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供給過剰は終わらない 中国鉄鋼業が狙う次の「獲物

2016年10月14日 | 社会・経済

中国人の行動パターンとして最も分かりやすいのが、目先の利益にとらわれ、みなが一斉に同じ方向に向かうことだ。知人がもうかったと聞けば、庶民は不動産や株式投資に熱を上げ、企業は製品や商業施設を需要度外視で作り出す。もうからなくなれば別の標的を探すまで――。中国の隅々に行き渡るこの考え方は、過剰生産にストップがかかったはずの鉄鋼業界で再び頭をもたげている。

「数年越しの夢がようやくかなう時が来た」。中国東北地方、遼寧省鞍山にある国有鉄鋼大手、鞍山鋼鉄集団。秋めいた日差しが差す9月、旧式の設備がいまだに稼働する古ぼけた製鉄所内で、幹部がにやりと笑った。

 同社は戦前に南満州鉄道が出資した製鉄所を母体に、1948年に設立。長年、中国の経済発展を支える一翼を担い、重工業が経済基盤である東北地方を代表する有力企業の1つに数えられる。

 ただ中国経済の減速で鉄鋼需要が縮小し、業績は低迷する。関係者によると、90年代にグループ全体で40万人いた従業員は16万人に削減。余剰になった50歳以上の従業員は月2000元(約3万1000円)弱の給料を受け取る代わりに、今も自宅待機を強いられる。

 設備更新にもカネが回らず、人員削減も余儀なくされる鉄鋼企業が託す「夢」とは何か。「それは、ステンレスだ」。幹部はそう続けた。

■ステンレス会社買収し、ノウハウ吸収

 布石は打っている。2年前の2014年秋に台湾企業からステンレス会社を買収。年内には買収先が作ったステンレスを成型する設備を鞍山の製鉄所に導入する。現在は製法などのノウハウを吸収している段階で、近く自力で生産に踏み切るという。幹部は明言しなかったが、別の関係者は「自前で生産できれば、その買収先は用済み。さっさと捨てるだけだ」とみる。

 鉄鋼の過剰生産で世界を混乱に陥れる震源地、中国。鞍山鋼鉄に限らず、中国の鉄鋼大手は国内で消化しきれなくなった鉄鋼を安価で海外へと流した。発覚を逃れるため、東南アジアなどを経由して第三国に輸出する手法も常態化。その結果、世界各地で貿易摩擦を引き起こす事態を招いた。

 このため、中国の李克強首相は今年3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で「過剰生産能力の解消」を目指すと宣言。20年までに鉄鋼生産能力を1億~1.5億トン削減する目標を立て、ようやく過剰生産解消へ重い腰を上げたかに見える。

ただ肝心の鉄鋼企業は生き残りに向け、新たな「飯のタネ」を追い求め始めた。減産に踏み切れば、雇用の維持がこれまで以上に難しくなるためだ。鞍山のように街と工場が一体化している地域も多く、地方経済への影響は計り知れない。かといって政府の意向を完全に無視するわけにもいかない――。そこで目をつけたのが、北京や上海など大都市での住宅着工で需要が堅調なステンレスだった。

  

既に中国は世界最大のステンレス製造国だ。業界団体の中国特鋼企業協会によると、15年の中国のステンレス粗鋼生産量は2156万トンで、全世界(4155万トン)でのシェアは5割を超える。中国の粗鋼生産量は14年まで2桁増が続いたが、15年は製品価格の下落などで前年割れといったんは小康状態となった。

■世界最大の生産量、さらに能力増強計画

 だが、今年1~6月期は前年同期比8%増と再び増加に転じた。それどころか、能力増強にも動き出す。別の調査会社によると、鞍山鋼鉄などの国有大手に加え、民間の製鉄所やステンレス専業大手などが内モンゴル自治区や山東省、江西省などで増強を相次いで計画している。

 中国国内のステンレス生産能力は15年時点で3636万トンあるが、17年末には4626万トンに達する見通し。実現すれば、全世界の粗鋼生産量を上回る能力を中国が有することになり、鉄鋼や石炭に続く過剰生産問題の再燃につながることは避けられそうにない。ある日本の鉄鋼関係者は「鉄鋼が厳しいなか、ステンレスで利益を補っている面があった。これからはそうもいかなくなる」と警戒する。

 日本でも様々な分野で一過性のブームは起きる。だが人口で約11倍、国内総生産(GDP)で2倍、さらに変化のスピードが激しい中国で同じことが起きると、その破壊力は中国にとどまらず、世界を混乱に陥れる。

 当たり前の話だが、誰かがもうかっている時点で何か始めても、機は逸してしまっている。既に何度も痛い目に遭っているはずなのに、繰り返される行動パターン。供給過剰問題も一向に終わりは見えない。

=10/14 日経web

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