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『モスクワは涙を信じない』

2011-09-25 15:54:44 | Movie
モスクワ(CNN) ロシアのメドベージェフ大統領は24日、与党「統一ロシア」党大会での演説で、来年3月の大統領選の候補者としてプーチン首相を支持すべきだと述べた。プーチン氏はこれを受け、今年12月の下院選後、首相ポストはメドベージェフ氏が引き継ぐべきだと語った。
プーチン氏は2008年まで2期8年にわたって大統領を務め、連続3選を禁止する憲法の規定により退任。「双頭体制」のナンバー2とされるメドベージェフ氏に事実上ポストを譲っていた。プーチン、メドベージェフ両氏は2年以上前から、次の大統領選にどちらが立候補するかは互いに話し合って決めると繰り返してきた。結果として両氏がポストを交換し、引き続き双頭体制を維持する可能性が高くなった。大会出席者らはプーチン氏に総立ちで拍手を送り、メドベージェフ氏は「プーチン氏の経歴や権威は説明するまでもない」と語った。
プーチン氏は演説の中で、大統領選への出馬は光栄だとあいさつ。近い将来に経済成長率を6~7%まで引き上げ、ロシアを世界5位以内の経済大国にしたいと抱負を述べた。また今後5~10年以内に再軍備を完了するとの目標も示した。

昨年12月の憲法改正により、大統領の任期は6年に延長された。プーチン氏は次期大統領として最長で12年、政権を維持する可能性がある。


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朝日新聞の報道では「双頭体制」長期化という見出しを見かけたが、それは違うっしょ。
童顔でプードルのようなメドベージェフが、大統領に就任した時からの織り込み済みの既定路線であり、双頭体制というよりもプーチンが実質上の”皇帝”になるということだ。ロシアという大国は、大国なりの皇帝願望が民衆にあると私は感じている。さて、本作は、なんとそのロシアで6500万人という驚異的な観客動員を記録したする大ヒットととなり、米国のロナルド・レーガン大統領が、旧ソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領との会見に備えて、ロシア人の心を理解するために二回も鑑賞したというエピソードも残る映画『モスクワは涙を信じない』である。

1958年のモスクワ。”雪どけ”で活気と明るさに輝くモスクワで、カテリーナ(ヴェーラ・アレントワ)、リュドミーラ(イリーナ・ムラヴィヨワ)、アントニーナ(ライサ・リャザノワ)の三人の娘は、それぞれの工場に勤務しながら同じ女子労働者寮で生活する夢と希望に溢れていた。カテリーナは真面目で向学心もあり、働きながら勉強して専門学校への進学をめざしていたが、活発で華やかなリュドミーラはお嬢さまを装い次々と有名人や裕福な男性と知り合い、いつか成り上がる予定。そんなふたりを見守るのが、体格ともにどっしりと控えめでおだやかなアントニーナだった。そんなある日、カテリーナが大学教授の伯父から長期休暇の留守番を頼まれたことをきっかけに、リュドミーラの誘いを断りきれずカテリーナもつい裕福な大学教授の令嬢と偽り、テレビ局勤務のハンサムな男性と知り合い恋をするのだったが・・・。ここまでが前半。
そして、18年後ブレジネフ時代のロシア経済も停滞していく。40代になった3人がそれぞれの人生を歩いていたところから後半がはじまる。(以下、内容にふれてまする。)

物語の中心となる3人娘、カテリーナ(カーチャ)、リュドミーラ、アンチニーナのそれぞれのキャラクター分け、真面目でキャリアにも上昇志向のある努力家の女、同じ上昇志向でも美人でグラマラスな肉体を武器にする少々軽い発想の女、地味だが堅実で思いやりのある女といった人物像は、米国でも日本でもわかりやすく共感ももてる。再放送を見てすっかり気に入ってしまった山田太一の連続ドラマ『想い出づくり』を連想してしまったのだが、日本でも昔の家族全員でお茶の間で笑ってテレビドラマを観ていた時代のホームドラマのような映画である。3人娘の相手となる男性群も垢抜けない田舎の青年、いち早くテレビ業界に注目して成功するプレイボーイ、人は良いのだが性格が弱くてアルコールの溺れる有名スポーツ選手、百戦錬磨の研究者、といった容貌・スタイルともにまるで絵に描いたように万国共通なのは笑った。この映画の魅力は、未婚の母、離婚、不倫、といったドラマチックな悲劇や悲運もありながら、自虐的になろうとも常にユーモラスなタッチがあることが幅広く支持され、また、登場人物の誰もが魅力的なのも長く愛された秘訣なのだろう。そして、波乱万丈の彼女たちを支えるのも政府ではなく友情だった。

1958年代のモスクワの街、活気溢れる工場、ダーチャ、アルコール中毒、ぽっちゃりした女性の体型といったロシアの風物?名物?悩みも郷愁をそそられるのだろうか。日本人の私ですら、街を走る車の少なさも、交通渋滞に悩む今のモスクワからすると隔世の感すらある。カーチャのような能力のある女性の抜擢と躍進もロシア的だが、一方で、素晴らしい男性だが女性に対して上から目線の威圧的なゴーシャの態度にも違和感があった。長く独身だった彼女にとっては、この手の”男性的な”男というのも魅力的なのだろうが、米国人女性だったらゴーシャはOUTだろう。それは兎も角、労働、生産を賛美する旧ソ連の象徴のような大工場と農園、一方、軽佻浮薄の代名詞のような(日本でも同じく)テレビ業界といった対比を含めて、ここには100年たっても200年たってもかわらないロシアの民衆がある。主義がかわり、体制がかわり、大統領がかわっても、大国の民衆はお互いに支えあってたくましく生きていくのだ。タイトルの「モスクワは涙を知らない」は、かってのモスクワ大公国が民衆の税の軽減の嘆願を退けたばかりか、嘆願者を処分したという由来から、「泣いても現実はかわらない」ということわざを借用している。「政府の役割は甘い蜂蜜だけでなく苦い薬も与えること」と表明しているプーチンが、大統領に再任するのは間違いないだろう。そして、ロシアの現実は、これからも涙を信じないことに変わらないのだろうか。

映画のはじまりは「アレクサンドラ」というおしゃれで素敵な歌ではじまる。アレクサンドラはカーチャのひとり娘の名前でもある。

「モスクワは涙を信じない」
とはるかにモスクワの街が広がり朗らかに歌が流れる。そして
「信じるのは愛だけ」と。

監督:ウラジーミル・メニシェフ
1979年ロシア製作

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