とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

電卓を作りたいという妄想

2012年08月01日 00時03分39秒 | iPhone、携帯、電卓
ダイソーで買った100円電卓(8桁、平方根つき)
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昨日の「真空管式コンピュータ」の記事に続いて今日も計算機ネタである。

このところの暑さのせいで「ICやLSIを使わないで四則電卓を電子工作したら、さぞかし楽しいにちがいない。」という妄想が頭をよぎった。電卓は100円ショップでも買えるくらいになっているのだから、頑張ればきっと作れるに違いないという安易な発想だ。

もちろん個人で電卓など作れるはずはない。。。。と思う。


昨今の小中学生には馴染みがないだろうが、僕が子供の頃は1クラスに1人くらい電子工作に夢中になる少年がいた。秋葉原でトランジスタやコンデンサなどの電子部品を買ってきて、本に載っている回路図を見ながらラジオやインターホン、ワイヤレスマイクなどの「電子おもちゃ」を作って遊んだものだ。電子工作で作れるラジオはトランジスタを3個くらい使うものまでだった。

電子工作入門
http://kawanishi.fc2web.com/elechbby/index.html

趣味の電子工作
http://www.piclist.com/images/www/hobby_elec/menu.htm

電子工作
http://laorer.dip.jp/ele-hobby/

電子工作の実験室
http://www.picfun.com/

電子回路設計の基礎
http://www.kairo-nyumon.com/index.html


ソニーが世界初のトランジスタ・ポータブル白黒テレビを発表したのは1960年のことだ。(参考ページ)価格は6万9800円。当時の大卒初任給は1万6千円ほどだった。

クリックで詳細を表示


資料によるとこのテレビは23個のトランジスタと19個のダイオードを使っていたそうだ。抵抗やコンデンサなどの電子部品を含めればせいぜい100個の電子部品ですむことだろう。もし「テレビ製作キット」のようなものが売られていれば、きっと個人でも組み立てることができたにちがいない。

ちなみに次のページでは早川電気のTV-420Aという真空管白黒テレビの全回路図がご覧いただける。トランジスタ・テレビの部品数もこれとほぼ同じだと思うのだ。

早川電気 TV-420A の回路図
http://blogs.yahoo.co.jp/katsuma16v/26995516.html


世界初のトランジスタ卓上電卓は1964年に早川電機工業(シャープ)が発売した「コンペットCS-10A」で、価格は当時の1300ccの乗用車日産ブルーバード(54万円)とほぼ同じの53万5千円だった。(参考ページ)当時の大卒初任給は2万2千円ほどだ。当時は手廻し式のタイガー計算機が3万5千円で買うことができた時代だ。

クリックで拡大


この計算機は昨年『情報処理技術遺産』に認定された。トランジスタが530個、ダイオードが2300個使われ、その他の部品を含めると4000個あまりの電子部品が使われている。重量は25キログラムもある。

中身の電子回路はこのとおり。

クリックで拡大


キットがあろうがなかろうが、こんなものを素人が作れるはずがない。回路図から配線した基板を再現するのは絶望的だ。たとえ作れたとしても事務机くらいの大きさになってしまうことだろう。

1960年代、電卓はテレビよりもはるかに複雑で高価なシロモノだったのである。部品点数だけみてもテレビの50倍ほどあった。

また、後継機のコンペット20もトランジスタ電卓である。(参考ページ)1965年に37万9千円(大卒初任給2万4千円)で発売。トランジスタ630個、ダイオード1980個使用。重量は16キログラムだった。わずか1年でこんなに小型化したのだ。

クリックで詳細(英語)や内部の回路が見れる



たとえ100円ショップで売られるようになろうとも、電卓が電卓であるかぎり論理回路が簡単になるわけではない。

自作するのは無理だとしても、せめて四則演算の電卓でよいから回路を全部理解してみたい。どうして電卓ごときにあれだけの電子部品が必要なのか、僕にはさっぱり理解できていないのが悔しい。

1970年代には「電卓技術教科書」という本が出ていたようだ。このページを書いた方も、僕と同じようなことを考えていらっしゃったようだ。この本にはコンペットCS-12Dの全回路図が掲載されている。

電卓技術教科書
http://www.protom.org/mad/0069.htm

電卓技術教科書〈基礎編〉〈研究編〉:ラジオ技術社
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e639b30787954422bdcce0c6b17db2f0


また、次のページも大いに参考になりそうだ。信州大学工学部の井澤先生によるWeb教材である。特にこのページは必見。Javaアプレットによる電卓回路で計算過程が試せるように作りこまれている。トップページはこちらである。

論理回路1
http://www7b.biglobe.ne.jp/~yizawa/logic/index.html

論理回路2
http://www7b.biglobe.ne.jp/~yizawa/logic2/index.html

例)デコーダ部分の回路(二進数の入力から十進数を表示、クリックで拡大)



理数系を標榜するのであれば電卓の回路くらいは「一般常識」としておさえておきたいものだ。人生の目標がまたひとつ増えた。(参考記事:「加減乗除と小数の計算手順を理解したい。」)


ところで、ネットオークションに出回るのは、ほとんどが70年代以降のLSI電卓だが、たまに60年代のレア物も出品される。60年代の電卓はおおまかに次の3つに分けられる。(参照:電卓の歴史

1)1964年~1966年:トランジスタ、ダイオードを使った卓上電卓
2)1966年~1969年:ICを使った卓上電卓
3)1969年~1970年:ICを使った電卓からLSIを使った卓上電卓への移行期

オークションにはたまに2)のICタイプの卓上電卓が出品される。マニアにとっては生唾モノだ。1)のタイプはほとんど博物館系の電卓。出品されても手を出せる価格ではない。(大阪大学には1950年代の「真空管計算機」というのがあるそうだ。)

YouTubeを検索しているうちに、とても古い時代のCASIOの卓上電卓AL-1000の動画を見つけた。IC(集積回路)はまだなく、トランジスタやコンデンサなどの電子部品を使って作られていた頃のものだ。表示は14桁のニキシー管であるにもかかあわらず、なんとプログラム電卓だという。平方根の計算が速いのにも驚かされた。世界初のプログラム電卓で431個のトランジスタ、1530個のダイオードが使われている。プログラミングは30ステップまで。

CASIO AL-1000 (1967):技術仕様概要 技術仕様詳細(全回路図も見れる)



CASIO AL-1000 (1967) クリーニング後に起動する様子




この記事を書き終えてみると、100円で買った電卓がすごく貴重なモノのように見えてきた。


翌日に追記:

世の中には自分で電卓を作ってしまった人がいることを発見。上で紹介した「電卓技術教科書」の所有者で、彼が作ったのはトランジスタ式どころではない。リレー式電卓なのだ。すごすぎる。。。

リレーというのは電磁石を使ってスイッチをON/OFFする小さな電子部品で、1000個近くのリレーを使ってこの方は電卓を完成させている。4桁の電卓であること、小数点計算や割り算ができないなど機能は限定されているが、それでも素晴らしいことに変わりはない。彼の夢を実現するまでの経過を写真と動画つきで紹介したページである。「1234+5678=6912」を計算しているビデオ画像には感動した。

「妄想」だと思えても、あきらめなければ「現実」に変えられるのだ。

マイ・プロジェクトX 「リレー式電卓」
http://madlabo.oops.jp/MAD/relay/relay.htm

YouTubeにも動画がアップされている。白い小さな箱型の部品がリレーである。開発者ご本人による解説付き。






関連ページ:

カシオ計算機を創り育てた稀代の発明家と数多の発明品、想いに触れる - 「樫尾俊雄発明記念館」を訪れた(この記念館には1957年に製品化した世界初の小型純電気式計算機「14-A」が展示されている。1万個以上のリレーを使用した大型リレー式計算機と同じ性能を、独自に開発したわずか341個のリレーで実現した計算機だ。)
http://news.mynavi.jp/articles/2013/12/25/casio/index.html

リレー基本論理回路(フリーサーキットMenu
http://www.tsystem.jp/freecircuit/freecircuitrelay.html


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関連記事:

加減乗除と小数の計算手順を理解したい。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/44687dc879c9a6642b59c49a0c7cc3b3

機械式計算機ノスタルジア(タイガー計算器)
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http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c57178b502b8207746af9df9a9e0dd90

算数チャチャチャ(NHKみんなのうた)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5f45451ee92873728f3046ed36cdce71
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34 コメント

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Unknown (K)
2012-08-01 00:20:46
電卓恐るべし・・ですね(^^;。
Kさんへ (とね)
2012-08-01 00:29:48
さっそくコメントいただき、ありがとうございます。

これが作れると(たとえ一瞬でも)考えた自分についても無謀としか言いようがありませんね。(笑)
でも、最近の若い世代の人の中には電卓が簡単に作れると思っている人が案外たくさんいるのではないかと思います。
わが友 石頭計算機 (271828)
2012-08-01 05:23:51
とねさん おはよう

ずっと昔のことですが、安野光雅さんの『わが友 石頭計算機』を読んで感動しました。ボールを使って4ビットの加算機を遊具として作りたいと思ったものです。
科学館に展示したら受けるでしょうね。
Re: わが友 石頭計算機 (とね)
2012-08-01 09:39:43
271828さん

おはようございます。
安野光雅さんはそのような本も書いていたのですね。「わが友 石頭計算機」と同じ著者の「石頭コンピュータ」をさっそく注文してみました。
加算器の実物は、きっと子供たちへのとても素晴らしい遊具+教材になると思います。

ありがとうございます。
遅れ馳せながら。。。 (noboshemon)
2012-08-01 19:10:49
リレー式電卓の達人のサイトは、私も watch してたりします。

IC = 論理ゲートが部品になった。
LSI = マイクロプロセッサ + ソフトウエアで実装。
ってことになりますから、
それ以前の、トランジスタレベルの部品でやりたいとなると、
なかなかつらい仕事になりそーですねえ。

本職の端くれとしては、電子の動きまで考えるよーな設計は、
ある意味気持ちよさそーなので、やってみたいとは思いますが ^_^;

以下、番外の雑談です。
最近の論理回路の設計では、論理ゲートすらあまり意識しません。
HDL で書いて論理合成し、FPGA に焼いて一丁上がりってなもんです。
それでも、整数四則演算だけの電卓を実装するとしても、
初心者がスクラッチからやるなら半期の実習くらいの重さかも。

検索したら、まさにそんな文書が引っかかりました。
http://www-vlsi.es.kit.ac.jp/~kobayasi/refresh/0911/sdoc/slide/calc2009.pdf
HDL で電卓作る雰囲気はわかるかと。
Re: 遅れ馳せながら。。。 (とね)
2012-08-01 20:35:57
noboshemonさんへ

教えていただき、ありがとうございます。僕はソフトウェア一筋で過ごしてきたのでハードウェアに詳しい方には憧れます。僕はいまだに小学生の電子工作レベルですから。(電磁気学は物理として学びましたが、回路理論はごく基礎的なことだけしか学びませんしね。)
さきほど書店で電子回路入門の本を買ってしまいました。

リレー電卓の達人さんは、ハードウェア系の人たちの間では有名なのですね。
紹介していただいたPDFファイルにもざっと目を通させせていただきました。便利な時代になったものですね。HDL(=Hardware Description Language)というのも調べてみたくなりました。僕が使えるのは今のところC++,Java、Perl、Rubyくらいのものですから。。
Re: Re: 遅れ馳せながら。。。 (noboshemon)
2012-08-01 21:55:52
> 僕はいまだに小学生の電子工作レベルですから

小学校の電子工作ってば、意外とレベル高いかも。
子供が喜ぶよーなもんをさらりと設計できたら
達人の領域です。
私もアナログ方面はさっぱり分かりませんし、
デジタルでも滅多に現物の基板なんか触りません。

> リレー電卓の達人さんは、
> ハードウェア系の人たちの間では有名なのですね

あまり同業者と話題にしたことありませんが、
むしろ認知度は低いですかねえ ^_^;

> 僕が使えるのは今のところC++,Java、Perl、Ruby

そんだけ使いこなしてれば、
Verilog HDL なんか楽勝ですよきっと。
しかし、HDL ってのは変化が速くて、
最近は、まるで付いていってません (-_-;)...
noboshemonさんへ (とね)
2012-08-01 22:13:28
アナログ方面は守備範囲ではないのですね。てっきりデジアナOKな方だと思っていました。

小学生レベルというのは意味もわからず、回路図どおりに組み立てて、それで満足してしまうレベルですよ。(笑)

> むしろ認知度は低いですかねえ ^_^;

それでは僕がリレー電卓の達人さんを記事で紹介したのは、少しは認知度アップに役立ちますね。少しでも多くの少年が、彼の電卓に啓発してくれればいいなと思っています。少年じゃなくてオジサンでもいいわけですけど。

あと書店では本のほかに「電子ブロックmini」も買ってきてしまいました。4ビットや8ビットのマイコンキットのほうは買うかどうか少し保留します。

バーチャルですけどTINA 9という回路シミュレーターのソフトもよさそうですね。このソフトをベースにした本も買いました。
音,動き、良し (アトム)
2012-08-02 14:43:47
リンクの画像見ましたが、すごく心地良い動きをしますね。作成された方のHPも見ましたが,非常にユニークな方ですね。プロフィール等をみて、爆笑してしまいました。いや,すごい、感動ものだ。
Re: 音,動き、良し (とね)
2012-08-02 15:00:58
アトムさん

お久しぶりです!
そうなんですよ。このリレー電卓の達人には尊敬してしまいます。
YouTubeにも動画を見つけたので追記しておきました。

でも物理ブログに興味を示している人の間では「電卓ネタの記事」は人気がないみたいです。にほんブログ村の「物理ブログ、注目記事」のところに僕の電卓系についてのブログ記事はさっぱり表示されません。

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