とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

25年目にわかった真実

2010年05月31日 00時56分32秒 | 物理学、数学
掲載画像は大学3年のときに履修した授業で使っていた教科書で「作用素代数入門―Hilbert空間よりvon Neumann代数:梅垣寿春」という。担当教官は幸いなことに著者ご自身。東工大を退官されて僕が通っていた大学に移られたばかりの梅垣先生だった。この教科書も当時出版されたばかりで最近になって復刊されたのだ。

4年間の大学生活で、この授業のことは特に強く印象に残っている。それはどんなに勉強しても「全くわからなかった」からだ。全くというのはゼロのことであり、箸にも棒にもひっかからなということ。頑張れば少しはなんとかなるだろうという期待はそのたびに打ち砕かれた。どこがわからないのかがはっきりしていれば何かの糸口が見えてくるのだが、「どこもわからない」のだから話にならない。

それは教室にいた誰にとっても同じことだった。誰ひとり理解できない授業。。。学生のレベルが低いからではなく教科書が難しすぎるからだということは、前期が終わるころにようやくわかってきた。でも、どの程度難しいのかということは全く想像がつかない。いつもトップの点数をとっている学生に聞いても「わからない度」は他の学生と一緒。優等生から劣等生まで横並びの状態だ。

この教科書の理論が生かされるのは「量子力学」以降に発展した「場の量子論」や「素粒子論」あたりの物理学からだ。信号解析などの情報理論の基礎にも使われる。けれども数学専攻の学部生が知っているのはせいぜい一般教養としての力学どまりで、量子力学はおろか相対性理論についての知識も一般人とほとんど変わらない。その数学理論が何の役に立つのか全く想像もできない状況で学ぶのは、数学専攻と言えどもそこに面白さを見つけるのは至難の業である。まして全く理解できないのだからなおさらだ。

学生のそんな状況にはおかまいなしに、先生は毎回楽しく元気はつらつにジョークを交えながら授業をなさっていた。だから全く理解できなくても僕たちは楽しく1年間先生の話を聞いていたのだった。そんな親しみやすい先生だったから、ニックネームは「梅ちゃん」あるいは「ノルム先生」だった。(ノルムというのはこういう意味。)教室に20人くらいいた学生も年間を通じて減ることはなかった。みな元気な「梅ちゃん節」を聞くのを楽しみにしていたからだ。

この教科書は210ページほどあるのだが、毎回証明を全く省略せずに学生にやらせるものだから進み方はとても遅い。1年かけて終わったのはやっと12ページだけだった。全体の構成はこのような感じだ。

第1章 函数解析の基礎概念
第2章 B(H),C(H),S(H),T(H)とRKHS
第3章 C*代数
第4章 von Neumann代数
第5章 KMS条件とTomita‐Takesaki理論
第6章 非可換確率論
第7章 Connesの3型理論
付録 2型、3型、v.N.代数の例

この授業を受けてからおよそ25年たった今日、どうして理解できなかったかということがようやく納得できたのだ。


2012年5月27日に追記:
梅垣寿春先生は2012年5月22日に白血病のため87歳で逝去されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

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数年前に竹内薫先生の朝日カルチャーセンターの授業で一緒だった友人と久しぶりに会い、日曜の午後は3時間ほど数学談義をして楽しんだ。その「千京くん(ネット名)」は某大学の院卒で数学を専攻していた男だ。学生時代に怠けていた僕とは違い、しっかり勉強していたという。

そんな彼との話の中で、僕が今勉強している「関数解析 共立数学講座 (15):黒田 成俊」という教科書が思っていたより難しいということを言った。アマゾンのレビュー記事によると「初歩的話題を丁寧に解説」だとか「良書」だということなのだが、じっくり読み込んでいるにもかかわらず僕の理解度は70%くらい。思っていたよりもずっと難しい。ルベーグ積分の教科書よりは面白いのだが、細かい文字でびっしりと300ページ以上あるので難儀しながら進んでいるところ。(今240ページあたり。)

関数解析 共立数学講座 (15):黒田 成俊


「この本って大学3年くらいで読めるのかなぁ?それなのにずいぶん難しいと思うけど。。。でも、関数解析にはルベーグ積分や測度の理解が欠かせないし、そのためには集合論や位相空間もわかってなきゃならないよね?そういうのは大学1、2年でやるはずないし。。。」

と僕が聞くと、

「とんでもない。これはM1の人が1年かけて勉強するような本だよ。」

と千京くんは言った。

僕が在籍していたのは「応用数学科」なのでカリキュラムに基礎数学は少ない。「数学科」を選択していれば集合論や位相空間などの(当時は抽象数学の入り口と呼ばれていた)基礎数学を学べていたことだろう。

「え〜っ、そうなんだ!」 

M1、つまりこれは大学院1年レベルの人が読む教科書だということ。僕の理解度が及んでいない理由がわかったのだ。

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そんな「関数解析 共立数学講座 (15):黒田 成俊」はノルム空間、バナッハ空間、ヒルベルト空間あたりの話からはじまっている。300ページもあるこの教科書と「作用素代数入門―Hilbert空間よりvon Neumann代数:梅垣寿春」を比べてみると、前者の主要な部分内容は後者の「基礎概念」に相当する最初の30ページに凝縮されていることがわかった。

そこから先のページをめくってみても、群論はもちろん環論や高度な代数学など前提知識として学んでおくべきことは山ほど見つかった。おそらく10冊くらい別の教科書でそれらをマスターしておかなくてはならないのだろう。

つまり大学3年で受けた授業はM1どころか、それよりはるかに上のレベルの教科書だったのだ。大学はいったいどういうつもりでこんな無謀な授業を設けていたのだろう。。。

25年目の今日になってようやくわかった間抜けな真実である。

ネットで検索してみると2005年に東工大で「応用函数解析シンポジウム --情報科学と関連する話題--(梅垣壽春先生傘寿記念シンポジウム)」というのが行われたようだ。傘寿というのは80歳のことだから僕が授業を受けていたのは先生が60歳の頃、そして現在は85歳になっていらっしゃるはずだ。僕は「箸にも棒にもひっかからなかった学生」の一人にすぎないが、お元気で今でも研究を続けていらっしゃるといいなと思っている。

僕が先生の「作用素代数入門―Hilbert空間よりvon Neumann代数:梅垣寿春」にこだわるのは、もちろんこの教科書と関連がある「非可換幾何学入門:A.コンヌ」を読めるようになりたいからである。アマゾンの説明では「作用素代数入門」を次のように紹介している。

「本書は、作用素代数入門と題し、作用素代数の導入からFields賞に輝くConnesの成果に至るまでの主要な理論を可能な限り含むような計画の下に、理解し易さを常に念頭に置きながら説明を展げた。」

非可換幾何学入門:A.コンヌ」は80年代に現代数学と数理物理学との接点で誕生した。提唱者である著者が、コレージュ・ド・フランスでの講義に基いて書き下ろした、非可換幾何学の入門的解説書である。

非可換幾何学入門:A.コンヌ


今日紹介した「作用素代数入門―Hilbert空間よりvon Neumann代数:梅垣寿春」や「非可換幾何学入門:A.コンヌ」にたどり着くまでの道のりは「コンヌ博士の非可換幾何学へはどうたどり着けばいいのだろう?」という記事をお読みいただきたい。

ようやくその困難さの一部が見えてきたようだ。焦らずじっくり進もう。


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非可換幾何学 ルベーグ積分 数理物理学 コレージュ・ド・フランス ヒルベルト空間 カルチャーセンター 場の量子論
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2 コメント

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「関数解析」 (千京)
2010-06-01 00:56:02
日曜は、どうもでした!

その本をメインにするのは、1年間ではなく、夏ぐらいまでだったんじゃないかな。

メインのところまで済ませて、後は自分やグループで残りをやるみたいな感じだったと思います。

しっかりやっておけば、さらに上を学ぶ基礎はできるのだと思います。
Re: 「関数解析」 (とね)
2010-06-01 10:36:52
こちらこそ楽しい時間をすごさせていただきました。

なるほど。教科書を集中して勉強するのは年間を通じてではなかったのですね。
M1レベルだと独学、輪講、グループでの勉強などが大切でしょうし。

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