英の「いいとこ取り」許さず=EU離脱交渉で厳格姿勢―メルケル独首相
イギリスでの国民投票の結果を受けて、EUとイギリスとの間の離脱交渉の行方が、目下、関心を集めております。メルケル独首相は、「いいとこ取り」は許さないと、早くも牽制的な発言を放っていますが、この発言こそ、EUの問題点を凝縮しているかのようです。
今日の感覚からしますと、経済のグローバル化を背景に、財に加えてサービス、資本、人といったあらゆる要素が、国内市場の如くに自由に移動する市場統合こそ、目指すべき経済圏と見なされがちです。EUは、まさにその先進的モデルでした。関税削減や撤廃の対象となる物品を相互に絞り込むピックアップ型の通商協定は時代遅れと見なされ、自由貿易協定でさえ、古びた響きがあります。しかしながら、通商利益の互恵性を考慮しますと、必ずしも、古典的な通商協定や自由貿易が劣っているという訳ではありません。自由貿易における互恵性は、既にリカードなどの古典的な比較優位論で論理的に説明されていますが(それでも劣位産業は淘汰の運命に…)、古典的な通商協定もまた、基本的には、相互利益の成立する分野に限定するのですから、互恵性、つまり、双方の「いいとこ取り」が許されているのです。先史時代の遺跡からも遠方の物産が発掘されるように、交易の本質は互恵にあります。
その一方で、市場統合の形態を見ますと、確かに、市場が広域化されますので、規模の経済の追求といったメリットが認められます。しかしながら、全ての要素が一斉に移動するわけですから、経済力の格差によって、要素移動には当然に不均衡が生じます。経済レベルの低い国から高い国へとあらゆる要素が移動し、全体を見れば、経済格差が広がるのです。例えば、国内において、都市部への人口や拠点の集中が起こるのと同時に、地方の過疎化が起きるのと同じです。しかも、EU域内では、人も自由に移動するわけですから、経済レベルの高い国でも移民に職を奪われる結果として失業問題が発生します。こうした種々のデメリットを押さえるために、EUでは、経済レベルの高い国の財政負担によって、インフラ整備といった様々な形での財政移転政策が実施されています。EUの結束を強めるために財政統合を推進すべき、とする意見の根拠は、まさにここにあるのです。しかしながら、ソブリン危機で見られたように、財政統合の深化は、経済レベルの高い国の国民の強固な反対に直面します。さらなる財政統合は、分離方向に作用する可能性が高いのです。
EUで起きた現象は、市場統合が、必ずしも全ての加盟国にとってウィン・ウィン関係とはならず、深刻な社会変化をも伴う様々な問題を引き起こすリスクを示しています(場合によっては、メリットよりデメリットが上回る…)。EUが、国民国家体系と自由主義経済という二つの系のバランスの上に成立しているとしますと(複体系)、これ以上の混乱を回避するためには、むしろ、対英関係のみならず、EU内部においても、「いいとこ取り」に向けての修正を図る方が賢明ではないかと思うのです。
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イギリスでの国民投票の結果を受けて、EUとイギリスとの間の離脱交渉の行方が、目下、関心を集めております。メルケル独首相は、「いいとこ取り」は許さないと、早くも牽制的な発言を放っていますが、この発言こそ、EUの問題点を凝縮しているかのようです。
今日の感覚からしますと、経済のグローバル化を背景に、財に加えてサービス、資本、人といったあらゆる要素が、国内市場の如くに自由に移動する市場統合こそ、目指すべき経済圏と見なされがちです。EUは、まさにその先進的モデルでした。関税削減や撤廃の対象となる物品を相互に絞り込むピックアップ型の通商協定は時代遅れと見なされ、自由貿易協定でさえ、古びた響きがあります。しかしながら、通商利益の互恵性を考慮しますと、必ずしも、古典的な通商協定や自由貿易が劣っているという訳ではありません。自由貿易における互恵性は、既にリカードなどの古典的な比較優位論で論理的に説明されていますが(それでも劣位産業は淘汰の運命に…)、古典的な通商協定もまた、基本的には、相互利益の成立する分野に限定するのですから、互恵性、つまり、双方の「いいとこ取り」が許されているのです。先史時代の遺跡からも遠方の物産が発掘されるように、交易の本質は互恵にあります。
その一方で、市場統合の形態を見ますと、確かに、市場が広域化されますので、規模の経済の追求といったメリットが認められます。しかしながら、全ての要素が一斉に移動するわけですから、経済力の格差によって、要素移動には当然に不均衡が生じます。経済レベルの低い国から高い国へとあらゆる要素が移動し、全体を見れば、経済格差が広がるのです。例えば、国内において、都市部への人口や拠点の集中が起こるのと同時に、地方の過疎化が起きるのと同じです。しかも、EU域内では、人も自由に移動するわけですから、経済レベルの高い国でも移民に職を奪われる結果として失業問題が発生します。こうした種々のデメリットを押さえるために、EUでは、経済レベルの高い国の財政負担によって、インフラ整備といった様々な形での財政移転政策が実施されています。EUの結束を強めるために財政統合を推進すべき、とする意見の根拠は、まさにここにあるのです。しかしながら、ソブリン危機で見られたように、財政統合の深化は、経済レベルの高い国の国民の強固な反対に直面します。さらなる財政統合は、分離方向に作用する可能性が高いのです。
EUで起きた現象は、市場統合が、必ずしも全ての加盟国にとってウィン・ウィン関係とはならず、深刻な社会変化をも伴う様々な問題を引き起こすリスクを示しています(場合によっては、メリットよりデメリットが上回る…)。EUが、国民国家体系と自由主義経済という二つの系のバランスの上に成立しているとしますと(複体系)、これ以上の混乱を回避するためには、むしろ、対英関係のみならず、EU内部においても、「いいとこ取り」に向けての修正を図る方が賢明ではないかと思うのです。
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交易と市場統合とでは、天と地ほどの差があると思うのです。交易では、お互いに満足しますが、経済的な理由であっても、市場統合を行いますと、政治や社会的な部分において負担や責任、並びに、マイナス現象が発生します。もう一度、この違いを確認しておくべきではないかと思うのです。
そのための、シリアの分割、あるいは、政府打倒による難民の帰国による難民問題の解決をなす事が話合われてもおかしくないと思います。
難民問題の勝者は、出した国の独裁者しかいない。反対派の排斥によって、権力基盤が強化されて、さらに好きに政治を出来るようになる。
難民や難民を受け入れた国は敗者である。
難民は言うまでもなく、受け入れた国も財政負担等を強いられて、迷惑を被る。
この真理にヨーロッパ大陸より先に英国が気がついたと言うことではないのかと思います。
確かに、域外からの難民の問題も難題なのですが、その他に、やはり、EU域内からの移民の問題も看過できないのではないかと思います。この件につきましては、本日のブログで記事にいたしますので、もうしばらくお待ちくださいませ。