シンプル イズ ベスト
「甘い。こんなに甘いのか」
酒肴の定番のホウレンソウのおひたしを口に入れて味わったとたん、思わずそんな言葉が出てしまった。滋味が口のなかに広がる。あまりのうまさに「こんなうまいものはあわてて食べてしまってはもったいない。もっとゆっくり味わえ!」と脳が指令する。そのとおりだ。
ホウレンソウのおひたしぐらいでなにをおおげさな、という向きもあろうが、20年以上も野良仕事をやってきた私がそう実感するのだから許してもらうことにする。
ホウレンソウは、ネギに負けず劣らずいまが一番うまい。厳しい寒さにあたるとホウレンソウは身を守るため糖度が上がる。緑が濃くなり、葉が厚くなる。輝きも違う。なるほどこれならうまいだろうなと感じさせる姿になる。
私の毎晩の相手となる清酒との相性でいえば、11月収穫のホウレンソウは淡麗な「〆張鶴」の本醸造で釣り合いが取れるが、この1月のそれは濃密なだけに濃醇な「竹鶴」の熱燗でないと太刀打ちできない。
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服部英雄著「峠の歴史学-古道をたずねて」(朝日選書830)は、
山歩きの好きな私には好著だ。著者も山歩きが大好きな人だ。山を歩いていると峠道は幾度となく踏む。なにげなく歩いている峠の歴史を多く教えてくれた。私
にとって思い出の峠道は越後と会津を結ぶ「八十里越」。この古道はいまも地元の人に守られ、登山対象の道になっている。そこを2000年10月に歩いた。