とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
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微分・位相幾何(理工系の基礎数学10)

2007年11月26日 22時42分28秒 | 物理学、数学
微分・位相幾何(理工系の基礎数学10):和達三樹

大学では数学を専攻していたのにもかかわらず、僕は数学書を読んで充実感や喜びを感じる域にまだ達していない。(心躍る)物理学の勉強を進めるために読んでいるので、数学書についてはどんなことが書かれているかが理解できればよいというスタンスだからだ。物理学については、学者になろうとも論文を書こうとも思っていないので、自分の感動や楽しみだけを追求できればよいというはなはだ身勝手な勉強スタイルである。

ペレリマンがポアンカレ予想を解決したというNHKの番組を見てから「空間系」へ興味がわいてきて、今回この「微分・位相幾何(理工系の基礎数学10)」を読んでみた。著者は和達三樹さんという物理学者だ。著者についてはこちらこちらのリンクを参照。

微分幾何学と位相幾何学(トポロジー)の入門書で、この分野の大まかな概要をつかむにはよい本だ。けれども限られた紙面でこれらの分野を説明するのだから詳しい証明は省かざるを得ず「天下り」なところもかなり見受けられる。(天下りは定理にしても役人にしてもよくないのは同じだ。)

先日の記事でEROICAさんにコメントいただいたように、ちゃんと勉強するには「多様体の基礎(東京大学出版会)」のような本を読むべきだと思った。この本は「微分・位相幾何」の「さらに勉強するために」の中でも紹介されていた。

高校生や大学1年生向けに説明するならば、微分幾何学位相幾何学も「n次元空間」の性質を研究する学問で前者は微分という微視的な立場から曲がった空間の幾何学の性質を学んでいくものだ。前提としては線形代数、微積分、偏微分、テンソル、群論などの知識が必要である。

微分幾何学を学ぶと一般相対性理論の理解に必要なリーマン幾何学という曲がった空間について理解できるようになる。少しずつ変化する微小な空間をたくさんつなげると全体的に曲がった空間ができあがるという理屈だ。3次元空間までにで学習する距離、面積、体積、接線やベクトル、内積、外積、微分、積分など幾何学的、解析的、代数的な概念をn次元空間に一般化するとともに、外微分、微分形式、リー微分などさまざまな新しい概念が導入される。このような一般化された概念によって局所的に数式で表現された幾何学は曲がった空間の性質を一般化された形で記述できるようになるのだ。

一方、位相幾何学とはトポロジーのことであり、n次元空間そのものの幾何学的、代数的性質を勉強する。前提知識としては線形代数、微積分、偏微分、テンソル、群論のほか、微分形式をはじめとする微分幾何学全般と位相空間の知識が必要だ。微分幾何学とはくらべものにならないくらい新しい概念が導入されるので、概要は後述する「目次」で想像してほしい。現代数学で最もホットな分野である。

位相幾何学の現実世界への応用は電磁気学、量子電磁気学、ヤン-ミルズ理論、電子回路理論などとても広い。n次元空間の幾何学の研究が現実のこのような分野と結びついていることは驚きであった。位相幾何学は物理的実体のない純粋数学と思いがちだが実はそうではない。

この本で触れられている数学的概念と、関連する物理法則を例にあげると次のようになる。

- 微分形式によって物理学のgrad, rot, div, ラプラス演算子などが同じ手法で扱えるようになる。

- 微分形式によって電磁気学の基本方程式であるマックスウェル方程式(4本)が、かなり簡潔な2本の方程式にまとめられる。

- 多様体、微分形式によりアンペールの法則を記述することができる。

- 多様体、微分形式、リー微分を使ってハミルトン力学を記述することができる。

- ホモトピー群によって結晶の格子欠陥や超伝導体中の磁束の分類が記述できる。

- 多様体、微分形式によりストークスの定理ガウスの定理コーシーの積分定理がシンプルに記述できる。

- 一般相対性理論を理解するために必要な基礎数学が学べる。

- ファイバー束接続の理論を学ぶとゲージ理論、ゲージ変換が記述できる。おまけにより一般的な非可換ゲージ理論(ヤン-ミルズ理論)も記述できる。さらにチャーン-サイモン理論(またはトポロジカル場の理論)にも発展する。

- ホモロジーやコホモロジー理論によって力学における「保存力の場」を記述し、物理現象の数学的構造を調べることができる。量子力学的なアハロノフ-ボーム効果の現象も説明できる。

- ホモロジー、コホモロジー特性類という考え方で「整数量子ホール効果」が説明できる。

微分幾何学や位相幾何学の有用性を自慢げに説いているにもかかわらず、僕のこの本の理解度はいまいちであった。風邪をひいて集中力がなかったのは言い訳にならないが、およそ7割程度しか理解できていない。最後の第8章などはちんぷんかんぷんだった。知識のない分野については過度の幻想を抱いてしまうものなので、具体的に学習することでこれらの分野がどのような範囲のものかが理解できるようになったのがいちばんの収穫であったと思う。

三角関数や指数関数を使えば「何でも」計算できると僕が信じていた30年ほど前、NHKの番組で「定年後の生き方」をテーマに数学を趣味にしているシニア男性が紹介されたことがある。(当時、シニアという言葉はまだ「初老」という意味では一般に使われていなかったし「熟年」という言葉さえ生まれていなかった。)

彼が勉強していたのがまさしく「多様体」で、純粋数学を学ぶのはとても面白いと言っていた。ちらっと画面に映った彼のノートにはシャボン玉のような図形が複雑にくっついた絵が描かれていた。もちろん一般向けの番組なので多様体や彼の学んでいる内容は説明されなかったが、僕は純粋数学の奥深さに釘付けになったものだ。当時は物理学との関連があまり明らかになっていなかったか、明らかになっていても一般には紹介されていなかったのだと思う。中学生だった僕は「多様体」は永遠に自分には理解できないだろうと思ったものだ。いざその「多様体」に今回自分が接したことで、その男性のことを思い出した。シャボン玉のような図形と多様体との関係は今も不明であるが。

インターネットで微分幾何学や位相幾何学を勉強してみたい方には次のページを紹介する。(リンクで表示されるページの下の応用数学特論というところにある。)

∫物理・工学のための数学∫
http://www18.ocn.ne.jp/~hchiba/math.htm


テンソルや微分幾何学にも慣れてきたので、次に読むのも「空間系」物理学の本に決めて購入したところだ。

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微分・位相幾何(理工系の基礎数学10)の目次

第1章:基本的なことがら
- 集合と写像
- 線形空間
- 群
- リー群とリー代数
- ユークリッド空間
- 位相空間

第2章:微分形式
- 2重積分の変数変換
- 外積のつくる空間
- 微分形式
- 星印作用素
- 微分方程式
- 写像

第3章:多様体
- 多様体
- 接空間
- 多様体上の微分形式
- ベクトルとテンソル
- リー微分
- ポアンカレの補題の逆

第4章:ホモトピー群
- 基本群とは
- ホモトピー
- 基本群
- 基点のとりかえ
- 高次のホモトピー群
- 空間の変形
- 欠陥の分類

第5章:多様体上の積分
- ユークリッド空間での線積分
- 向きづけられた多様体
- 単体、境界、鎖
- 微分形式の積分
- ストークスの定理
- ストークスの定理の証明

第6章:微分幾何学
- 空間曲線
- 空間内の曲面
- 平行移動
- 超曲面
- リーマン幾何学
- ガウス - ボンネの定理
- 一般相対性理論

第7章:ファイバー束
- ファイバー束
- ファイバー束の種類
- 接続の理論
- 接続形式
- 曲率
- ゲージ理論
- トポロジカル場の理論

第8章:ホモロジー群とコホモロジー群
- 領域と境界
- 単体的複体
- ホモロジー群
- ホモロジー群の計算
- コホモロジー理論の応用例
- コホモロジー群
- 写像次数
- 特性類
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2 コメント

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「時空の幾何学」ですか (EROICA)
2007-11-28 01:21:40
 とねさん。こんばんは。EROICAです。

>シャボン玉のような図形と多様体との関係は今も不明であるが。

 「微分・位相幾何」の参考文献にも挙げられている、「群と位相」(横田一郎著 裳華房)の、175ページの「お話し」の絵を一度ごらんになられては?


>数学書を読んで充実感や喜びを感じる域にまだ達していない。

 読んだ後、充実感が得られるであろう、私のお勧めの数学書を3冊。

・矢ヶ部巌著「数Ⅲ方式ガロアの理論」(現代数学社)

・高木貞治著「初等整数論講義」(共立出版)

・藤源二郎著「体とガロア理論」(岩波基礎数学選書)

 この順番に読むと、分からないところを前の本が補ってくれるので安心。

 代数関係の本ばっかりになってしまったので、幾何学も含む本を少し挙げると

 前にも挙げた

・松本幸夫著「多様体の基礎」(東京大学出版会)

・横田一郎著「群と位相」「群と表現」(裳華房)

と、洋書なので英語が得意ならの話ですが、

・Abraham, Marsden & Ratiu著 「Manifolds,Tensor Analysis, and Applications」 Second Edition (Springer-Verlag)

は、かゆいところに手が届く本です。

 以上挙げた本は、どれも、読み終えた時、
「やったー!」
と、思える本だと思います。ただし、もちろん、1ヶ月や2ヶ月で、読める本ではありません。1冊読むのに1年は軽くかかる本ばかりです。
 気をつけて覗いてみてください。

の気持ちで。
Re: 「時空の幾何学」ですか (とね)
2007-11-28 14:55:27
EROICAさん

> 「時空の幾何学」ですか

はい、そうです。今の自分にはいちばん取りかかりやすそうでしたので。ただ、この本だと変分原理からの説明が欠けているようですね。

相対性理論についてはこの本を読み終えてから「アインシュタイン選集」に挑戦したいと考えています。(他の分野の本のほうが先になると思いますが。)

*シャボン玉の絵と多様体のこと

ぜひ、書店でそのページを見てきます!30年来の謎がこれでまたひとつ解決しそうです。教えていただきありがとうございました。

群論、整数論、多様体、位相関係のお勧め数学書をたくさん紹介いただきありがとうございます。書店にいくと本当にさまざまな本が並んでいますから、どれを選んでよいものか途方にくれることがありますから。はやく僕も数学書で「やったー!」という気分を味わってみたいものです。

それにしても時間のやりくりを工夫しないといけませんね。僕は会社員ですから読書に使える時間は平日1時間程度、あとは週末です。物理書6、数学書2:IT関係1:一般書1の割合でかわるがわる読んでいこうと思います。興味がかわってきたらその比率も変化していくことでしょうけど。

まだまだですが、よろしくお願いします。

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