とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

強い力と弱い力(朝日カルチャーセンター)

2013年02月19日 23時50分43秒 | 物理学、数学

月曜の夜、大栗博司先生の「強い力と弱い力」という講義を受講してきた。昨年2月に先生が朝日カルチャーセンター新宿教室で講座を担当されるようになってから4回目の講義となる。これまで次のようなタイトルで行われてきた。年3回のペースだ。

重力のふしぎ:2012年2月(2時間)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/243ec8bcf130122f0b25d7838a33b6a8

重力をめぐる冒険:2012年6月(4時間)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0471486930f344c4daa7aaa5ba2fdcc4

ヒッグス粒子とは何か:2012年10月(2時間)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4a1756c8de4273487ffac8184c8b0c7

今回の講座は先月出版された「強い力と弱い力」と同じタイトルだ。またこの本は前回の講座「ヒッグス粒子とは何か」をベースにして書かれたものだ。新書版とはいえ2時間で教え切るのは無理ではないだろうか?先生はどのような講義をなさるのだろう?この本を読んだ後、僕はそのようなことを考えていた。


いつもの71番教室に入ると前回までの様子と違う。受講生が使う長机がすべて取り払われ、小さいテーブルのついた新品の椅子が所狭しと部屋いっぱいに並べられていた。後でわかったのだが椅子だけにすることで受講できる人数を100人から120人に増やしたのだという。

僕はいつものように最前列の席に陣取った。科学ブログを通じてお付き合いが始まった271828さんも、しばらくしていらっしゃり隣の席で受講することになった。271828さんは「強い力と弱い力」をお買いになったばかりで、まだ読んでいないという。

「せっかく授業を受けるのだから先に読んでしまうと楽しみが減るでしょ。予習するのはドロボーみたいなものだよ。」

と自論を語っていらっしゃった。

そんなものかなぁと思っているうちにグレーのスーツ姿で大栗先生が登場。朝日カルチャーセンターのスタッフが先生を紹介し2時間の講義が始まった。前回の講義から4ヶ月経っているが、受講生はリピーターが多いようで教室はいつもと同じ雰囲気。4ヶ月前に時間が戻ったような気がした。

各自の椅子の上にあらかじめ置かれていたプリントには130枚ぶんのスライドが印刷されている。めくっていると本の「強い力と弱い力」の内容とかなり違っていることに気がついた。「あれ?今回は新しい内容で講義が始まるのか!」

さすが大栗先生。これだったら前回まで受講してきた人でも、本で予習してきた人でも、そして今回初めて受講される人でも新鮮な気持ちで講義を聴くことができる。

授業の流れは次のようなものだった。

1)まず重力、電磁気力、強い力、弱い力が発見されてきた科学史の概説。
2)前著「重力とは何か」の紹介とアインシュタインの重力理論の概説。
3)アインシュタインが無視していたのは「強い力と弱い力」という説明。
4)強い力と弱い力の概説。
5)物理学における対称性の話。
6)強い力は対称性があり美しい。弱い力は対称性が破れていて醜い。
7)4つの力は「ゲージ原理」という1つの原理で説明できる。
8)ゲージ原理の詳細を解説。これを数式を使わずに説明するのが今回の講座の肝だ!
 - 電磁気力の働き方
 - 時間と空間の対称性
 - 電場と磁場は独立ではない
 - ヤン-ミルズ理論による強い力と弱い力の説明
- 超伝導の例:マイスナー効果
- 自発的な対称性の破れ、ヒッグス粒子の予言と発見
9)標準理論でわかっているのは宇宙の5パーセント。残りの24パーセントはダークマター、71パーセントはダークエネルギー
10)次回に続く

先生がいちばん時間をかけたのが「8)ゲージ原理の詳細」の部分で76枚のスライドがこれに充てられていた。これは場の量子論の中核をなす原理で大学院では難解な数式を使って授業が行われる。数式を使わずにこの難解な理論を受講生に理解してもらうというのが今回の授業のキーポイント。そのために大栗先生はとっておきの「たとえ話」を用意されていた。これは先生にとっても新しい試みだったのだ。

先生が用意されていたのは意外なことに「金融相場の比喩」だった。「金利相場」、「為替相場」、「金利裁定」、「為替裁定」、「金本位制度」など金融市場で使われる概念や手法を説明しつつ、それらを4つの力や物理学で扱われる場の概念に当てはめることでゲージ原理や対称性、対象性の破れ、超伝導などの考え方を説明されたのだった。それがどのようなものだったのかは先生の専売特許なので、ここには書かないでおこう。

最初、このユニークな説明が始まったとき「これはあまりにこじつけっぽいな。」と思ったのだが、説明が進むにしたがい、ぴったり当てはまってしまうので「あ、これはすごい!」と感心させられてしまった。唯一、難点を言わせていただければ相場や裁定の説明に気をとられてしまったため、物理理論のほうの想像力を働かせるまで意識がまわりきらなかったことかもしれない。でもそれは僕の集中力が足りなかったのだとも言える。

「超伝導の例:マイスナー効果」のところで、先生はこのビデオ映像を見せてくれた。



YouTubeで「Quantum Levitation」や「Meissner effect」というキーワードで検索すると、同じような動画をたくさん見ることができる。


質問は講義中いつでも受け付けるという形式で行われた。僕がしたのは次の質問だ。

質問:自然界には4つの力があると説明されていましたが、熱力学で「ファンデルワールス力」というのがでてきました。これはどういう力ですか?

先生の回答:ファンデルワールス力の本質は「電磁気力」です。物理学にはいろいろな力がでてきますが、それらはみな基本的な4つの力で説明されるのです。たとえば(クォークが発見される以前)湯川先生が研究された「核力」も今では「強い力」によって説明されます。「強い力」から「核力」をシミュレーションするためには膨大な計算が必要なのでスパコンが使われる。(参考記事

帰宅してウィキペディアで「ファンデルワールス力」を調べてみると、なるほど力の働き方は複雑だがこれは電磁気力だ。距離の6乗に反比例して減衰する力なのだという。

他の受講者も活発に質問されていた。先生は質問されるたびに「それはとても良い質問です。」を繰り返されていた。今回はレベルの高い受講者が特に多いのだと僕は思った。

「クォークが3種類なのに、どうして8次元のゲージを考えることになるのか?」という質問をされた受講者がいた。これを説明するためには高度な数学が必要になるのだが先生は 3x3-1 = 8 という関係式で次元数の8が得られると回答されていた。(数学的に言えばSU(3)という特殊ユニタリ群の次元になるのだが、その説明はウィキペディアの「特殊ユニタリ群」や「クォークモデル」という項目に書かれている。SU(n)だと次元数はn^2-1になり、クォークモデルのときはn=3となる。)


質疑応答の中で講義の中で回答しきれなかったものがひとつ残った。この質問に対して先生は講座の後、ご自身のツイッターで次のように回答を述べられている。

「昨日の朝日カルチャーセンターの講座『強い力と弱い力』で、「陽子や中性子の質量の99パーセントは強い力のエネルギーである」という話をしたら、「クォークの間に働く力は引力なので、ポテンシャル・エネルギーは負ではないか」というご質問を受けた。そこで、ポテンシャル・エネルギーをどこから測るのかという話になったのだが、うまくご説明出来なかったので、ここに書いておこう。
強い力には漸近自由性という性質があって、クォーク同士が近づくと引力が消えてしまう。そして、「クォークの質量は、陽子や中性子の質量の1パーセントに過ぎない」というときのクォークの質量とは、クォーク同士が近づいたときに測ったものである。そこで、強い力のエネルギーを、クォーク同士が近づきあったときにゼロになるように測れば、陽子や中性子の質量(=エネルギー)は、クォーク本来の質量(1パーセント)と強い力のエネルギー(99パーセント)の和になる。クォークを引き離そうとするとポテンシャル・エネルギーがかかるので、有限な大きさを持つ陽子や中性子では、強い力のエネルギーは正の量になる。」


今回も先生は受講者サービスとしてお菓子を用意されていた。カルテクのチョコレートだ。(笑)

271828さんのチョコと僕のチョコを並べて撮影。



最後のスライドには「続く」と書いてあった。次回の講座もすでに予定が公開されている。皆さんお待ちかねの「超弦理論」だ。休憩をはさんで4時間の授業が行われる。

クリックで拡大


超弦理論(一般用のページ)
http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=197112&userflg=0

超弦理論(学生会員用のページ)
http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=197114&userflg=0


講義が終わり、いつものように著書の発売会とサイン会が行われた。先生はその後すぐ羽田空港からロサンゼルスに発たれるという。超多忙なスケジュールをこなす先生の気力と体力には毎度ながら驚かされるのだ。

今回も素晴らしい講義をしていただき、ありがとうございました。


その後、僕は科学ブログ仲間とオフ会に繰り出した。今回参加したのは僕も含めて5人。新しいメンバーもひとり加わり楽しく飲み食いして月曜の夜は更けていった。


関連ページ:

東京での研究と講演(大栗先生のブログ記事)
http://planck.exblog.jp/19323197/


大栗先生の著書:これら2冊はKindle版としても発売されている。(Kindle版へのリンク

重力とは何か:大栗博司」アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る(紹介記事
強い力と弱い力:大栗博司」ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く(紹介記事
 


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2 コメント

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受けたかった^^ (N.Yokoyama)
2013-02-22 22:12:50
こんばんは。
強い力と弱い力、本の内容とは違った講義をされたのですね。本は買って読みましたが、重力とはなにかと同様、とても分かりやすくて面白い内容でした。でもやっぱり、生の講座を聴きたいですね。
次回の超弦理論は土曜の午後なので、今から楽しみです。6月にはぜひとねさんにご挨拶いたしたいと思います。
Re: 受けたかった^^ (とね)
2013-02-22 22:34:04
N.Yokoyamaさんへ
こんばんは。
今回もN.Yokoyamaさんはいらっしゃるかなと講座の後、僕は教室を見回していました。

次回は受講できるのですね。今度こそお会いしましょう。僕は昨日早々と申し込みをすませてしまいました。

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