とね日記

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あたらしい人工知能の教科書: 多田智史、石井一夫

2017年11月01日 22時06分30秒 | 将棋、AI
あたらしい人工知能の教科書 プロダクト/サービス開発に必要な基礎知識」(Kindle版

内容紹介:
さまざまな業界・業種で利用されてきている人工知能。その範囲は膨大で、必要されている理論などの知識を取捨選択するだけでもたいへんです。本書は人工知能関連のプロダクト・サービス開発を行っているエンジニアにとって、今後の開発で必要になる知識を取捨選択し、理論と技術をわかりやすくまとめた書籍です。
2016年12月刊行、352ページ。

著者について:
多田智史(ただ・さとし)
1980年生まれ、兵庫県出身。大学は生物工学を専攻し、現在バイオインフォマティクスの企業に勤務。データ解析プログラムやWebベースのデータベースシステムの開発を業務で行う。

監修者について:
石井一夫(いしい・かずお)
東京農工大学農学府農学部農学系ゲノム科学人材育成プログラム特任教授。
ゲノム研究者としての実務家の視点から、ビッグデータ活用のあるべき姿を追求するために
「ビッグデータ活用実務フォーラム」を2013年6月に設立。


理数系書籍のレビュー記事は本書で347冊目。

本書は今年の初め、カフェで前に座っていた男性が読んでいて、つい気になって買ったものだ。

名人を負かす将棋や囲碁の人工知能ソフトが脚光を浴び、機械学習・深層学習という言葉を毎日目にするようになった。人工知能とひとくくりにまとめて話題にされ、書店ではどの本を買ってよいのかわからないほどだ。

買う前の立ち読みで「数式も書いてあるし、広い範囲をカバーし、エンジニア向けだ」と思ったので購入。

本書の概要は著者と監修者へのインタビューを、まずお読みになるとよいだろう。

人工知能を利用するプロダクトを開発できるように――『あたらしい人工知能の教科書』インタビュー
https://codezine.jp/article/detail/9839

章立ては次のとおり。

CHAPTER 01 人工知能の過去と現在と未来
CHAPTER 02 ルールにルールを重ねる
CHAPTER 03 生きているかのように振舞う
CHAPTER 04 最適解と重み付け
CHAPTER 05 最適化と重み付け
CHAPTER 06 統計的機械学習
CHAPTER 07 教師なし学習と教師あり学習
CHAPTER 08 自律知能エージェント
CHAPTER 09 深層学習
CHAPTER 10 パターン認識
CHAPTER 11 テキスト・自然言語処理
CHAPTER 12 知識表現と構造
CHAPTER 13 分散コンピューティング
CHAPTER 14 大規模データ・IoTとのかかわり

詳細目次はAmazonの「なか見!検索」で公開されてるが、ここにも載せておこう。画像はクリックで拡大する。

    


人工知能技術の全体を見渡せるという意味では、本書しかないそうだ。しかし、全体を読み終え、満足できたか、知的な刺激を受けたかといえば「否」である。つまり、ひとつひとつの技術の説明が短く、概要しか解説されないので仕方がないことだ。詳細目次レベルで、各技術の解説が3から5ページのパンフレットを読んでいるような印象を受けた。

以下、考えたこと、感じたことを箇条書きしておこう。

- リファレンスとしては有効だと思う。


人工知能技術の全体を見渡せるという意味で、将来の勉強の方向を決めるために情報系の学生には有用な本だと思う。また、すでにエンジニアとして働いている人でも、自分の知らない考え方、アルゴリズムを発想するうえでリファレンスとして活用することができる。

- 「人工知能」の意味に含めた技術が広すぎだと思った。

機械学習や深層学習は人工知能だと思うが、ルールベースのプログラム、探索アルゴリズム、回帰分析、ベイズ統計、データベースなど人工知能以前のソフトウェア技術も含めて人工知能として紹介しているからだ。そのために現在ホットな分野の詳しいことを知ることができない。ただし、ルールベースのプログラム、探索アルゴリズムなどは一般的には第二次人工知能ブームの技術として知られている。

- 数式が書かれているが、単なる紹介に終わっている。

紹介している技術の基礎となる数式が紹介されているのは良い。線形代数や微積分、統計学を始め「物理数学」として学ぶ内容さえ習得すれば理解できるレベルだ。情報系の学生は数学が苦手な人が多いだろうから、この分野のエンジニアになりたいのならば、数学の教科書で学んでおいたほうがよい。もちろん本書のレベルであれば数学科や物理学科の学生ならば難なく数式を理解できるはずだが、それぞれの技術にどのように数式が生かされ、処理系がどのように動作するかをイメージできるまでには至っていない。つまり、自分でプログラミングして初めて理解できるということ。

- 説明は簡潔でわかりやすい。

ソフトウェア系の専門用語は多いのは当然だが、要点を絞って上手にそして簡潔に説明している。この点は評価したい。

- 説明不足を補うために、詳細は紹介するサイトを参照させている。

各技術に割り当てられているページ数が少ないので仕方がないが、「詳しくは次のサイトを読んでほしい。」とURLを5つくらい紹介して済ませている。紙媒体の本なのでいちいち長いURLを入力しなければならないのかと、少々面倒に思えてしまう。

- 深層学習は人工知能技術のほんの一部であることがわかる。


350ページあまりの本書で、深層学習について解説しているのは第9章の17ページだけである。それ以外の人工知能の技術がたくさんあるので、将来自分が取り組むべき技術の選択肢がとても多いことがわかる。深層学習はたまたま現在ホットな技術であるに過ぎないことを肝に銘じておこう。

- 深層学習の詳細は学べない。

深層学習についてはもう少し詳しく学べるかと思ったら期待外れだった。詳しく理解したいならば、他の本をあたるべきだ。

- 問題点や何が困難であるかを知ることができる。

各手法、技術によって何が実現でき、何が問題であるかを知ることができる。将来の展望を楽観視せず、正直に書いているところは評価したい。

- 誤植が多い。

残念である。正誤表は次のページで見ることができる。

あたらしい人工知能の教科書(出版社のページ)
http://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798145600

- 人工知能の将来像、社会へ与える影響は書かれていない。

エンジニア向けの本だから当然である。人工知能は将来どのようになっていくのか?社会にどのような影響を与えていくか?などについては一切書かれていない。現在までに開発された技術を淡々と解説する本である。シンギュラリティに関する予測、人間と人工知能のかかわり方を考えてみたい方は他の本をあたるべきだ。


ということで、エンジニアの方には「持っていたほうがよいかも」というレベルでのお勧め本、エンジニア以外の方にはお勧めしないというのが僕の結論である。


関連記事:

脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす:甘利俊一
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/55335818aa47b1227eebc6b73c346960

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの: 松尾豊
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/35dd84adaee4c749268d0b7d3283e83e


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あたらしい人工知能の教科書 プロダクト/サービス開発に必要な基礎知識」(Kindle版



CHAPTER 01 人工知能の過去と現在と未来
CHAPTER 02 ルールにルールを重ねる
CHAPTER 03 生きているかのように振舞う
CHAPTER 04 最適解と重み付け
CHAPTER 05 最適化と重み付け
CHAPTER 06 統計的機械学習
CHAPTER 07 教師なし学習と教師あり学習
CHAPTER 08 自律知能エージェント
CHAPTER 09 深層学習
CHAPTER 10 パターン認識
CHAPTER 11 テキスト・自然言語処理
CHAPTER 12 知識表現と構造
CHAPTER 13 分散コンピューティング
CHAPTER 14 大規模データ・IoTとのかかわり
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