万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国が恐れる対北石油禁輸後のシナリオー中北戦争と内乱

2017-08-07 15:38:11 | 国際政治
「過去最大の経済制裁」 安保理が北朝鮮制裁決議を全会一致で採択、石炭・海産物の全面禁輸
今月5日、国連安保理では、北朝鮮に対して主要輸出産品である石炭や海産物の全面的な禁輸を、中国やロシアも含めた全会一致で決議しました。過去最大の経済制裁と称されつつ、関心を集めてきた石油禁輸については見送られた模様です。

石油禁輸の見送りについては、“話し合い”に持ち込みたい中国の外交的勝利との評価もありますが、そうとばかりは言えないように思えます。何故ならば、石油禁輸は、必ずしも、中国に有利な形での平和的な解決を意味しないからです(実のところ、太平洋戦争は、対日石油禁輸が引き金となっている…)。

中国からの石油が禁輸となれば、国内の経済活動のみならず軍の活動能力も不可能となり、北朝鮮は息の根を止められることになります。この効果の絶大さを考えれば、中国は、北朝鮮の生殺与奪の権を握っているように見えます。また、兵糧攻めで北朝鮮を降伏させることができるのですから、アメリカをはじめ、国際社会も石油禁輸を歓迎することでしょう。それでは、何故、中国は、自らの評価を上げ、しかも、核・ミサイル放棄後の北朝鮮に対して影響力を残すことができる石油禁輸に踏み込まないのでしょうか。

もちろん、THAAD配備をめぐる対米駆け引きにおいて石油禁輸を交渉カード(THAAD撤廃の交換条件…)として残したいとする思惑もあることでしょう。その一方で、もう一つ、石油禁輸を躊躇する理由があるとすれば、それは、石油禁輸を実行に移した途端、北朝鮮の核ミサイルの照準が、アメリカの主要都市から北京に転じるリスクがあるからなのではないでしょうか。中北戦争が勃発すれば、ICBMを用いるまでもなく、北京をはじめ北部の都市は北朝鮮の中距離ミサイルの射程に入っております。最終的に勝利を収めたとして、中国も無傷ではいられません。また、中国の旧瀋陽軍は北朝鮮軍と凡そ一体化しているともされ、仮に、北朝鮮が主敵を米国から中国へと切り替えた場合、旧瀋陽軍の矛先も北京政権へと向かい、中国は、内乱状態に陥る可能性があります。

中国政府が、中北戦争、あるいは、内乱を恐れているとしますと、中国に石油禁輸を期待することは難しくなります。否、中国は、北朝鮮の主敵をアメリカに固定すべく、裏側では北朝鮮としっかりと協調しつつ、あらゆる口実を設けては石油禁輸の実行から逃げようとするかもしれないと思うのです。

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6 コメント

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Unknown (Unknown)
2017-08-08 16:36:44
ここは日本が一肌脱いでアメリカと「核兵器供与に関する協定の検討に入った」とトランプ大統領に声明を出してもらうのはいかがでしょう。普段はエラそうに内政干渉してくる中国様はホントは米国より日本の方が怖いのですから、日本が核兵器を持つ段取りを始めたとなれば慌ててキタの武装解除にかかると思うのですが、如何でしょうか。なに、平和憲法だって核兵器の事は何も規定されていないようですし、同じように何の規定もない自衛隊はそろそろ60年になりますよ。
Unknownさま (kuranishi masako)
2017-08-08 18:54:40
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 中国が石油禁輸に踏み込めない以上、経済封鎖による問題解決は難しく、また、話し合い解決も、過去二度にわたって騙されましたので、この方法にも無理があります。となりますと、残る手段は、米軍による軍事制裁か、あるいは、NPT体制を大幅に見直し(事実上の崩壊…)、日本国を含む全ての諸国に核武装を認めるのか、の凡そ二つに絞られてくると思います。アメリカの決断次第という事になるのでしょうが、日本国政府も、後者の選択肢について、アメリカと凝議して然るべき時期に至っていると考えております。
Unknown (オカブ)
2017-08-11 03:40:39
初歩的なご質問をさせてください。
今回のミサイル危機をチキン・ゲームに例える論調がありますが、無理があると思います。
①チキン・ゲームは双方よけず正面衝突して双方が壊滅的被害を被るという選択肢も前提としていますが、北朝鮮と米国では核攻撃能力に差があり過ぎてこのような結果は考えにくい。
②北朝鮮の挑発は、米国世論の「合理的」判断としての先制攻撃容認を助長しただけで、北朝鮮にとってほとんど抑止効果がない。
③北朝鮮は、果たして合理的判断ができるアクターなのか?
以上から、私は今回の事例をチキン・ゲームや他の古典的ゲーム理論のモデルに当て嵌めるのは不適当なのでは、と思います。
ですから北朝鮮と米国の行動を無闇・適当に「チキン・ゲーム」と騒ぎ立てる俗論には違和感を感じます。
一方で、ではどのような分析モデルに当て嵌まるかということに関し、無学で適切なものが思い当たりません。
倉西先生は今回の事例を政治分析的アプローチで開設するとすれば、どのような手法をおとりになられますでしょうか?ご教示いただければ幸いです。
オカブさま (kuranishi masako)
2017-08-11 07:18:49
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 ご質問、拝読いたしました。今般の北朝鮮問題につきましては、「チキン・ゲーム」論では説明がつかない現象が多々含まれております。なかなか適切な分析モデルが見当たらないのも、”合理性”をどのように定義し、理解するのか、という問題にも関わってくるのですが、本コメント欄では長くなりますので、本日の記事にて、試論を認めてみたいと考えております。大変恐縮ではございますが、もうしばらく、お待ちいただけましたならば、幸いでございます。
Unknown (オカブ)
2017-08-11 08:38:14
倉西先生。
ありがとうございます。
"合理性"を定義するためには、インセンティブとロスを数値化することが適切と思いますが、専門的になりますので措いておきます。
しかし今回の北朝鮮の行動で解せないのは、脅迫のインセンティブが全くないのに挑発に出たことです。
私が金正恩ならアメリカ本土を射程に収める弾道弾と積載可能に小型化した核弾頭を完成した時点で、米を脅迫すると思いますが。
連続でコメント失礼いたしました。
オカブさま (kuranishi masako)
2017-08-11 09:50:53
 ご返事をいただきまして、ありがとうございました。

 ”合理性”の定義に関するインセンティブとロスの数値化に際しましては(費用対効果の計算等…)、優先順位付けや比重に制作者の主観が入りますし、また、政策決定者本人の脳内の決定プロセスは外部観察者の推測に過ぎないところに、難しさがあるように思えます。例えば、コメントにお書きくださいました対米脅迫の時期ですが、外部から観察しますと”不合理”に見えますが、(1)核搭載可能なICBMを完成させるためには、発射実験が必要、(2)金正恩の真の目的はアメリカを交渉の場に引き出すことであり、核・ミサイル実験は催促のジェスチャーである、(3)少なくとも既にグアムやハワイを攻撃できる能力を有していることを示した…といった判断が働いた可能性もあります。この問題は、北朝鮮の戦略が、全く以って近現代の政治理論の射程外にあることによって引き起こされているように思えます。

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