死から逃れられないという事実がある限り、究極の処方箋は一つしかありません。それは、死ぬことを最大の幸福と見做し、そのために生き方を工夫するということです。
海外にいて気づくことは、どの国であろうと宗教、文化、経済が一体となっており、人々は死んだら今より幸せになれると信じています。例えば、イスラムの国々では人生の目標を誰に聞いても「聖地メッカに巡礼すること」と答えますが、日本で同じ質問をすると、「マイホームを建てること」がトップに上げられるそうです。
詩人の伊藤比呂美さんは、このように書いています。
「刻々と死に近づく親を見ていると、どうも彼らは死に方がわかっていない。死にたくはない、かといって生きていたいとも思っていない。戦争を経験し、高度成長にもまれ、信じていたものをきれいさっぱり捨ててきた人たちです。
家には仏壇も神棚もなく、自然をありがたがることも忘れ、かといって西洋の知識人のように確固たる自己があるわけでもない。宙ぶらりんになって死ぬための心構えもできていない」
後期高齢者の健康保険は、医療関係者のために守られているのかも知れない。国民皆保険保険制度の維持。誰もが共通の高いレベルの治療を受ける。それこそ、いたずらに延命を求める、否、それすら判断できないような方への治療。悩ましい過大です。