万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国は米軍の対北先制空爆を容認した?

2017-08-13 14:34:30 | 国際政治
北朝鮮に「あらゆる手段」用意=米仏首脳電話会談でトランプ氏
 北朝鮮がグアム島沖に向けて弾道ミサイルを発射する計画を表明したことから、朝鮮半島情勢は、緊迫の度合いを強めております。8月11日には、米中首脳の間で電話会談が設けられましたが、注目されるのは、本問題に関する中国側の対応です。

 同日に報じられた中国の環球時報の社説では、中国側は、(1)北朝鮮が米領を脅かす弾道ミサイルを発射し、報復を招いたときには中国は中立を保つ(中朝友好協力相互条約は発動しない…)、(2)米韓が軍事攻撃による北朝鮮の政権転覆や朝鮮半島の勢力図の変化を試みた場合、中国は断固として行動を阻止する、の二点を明らかにすべきと主張しています。同社は共産党系列の“御用メディア”ですので、中国共産党内では、以上の二点が北朝鮮問題に関する基本方針として決定されているのかもしれません。

 しかしながら、この基本方針は、最も可能性の高い“北朝鮮のミサイル発射を待たず、現時点においてアメリカが先制攻撃する”という展開を度外視しています。この展開の可能性の方がむしろ高い理由として、(1)北朝鮮が米国領に向けたミサイル発射の準備を開始し、アメリカがその徴候を監視衛星等で察知した場合、米軍は、迷いなく敵地ミサイル基地を事前に破壊する、(2)北朝鮮の先制を以って中国による米軍の軍事行動の容認条件となれば、結局、北朝鮮側に、米本土攻撃可能な核・ミサイル開発の時間的猶予を与えることになる(高性能なコンピュータを用いれば、必ずしも核兵器の小型化やICBMの開発には実射実験を必要とするわけではない…)、(3)アメリカが同条件に合意すれば、北朝鮮に開戦の決定権が握られ、即時空爆の可能性によって維持されてきたアメリカ側の対北圧力の効果が薄れる、(4)交渉による解決の見込みが極めて低い以上、アメリカが軍事制裁によって解決するならば、北朝鮮の核・ミサイル能力の向上を止める上でも早期開戦が望ましい、(5)イラク戦争の基準に照らしても、大量破壊兵器を保有する北朝鮮に対する軍事制裁は、今日においても国際法において合法である…などといった点を挙げることができます。

 中国側は、何故、最も可能性の高い選択肢を無視したのか、この点については、フリーハンドを握っておくため、もしくは、事態の推移に対しての自らの責任の回避するための曖昧戦略かもしれませんし、あるいは、容認の条件を北側の先制という点に厳格化、限定化することで、アメリカの軍事行動を押さえようという戦略であるのかもしれません。しかしながら、その一方で、核施設やミサイル基地等に限定したピンポイント式の空爆であるならば、アメリカの武力行使を容認したとする解釈もできます。体制転覆や朝鮮半島の勢力図の変化に関して示された、並々ならぬ決意の行間を読めば、中国の最大の関心事は北朝鮮の体制維持であり、それが保たれさえすれば、第1点で示された北側の先制であれ、米軍側からの先制であれ、米軍の空爆も容認の範囲とも解されるのです。しかも、アメリカが対北軍事行動を選択したとしても、北朝鮮が国際法上の違法行為を行い、平和の脅威となっている現実を前にしては、中国も、米軍の行動を批判できない状況に最早至っております。

 米中首脳会談によって、米軍の武力行使は手控えられるとの観測もありますが、上記のように考えますと、そうとばかりは言えないように思えます。少なくとも北朝鮮問題を機とした米中全面衝突を避けるために、むしろ、アメリカに対して中国側が譲歩したとも読めるのです。

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4 コメント

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日本は北朝鮮の恫喝に対して独自の核報復力を整備する必要があるのではないか (og*r:t*h@ybb.ne.jp)
2017-08-13 17:55:08
北朝鮮の核ミサイルは実は日本を指向しております。幾らなんでも北朝鮮は米本土を手持ちのICBMで破壊しつくせるとは考えておりますまい。キタにしてみればすぐ目と鼻の先の日本にも米国の資産があるのですから、わざわざ地球の裏側まで不確実な攻撃をかける必要などありません。既に確立された技術である中距離弾道弾で日本の国内にある米軍施設または日本の中立化を狙った日本自体への攻撃を行う可能性の方が大きいのではないかと愚考いたします。彼らにすれば貴重なICBMは米国との交渉材料として最後までとっておく方がどれほど有効でしょうか。なぜか日本ではこれを指摘する方がおりませんが、どうした事でしょう。また今回の事態の展開の中で北朝鮮はしばしば日本への核攻撃を示唆する発言を行っております。米国が先制攻撃を行った際の反撃ないし報復は日本に対してなされる可能性の方が高い。なぜならその方が自国への再報復力を多少なりとそぐ効果が期待できるからです。従って日本は米国頼みだけでなく、独自に北朝鮮の攻撃に備える必要があると愚考いたします。この際憲法の規定など無視しても独自の核報復力を整備するべきではないかと、このように考えます。少なくとも効果の疑わしい迎撃ミサイルの整備より余程有効だと愚考いたします。
Unknown (オカブ)
2017-08-13 19:06:36
中国、北朝鮮、米国の三者関係の状況を見ますと、米国が北朝鮮に対して、なんらかの先制軍事行動を取った場合、中国がそれに対する対抗措置をどこまでエスカレートさせるかという観点から予測すると興味深いプロセスが想定できます。
最も極端な例は、米国が北朝鮮に先制核攻撃を行い、中国が米国に対して全面核報復を行うというシナリオです。この場合世界が米中を中心としてロシアも巻き込んで全面的かつ最終・壊滅的な核戦争に至るという夢物語ですが、まずそのような結果はあり得ないでしょう。
しかし、米国の先制攻撃の可能性も排除しないで仮定を組み立てると、偶発的な過大な軍事衝突に至ることはないと楽観もいられません。
中国は合理的判断のできる大人の国と考えたいのは山々ですし、おそらく水面下で、米中は最悪の危機を回避するための協議を行っていることは想像に難くはありません。
しかし、米国の第一撃が中国の想定外だった場合、それに応じて、中国の対抗措置もエスカレーションするでしょう。
ただし、米中間の全面衝突は軍事的のみならず、国際経済、国際秩序の維持のためにクリティカルな結果をもたらすことは両国のみならず、周辺国もよく理解しているはずなので、どこで矛を収めるか・・・一旦発生しエスカレートした軍事衝突をどの地点に収束に持っていくかが焦点になると思います。この際には両国の思惑のみならず、世界各国からのプレッシャーも働くと思いますので(メルケルは明確に米国の軍事措置に反対している)想定以上に平和裏に安定が回復すると思います。
ただし以上に申したことは、米中間の関係の文脈のみで予測したのみで、北朝鮮の行動は全く視野に入れていません。仮に米国が限定的な軍事介入を行った後北朝鮮がいまだ抗戦能力を有していた場合、ましてや「第二撃」能力を有していた場合は、北東アジアは非常な危機に曝されるでしょう。その意味で、北朝鮮の潜水艦がどれだけの戦闘能力を有しているかは非常に興味があります。
他方、中国が北朝鮮の援護のためにいかなる行動を取るかは、中国の国内問題、門閥、人民解放軍の内部事情等、素人には測り知れない力関係が働いているので上記に申し上げたことは、あくまで非常に単純化した予測の構図であることを付言させていただきます。
乱暴な言い方で批判に曝されるのは覚悟で申し上げれば、米国が北朝鮮を一撃で仕留めてくれれば、それが最も平和的な手段では?とも思っています。

og*r:t*h@ybb.ne.jpさま (kuranishi masako)
2017-08-13 22:10:23
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 北朝鮮の究極の目的が自らの主導による南北の統一であり、その前段階として朝鮮半島からアメリカの影響力を排除すると共に、アメリカに対して独裁体制の保障を取り付け、しかも、多額の経済支援を周辺諸国から得ることにあるとしますと、やはり、核の脅迫の主たる相手は、アメリカではないかと思います。北朝鮮の対日核攻撃の示唆は、アメリカに対して日本を”人質”に取っているとするメッセージであり、実際に”人質”を殺してしまっては、脅迫効果は低減しまいます(北朝鮮がICBMを完成させた時点で、人質は、アメリカ国民となる…)。しかも、日本国、あるいは、日本国内の米軍基地を攻撃すれば、当然に日米同盟が発動されますので、アメリカ本土からICBMが雨の如く北朝鮮に降り注ぐことになりましょう。なお、北朝鮮の核保有をアメリカ、あるいは、国際社会が認めた場合には、日本国独自の核保有もあり得ると思います。
オカブさま (kuranishi masako)
2017-08-13 22:23:05
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 中国といたしましても、自国が北朝鮮を追い詰めれば、北朝鮮から攻撃を受ける、あるいは、旧瀋陽軍の動向次第では内乱となりかねませんので、北朝鮮の核・ミサイル能力を破壊するための米軍によるピンポイント式の空爆までは、容認するのではないかと予想しております(目下、北朝鮮は、空爆の出はなを挫くべく、対空母攻撃能力を有する潜水艦の配備を急いでいるかもしれない…)。もっとも、北朝鮮問題では米中の全面対決には至らないもの、南シナ海問題においては、相当に深刻化する可能性があります。この問題は、国際法秩序の問題ですので、アメリカのみならず、国際社会全体の危機となりましょう。この時ばかりは、ドイツも中国を支持できなくなるのではないでしょうか。

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