万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

朝鮮半島有事に韓国は38度線を開放すべき

2017年11月14日 15時16分24秒 | 国際政治
韓国軍 亡命の北朝鮮兵士は徒歩で軍事境界線越え
 朝鮮半島における有事が現実味を帯びる中、厚生労働省は、北朝鮮からの難民の日本国内への流入を想定し、収容施設内の感染症対策の検討に入ったそうです。大量難民の発生は、朝鮮半島有事に伴うリスクとして指摘されてきましたが、そもそも、こうした事態は、韓国政府が北朝鮮難民を“自国民”として扱えば起き得ないのではないかと思うのです。

 厚生労働省が推定している北朝鮮難民数は数万人なそうですが、これらの人々は、小型船舶で日本海に漕ぎ出し、何処かの日本国北部の海岸、あるいは、島嶼に漂着するものと推測されます。その大半は、漁船を比較的自由に使用し得る北朝鮮の漁業民であるかもしれません。しかしながら、特に冬場ともなりますと日本海の波は高くなり、時化る日も多く、日本海を船で渡るには命にかかわるほどのリスクが伴います。有事であれ、一般の北朝鮮国民に取りましては、渡航による日本海横断という逃避ルートは必ずしも安全ではないのです(有事に際しても戦闘に巻き込まれて命を落とすよりも死亡する可能性が高いかもしれない…)。

 こうした事情を踏まえても、数万人規模の北朝鮮難民の流入には疑問符が付くのですが、当事国である韓国は、北朝鮮難民の発生をどのように考えているのでしょうか。韓国は、公式には自国を朝鮮半島における唯一の正当な政府と見なしていますし、将来的には南北統一を目指す立場にあります(韓国憲法第4条)。この立場からすれば、有事に際して北朝鮮難民に対して保護を与える第一義的な責務は、韓国政府にあるはずです。

ここで思い出されるのは、ドイツの東西再統一のケースです。汎ヨーロッパ・ピクニックに始まる東ドイツ国民の国境越えは、東西を隔てていたベルリンの壁の崩壊へと繋がり、遂に東ドイツの瓦解をも招きましたが、朝鮮半島有事に際しても、韓国政府が38度線を開放すれば、北朝鮮の体制は動揺をきたすはずです。そして、押し寄せる北朝鮮国民を韓国政府が速やかなに受け入れ、自国民として保護すれば、北朝鮮難民問題をも未然に防ぐことができるのです。先日も、北朝鮮兵士が38度線を越えて亡命していますが、韓国政府は、来る有事に備え、38度線周辺における北朝鮮国民の輸送ルートの確保や収容施設の建設等の対策を急ぐべきではないでしょうか。また、事前に北朝鮮国民に向け、38度線を開放する用意がある旨の情報を流せば、その効果は倍増するはずです。有事に際しての北朝鮮国民による大量の38度線越えは、戦時下にある北朝鮮を内部から混乱させ、金正恩体制の崩壊をも早めるかもしれないのですから。

今般、予測されている米軍による対北武力行使は、首都ソウルへの砲撃など、一時的には北朝鮮が攻勢に出るものの、米軍勝利の内に短期間で決着が付くと予測されています。また、昨今の中韓関係の改善によって、たとえ朝鮮戦争時の如くに中国の軍事介入があったとしても、人民解放軍が韓国領内にまで進軍する可能性も低下しています。有事に際して韓国が崩壊するシナリオ、即ち、韓国難民の大量発生のリスクが低下した現状にあればこそ(首都の暫定的な移転はあるかもしれない…)、韓国政府は、北朝鮮国民を十分に保護できる状況にあります。もっとも、“偽装難民”には十分に注意し、チェック体制を完備する必要はありましょう。

朝鮮半島の問題は、朝鮮半島において解決するのが望ましく、韓国政府は、日本国を含む周辺諸国にリスクや負担を転嫁することなく、自らの責任の下で、予測される北朝鮮難民問題に対して万全の対応を講じておくべきなのではないでしょうか。

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コメント (4)
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