万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国が全世界に対して“経済制裁”を発動するリスク

2018年01月14日 14時39分23秒 | 国際政治
台湾を「国扱い」、外資企業が次々謝罪 中国で批判受け
 平和に対する重大な脅威と化した北朝鮮の核・ミサイル問題に対し、国際社会は、その放棄を迫る手段として、国連安保理において経済制裁の実施を決定しました。この背景には、経済制裁を非軍事的な政治的手段とする共通認識があります。ところが、今日、経済大国化した中国は、‘経済制裁’という手段が利己的目的に転用可能であるという現実を人類に突き付けています。

 経済制裁は、古今東西、兵糧攻めや経済封鎖が軍事力の行使に代替する効果的な戦法として使われてきたことから、決して現代に固有の現象ではありません。この戦法は、経済力に優る側、あるいは、実力行使によって封鎖を可能とする側に勝利をもたらしてきました。しかしながら、この勝利条件が揃わない場合には、制裁を仕掛けた側が敗北するケースもあり、19世紀にあってナポレオン体制が崩壊した原因は、ナポレオンの対英大陸封鎖とイギリス側の逆封鎖との力関係において、後者が優位した点に求めることができます。北朝鮮問題については、同国の経済規模が極めて低いレベルにあり、かつ、一先ずは制裁に関する国際包囲網が構築されていますので、一定の効果を期待することができます。

 その一方で、中国が、“経済制裁”を政治目的のために使用した場合、他の諸国はどのような事態に直面するのでしょうか。報道に拠りますと、中国の習政権は、「中国で商売する外国企業は中国の主権と領土、人民の民族感情を尊重すべきだ」とする立場から、台湾、香港、チベットなどを国扱いした外資系企業を謝罪に追い込んでいるそうです。言い換えますと、中国の政治的主張に同調しない限り、外資系企業は13億の中国市場ではビジネスをさせない、即ち、経済制裁を科す明言しているのです。

 アメリカのマリオット・グループやデルタ航空をはじめヨーロッパの有名ブランド各社は、早々に中国に対して膝を折っていますが、安易な謝罪は、この動きをさらにエスカレートさせる、あるいは、他の問題領域にも拡大させる結果をもたらすかもしれません。経済制裁の効果に味をしめた中国が、この手段を抑制的に用いるとは思えないからです。全世界の企業は常に中国の顔色を窺い、その政治的主張や要求を受け入れざるを得なくなりましょう。たとえ、それが侵略や非人道的行為といった国際法上の違法行為の追認であったとしても…。日本企業もまた、尖閣諸島の領有権をめぐり、同地を中国領と認めない限り中国市場から締め出されるかもしれないのです。

 経済制裁の勝利条件とは、上述したように、経済力による優位と実行手段の確保にあります。仮に中国が、今後とも経済制裁を以って“中国の夢”、即ち、自国中心の国際位階秩序の実現を追求するならば、他の諸国は、逆封鎖を試みる必要に迫られることとなりましょう。世界第二位の経済大国ではあれ、現時点であれば、逆封鎖側がこの“封鎖合戦”を制する可能性は高いのではないかと思うのです。

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