ゴジラシリーズ第6作目、怪獣大戦争。従来までの怪獣ものに宇宙侵略の要素を、加え、宇宙人が怪獣を操って地球を攻撃するという概念を初めて確立させた、のちのテレビヒーローものの原点となる一作であり、わたしの原点でもある。あの日あの時この映画を見ていなければ、映画に転ぶこともなければ映像集めに全力を尽くすこともきっとなかったに違いない。それほどの衝撃を受けた。忘れもしない1991年、「ゴジラVSキングギドラ公開記念」と銘打って実施されたキングギドラ映画特集。わたしは何の気なしに、気が向いたという理由だけでその映画館に足を運んだ。題名とゴジラをキングギドラはもちろん知ってはいたものの、見たことのない映画ばかりだったからである。とはいえ、当時はそれほど怪獣ものや、そもそも映画にも強い興味があったわけでもなかったのだが。
そして、あまりの素晴らしさ、面白さにその後の人生をすっかり曲げられてしまった。順次公開された4本すべてを見たが、その中でもこの「怪獣大戦争」の面白さがダントツであった。俳優の豪華さや作品のスケールなど、理屈で語ればおそらく「三大怪獣 地球最大の決戦」の方が一枚も二枚も上の作りになっているだろう。だが、面白さは理屈じゃない。中でもクライマックスに流れる曲の衝撃に全身を支配されてしまったのである。
通称"怪獣大戦争マーチ"と呼ばれるこの曲。「ゴジラ」第一作の船の曲や「宇宙大戦争」のマーチをベースにこの映画用に再構成したもので、冒頭のタイトルやスタッフ紹介部分とクライマックスの二回しか流れない(テンポは少し違う)にも関わらず、一度耳にしたら離れない支配力で脳を刺激する曲である。伊福部昭氏作曲によるマーチ曲は、特撮映画の中では特に侵略者との攻防戦の中で威力を発揮し、本編特撮と一体となって映像を守り立てる。地球防衛軍、宇宙大戦争、海底軍艦、どれも強烈な印象を起こす名曲である。が、怪獣大戦争マーチは「地球防衛軍側が大逆転で侵略者に猛攻撃を仕掛ける」という中で流れることもあって、それらをさらに凌駕する高揚感を作り出している。こう書くと怒られるかも知れないが、マーチ曲とは軍歌にも使われた一面がある。現在は先の大戦というと日本が負けたというマイナス方面、暗い時代としかとられないが、戦中はもちろん戦前においては"暗"ではなく"陽"でとらえられた、つまり日本軍の行動が日本国民にとって明るいものとして認知されていた面は必ずあったはずである。わたしは軍歌がどういう空気の中で使われたのか想像もできない世代だが、そういう空気も感じたことがある当時のスタッフだったからこそ、明るい戦争、我らの軍が侵略者を撃退するという戦前の世相を映画の中で描けた、から、怪獣大戦争のクライマックスは素晴らしいものになったと思えてならない。もちろん相手は宇宙人であり、内容は荒唐無稽でしかない。だからこそ堂々と表現できたのか、荒唐無稽な内容でもないとあんな勝利はあり得ないよ、という皮肉を込めたのかまでは分からないものの、現代の人間では決してマネし切れない演出であることに間違いはなかろう。いずれにしても怪獣大戦争マーチと映画の映像がお互いを圧倒的に高めあったのは間違いない。だからこそ、伊福部昭氏は本作でしか使用しなかった(ゴジラVSキングギドラの没曲にモチーフは使われた跡はある)にも関わらず、のちに「ゴジラVSビオランテ」や「ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃」の2作において、別格の"ゴジラ第一作のテーマ曲"や、伊福部氏担当のゴジラ映画でたびたび利用された"ゴジラの恐怖"と同格扱いで、ゴジラテーマ曲として特別に使用されたのである。
さて、その怪獣大戦争を含むゴジラ映画全作品が現在日本映画専門チャンネルで放送中である。放送は"毎月5の日"で、その日にまず放送されたものを後日再放送・・・と言う形で当分放送が続く予定。その流れだと「怪獣大戦争」と「三大怪獣 地球最大の決戦」の二本はこの25日に初回放送が行われるはずだったが、なぜか22・23日に先行放送されることになった。非常に楽しみである。なにせ前回2008年にゴジラハイビジョンリマスターとして放送されたとき、わたしはキッチリ「怪獣大戦争」だけ録画に失敗しているからである。録画をし忘れたのではなくちゃんとしているのだが、天候が悪かったのか、この作品だけほんの一瞬映像が止まり、ブロックノイズの塊になってしまう箇所ができてしまっていたのだ。あれから6年、本当に長く待たされてやっと再録画の機会が巡ってきた。なにせ「怪獣大戦争」はBD化もされずにほったらかし扱いになっていたのだから、まさに待ちに待った機会。しかも、今回は「過去のものとは違う、限りなく上映当時に近い」復刻がなされているというではないか。今回のゴジラ特集は前回のものをそのまま使うのではなく、改めてリマスターし直したもの、という触れ込みだったのだが、今まで放送された分は正直それを全く感じていない。「キングコング対ゴジラ」の、一部SD映像のアップコンバート処理で誤魔化していた箇所も、今回も同じ処理であった。カットされた部分のネガも一応発見されているはずなのだが、なんでそっちからなんとかしようとしないのだろうか? それが怪獣大戦争になってようやくはっきりと前回とは違う版が放送されるというから、ますます楽しみであった。
わたしの今まで知っていた中で、「怪獣大戦争」のパターンは3つあった。
1.東宝チャンピオン祭り向け短縮版、「怪獣大戦争 キングギドラ対ゴジラ」
1960~70年代ごろの子供向け映画興行企画、東宝チャンピオン祭り用に短縮再編集したもの。タイトル変更は広報のために「ゴジラ」の文字をタイトルに含む必要があったため。上映順が「三大怪獣~」改題「ゴジラ モスラ キングギドラ 地球最大の決戦」より前であったため、作中の「地球が、キングギドラの脅威を、ゴジララドンの協力で回避したことは知っています」のセリフは省かれている。なおカットばかりでなく、全長版にない短縮版だけ追加されたナレーションがある。上映が1970年代に入ってからだったため、冒頭の「一九六X年~」に始まる説明テキストがカットされた代わりとして入った「一九七X年、新発見の惑星に向かって有人ロケットP1号が打ち上げられた」と、最初に島が登場するシーンの「伊豆半島の西海岸にある根暗島、ここにはただ一件、世界教育社の別荘があった」、作中のニュース終わりに入った「そして、東京にある世界教育社も襲撃の被害を受けた」の三箇所。
2.上映会向け「怪獣大戦争」
主に映画館における特別プログラム用として使われるフィルムのバージョン。タイトルが短縮版の「怪獣大戦争 キングギドラ対ゴジラ」に差し替えになり、冒頭の「一九六X年~」の文字部分が省かれているため、てっきり短縮版と思いきやそれ以外にカットされた箇所はなかったので驚いた覚えがある。
3.DVD収録「怪獣大戦争」
わたしは当然3はほぼオリジナルそのままと思っていたのだが、若干違っていた模様。
日本映画専門チャンネルゴジラ特集のFacebookによると「五ケ所の幻のテロップが本放送で復活」とある。本来重なるはずの文字がなぜか現在のDVDなどではついておらず、省略されていたそうなのだ。これは絶対見逃せない!!!
・・・視聴後・・・
うん、やっぱり「怪獣大戦争」は面白い。もう何十回みたかわからないが、少し間をあけてみると初回の時と全く同じ面白さが甦って来る。間違いなく名作である。改めて思うが特撮の操演がすごい。"ひっくり返るキングギドラ"とか"フラフラとよろける円盤"などすごすぎて全然すごく見えないくらい。しかし肝心の「復活テロップ」なんだけど、確かに「明神湖」「鷲ヶ沢」の二つは確認できた。これは確かにDVDにもなく見たことない字である。だが、残りの「ニュースで流れるテロップ3カ所」というのが分からない。先に短縮版で追加されたナレーションの少し前に写真で表現されるニュース写真に、新聞か週刊誌の見出しのようなナナメに書き文字が貼り付けられる部分が3か所あり、これのことかと思うのだが、これはDVDにもしっかり入っていて別に幻でもなんでもないのだ。そこで、前回失敗した録画である2008年度放送版「怪獣大戦争」を引っ張り出してきてみた。なんと先のナナメ見出しが入っていない!!ではないか。つまり幻というより前回放送分が変なだけだったのだ。これで「怪獣大戦争」には5つのバージョンが存在することになった。先の3つに加え
4.2008年日本映画専門チャンネル放送版 ニュース写真に重ねられるはずのナナメ見出しが未収録の版
5.2014年放送版、「明神湖」「鷲ヶ沢」のテロップや、、ナナメ見出しが完全収録されている版
以上5つである。さすがに先の上映会版にテロップが収録されていたかどうかまでは覚えていない。
なお、そんなテロップなんかよりもっと従来版と違う大きな変更点があった。冒頭の東宝マークである。東宝スコープと書かれたものでもなければ、よく見る普通のものとも一味違い、丸い東宝マークの中の下部に"TOHO"の字が入り、画面下いっぱいに"TOHO COMPANY,LTD."の字が入っているのだ。まるで海外版である。なんでこれになったのか? 実はこっちの方がオリジナル通りなのかも知れない、もちろんそこまではわたしも知らない。
追記:海外版のフィルムが出自とのことで、そのまま残したのだそうです。