万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

“パンダ債”は大丈夫?-反米路線に日本を引き込む中国

2017-12-21 15:30:06 | 国際政治
日本企業に人民元債発行を解禁へ、22日に日中当局が合意=関係筋
本日の日経新聞朝刊の一面には、「人民元債 日本に解禁」の見出しが躍っていました。中国政府が日本企業に対して中国本土における人民元建て債券―“パンダ債”―の発行を認めるとする内容ですが、日中金融協力には、手放しでは喜べない側面があります。

 先月、ベトナムのダナンでAPEC首脳会議が開催された際に、日本国の安倍首相と中国の習近平国家主席との間で首脳会談が持たれ、両者が握手を交わす写真が公開されました。これまで仏頂面と打って変わり、笑顔での握手であったことから、中国からの対日関係改善のメッセージではないか、とする憶測も呼んでいました。その後、安倍政権は対中政策を軟化させ、習主席が提唱する一帯一路構想についても協力姿勢に転じたとする指摘も散見されています。しかしながら、中国からの“すり寄り”は、‘孫子の兵法’よろしく得てして一時凌ぎであり、長期的戦略に即した“偽装”であることは、歴史が示すところです。

 それでは、中国は、何故、今の時期に日本国に接近する必要があったのでしょうか。中国の人民元国際基軸通貨化に向けた動きは、70年代辺りに始まるようです。朝鮮戦争を機にアメリカの制裁でドルを使用できなくなっていた中国が(この間、英ポンドを使用…)、欧州各国との間で人民元決済を開始したのはこの時期であり、周恩来首相のイニシャチブによるそうです。日本国も、1972年に民間銀行が「日本円と人民幣による貿易決済業務に関する協定」を締結しています。80年代後半以降は、鄧小平氏の下で改革開放路線へと転じたことから、積極的に外資が導入され、2001年のWTO加盟により経済大国へと一気に上り詰めてゆくことになるのですが、その長期的経済戦略においては、人民元の国際基軸通貨化は主要課題であり続けています。対日関係では、2011年に、野田佳彦首相と温家宝首相との間で、人民元建ての中国国債購入と円・人民元決済の方針が約されています。この路線に従い、2012年6月からは、日本円と中国人民元との為替相場はドルを介さない直接取引による制度へと移行し、‘ドル外し’が進行することとなりました。2016年の国際通貨基金(IMF)における人民元のSDR構成通貨採用も、国際基軸通貨化戦略の最終段階へのステップとして位置付けられていたことでしょう。

 しかしながら、こうした中国の長期戦略は、当然に、アメリカを中心としたドル基軸通貨体制との衝突を不可避とします。上述した2011年の野田政権での日中金融協力においても、アメリカの‘虎の尾を踏む’として、既にこの点に関する懸念が示されておりました。先日発表されたトランプ米大統領の「国家安全保障戦略」では、経済面においてもアメリカの地位の維持が掲げられていますが、米ドルの国際的地位も例外ではないはずです。アメリカからすれば、中国は米ドルの地位に挑戦するライバル国であり、日本国を含むアジア、否、ユーラシア大陸全域が人民元圏となることを易々と許すとは思えません。

米中対立が鮮明となる中、中国が、先ずは日本国の取り込みに動いたとしてもおかしくはありません。しかも、為替取引規制も継続されているのでは、到底、国際通貨の要件を満しているとは言えず、人民元の貿易決済通貨としての比率は低いままです。中国国内を見ても、当局による金融引き締め政策によるインフラ建設の激減等により、景気は停滞気味です。苦境にあるからこそ、アメリカとの直接対決を巧妙に避けつつ、当面は対日関係を改善し、日本国への人民元の‘浸透’を図ろうとしているのかもしれないのです。その結果として、日米離反をも引き起こすことができれば、中国としては、一石二鳥なのでしょう。

このように考えますと、‘パンダ債’の発行解禁は、中国が日本国に対して恩恵を与えているとする印象で報じられてはいますが、中国の戦略に日本国が体よく利用されているに過ぎないかもしれません。最初に冷遇し、後から厚遇して相手を感激させ、自らの意図する方向に誘導する手法は政治的テクニックの一つですので、中国側からの笑顔の接近には、冷静に構えて見てゆく必要があるように思えるのです。

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2 コメント

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パンダハガ-の意図するものは何か? (あずみ渚)
2017-12-21 16:57:19
こんばんは パンダの赤ちゃんの事は犬HKが夜のトップニュ-スで報じ、たかだか畜生一匹に何を騒いでいるんだかとあきれました
 もっとも犬HKの社屋には支那の放送局も入っているので当局は工作員でしょう

今度はパンダ債ですか・・・左翼どもは政治と文化交流は別だと言いますが、支那ほどそれらを一体化し戦略として使っている国はないでしょう  もともとパンダはチベット産ですが、中共軍に侵略され奪われチベット人が大虐殺されていることを鑑みますと
パンダは返却してもいいような気がします

政府は一帯一路の件も含めて慎重に動いてもらいたいものです
あずみ渚さま (kuranishi masako)
2017-12-21 19:11:23
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 中国の戦略とは、あらゆる手段を動員し、最終的には”中国の夢”というゴールを実現することではないかと思います。それは、政経、官民、政教等の区別のない全面的な世界支配であり、この戦略に気が付かない国は、早晩、中国に飲み込まれることでしょう。日本国政府は、ゆめゆめ中国の微笑に惑わされてはならないと思うのです。

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