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「反原発」の不都合な真実 藤沢数希著

2012-06-05 22:34:50 | Book
某週刊誌の特集に原発再稼動を推進する国会議員のリストが掲載されているようだ。
何でも原子力ムラがらみの「カネと票」に群がる議員というお題目に、まるで彼らがA級戦犯扱いに感じられるのだが、国民が本当に知りたいのは誰が原発再稼動を推進しているかということよりも、もっと本質的な原発の是非ではないだろうか。しかも「国民の大半が再稼動なんてありえない」と扇情的でヒステリックな言い回しには少々うんざりしている。私の意見としては、再稼動はありうるとふんでいた。米田綱路氏が日本のマスコミに本質的なことを批判していく姿勢はあるのかと苦言を呈していたが、まさにその通りである。

おっと、こんなことを言いたいのではなかった。前置きが長くなってしまったが、本論に入ろう。
本書は欧州研究機関で、計算科学、理論物理学で博士号を取得したリスク分析のプロが、3月11日以降の原発=絶対悪と決め付け、その廃絶こそ正義と感情的に騒ぎ立てるマスコミとは距離をおき、感情論をこえた議論のために原子力技術、健康被害、経済性からエネルギー政策を提案している。

ランチタイムに自宅の電気を60Aで契約していても、ブレーカーが落ちてしまうという話がでた。彼女は電気代節約のために40Aに変更を検討しているそうだが、それはもう難しいのでは、というのが私の懸念。窓の開かない高層ビルもあるし、冷房を我慢できても冷蔵庫、洗濯機、パソコン、携帯電話の充電、近頃活躍している電子レンジなど、人はエネルギーに頼って依存して生活している。「北の国から」の生活も理想郷のひとつだが、人それぞれのライフスタイルが確立されているのが現代だ。エネルギーはとても重要なのだが、今のところ残念ながら100%安全なエネルギーはない。それでは、相対的にエネルギーの単位でリスク計算していくと原子力は最も安全なエネルギー源となる。(この計算には、太陽光発電などの建設に関わる事故のリスクを発電エレルギー単位で割ると、効率が悪いエネルギー源が相対的にリスクが高くなるというからくりがあるのだが。)

今般の福島第一原発も地震に関しては、原子炉は正常に臨界停止していたそうだ。ところが、津波によってすべての予備電源が機能しなくなり、冷却水を循環できなくなったために原子炉圧力容器内の燃料棒が熱暴走してしまったのだが、予備電源を建物内など簡単に浸水しないところに設計しておけば防げた事故であり、安全装置である電源車がかけつけたところコンセントが合わなかったという信じられない設計ミスもあったという。著者は、一連の事故はむしろ人為的ミスとみている。その点について、賛否両論あろうかとも思うが、原発を止めるか稼動するかが政局に利用されて殆どの原発がストップしてしまったが、原発の維持費を払いながら、莫大な化石燃料を追加購入するという経済的損失を負いながら、原発の安全性が高まるわけではないとの意見には、もっともである。

原発の代換えとして風力発電もあるが、ドイツを旅して緑のなだらかな丘陵に規則正しく並んだ真っ白な風車を観た時は、ドイツらしい機能美があるけれど、むしろ自然な景観を破壊しているとぞっとした記憶がある。ビル・ゲイツなどは、ソーラーや風力は”キュート”なテクノロジーで先進国の遊び心でつくる実験的な発電所という考え方をしており、そもそも国民生活を支えられるほどの実力はないし、まして発展途上国が利用するには経済的に困難である。

日本の技術力は世界に誇れる。意識もモラルも高い。福島の原発事故はとてもとても不運で悲しい出来事だったが、だからといって即原発停止と宣言するのは早計ではなかろうか。ピンチは、後世の国民のための糧に転換することも検討していただきたいと、私は本書を読んで考え始めている。

昨秋、被災地を訪問したダライ・ラマが、「放射能におびえずに生きる権利」とあたかも原発を悪と誘導するかのような記者の質問に
「常に物事は全体を見るべきです。一面だけを見て決めるべきではありません。(中略)原子力が兵器として使われるのであれば決して望ましくありません。しかし平和目的であれば別問題です」と応えたそうだ。
ダライ・ラマは、ダムは自然を破壊し、風力、太陽エネルギーは高価過ぎて、発展途上国では十分ではなく貧富の差が広がると考えている。真の指導者というのは、ダライ・ラマのように冷静に将来をみすえて多角的な視点をもちつつ全体を把握していることが望ましい。

本書は当初、別の出版社から話がはじまったそうだが、あまりにも反原発の声が強くて中止となったところ、新潮社に拾われたそうだ。一度、悪いと決めるとマスコミが先導となって猛烈な勢いでたたくのも最近の風潮だが、著者の意見に耳を傾けて再考することも大事だと思うのだが、いかがだろうか。


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2 コメント

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残念です (XTC4241)
2012-06-23 03:39:11
おはようございます。
原発推進の立場なんですね、残念です。
あなたのような、クール&スマートなひとが。
1.高レベル廃棄物は10万以上、管理しなければならない。
後世のひとに、大変なものを押し付ける。
これが正しいことでしょうか?
2.経済的リスクは少なくて20兆円。
確かに事故の確率は少ないかもしれない。でも、いったん起きてしまったときの影響の大きさは比べものにならない。
3.そんな原発のリスクを考えずにきた体制。
様々なリスク要因が指摘されていたにもかかわらず、完全に思考停止していた体制自体がおかしいと思いませんか?
また、マスコミが反原発一色のように書かれているようですが、社によって、いや、記者によって異なっている。
ただ、僕は読んでいないのでこれくらいのことで留めますが。
今度、読んでみます。
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残念ですか (樹衣子)
2012-06-23 19:44:45
エコロジカルな思考を大切にされるXTC4241さまにとっては、原発再稼動などありえないし、
又、推進派にお怒りすら感じられるのももっともだと思います。

但し、クール派?の私としては、マスコミの熱い論調とは一歩距離をおいて
原子力発電とエネルギー問題を考えるのに、本書はちょうどよかったというところです。
正直申しますと、これまでエネルギー問題にはあまり関心がありませんでしたので。

>いったん起きてしまったときの影響の大きさは

それが原発の最大のネックだと思います。
私は原発を100%推進しているわけではないし、かといってすべて中止とも言い切れない立場にいます。
そんなわけで別の本「なぜメルケルは転向したのか」も読む予定です。彼女は物理学の研究者でしたからね。
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