とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

重力をめぐる冒険(朝日カルチャーセンター)

2012年06月03日 23時16分39秒 | 物理学、数学
昨日朝日カルチャーセンター新宿教室で、大栗博司先生の講座の第2弾「重力をめぐる冒険 - アインシュタインから超ひも理論まで」を受講してきた。2月に開催された「重力のふしぎ(朝日カルチャーセンター)」以来4ヶ月ぶりである。

この講座を受講している科学ブログ仲間も前回の271828さんrikunoraさん、M君のほかに今回からEROICAさんnagataさんも加わった。

講座開始40分前に71番教室に到着するとすでに10人ほど並んでいた。入口で受講証のチェックを受けて入室。教壇のすぐ前、最前列にEROICAさんを見つけたので隣に着席した。講座が始まるまでおしゃべりしたり、仲間が来ているかどうか教室を見回していた。

今回の講座は午後3時半から7時半まで間の10分休憩をはさんで4時間もある。開始10分前にトイレに向かう途中の通路に大栗先生がいらっしゃったのでご挨拶。今回もお元気そうでよかった。

講座開始。カルチャーセンターのスタッフの女性が大栗先生の紹介と全体の流れを説明する。最近出版された先生の著書2冊が同じ階の受け付けで販売され、講座終了後にサイン会が行われるそうだ。教室は満席で前回と同様、受講者は30代から70代、女性1割くらい。先生が登壇されて「前回も参加された方は?」という質問をされたところ4分の3ほどが手を上げた。

机の上には今日スクリーンに映されるスライドのコピーが置いてある。1ページに9コマずつの両面印刷だ。スライドは全部で403枚!1時間あたり100枚だ。とは言ってもスライドには先生がお描きになったイラストや写真、文字は数行だけなので、説明にあわせてテンポよくページが送られるので400枚あっても大丈夫なのだ。

僕の予想とは違って今回の講座の前半は前回の講座の内容を少しだけ圧縮、改変したものだった。前回受講していなくても大丈夫なように構成したわけだ。

先生の著書「重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司」の第1章から第4章が講座の前半、第5章から第8章が講座の後半で解説されることになった。前回の講座と重複する箇所についてもスライドをよく見ると前回見られたものと違うスライドがちらほら見られる。今回の講座のために「改良」が行われていた。

第1章:重力の七不思議
第2章:伸び縮みする時間と空間 - 特殊相対論の世界
第3章:重力はなぜ生じるのか - 一般相対論の世界
第4章:ブラックホールと宇宙のはじまり - アインシュタイン理論の限界

第5章:猫は生きているのか死んでいるのか - 量子力学の世界
第6章:宇宙玉ねぎの芯に迫る - 超弦理論の登場
第7章:ブラックホールに投げ込まれた本の運命 - 重力のホログラフィー原理
第8章:この世界の最も奥深い真実 - 超弦理論の可能性

全体の流れは本の内容に沿っているのだが本の文章そのものが再現されるわけではない。先生の頭の中で内容が再構成されながら生き生きと語られる。スライドには本に掲載されていないイラストや写真がたくさん含まれていた。先生ご自身、講義を楽しんでいらっしゃるのがよくわかる。

今回、受講生の質問は講義の途中いつでもしてよいことになった。講義の後はサイン会だからなのだろう。活発に質問が飛んでいた。すべて覚えているわけではないのだが、的を得た質問に先生はてきぱきとお答えになっていた。

前半はあっという間に終わり、10分間の休憩をはさんで後半の講義が始まる。本で予習していたので、配布されたスライドを眺めているだけで大方の長れがつかめるのがよい。どんな質問をしようか考える余裕がでてくる。予習なしで後半を聞いたとしたら、きっと未消化になってしまう箇所がでてきてしまっていただろう。

後半の講義の中で興味深かったのは、まず「粒子と反粒子」と「時間を逆行する粒子」についての説明だった。量子力学と特殊相対論を両立させると、そのような状況が自然な形で予想される。アンダーソンによる陽電子の観測成功(1932年)が反粒子存在の決定的な証拠となった。ホーキング放射をめぐるブラックホール表面の「情報問題」、超弦理論の「ホログラフィー理論」などワクワクしながら、深く考えさせる話題で後半の講義は盛り上がった。「トポロジカルな弦理論」は大栗先生ご自身が考案メンバーのお一人であるのだから、不思議な内容であっても説得力があるのだ。

次元の異なる空間でそれぞれ成り立つ2つの理論が等価であるというのが「トポロジカルな弦理論」なのだが、重力理論を含んだ片方の空間で成り立つ理論が、別の空間の重力を含まない理論を使って証明されてしまうのは実に楽しい。Nintendo 3DS用の次元切り替えパズル・ゲーム「ナイトメアパズル クラッシュ3D」に発想が似ていると思った。

今回、僕がした質問と大栗先生にしていただいた回答は次のようなものだ。

質問:重力波というものが空間をぶよぶよ伸縮させながら伝わるのだとしたら、重力波望遠鏡自体も同じように伸縮してしまうから重力波は観測できないのではないでしょうか?
回答:観測できます。なぜなら重力波望遠鏡はレーザー光線の干渉という現象を使って観測するからです。

質問:大きいブラックホールでもホーキング放射がされるのでしょうか?もしそうならエネルギー保存則に矛盾するのではないでしょうか?そこからは何が放射されるのでしょうか?
回答:大きいブラックホールからもホーキング放射が発生します。ブラックホール表面の事象の地平線では一般相対論は破綻するのでエネルギー保存則が破れることにはなりません。「何でも」放射されます。つまりブラック表面の温度によって放射されるものは異なってきます。

質問:ホログラフィー理論で説明された「スクリーン」とは数学的な空間でしょうか?それとも物理的な空間(超弦理論の枠内に存在する物体)でしょうか?
回答:そのスクリーンは数学的な空間です。

質問:超弦理論を学ぶための教科書は日本語のものではポルチンスキー先生のものが有名ですが、日本語と英語では学習環境の違いはありますでしょうか?
回答:英語環境のほうが圧倒的に教科書が多いです。日本語で書かれた教科書はごくわずかです。

質問:フォン・ノイマンの数学としての情報理論に「情報がエントロピーに変換される」というのがありますが、ブラックホールの表面の情報問題やホーキング放射のことに関連しているのでしょうか?
回答:まさにそれは現在ホットな話題で、その2つが関連しているのではないかという予想のもとに研究が行なわれているのです。

最後の質問を思いついたのには理由がある。僕は大学時代に「作用素代数入門―Hilbert空間よりvon Neumann代数」という教科書で著者の梅垣寿春先生の授業を受けていた。残念なことに先生は先月22日にお亡くなりになったばかりで、この教科書に書かれていたフォン・ノイマンの情報理論が梅垣先生のご専門であったことを思い出していたからだ。

あらためて考えてみれば「情報」という数学的なものがエントロピーやエネルギーという物理的な量に変換することはとても不思議だと思う。ブラックホール表面上の「状態数」が情報であるわけだが、これがフォン・ノイマンの情報理論で言うところの「情報」なのか、それとも熱力学・統計力学で言うところの状態数(=情報)なのか気になっていたのだ。E=mc^2で示されるようにエネルギーが質量に変換されるわけだから、理屈の上では「情報」が「エネルギー」を経由して「質量」に変換できることになってしまう。。。

情報をエネルギーに変換することに成功!(中央大学、東京大学)
http://www.chuo-u.ac.jp/chuo-u/pressrelease_files/kouho_926d762ef5d729c7544d1276739468c5_1289788403.pdf

情報エントロピー(EMANの統計力学)
http://eman-physics.net/statistic/info.html

フォン・ノイマンとショパン(大栗博司のブログ)
http://planck.exblog.jp/12003585


4時間はあっという間だった。講義が終わり、スタッフの女性が「次回の講座は10月以降にしていただけるよう大栗先生にお願いしている。」ということをおっしゃった。講座の内容はまだ決まっておらず、今回の講座のアンケート用紙にどのようなことを教えていただきたいか希望を書いてほしいということだった。これまでの講座に参加していなくても「重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司」を読んでおけば、次回の講座に問題なくついていくことができる。

発売から4日経った6月3日現在、アマゾンで買えるすべての本の中でこの本のランキングは75位なのだ。すごい!



次回の講座の内容について、僕の希望を書かせていただければ、もしそれが2時間の講座ならば超弦理論だけを詳しく、4時間の講座ならば場の量子論、素粒子物理学(標準理論、大統一理論)、超弦理論という内容であったらいいと思う。

また講義の中で大栗先生は「原子より小さかった宇宙」というタイトルでカブリIPMU機構長の村山斉先生が7月14日に講座を担当されることをおっしゃっていた。

今回「糖分補給」として先生がお配りになったのはアメリカのチョコレート。お菓子をいただくのがだんだん当前のように感じてきてしまっている自分を少し反省した。先生の旺盛なサービス精神には頭が下がる。


サイン会は長蛇の列。著書2冊にサインをいただき、僕と科学ブログ仲間の6人はそのままオフ会に。朝日カルチャーセンター近くの「銀座ライオン」で午後10時くらいまで楽しく雑談しながら飲み食いして過ごした。今回も271828さんにはおいしい手作りジャムをいただいた。美味しいジャムをいつもありがとうございます。

とても充実した1日が過ごせて大満足。大栗先生、楽しい講義をありがとうございました。


関連ページ:

『重力とは何か』(271828さんのブログ記事)
http://blog.goo.ne.jp/slide_271828/e/6ac764463c5e170d410ecd0006ab340e

大栗先生の「重力をめぐる冒険」(rikunoraさんのブログ記事)
http://d.hatena.ne.jp/rikunora/20120604/p1


大栗先生による「重力とは何か」の紹介記事。

素粒子物理学者が書いた重力の本(大栗博司のブログ)
http://planck.exblog.jp/18016697/


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重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司


はじめに
「知りたい気持ち」は止められない
重力研究がなければGPSも生まれなかった
重力研究は宇宙の理解につながっている

第1章:重力の七不思議
- 重力は「力」である=第一の不思議
- 重力は「弱い」=第二の不思議
- 重力は離れていても働く=第三の不思議
- 重力はすべてのものに等しく働く=第四の不思議
- 重力は幻想である=第五の不思議
- 重力は「ちょうどいい」=第六の不思議
- 重力の理論は完成していない=第七の不思議

第2章:伸び縮みする時間と空間 - 特殊相対論の世界
- 物理学者は急進的な保守主義者
- 物理学の理論は「10億」のステップで広がってきた
- ナノレベルの世界のナノテクノロジー
- 電波も光も放射線もみな電磁波の一種
- どんなに足し算しても光の速さは変わらない
- 光速の不変性を実証した「マイケルソン=モーリーの実験」
- 同時に出したのになぜ後出しジャンケンになるのか
- 列車の中の一秒と外の一秒の長さが違う!
- 時間だけでなく距離も伸び縮みする!
- 「E=mc^2」とは固定相場の為替レート
- なぜエネルギーを質量に変換できるのか
- もし光より速い粒子があったらどうなるか

第3章:重力はなぜ生じるのか - 一般相対論の世界
- まずは「次元の低い」話をしよう
- 二次元空間に「球」が現れたらどう見えるか
- 円の中心にものを置いたら中心角が360度より減った!?
- 重力の正体は時間や空間の歪みだった
- アインシュタインの人生最高のひらめきとは?
- 消せる重力、消せない重力
- 回転する宇宙ステーションの中では何が起きるか
- 円周率=3.14...が成り立たない世界
- 数学者ヒルベルトとアインシュタインのデッドヒート
- 水星の軌道を説明できた - アインシュタインのり論のテストその一
- 重力レンズ効果が観測できた - アインシュタインのり論のテストその二
- 重力波をキャッチせよ - アインシュタインのり論のテストその三
- あてになるカーナビ - アインシュタインのり論のテストその四

第4章:ブラックホールと宇宙のはじまり - アインシュタイン理論の限界
- 地球も半径9ミリまで圧縮すればブラックホールに
- 超えたらもう二度と戻ってこられない「事象の地平線」
- 超巨大ブラックホール・クェーサー
- アインシュタイン理論が破綻する「特異点」
- 宇宙の膨張を明らかにしたハッブルの発見
- 宇宙の膨張を加速させる「暗黒エネルギー」とは?
- 宇宙が火の玉だった137億年前の「残り火」
- ビッグバン理論に強く抵抗した科学者たち
- アインシュタイン理論の破綻を証明し、ホーキングがデビュー

第5章:猫は生きているのか死んでいるのか - 量子力学の世界
- 「光の正体は波」で決着したはずが...
- 「光は波」で説明できない光電効果という現象
- 「光は粒」と考えたアインシュタインの「光量子仮説」
- 放射線障害のメカニズムにも「光は粒」で説明できる
- すべての粒子は「粒」であり「波」でもある
- 常識ではとても受け入れがたい量子力学の世界
- 「あったかもしれないことは、全部あった」と考える!?
- 「生きた猫」と「死んだ猫」が一対一で重なりあう!?
- 位置を決めると速度が測れない!? - 不確定性原理
- 量子力学と特殊相対論が融合して「反粒子」を予言
- なぜ未来から過去に戻る粒子がなければならないのか
- 粒子と反粒子が対消滅と対生成をくり返す
- 真空から粒子が無限に生まれてしまう「場の量子論」

第6章:宇宙玉ねぎの芯に迫る - 超弦理論の登場
- 「宇宙という玉ねぎ」はどこまで皮がむけるか
- 加速器を巨大にすれば無限に小さなものが見えるのか
- 宇宙という玉ねぎの「芯」は「プランクの長さ」
- 宇宙の根源を説明する、究極の統一理論とは?
- 朝永=ファインマン=シュウィンガーの「くりこみ理論」
- 素粒子とはバイオリンの「弦」のようなもの!?
- 弦理論から素粒子全体を扱える超弦理論へ
- 立ちはだかる六つの余計な次元と謎の粒子
- シュワルツ、苦節の10年の末の革命的な発見
- 小さな空間に六つの余剰次元が丸めこまれている!?
- 標準模型の説明に必要な道具立てがすべて揃った
- 六次元空間の計算に使える「トポロジカルな弦理論」

第7章:ブラックホールに投げ込まれた本の運命 - 重力のホログラフィー原理
- 粒子のエネルギーが「負」になると何が困るのか
- ブラックホールの中ではエネルギーが「負」になってしまう
- ブラックホールが蒸発する「ホーキング放射」とは?
- ホーキング理論を裏付ける宇宙背景放射の「ゆらぎ」
- ブラックホールに投げ込んだ本の中身は再現できるのか
- 10の「10の78乗」乗もの状態は果たして可能か
- 「二次元の膜」、「三次元の立体」、を想定して突破口を開く
- ブラックホールの表面に張りつく「開いた弦」
- 大きなブラックホールは通常の物理法則で計算できた
- 小さなブラックホールの計算は「トポロジカルな弦理論」で!
- エントロピーが体積でなく表面積に比例する奇妙な現象
- すべての現象が二次元のスクリーンに映し出されている
- 量子力学だけの問題に翻訳されたブラックホールの情報問題
- そしてホーキングは勝者に百科事典を贈った

第8章:この世界の最も奥深い真実 - 超弦理論の可能性
- ホログラフィー原理の思いがけない応用
- 宇宙は一つだけでなく無数にある?
- この宇宙はたまたま人間に都合よくできている?
- 相対論と量子力学を融合する唯一の候補

あとがき
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4 コメント

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Unknown (Unknown)
2012-06-06 20:40:50
ネットを徘徊中貴ブログに当たり拝見させて頂きました。
>>E=mc^2で示されるようにエネルギーが質量に変換されるわけだから、理屈の上では「情報」が「エネルギー」を経由して「質量」に変換できることになってしまう。

非常に興味深い考えだなと感心しました。例えば10gの鉛筆と10gの消しゴムが発する重力波にはそれぞれ固有のIDのようなものが備わっており、重力波の届く先に電波のように重力波を受けるアンテナがあれば届いた重力の元が鉛筆であるか消しゴムであるかを識別できたり、増幅器を用いて全く同じ鉛筆や消しゴムを生み出すことも可能かもなんて考える事ができるのでしょうか。
Unknownさんへ (とね)
2012-06-06 22:03:12
コメントありがとうございます。

> 重力波の届く先に電波のように重力波を受けるアンテナがあれば届いた重力の元が鉛筆であるか消しゴムであるかを識別できたり、増幅器を用いて全く同じ鉛筆や消しゴムを生み出すことも可能かもなんて考える事ができるのでしょうか。

重力波はまだ観測されていませんが、もし観測されたら重力波を放射する対象について何らかの情報が得られるかもしれませんね。情報をもとにそのものを生み出すことができるかもしれません。
6月2日は楽しかったですね (EROICA)
2012-06-06 22:17:39
 とねさん。EROICAです。
 先日はメールありがとうございました。
 私の方は、ブログの記事をUPするのに忙しくて、まだ返信していませんでした。
 とねさんのお陰で、新宿行きは、満足できる結果となりました。ありがとうございました。
 それにしても、物理学の本当の研究者というのは、講義をして、その晩のうちにイスラエルへ行くなんてことをするものなのだと、驚かせられました。
 これからも、とね日記、続けていってください。
Re: 6月2日は楽しかったですね (とね)
2012-06-06 22:29:10
EROICAさん

こちらこそ、ありがとうございました!
僕も先生のブログを読んで驚きました。大栗先生は本当にタフですね。

> これからも、とね日記、続けていってください。

はい。お互い長く続けていきましょう。

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