今野 英山
平成27年度NHK全国短歌大会(近藤芳美賞 奨励賞 篠弘選)
・面皮(チラガー)のねつとり厚く噛み切れず沖縄に生きる覚悟のありや
・山原(やんばる)の赤土に生(あ)れし濃き緑せまる真中の桜は緋の色
・山羊汁の臭み懐かしと沖縄人(ウチナンチュー)灰汁と脂の味にこだはる
・山奥の闘山羊祭に神降るかとまれ議員の一人が来たる
・平実檸檬(シーカーサー)の花の香りに誘はれて谷に散りぼふ人ら湧き出づ
・家も墓も遠目に区別のつきにくくましてや霊の宿るは見えず
・街の灯を恋ふるでもなし山原の南蛮皀莢(ゴールデンシャワー)の花の宴に
・月桃の恥ぢらふやうな莟もち艶かしき花月下に咲けり
・泡盛しか飲まぬ人飲めぬ人月の夜の三線の音(ね)に震はす肉塊
・苦瓜(ゴーヤー)も糸瓜冬瓜みな熱帯の故郷(ふるさと)忘れてこの地に暮らす
・深紅なる三角仙人掌(ドラゴンフルーツ)の甘き味夜咲くといふ花見せてくれぬか
・エイサーに合はせる幼なの足踏みとリズムをとれない吾の傍観
・夜祭りの楽しみ多く子供らよあくせくするなど思ひもよるまい
・イカロスのごとく炙らるる夏の日々かかる傲慢持ちしか吾は
・移り来て一年と少し薄色の小さき守宮(ヤールー)いつしか住みつく