とね日記

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コホモロジー: 安藤哲哉

2017年07月31日 00時25分12秒 | 物理学、数学
コホモロジー: 安藤哲哉

内容紹介:
本書は平成13年10月13日、20日に千葉大学で開催された公開講座「コホモロジー」をもとに加筆したもので、20世紀半ばに登場したコホモロジーという新しい道具を、新しい計算手段として、わかりやすく社会人や高校生等に解説しようとするものである。
2002年7月刊行(復刻)、187ページ。

著者について:
安藤哲哉(あんどうてつや): ホームページ:http://www.math.s.chiba-u.ac.jp/~ando/
1959年愛知県瀬戸市生まれ。1982年東京大学理学部数学科卒業。同大学院を経て、現在、千葉大学理学部情報・数理学科助教授。理学博士(東京大学)。専門/代数幾何学。


理数系書籍のレビュー記事は本書で338冊目。

トポロジーを学び始めてホモトピーとホモロジーを学んでいたが、コホモロジーっていうのもあるのかと気が付いたのが7年ほど前のこと。

その後、いろいろな数学書で学んでいくうちにときどき目にしていたのだが、どうもすっきりわからない。ベクトル空間があれば双対ベクトル空間があるのだが、コホモロジーというのはホモロジーの双対の概念らしい。こういう難しそうな概念はなるべくやさしめの本で取り掛かったほうがよさそうだ。このようなわけで本書は7年ほど前に買ったまま放置していたものだ。


本書は千葉大学で開催された公開講座をまとめ、加筆したものだ。第5章まで読んだ頃、ツイッターで「本書はやさしい」とツイートしたが、言葉どおりに受け取らないでいただきたい。

まず、本書の内容紹介にある「社会人や高校生等に解説しようとするものである。」は言い過ぎである。「社会人」はともかく「高校生」は「数学オリンピックにチャレンジするレベルの高校生」、「大学レベルの数学を先取りして学んでいる高校生」だとお考えいただきたい。

前提として高校3年までの数学はもちろん、線形代数、微積分、常微分方程式、複素関数論、初歩的な群論、位相は教科書レベルの本の理解が必要になる。多様体についても「現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二」くらいは読んでおいたほうがよいだろう。

あとトポロジー、そして単体分割やホモロジーは本書の最初の2章で解説されるが、もっと易しい本、たとえば「トポロジー万華鏡〈1〉:小竹義朗、瀬山士郎、村上斉」で学んでおくと本書を読むのが楽になる。


章立てはこのとおり。

第1章 オイラーの法則から単体分割によるホモロジーまで
第2章 位相多様体のホモロジー・コホモロジー
第3章 可微分多様体とド・ラームコホモロジー
第4章 可換環上の加群のコホモロジー
第5章 ケーラー多様体のホッジ理論とスキーム理論
第6章 数論におけるコホモロジー
第7章 佐藤超関数
第8章 D‐加群とコホモロジー

第2章まではトポロジー(位相幾何学)の世界の単体分割を使ったホモロジーとコホモロジーの解説。基本的な事柄をまずおさえてホモロジー群やコホモロジー群の計算方法を学ぶ。オイラー数、ベッチ数、q次元サイクル、胞体分割、マイヤー・ヴィートリス完全系列、ポアンカレ双対性、レフシェッツ数などをしっかり理解しよう。

第3章から現代数学の各分野の数学概念の中でコホモロジーの構造がどのようにあらわれるかが紹介される。各章それぞれ証明を入れながら書けば1冊の教科書が書ける事柄なので、概念や考え方だけを知ることができるという意味では「お得感たっぷり」なのだ。

第3章は可微分多様体。ここまでは(理系の)大学1、2年の人でもじゅうぶん理解できるレベル。ド・ラームの定理、ド・ラームコホモロジーはこの章で学ぶ。

第4章から少しずつ難しくなる。可換環上の加群ということで代数学の世界。導来関手やテンソル積、スペクトル系列の計算例を理解することになる。

第5章は複素多様体。リーマン計量、ケーラー計量の定義を紹介した後、複素多様体、ホッジ理論、複素代数多様体、層、層係数コホモロジー、スキーム、因子、リーマン・ロッホの定理となる。なんとかついていけるレベル。まとめてこれらの概念をおさえておけば、専門書を読むときに役立つだろう。

第6章はかなりきつい。数論にあらわれるコホモロジー。代数多様体、有限体、楕円曲線まではよいとして、ヴェイユ予想、エタール・コホモロジー、モチーフとなってくると、ちょっとついていけない。それでも何が語られ、どのような概念なのか、概念と概念がどのように関連しているのかはくみとれる。

第7章もきつさで言えば同じくらい。佐藤超函数だ。ここにもコホモロジーがあらわれるのかと不思議に思いながら、この解析学の世界を理解しようとして進む。1変数の超関数は楽勝なのだけど、多変数の超関数から難しさは数段上がる。

第8章も解析の世界。D-加群とコホモロジー。常微分方程式や偏微分方程式と代数の世界のつながりの中であらわれるコホモロジーである。前の2章よりは読みやすい。(得意分野は人それぞれかもしれないけれど。)


本書全体を通じて「解説すること」に重点がおかれているので「証明」は省かれている。また第6章は「解説すらしない専門的な概念や定理」もいくつかでてくるので、もともとすべてを理解してもらおうという本ではないことがわかる。公開講座なのだしすべてを語り尽くすのは無理なことだ。

「やさしい」とツイートしたが100パーセント理解できるという意味ではない。コホモロジーとは何かということと、それぞれの分野でコホモロジーがどのように使われるかという2つを理解するだけならば「やさしい」のである。

読み進めていくうちに、次々と抽象的で新しい概念の意味を知ることができる良書だと思った。コホモロジーはもともと幾何の世界に起源をもつ概念だが、代数や解析の世界でも「定義」できてしまうのが不思議な気がするし、それだけ「群」や「環」が幅を利かせている世界が広いのだという理解のしかたもある。半ばから急に難しくなるので、少しずつわかる部分だけを吸収して次の本へチャレンジする足掛かりととしてお読みいただきたい。


コホモロジーに特化した本を3冊紹介して今回の記事を終えよう。最初の本は本書と同じく「コホモロジーのこころ」を伝える本だが、本書とは若干違う視点で書かれていることが「公開されている紹介記事(PDF)」をお読みになるとわかる。

コホモロジーのこころ: 加藤五郎」(オンデマンド版



内容:
現代数学にとって必須の概念とされるコホモロジー。整数論をはじめ、代数幾何、代数解析などを含む、数学の幅広い分野でますます応用が広がる。位相幾何学やホモロジー理論を経由せず、集合や群など代数の基礎だけを前提に、この概念のもつ本質を理解できるように工夫した。カテゴリー論から、グロタンディエックのスペクトル系列まで、徹底的にかみくだいて説明した意欲作である。


次の2冊は専門書なので、立ち読みしてから購入の判断をしたほうがよい。特に2冊目は手ごわいのでご注意。

層のコホモロジー: ビルガー・イヴァセン



内容:
本書は、層のコホモロジーをアーベル圏のホモロジー代数の枠組みで扱い、導来圏を用いて一般的な双対定理を証明している。主にチェックコホモロジーを扱い、豊富な例を図式と共に紹介し、初学者が少しでも馴染みやすいように工夫がこらされている。代数的トポロジー・微分幾何学・複素解析学・代数幾何学・代数解析学など多方面にわたる数学の各分野への関連が考慮され、研究に必要不可欠な基本概念が身につけられる好著である。


代数的サイクルとエタールコホモロジー



内容:
代数的サイクルの理論は、19世紀の複素関数論におけるリーマン面上の関数と因子の研究に起源を発し、様々な分野と交錯しながら発展してきた。一方、20世紀半ばにグロタンディークにより創始されたエタールコホモロジーの理論は、ドリーニュによるヴェイユ予想の解決をもたらした。どちらも今日の代数幾何学および数論幾何学において重要な役割を果たしている理論である。本書の目標はこの2つの理論を、代数幾何の初歩を学んだ者を読者に想定しながら、解説することである。特にエタールコホモロジーに関する種々の基本定理を用いて代数的サイクルに関する魅力ある定理を導くことに重点を置いた。


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コホモロジー: 安藤哲哉



第1章 オイラーの法則から単体分割によるホモロジーまで
 …稲葉尚志
 1 はじめに
 2 2つの図形をいつ同じと見るか
 3 オイラー数
 4 ホモロジー

第2章 位相多様体のホモロジー・コホモロジー
 …久我健一
 1 位相多様体
 2 2次元位相多様体のいろいろなグループ分け
 3 代数学からの準備
 4 単体と向き、境界の対応
 5 単体分割とホモロジー群
 6 ホモロジー群の計算例
 7 位相空間のホモロジー群
 8 コホモロジー環
 9 基本ホモロジー類とポアンカレ相対性
 10 オイラー数とレフシェッツ数

第3章 可微分多様体とド・ラームコホモロジー
 …杉山健一
 1 可微分多様体
 2 曲線上での微分
 3 曲面上の微分形式
 4 向きづけ可能性
 5 ストークスの定理
 6 3次元可微分多様体上の微分形式
 7 n次元可微分多様体上の微分形式
 8 多様体上の不定積分
 9 ド・ラームコホモロジー
 10 実数係数ホモロジー群
 11 ホモロジー上での微分形式の積分
 12 ド・ラームの定理
 13 いくつかのド・ラームコホモロジーの例

第4章 可換環上の加群コホモロジー
 …西田康二
 1 環・体・加群
 2 複体
 3 完全系列
 4 半完全関手
 5 導来関手
 6 導来関手Ext
 7 テンソル積と導来関手
 8 導来関手の計算方法
 9 2重複体とスペクトル系列
 10 おわりに

第5章 ケーラー多様体のホッジ理論とスキーム理論
 …安藤哲哉
 1 リーマン計量
 2 複素多様体とケーラー計量
 3 複素多様体上の微分形式
 4 ホッジ理論
 5 複素代数多様体
 6 座標環
 7 局所環
 8 層
 9 層係数コホモロジー
 10 スキーム
 11 コホモロジーの基本公式
 12 因子
 13 リーマン・ロッホの定理
 14 アンプル因子
 15 消滅定理
 16 スペクトル系列

第6章 数論におけるコホモロジー
 …大坪紀之
 1 はじめに
 2 代数多様体
 3 有限体
 4 楕円曲線
 5 ヴェイユ予想
 6 スキーム
 7 エタール・コホモロジー
 8 例
 9 モチーフ

第7章 佐藤超関数
 …石村隆一
 1 一般化関数
 2 1変数の超関数
 3 正則関数の層と層係数のコホモロジー
 4 多変数の超関数
 5 被覆のコホモロジーと超関数
 6 多変数の超関数の例
 7 環の層Dx

第8章 D-加群とコホモロジー
 …岡田靖則
 1 はじめに
 2 ニュートンの力学
 3 数理物理の偏微分方程式
 4 典型的な常微分方程式
 5 D-加群
 6 微分方程式とD-加群
 7 D-加群のコホモロジー
 8 最後に

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