とね日記

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世界を変えた17の方程式:イアン・スチュアート

2013年05月09日 19時21分15秒 | 物理学、数学
世界を変えた17の方程式:イアン・スチュアート

内容紹介
この方程式が世界を変えた!!

ピタゴラスの定理からブラック=ショールズ方程式まで--人間の歴史を変え、今日の世界を作り上げるうえで重要な役割を果たしてきた17の方程式。これらの方程式の意味と重要性、後世への影響を豊富なエピソードで明らかにする数学ノンフィクション。

『数学の秘密の本棚』『数学で生命の謎を解く』など、数学書のベストセラーライターとして著名なイアン・スチュアートの最新刊です。
人間の歴史を変え、今日の世界を作り上げるうえで重要な役割を果たしてきた17の方程式について採り上げ、その方程式が「何を表しているのか」、「なぜ重要なのか」、「そこから何が導かれたのか」について豊富なエピソードと共に明らかにしていきます。
採り上げられている方程式は、ピタゴラスの定理をはじめとして、対数、微積分、トポロジー、正規分布や波動方程式、ニュートンの重力の法則やシューレディンガー方程式、現代の経済に大きな影響を与えたブラック=ショールズ方程式など、多岐にわたっています。
イアン・スチュアート一流の平易でユーモア溢れる文章は、本書でも健在です。
必要最小限の数式しか使っていませんので、数学の苦手の読者でも楽しく読みすすめることができます。
方程式の歴史をたどりながら、数学、科学、社会について、たくさんの知見を得ることができる、数学ノンフィクションの傑作です。

方程式は、地図の作製から衛星ナビゲーションまで、音楽からテレビまで、アメリカ大陸の発見から木星の衛星の探査までと、今日の世界を作り上げるうえできわめて大きな役割を果たしてきました。本書は、歴史上とりわけ重要な17の方程式を採り上げ、それが何を表しているのか、なぜ重要なのか、社会にどのような影響を与えてきたのかを、豊富なエピソードと共に明らかにしています。


理数系書籍のレビュー記事は本書で217冊目。

伝熱工学の本の紹介ばかり続くと読者も飽きてしまうと思ったので一般向けの本を紹介することにした。本書は地元の書店で平積みされていた。数年前に「宇宙がわかる17の方程式―現代物理学入門:サンダー バイス」(紹介記事)というタイトルの本が出版されていたが、いつの間にか書店から姿を消していた。今回読んだ「世界を変えた17の方程式:イアン・スチュアート」は今年の3月に出たばかりで、400ページある分厚い本だ。どちらも17の方程式を取り上げている一般向け書籍だが、中身はどう違うのか? というわけでこの2冊を読み比べて紹介することにした。

以下が本書の目次である。解説されている17の方程式は次のとおりだ。(リンクはそれぞれウィキペディアの記事)

なぜ方程式か?
第1章:カバに乗った女房(ピタゴラスの定理
第2章:手順を短くする(対数
第3章:消えゆく量の亡霊(微積分
第4章:世界の体系(ニュートンの重力の法則
第5章:理想世界の兆し(マイナス1の平方根
第6章:結び目をめぐる騒ぎ(オイラーの多面体の公式
第7章:偶然のパターン(正規分布
第8章:良い振動(波動方程式
第9章:さざ波とパルス(フーリエ変換
第10章:人類の上昇(ナヴィエ=ストークス方程式
第11章:エーテルのなかの波(マクスウェル方程式
第12章:法則と無秩序(熱力学の第2法則
第13章:絶対であるのは1つだけ(相対論
第14章:量子の不気味さ(シュレーディンガー方程式
第15章:暗号、通信、コンピュータ(情報理論
第16章:自然のアンバランス(カオス理論
第17章:ミダスの数式(ブラック=ショールズ方程式
次は何か?


取り上げられている方程式には物理法則を表したものと物理学で必要になるものの、もともと数学の発展の中から生まれたものがある。またピタゴラスの定理や対数など中学や高校で学ぶ基礎的な方程式もあれば、理数系大学で学ぶ高度な方程式も含まれている。そして最後に取り上げているのはなぜか「ブラック=ショールズ方程式」。金融工学で使われるものだ。

第16章の「カオス理論」の方程式以外は僕の知っている式ばかりだった。とすると果たして僕はこの本を楽しめるだろうか?そして、もしこれらの方程式の解説文を自分が書くとしたらどのように話を展開するだろうか?対数や微積分の話で読者の関心を引くような文章が僕には書けるだろうか?物理や数学に馴染んでいない読者がこの本を読むとどのように感じるだろうか?

そのようなことに注意を払いながら本書を読んでみた。

全部で400ページあるが章ごとに新しい話がはじまるので分量の多さは気にならない。短編小説集を読んでいるようなものだった。僕のように物理や数学をひととおり学んだ者にとってもじゅうぶん楽しめる内容で、つまらないと感じる章はひとつもなかった。全体的な満足度は100点満点中80点というところだ。感じたことを箇条書きすると次のようになる。

よかった点:

- 方程式が生まれた背景、科学史としての解説が詳しくてよい。既に知っている事柄が半分くらいあってもじゅうぶんためになった。

- 各章で紹介した方程式だけでなく、それがどのように拡張、一般化され現代の生活に役立ち、その後の科学の発展に寄与していったかという点に重点がおかれている。この点は僕のような者だけでなく「数学ってどうして必要なの?」という疑問を持っているような方には特に受け入れられると思った。特に「ピタゴラスの定理」、「対数」、「虚数」「微積分」の章は優れている。

不満が残った点:

- 方程式の意味や成り立ちをできるかぎり平易な文章で解説している。けれども正確に伝えようとするあまりにも説明が長くなりがちで、初学者にとってはきついと思った。既に方程式の意味を理解している人だと少々退屈に思うかもしれない。言葉で説明するのにはどうしても限界がある。(特に「フーリエ変換」と「熱力学の第2法則」、「シュレーディンガー方程式」)

- 1冊に17個も方程式を詰め込んだので仕方のないことだが、もう少し詳しく学びたいと思う局面がいくつかあった。章末に参考資料や参考文献などがあればよいと思った。(特に「カオス理論」と「情報理論」、「オイラーの多面体の公式」。)


最終章でなぜ毛色の違う金融工学の「ブラック=ショールズ方程式」が取り上げたかについての説明はなかったが、「人間の歴史を変え、今日の世界を作り上げるうえで重要な役割を果たした」という内容には沿っている。この方程式については僕も2年前に「世界一やさしい金融工学の本です:田渕直也」や「増補版 金融・証券のためのブラック・ショールズ微分方程式:石村貞夫、石村園子」、「Excelで学ぶデリバティブとブラック・ショールズ:藤崎達哉」で学んで、それぞれの記事でこの方程式に対する「自分の意見」を書いたことがあるが、本書での主張もそれに似たようなものだった。

ブラック=ショールズ方程式は金融工学という分野の誕生に大きな役割を果たしたがリーマン・ショックをもたらすきっかけになったとも言われている。しかしそれは方程式の適用条件についての誤った考え方や「見たいものしか見えない。」という人間のもつ性(さが)が理由の本質であること、金融や経済理論に対して偏微分方程式のように「連続変数」を使う理論を適用してよいものかと疑問を呈している。


本書の翻訳をされたのは水谷淳(Twitter)氏。翻訳のもとになった英語原典は「Seventeen Equations That Changed the World: Ian Stewart」である。Kindle版もあるようだ。


書店の科学書コーナーに平積みされているので、本書が気になっている方もいらっしゃることだろう。読む価値はじゅうぶんにあると思うので、安心してお買い求めいただきたい。


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世界を変えた17の方程式:イアン・スチュアート


なぜ方程式か?
第1章:カバに乗った女房(ピタゴラスの定理
第2章:手順を短くする(対数
第3章:消えゆく量の亡霊(微積分
第4章:世界の体系(ニュートンの重力の法則
第5章:理想世界の兆し(マイナス1の平方根
第6章:結び目をめぐる騒ぎ(オイラーの多面体の公式
第7章:偶然のパターン(正規分布
第8章:良い振動(波動方程式
第9章:さざ波とパルス(フーリエ変換
第10章:人類の上昇(ナヴィエ=ストークス方程式
第11章:エーテルのなかの波(マクスウェル方程式
第12章:法則と無秩序(熱力学の第2法則
第13章:絶対であるのは1つだけ(相対論
第14章:量子の不気味さ(シュレーディンガー方程式
第15章:暗号、通信、コンピュータ(情報理論
第16章:自然のアンバランス(カオス理論
第17章:ミダスの数式(ブラック=ショールズ方程式
次は何か?
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2 コメント

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「世界を変えた17の方程式:イアン・スチュアート」 (takiさん)
2013-06-12 11:07:22
私は以前から実業の世界が本来の世界であり、工学が単に金を操作するだけの虚業の世界には立ち入るべきでないと云ってきた。その意味から金融工学とは「工学」と名付けたために真理を探究する学問のように一般には見えていたのかもしれないが、私は「ホリエモン」の事件当時から虚業には警鐘を鳴らしてきた。
この本の最終章にこの「虚業」に対する批判記事を見ることができ、たとえ他の章が難解でも、この章だけで本書を高く評価しけたい。
takiさんへ (とね)
2013-06-12 12:03:32
コメントいただきありがとうございます。

「お金や投資や株は悪いもの」ではありませんが、金融工学をきっかけにデリバティブ、オプション取引が始まったことで「虚業性」がますます強くなってしまいました。
経済は上向いてほしいと僕も願っていますが、アベノミクスに対して専門家の間でも意見が分かれているところを見ると、経済理論、金融理論は砂上の楼閣だなと思えてしまいます。

本書の著者のイアン・スチュアート氏が科学系の方程式の中で唯一この金融工学の方程式を紹介したのには、虚業に対する批判を主張しておきたかったからなのだと思うようになりました。

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