万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

全世界の移民はフランスを目指す?-フランス革命の後遺症

2017-05-15 15:20:29 | ヨーロッパ
マクロン新大統領就任=仏最年少、初の非大政党系
 先日、NHKのBS1スペシャルで、”欲望の民主主義~世界の景色が変わる時~”と題して、フランスの大統領選挙とフランス社会の現状を取材する番組が放送されていました。番組構成については掴みどころのない支離滅裂な感が否めなかったのですが、フランスの混迷は、かのフランス革命が残した後遺症と言えるのかもしれません。

 当番組では幾度となくフランスの”建国”に言及していましたが、不思議なことに、NHKの云う”建国”の時期とはフランク王国ではなく、フランス革命を機とした共和国成立時です。そして、著名な識者を登場させながら、革命時に建国の理念として掲げられた”自由、平等、博愛”の堅持こそ、今般のマクロン大統領選出の要因であると共に、この理念を否定したところにルペン氏の敗因があったという論調で番組が進行しているのです。

 フランスの歴史的な建国時期は一般的には5世紀のメロヴィング朝フランク王国とするのが適切であり、フランス革命は、体制の転換期として捉えるべきと思われます。実際に、革命後もルイ・フィリップによる王政復古やナポレオン家による二度の帝政もあり、政体が二転三転してようやく第3共和政あたりから共和制が定着したのですから。”建国”をフランス革命に求める見解にも疑問があるのですが、そもそも、当番組は、フランス革命における”自由、平等、博愛”のスローガンが、常に理想とは逆の結果を招いてきた歴史については、短く紹介する程度にしか触れてはおりません。ロベスピエールによる恐怖政治は、フランス国内において人権の尊重どころか反革命勢力に対する大虐殺をもたらし、フランス革命は、暴力と殺戮を正当化する血塗られた革命となりました。加えて、同スローガンに含まれる普遍性は、フランス帝国主義をヨーロッパ大に推し進める口実ともなりました。好都合なことに、フランス革命の理念は、他の諸国にも熱烈な賛同者を獲得することとなり、かのゲーテさえも、当初はフランス革命を絶賛していたのです。”ここから、そしてこの日から、世界史の新しい時代が始まる”として(ヴァルミーの戦におけるフランス革命軍の勝利を祝して…)。

 フランス革命戦争は、やがてフランス帝国による征服事業へと転化され、ナポレオン体制の成立が他のヨーロッパ諸国を帝国支配の頸木に繋いだのは無視できない歴史的事実です。普遍的な価値には国境がありませんので、フランス革命の理念は、普遍的価値の下において周辺諸国の支配を許す正当化イデオロギーとして機能したのです。そして、ナポレオン時代にあっては、革命の理念は対外的な膨張主義としてヨーロッパ全土に戦禍をもたらします。

 今般、フランスが同理念を再確認し、それをさらに追求するとなりますと、革命の理念は、今度は、外ではなく、内に向かってフランスに禍の渦をもたらさないとも限りません。何故ならば、理念の普遍性には、外に向かっても内に向かっても、境界の概念が存在しないからです。つまり、同理念を徹底すれば、フランスは、自らの国境を全世界の人々に向けて開放せざるを得ないのです。

 今日のフランスが”自由、平等、博愛”を高らかに宣言することは、同理念の尊重を条件にするにせよ、EUのみならず、全世界の移民希望者に対して受け入れを表明するに等しいこととなります。マクロン大統領は、選挙期間にあっては多様性の尊重に基づく移民容認政策を公約に掲げておりましたが、果たして今後とも、自らの理想を貫くのでしょうか。フランス革命の理念は、理想と現実の間で人々を引き裂き、自己矛盾との闘いを強い、そして、周囲の人々を巻き込むという意味において、今日に至るまで、フランスとフランス国民を苦しめ続けているように思えるのです。

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