万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

第二次世界大戦の反省なきメルケル首相-ミュンヘンの宥和の再来?

2017年09月06日 15時47分04秒 | 国際政治
安倍首相、独ロ印に協力要請=北朝鮮制裁強化で
 北朝鮮による第六回目の核実験は、アメリカのみならず、全世界をもその暴力主義によって震撼させることとなりました。水爆ともなりますと、広範囲に亘って電力網や電子・通信機器等を停止させる電磁パルス攻撃の可能性もあります。こうした中、アメリカの武力行使に対しては、中ロのみならず、ドイツのメルケル首相も、平和的解決の立場から反対の意向を示していると伝えられております。

 このメルケル首相の態度、第二次世界大戦の経緯に鑑みれば、首を傾げざるを得ません。何故ならば、ナチス・ドイツの第二次世界大戦を招いたのは、一時の“平和的解決”を選択したミュンヘンの宥和に他ならないからです。1938年9月、イギリスのネヴィル・チェンバレン首相は、平和主義の下で話し合い路線を選択し、ヒトラーによるズデーデン地方(チェコ領)併合を承認しました。マスコミは、一斉にこの平和的解決を歓迎し、チェンバレンも時代の寵児となったのですが、この宥和の結果は1年後の1939年9月のポーランド侵攻により明らかとなります。かくして、その場凌ぎの宥和は領土拡張の野望を抱く独裁者に対しては無意味である、とする教訓が歴史に刻まれたのです。

 ミュンヘンの宥和に今般の北朝鮮問題を当て嵌めますと、メルケル首相の話し合い路線は、当時の英チェンバレン首相の平和主義的態度と重なります。メルケル首相は、交渉によって北朝鮮の核・ミサイル放棄は可能と読んでいるのでしょうが、北朝鮮の独裁者である金正恩委員長が保有への意思を固めている場合には、ヒトラーのケースの二の舞になります。おそらく、表面的、かつ、打算的な合意には達しても、近い将来、人々はその結末を知ることとなるでしょう。しかも、過去の二度の交渉、即ち、94年の枠組み合意、並びに、六か国協議において、北朝鮮に対しては、話し合いという手段が無駄であったことは既に証明されています。

 それとも、メルケル首相は、その結果を十分に認識しながら、アメリカに対して北朝鮮の要求を呑むよう暗に仄めかしているのでしょうか。オバマ前大統領に近い立場にあるメルケル首相は、あるいは、前民主党政権と同様に、内心では北朝鮮の核保有を容認していたのかもしれません。

 絶対平和主義を貫くと戦争に至る、というパラドクシカルな因果関係を、今日、人類は、再び歴史が残した苦い教訓として思い起こす必要がありそうです。メルケル首相は、対北制裁強化については賛意を示しているそうですが、自国ドイツこそ、独裁者のリスクと惨禍を経験し尽くした国ではなかったかと思うのです。

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8 コメント

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平和主義という洗脳毒語 (gateway)
2017-09-06 18:23:12
「平和主義者が戦争を引き起こす」
これはチャーチルの言葉です。彼はチェンバレン首相を厳しく非難しました。
戦争はあるより無いほうが望ましい、これが真です。
戦争は絶対起こしてはならない悪い事である、これは誤りです。
次のように考えると分かりやすいかもしれません。
私の人生は不幸であるより幸せであることが望ましい。その通りです。
私の人生は絶対不幸であってはならない、幸せであるべきである。こんな考え方をする人が他人の幸福を損なう行動をとりがちですね。
Unknown (オカブ)
2017-09-06 19:17:39
倉西先生。
いつもご指導ありがとうございます。
また、先般は失礼いたしました。
さて、メルケル首相は米朝間の「対話」が、米国の譲歩、北朝鮮の要求の受容の結果が明白であることを十分理解したうえで、対話路線の主張をしているかと思います。
この辺は、西欧一流の理念的理想主義(平和主義?)に一致すると私は考えていますが、一方で西欧諸国が中東の空爆に参加していることを考え併せますと、まことに奇妙なパラドックスとしか言いようがありません。
ことによると日本の専売特許のように言われていた「本音と建て前」「事なかれ主義」は西欧を含めた人類普遍のものかもしれません。
しかし、こうしたメルケル首相がドイツで支持を失っていないことも不思議な事実です。
私の知人のドイツの知識階級のご婦人は、移民の引き起こす問題に耐えきれなくなってAfDに入党しましたが、依然メルケル支持の態度は変わっていません。
先生ご指摘のチェンバレン主義・ミュンヘン宥和がどれだけの悲劇をもたらしたかを、現代の西欧人に理解させることは案外、難しいことではないかと思っています。
そこで今回の北朝鮮危機の結末は人類の「良識」と見做されている西欧世論に押し流されて、人類を最も危険で陰惨なカタストロフィに導くのではないかと私は危惧しております。
先生のご指導を頂けたら幸いです。
gatewayさま (kuranishi masako)
2017-09-06 20:21:07
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 平和主義を、”一切の力を用いてはならない”とするテーゼとして絶対化しますと、結局は、警察力までをも否定することとなり、暴力的な犯罪者が出現しても、なす術を失うこととなります。当然と言えば当然の事なのですが、何故か、平和主義者は、この当然の論理を理解しようとしないのです。戦争(警察力の行使)とは、平和(治安の維持)のためには必要なのですから、警察力なくして如何にして平和がもたらせるのか、是非、絶対的平和主義者には伺ってみたいものです・・・。
オカブさま (kuranishi masako)
2017-09-06 20:31:27
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 西欧の理念的理想主義が、何故、常に”二枚舌”となり、全世界に混乱に陥れるのか、その精神的な病理につきましては、今後とも探求すべき重要な課題なのですが、私は、古来、タルムード等において醸成されてきたユダヤ教の世界観にも一因があるのではないかと疑っております。とりわけ、メルケル首相が”確信犯”であり、アメリカ民主党等の勢力とも繋がっているとしますと、なおさらにこの点には注意が必要なように思えます。となりますと、解決策の一つは、西欧、否、グローバルに拡散してしまった倒錯した世界観を健全化し、誤魔化しが許されない国際社会を築くことではないかと考えております。この観点からしますと、ドイツは、まさにホロコースト・トラウマにより洗脳状態にありますし、マスメディアも、思考倒錯推進機関に過ぎないのかもしれません。
Unknown (オカブ)
2017-09-06 20:56:52
倉西先生。
ご指導ありがとうございます。
今回、仮に米朝対話が実現したとして、北朝鮮が核を放棄することはあり得ないというのが、予測しうる核心的事実としてあります。
先生ご指摘の"倒錯的世界観"の是正が早いか、それ以前に北朝鮮の核の暴発、あるいは脅迫により世界を屈服させるのが早いか、の競争だと思います。
ただ、言えることは、私がしつこく申し上げている"朝日・岩波史観"を含む"倒錯的世界観"を先ず是正しないと、民主的意思決定に依存する諸国は、技術論的アプローチを行使できずに、北朝鮮の暴走を防げないということです。
ありがとうございます。今後ともよろしくお願い申し上げます。
オカブさま (kuranishi masako)
2017-09-06 21:51:38
 ご返事をいただきまして、ありがとうございました。

 まさに、”朝日・岩波史観”こそ、日本国における”倒錯的世界観”を代表しているように思えます。平和主義による暴力主義の容認という…。この精神性の歪については、まだまだ探求が足りていないのですが、人類の未来にも関わる重要な問題ではないかと考えております(とは申しましても、”救い”の領域に踏み込むため、まことに頭を抱える問題です…)。
Unknown (Unknown)
2017-09-07 11:15:47
ドイツは地球の裏側ですからキタが暴発しようと、とりあえずの影響はありませんから。しかしキタやパキスタン、イランなどの核兵器がブラックマーケットに流れ、テロに使用される可能性は、ご心配ではないのでしょうかなあ。米国がキタの核、特に小型化された原爆にナーバスになっているのはまさにこれだと思うのですが、如何でしょうか。モチロンイチバン危ないのは米国です。しかしその次は・・。
米国がキタに核の放棄を迫っても通常兵器による爆撃程度くらいでキタがあきらめるとはとても思えません。キタの核開発はご先代からの継続事業ですし、なんでも鴨緑江の北には北京の意図に反してキタを支援する軍閥もあるやに聞いています。そしてその後ろにはロシアがいる・・。米国もキタばかりイジメないで中国様にも一役買ってもらうのは、如何ですかなあ。日米で一芝居打ち、米国が日本への「核兵器供与に同意した」と言うのはいかがでしょうか。また「日米は満州共和国の独立を支援する」とか、こうなれば日本製の原爆がコワくて仕方がない中国共産党はイヤでもキタの「武装解除」をせざるを得なくなるでしょうし、キタの原爆は元々瀋陽特別軍区がスポンサーのようですから日米が北京でなく瀋陽を介してキタと手打ちをした場合、キタの原爆は日米でなく北京に向くことになるでしょう。習さんは尻に(失礼)火が付くことになります。私達は満蒙の「中国からの分離独立」について、一度考えてみた方がいいと思いますよ。そもそも満州は中国ではありませんしね。
Unknownさま (kuranishi masako)
2017-09-07 13:50:52
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 限られた情報からの推測でありますが、水面下には、ロシア-元瀋陽軍-北朝鮮軍のラインが潜んでいるように思えます。北朝鮮の建国の経緯からしますと、ロシアが北朝鮮に対する影響力を失っているはずもなく、また、”満州地域”は、歴史的にはロシアも深く関与した土地柄でもあります。中国も、人民解放軍の軍備はソ連の技術をベースにしておりますので、ロシアに、”首根っこを掴まれている状態”にあります。中ロ対立もあり得る構図なのですが、北朝鮮の脅威を考慮しますと(ロシアがバックとなれば北朝鮮は核もミサイルも放棄しない…)、事実上のロシア-瀋陽-北朝鮮との手打ちが望ましいかと申しますと、これもなかなか難しいようにも思えます。

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