クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

神霊の宿った“ソロ”の霊験は? ―瘤様―

2016年07月20日 | 奇談・昔語りの部屋
加須市南大桑に“瘤様”がいる。
いや、「ある」か。

瘤様とは何か?
それは“ソロ”の木を指す。

安政年間のこと。
近くに建つ定泰寺には、
淳栄法印という住職がお寺を守っていた。
通称豆木法印とも言い、不思議な力を持っていたらしい。
鳥の鳴き声を人の言葉に聞き分けることもでき、
雨降りの予言もできたとか。

ソロの木はすでにその頃古木だった。
そして大きな瘤があった。
住職は瘤の付いたソロを見上げながら言う。
「一心に祈り、後世のために人々を救おう」

その決意は固かった。
以来、住職は祈り続ける。
祈ること3721日。
真冬でも冷水を浴び、祈願し続けた。

するとどうだろう。
ソロに神霊が宿ったらしい。
この古木に祈れば、
どんな病でも瘤となってはがれて治ると話題になった。

この話はたちまち広がる。
近在はもとより、
遠方から参拝する人があとを絶たなかったという。

ソロの木は、いつしか「瘤様」と呼ばれるようになった。
そして、世代を超えて信仰されることとなる。
まさしく、住職が望んだように、
後世のため人々を救い続けたのだ。

現在も瘤様は信仰を寄せられている。
その由来を伝える石碑が傍らに建てられているし、
「伝承 瘤様」と書かれた標柱もある。

ソロの木は古利根川の堤防上に立っている。
近くは工業団地だが、とても静かな場所だ。
往古は堤防が連なり、流路跡も残っていたのだろう。
いまもわずかながらその名残を目にすることができる。
古利根川に心惹かれる者は、
瘤様もさることながらその地形に目がいくと思う。

それにしても、淳栄法印とはどんな人物だったのだろうか。
鳥の鳴き声を人語と聞き分けられた住職。
鳥と会話もできたのかもしれない。
ほかにも不思議な力があったのではないか。
そんな淳栄法印の精神と霊験は、いまも瘤様に宿っている。


埼玉県加須市


コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 建福寺前を羽生城の外堀が通... | トップ | 幸手に残る“押堀”は? ―高須... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ゆかたん)
2017-07-06 05:42:10
男衾の今市の鎌倉街道沿いに、今市の辻堂があります。中には3.1㍍の地蔵菩薩立像が安置されてます。埼玉一を誇るお地蔵様は尼将軍の北条政子が稲荷神の御告げにより、この地にあった桜の大木を刻ませて造ったとの伝承があります。お地蔵様を建立すると、尼将軍の額のイボがぽろりと取れたそうです。
今でもイボ取り地蔵として信仰されています。私が行ったら、時代ですか絵馬に若者が、人気声優グループの アクアのライブチケットがとれますますように!と書いてありました。
お地蔵様もライブチケットまで取らせられるとは、だふ屋地蔵も大変だと思いました。
ゆかたんさんへ (クニ)
2017-07-07 00:13:27
お地蔵さまと人間はとても近い距離感にありますね。
多くの人々の願いを叶え続けてきたのだと思います。
もうすぐ地蔵祭りですが、地蔵信仰はいまも健在です。

コメントを投稿

奇談・昔語りの部屋」カテゴリの最新記事