ゼロの焦点/犬童一心監督
原作は松本清張。結婚後すぐに夫は仕事の引継ぎのために出張するが、そのまま失踪してしまう。夫の行方を追って金沢に行くが、夫の過去が明かされていくとともに、そこにいる人々との不可解な関係性を伴って連続殺人事件が起こるのだった。
重層的な人間関係のなか人が死んでゆくが、そのような事件の展開そのものは面白いにせよ、結果的にその理由とされることに、現代的な視点から、やや動機が軽いようにも感じられる。そんなようなことで、ひとは死んだり殺したりするもんだろうか。時代と言えばそうかもしれないけれど、もうそんな過去にこだわらずとも、現代をハッピーに生きたらどうだろう。まあ、そんなことを言いだすと、この物語自体は生まれなかった訳だけれど。
映画的には、ぐんぐん引き込む力があって面白いとは思う。謎が気になって、これはどうなるんだ? という感じ。なんでこの人がこのタイミングで嘘のようなことをつくのだろう、とか、言葉に引っかかっているその原因とか、いくつもの謎解きの必要なパズルのピースが出てくる。まあ、最終的には収斂されてはいくものの、だからその最大の理由のところで、その程度のことで、こんな大それたことをしてしまったのか! と思うのかもしれない。まあ、ズルズルそうなってしまったのかもしれないけれど。金沢の人たちは、ちょっと物事を大げさに考えすぎているのではなかろうか。
僕らの生きている現代は、確かに戦後の延長だが、しかしやはり戦後ではないのだと思う。戦後の人々はまだ生きておられるけれど、その戦後を引きずって、精神的に不幸になっている人は、一部になっていると感じる。それではだめだという議論のありようもあるかもしれないが、とにかく大局的には、それで何の問題も無い。ただしかし、このような映画で当時の気分をある程度納得して考える上では、もうかなり難しいものになっているのも確かだろう。物事に囚われる生き方自体が、人々の幸福を奪う。本人にとっては重要なこだわりかもしれないが、そのことを他人に押し付けないでもらいたいものである。