創始者であるバーブルももモンゴル系…)、軍事面では、伝統的領土拡張主義により今日の国際法に基礎を置く国民国家体系を脅かす一方で、経済のグローバリズムを利用する展開も予測できるからです。しかも、ユーラシア型の“グローバリズム”とは、“自由なグローバリズム”でもなく、その利権・利益分配型の支配体制からして、自らがビジネスを許可したグローバル企業のみに特権を与える“特権グローバリズム”となることでしょう(あるいは、中ロの背景には、モンゴル帝国と同様に、国際経済勢力が指南役として協力しているかもしれない…)。

 そして、各国とも、国内に中ロから特権を付与された“特権グローバル企業”を抱えるとなりますと、今日の価値観の対立は、冷戦時代の資本主義対共産主義の単純構図よりも、より一層、複雑化することが予想されます。中ロの軍事的脅威に対抗しようとすれば、とりわけ13億の中国市場に利益を有する国内の“特権グローバル企業”が反対に回るからです。果たして、21世紀はユーラシアの時代として歓迎すべきなのでしょうか。遊牧民由来の思想と利益第一主義との結合によって齎される危機に対してどのように対応すべきか、今日、真剣に考えるべき時期に至っているように思えるのです。

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