千の天使がバスケットボールする

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「東京アクアリウム」小池真理子著

2010-04-10 11:36:43 | Book
人気作家、小池真理子さんが「中央公論」に掲載していた短編8本をおさめた短編集が「東京アクアリウム」。さすがに、硬派な論客を相手にする「中央公論」の舞台に登壇するだけあって、小池ワールドはどれも魅力的でさえている。どの小品も、全体に彼女の独特の早熟で鋭利な感受性をもつ少女性は影をひそめ、むしろしたたかなオトナの人生のあわくてもろい機微がこぼれるようにここでは描かれている。登場する女性たちを、62歳のおかまリリーも含めて、私は都会の片隅で出会ったらいっそのこと不運だけど幸せな”悪女”と声をかけたい。ちょうどタイトルにもあるように、都会という水槽の中でゆれる彼女たちは、あまりにも小さくてかすかに幻想的な雰囲気を漂わせている。

中でも一番好きなのは「風」である。大学時代からの親友、悦子と千晶は容姿や性格や価値観、ライフスタイルも生き方も悉く異なっている。所属していた「映画同好会」で出会った坊ちゃん育ちの奥田と結婚して一人息子を育てて一見恵まれた専業主婦になった千晶と、住宅会社でキャリアを重ねて昇進していく別の次元で人生に成功している悦子。そんなふたりが中年になって迎えた不運なことは、いつまでも女性として容姿が衰えない千晶の発病だった。そしてそこへ登場するのが、もう一人の学生時代の男との再会。幼い頃に父を亡くして苦労してきた川原も、大学時代に千晶に熱をあげていたのだった。情熱的な青年たちの恋愛戦争は、結婚にやすらぎを求める千晶の選択で、無邪気な奥田に勝利をもたらした経緯があった。突然の千晶の重い病を軸に、悦子、奥田と川原は荒々しい感情の渦にまきこまれていく。
最後の結末は、そこで吹いた一陣の風は、女という動物の感情をわしづかみするような鮮やかさでありながら、おおかたの女性は悦子にも千晶にも共感できるのではないだろうか。

『知的悪女のすすめ』なるあまりにも安易な売らんかな主義のデビュー作のタイトルがもたらした偏見のためか、これまであまりなじみのなかった小池真理子さんの著作だったが、『望みは何と訊かれて』ではすっかり読まされてしまった。つい手にとった本作でも、この作家が短編でも名手といえるくらいさえている実力をもっていることを知った。どんな本を読んでいるかは、その人の心や精神の歴史が知られると考える。そんなことで、本の選択に慎重になりがちな私めの虚栄心?を満たしてくれる作家のリストにこれまで小池真理さん子の名前はなかったが、読むのに本当にあっというまで時間がかからないし、息抜きのための本としてはとても素敵な作家かも。今回これまでの著作物を調べたら、かなりの数を執筆している。流行作家だったのですね・・・。

■傑作
「望みは何と訊かれたら」


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