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「アフリカ ゼロ年」感染爆発が止まらない~南アフリカ 届かないエイズ薬~

2005-08-13 19:24:37 | Nonsense
南アフリカの経済中心地、ヨハネスブルグはその名のとおり清潔で近代的な佇まいをみせる。素適なショーウィンドーが、白人や黒人の行き交う人々の裕福そうな姿を映している。やがてカメラは郊外の街並を移動する。緑の芝生にこの土地の気候にふさわしいプールつきの大きな家、カルフォルニアの高級住宅街のような風景は、GDP比が毎年3%も伸びているアフリカ経済の優等生を証明している。その奥に、貧相で今にも倒れそうなとても人が住むような”家”といえないバラック小屋の集落が待っていることを、誰も想像できないくらいに。

アパルトヘイトが解放されて、高い賃金を求めて農村から人々が、日本でもおなじみの世界の工場が並ぶ郊外へやってきた。しかし仕事にあぶれた人々がいきついた住処が、その名も”スウィート ウォーター”地区。ここでは6人にひとりがエイズ感染者である。先進諸国では、すでにエイズは不治の病ではなく、激減しているというのに。南アでは、感染者が530万人、年間40万人の人が亡くなっている。原因は稼ぎを得た男性と感染者である女性との売春がきっかけといわれている。そこから妻、こどもへと広がった。この地区でエイズに苦しむジリンディーレ・フラニス(28)は、そんな多くの患者のひとり。しかし彼がエイズの治療を受けることも薬を飲むこともない。週に2回やってくる診療車には医師の姿がなく、看護士が気休めのビタミン剤を与えるだけ。また30キロ離れた病院へ行くにも、往復のバス代にも事欠く。年収6万円で生活する彼らには、年間25000円に及ぶ治療薬を支払う能力がなく、日々衰弱していく体を、バラックの小屋の中で横たえて耐えるだけである。

1981年米国でエイズが発見されると、世界中の製薬会社が治療薬の開発にとりくんだ。95年カクテル療法と呼ばれる画期的な治療薬抗レトロウィルス薬の開発資金を回収するためには、当初年間120万円を必要とした。高価ではあるが、先進国では患者が激減した。インドやブラジルでは、いち早く製造方法を換えたコピー薬で対応したが、外国資本導入を計る南アでは、特許について厳しい規制を設けていたために安価なコピー薬は許されなかった。しかし危機感を感じていたネルソン・マンデラ大統領が、コピー薬輸入を可能にする薬事法の改正を決断。ところが先進諸国の製薬会社が猛反発して、企業の利益を損なうと裁判に訴えた。特許か命か。命優先の世界の声が製薬会社を追い詰め、4年後”特例”措置として知的所有権を問わないことになり、価格を下げることにつながった。

南ア政府は、次の打開策として2年前、エイズ感染者の1割に無料で治療する決断をした。しかしながら保険省の計画書によれば、08年までに900億円の資金がかかり、医師、薬剤師などの人的資源、設備面すべてが質量ともに不足していることから、困難が予測されている。また治療薬は続けて飲まないと抗体ができて効かなくなってしまうので、今は新患者へ回す薬はない。

その一方で、米国ブッシュ大統領は2003年に、ムベキ大統領と自由貿易をすすめる「アフリカ成長議会法」を結ぶ。南アに対して自動車や金の輸出のかわりに、薬を含めた知的所有権の保護を求めた。市場を開放して経済的に豊かになり、貧困をなくすことによってエイズを解決しようという目標も、ひと握りの富裕層へお金が流れていくだけになり、富と貧困の格差をひろげるだけの結果になった。こうした状況に警鐘を鳴らすのが、オーストラリア大学のピーター・ドラホス教授だ。
「自由貿易の恩恵は、貧しい人々の犠牲に成り立っている。国民の健康など重要な部分を米国に握られている。」

かってこの地では、300もの法律で国民の8割を占める黒人をしばるアパルトヘイト時代があった。80年代国連は人道に対する罪として経済的制裁を発令しようとしたが、反対したのは米国とイギリス、そして日本だった。91年にアパルトヘイトは廃止されると、黒人による報復を恐れたネルソン・マンデラ大統領は「真実和解委員会」で人種間憎悪と怨念を和解へと導いた。その委員会で力を尽くし、ノーベル平和賞を受賞したデズモンド・ツツ大司教は、スラム街に暮らしている現実を見据え、
「今後格差が減らないのなら、私たちは和解に別れを告げる」と怒りをあらわにする。何故ならば「グローバル化の問題は、強いものがゲームのルールを決めることだ。そのルールは豊かな者の味方で、貧しい者の味方ではない。世界は家族のようにひとつにならなければいけない。それがグローバル化の本当の意味だ。」

フラニスは苦しみのなかで、この世を去った。彼の兄は無気力に、「この国はいずれ地獄を見る。何故ならば、幼いこどもでさえもエイズに感染しているから。」と墓の前で語る。エイズによる孤児は、80万人を超えている。若い世代がへって、確かな未来をみいだせないまま漂流しているのが、南アフリカである。
7月に開かれたサミットで、こうしたアフリカへの支援として主要8カ国は今後5年間で5兆円の追加支援を決定した。但し、知的財産保護の更なる徹底を条件に。

*全4回アフリカ問題を企画した桜井均エグゼクティブ・プロデューサーは、
「グローバリズムの世界では、どの国も同じトラックを走っている。だが実際にはアフリカ諸国は何周も遅れている。せめてゼロからのスタート地点に立つのに何が必要かを考えたい」と話している。正当なる競争がもたらした現実は、弱者をさらにふりおとし、彼らの命さえ踏み台にしかねない。アフリカ問題は同じ時代、同じ地球に生きるものにとって、大きな、そして複雑な課題をもたらしている。

アフリカとエイズ薬の流れをご参考までに。



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