千の天使がバスケットボールする

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「シューマンの指」奥泉光著

2011-01-19 23:18:29 | Book
昨年は、ショパン生誕200周年のイベントに隅に追いやられてしまった感があるが、ドイツの作曲家ロベルト・アレクサンダー・シューマン(Robert Alexander Schumann)も生誕200周年だった。
けっこう毎年、毎年、なんらかの音楽家の没後、生誕メモリアルイヤーが続くのだが、「N響アワー」に蝶ネクタイをして登場しシューマンへの偏愛ぶりを嬉しそうに披露していた奥泉光さんにとって、2010年という年は長年ずっと構想をあたためて狙いを定めていた年だったに違いない。これまでも篠田節子さんや森雅裕さんなどによってクラシック音楽を題材にしたミステリー小説は数々産まれてきたのだが、100年に一度しかめぐってこない生誕記念日にあわせて書き下ろしでうちあげた奥泉さんの「シューマンの指」は、これまでの作品がクラシック音楽が”題材”レベルだったのをこえて、クラシックとミステリーが”融合”されたかって誰も書いたことのない本格的な音楽ミステリー小説となっている。

物語は、音大を中退して医師となりすでに中年となった主人公の私の回想という形式をとりながら、30年前の高校の同級生である天才美少年ピアニスト、永嶺修人が”私”に向かって語るシューマンの音楽理論が中心となって展開していく。”私”は、修人のシューマンと音楽理論を映す鏡の役割を果たしている。読みすすみながら、修人は熱心なシューマン党の作者の偶像、分身だと感じていくのだが、ここで作者のたくらみに気がつかなかったのは惜しい!

まず、物語の提示部分が秀逸である。もうひとりの同級生の友人・鹿内堅一郎から届いた手紙ではじまるのだが、指を切断して再起不能となりピアニストになるのを断念して渡米したはずの永嶺の演奏を、堅一郎が留学先のドイツで聞いたというまさにミステリーなのだが、それが同じように薬指の不調によりピアニストになることをあきらめたシューマンそのものにリンクして、物語の幕があがるのである。

「驚いただろう!しかし、間違いなく、ピアノの前には本物の永嶺まさと―修人と書いた方がいいかな―が座って、 Schumannを弾いていたんだ!」
友人の手紙は無邪気に綴られているのだが、その無邪気さゆえに、謎が深まっていく。幻想的で、しかも定石どおりに怜悧な頭脳と才能をもちあわせた天才ピアニストの修人は、色白の美少年だが生意気で人を寄せ付けず自己中心的。彼は悪魔のような少年であり、また天使のようなピアニストでもある。そんな修人にひたすら憧れる平凡な高校生と道化師のような友人。こんなありふれたベタな人物設定にも関わらず、いやむしろ定番を望む読者が作品に期待するとおりに、妖しくも耽美的な雰囲気に仕上げていく作者の蝶ネクタイが似合う得意げな顔が見えるようでもある。中でも物語のハイライトとなる事件の春の夜の描写は、美しくも圧巻である。流れる曲は、《幻想曲ハ長調》。

奥泉氏のレトリックは、端麗で優雅、感嘆する美しい文章がまるで音楽を奏でるように流れていく。音楽をここまで美しい日本語で表現できる可能性に、私は目が開かれるようだった。しかも、それだけでなく修人の意見にかえて「音楽は演奏される前にすでに存在している」という哲学にまでせまっている。深いな・・・。

ショパンが社交界のサロンを渡り歩き、美しい音楽の上澄みを繊細なレースでつなげるように綴っていたのに、シューマンは苦しみの底から作曲していた、そんなようなことをピアニストの小川典子さんが言っていたような記憶がする。本書でシューマンの魅力を再発見。大寒の今夜、我家にあったケンプの「こどもの情景」でも聴いてみるとするか。

■こんなアーカイヴも
映画『クララ・シューマン 愛の協奏曲』
『僕のピアノ・コンチェルト』
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6 コメント

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今年もよろしくお願いします (calaf)
2011-01-27 23:21:26
こんばんは。コメントありがとうございました。トラックバックを送るとともに、私の方の記事に、樹衣子さんののブログを訪ねるように、追記を致しました。書きたいことはたくさんあるのですが、今夜はこれまでに致します。
calafさまへ (樹衣子)
2011-01-29 19:47:22
ご訪問とコメントをありがとうございました。
私も書きたいことはたくさんありますが、今夜はこれまでに致します。
ただ一言、本当にご無沙汰していましたね。
^^
続きはメールで送りました (calaf )
2011-02-10 00:29:23
こんばんは。すこしですが、書いて送りました。
業務連絡 (樹衣子)
2011-02-15 22:54:09
calafさまへ

メールを送っていただきましたでしょうか。
まだ届いていないようです。
昨年、gooメールの仕様設定が変更になってからどうも機能していないようです。
改めてcalafさまのブログの方に別のメルアドをご連絡いたします。
大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません。
理論的に趣味を生かしてるのかも (tblorange)
2012-11-05 21:08:04
いやはや、大変な作品を読んでたんですね・・・私。
もう、ミステリーかと思うとこれでもか!と
シューマン。
すごい大変になってしまいました・・・。
これも読み手のチカラのなさ故か。
あとは、奥泉さんの趣味の世界かな・・・とか。
才能は趣味そのものって解説してるサイトが
見つかるくらいですし。
http://www.birthday-energy.co.jp
「温厚誠実で理論的」な作品をこれからも
生み出していただけると、読者としては
うれしいですね~。

そういえば、新作の
『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活2』、
結構笑えました。面白かったですよ。
趣味をいかせたら最高ですね (樹衣子*店主)
2012-11-08 22:50:59
はじめまして。ご訪問とコメントをありがとうございます。

>もう、ミステリーかと思うとこれでもか!と
シューマン

この表現はお茶目ですね!
私は、奥泉さんは初読みでしたが、tblorange様の大好きな作家なのでしょうか。
コメントに愛読者ぶりが感じられますよ。
百花繚乱状態の日本のミステリーの中で、
独自の路線を築いて益々読者を魅了していただきたいですね。

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