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通貨安でも経済潤わず、教科書に反する現実~グローバル化の影響? テストケースは英国

2017年06月14日 | 社会・経済

通貨急落は経済成長への恩恵になる。経済学の教科書に数十年前からそう書いてある。その国の輸出競争力が高まるほか、世界市場で稼ぐ利益がかさ上げされ、結果として国内の生産や雇用が拡大するためだ。

 その理論がもはや成立しないとすれば、どうなるのか。

 エコノミストや政府当局者の間で、通貨安のプラス効果が薄れているとの見方が次第に強まっている。特に生産能力が縮小し、世界的なサプライチェーンに深く依存する西側先進国ではなおさらだ。新しい考え方は、輸入部品の価格高騰によって通貨安のメリットの多くは相殺されるというものだ。

 グローバル化によって実際に効果が減ったかどうかを知るテストケースが英国だ。世界金融危機や1年前の国民投票で決まった英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)、先週の総選挙を受けた政治的混乱などで、英ポンドはたびたび打撃を受けたが、英国の輸出力に教科書通りの反応は見られなかった。

昨年6月のEU離脱決定を受けたポンド急落後、英北部ミドルズブラにあるケモクシー・インターナショナルの化学薬品工場で作られる製品は、輸出市場での価値が実質的に2割増しとなった。海外で同社製品を購入するのに使われる通貨が対ポンドで上昇したからだ。その半面、輸入原材料費が高騰し、輸出のプラス効果をほぼ打ち消した。

 「当社は国際市場との相互依存が非常に強い」とケモクシーのイアン・スターク最高経営責任者(CEO)は話す。同社は製品の60%以上を輸出し、化学原料の約85%を輸入する。そのため、ポンド安は「画期的効果をもたらさない」と同氏は話す。

高級車アストンマーチンも

 通貨の強弱と経済成長の間に関係があるのかどうか、あるとしたらどのような関係なのかは、国際政治にも影響が波及する。米国では製造企業が長らく強いドルの弊害について不満を訴えてきた。ドナルド・トランプ米大統領は日本や中国が為替を操作して自国通貨を低く抑え、米国からの輸出を阻んでいると批判する。

 英ポンドは2007~10年に主要貿易相手国の通貨に対して約25%下落。その後も値が戻らず、英政府内には輸出が拡大するとの楽観論が広がった。12年に当時のジョージ・オズボーン財務相は、英国の年間輸出額が同年の4990億ポンドから20年には1兆ポンドに達するとの見方を示した。しかし16年の輸出額は5470億ポンドにとどまった。

 昨年EU離脱が決まった後、英ポンドは再び落ち込んだが、影響はやはり控えめだった。英高級車メーカー、アストンマーチンの例を見ればその理由が分かる。離脱決定前の為替相場である1ポンド=1.50米ドルの場合、ニューヨークでスポーツカーを15万ドルで販売し、売り上げを本国に持ち帰ると10万ポンドになった。現在の相場である1ポンド=1.27米ドルに換算すると、1万8000ポンド上積みされる。しかし自動車部品の半分以上を海外で調達しなければならないため、その効果は相殺される。

 「過去10年間に自動車部品メーカーの多くが海外移転した」とアストンマーチンのアンディ・パーマーCEOは話す。「結果として恩恵がなくなってしまった」

エコノミストの見解は二分

 世界中のエコノミストは、為替相場が先進国の貿易にどの程度影響するのかを議論している。世界銀行と経済協力開発機構(OECD)がそれぞれ最近まとめた調査報告書からは、複数の先進国で貿易に対する為替変動の影響が減少していることが分かった。

 OECDの報告書では、08年のポンド急落と12年の円安ドル高による貿易への影響はほぼなかったとされ、企業が世界規模のサプライチェーンに組み込まれていることを示すデータが出された。OECD加盟国の輸出製品に含まれる輸入品の割合は1995年~2011年に14.9%から24.3%に上昇した。

 5月には国際決済銀行(BIS)が通貨の強さの尺度の一つである実質実効為替レートの新しい数学的モデルを発表。標準的な為替レートモデルは、根底にある世界的サプライチェーンを考慮しなければ「次第に時代遅れになる」と指摘した。

 一方で、この考えに反論するエコノミストもいる。国際通貨基金(IMF)のチームは異なる結論を導き出し、「為替レートの影響が徐々に弱まっている証拠はほとんど見つからない」とした。

 IMFの分析では、大幅な通貨下落――先進国では13%以上、新興国では20%以上――によってその後5年間に輸出量が10%増加することが分かった。

 もっともIMFはただし書きをつけた。通貨安の影響が最大化するのは経済がフル稼働していない時期(景気後退局面の後など)だという。また、金融危機時には信用収縮が起きるため、企業が通貨安のメリットを十分生かせないとしている。

 「ただ一般的には、貿易不均衡の解消を促すための変動為替相場の役割は依然として大きい」とIMFのチームは結論づけた。

モノの貿易赤字は拡大

 英国では製造業が衰退するのと対照的に、サービス業は成長し続け、現在は国内総生産(GDP)の79%を占める。サービス業は為替変動の影響が比較的少なく、昨年末時点のサービス部門の貿易黒字は対GDP比5.4%に拡大した。ロンドンの巨大な金融セクターにはポンド安の影響がほとんどなかった。金融ビジネスは大抵が外貨建てのためでもある。

 一方、モノの貿易は事情が異なる。モノの貿易赤字は1995年の対GDP比1.6%から昨年は6.4%に膨らんだ。輸入品の値上がりと輸出品の競争力向上にもかかわらず、赤字幅は拡大し続けている。今年1~4月のモノの貿易赤字は428億ポンド(石油および特に変動の大きい航空機などの品目を除く)に達した。

 一部のエコノミストは、通貨安が長期的に貿易動向を変え得るという考え方にかねて懐疑的だった。輸入品の値上がりはインフレにつながるうえ、貿易赤字の原因になりやすい生産性や競争力の弱さといった構造的問題は通貨安では解決できないからだ。

 「英国が自らの価値を下げることで経常収支の不均衡から抜け出せると思ったら大間違いだ」。米金融大手シティグループのチーフエコノミストで元イングランド銀行金融政策委員会(MPC)メンバーのウィレム・ブイター氏はそう言う。

 さらに深刻なのは、英国は店頭に並ぶ商品を輸入に依存しているため、ポンド安が物価上昇を加速させ、その結果、消費者支出にブレーキがかかったことだ。 

例えば、英国は魚の60%以上を輸入しているが、ポンド下落によって英北部グリムズビーの水産加工品メーカーが仕入れる木箱入りのタラの価格は一晩で15%急騰したという。この会社は他の食品メーカーと同じようにコスト上昇分を消費者に転嫁している。

 グリムズビーのセントジェームズ・フィッシュ・レストランでは英国の伝統料理フィッシュ&チップスを値上げした。「お客から苦情ばかり言われる」と店員はこぼす。

=6/14 WJ

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