コニタス

書き留めておくほど重くはないけれど、忘れてしまうと悔いが残るような日々の想い。
気分の流れが見えるかな。


新展開の続き、その2

2005-12-04 16:22:53 | 
大人の文章表現、もう一つの作品です。

なんか、自分としては詰めが甘いと思ってるんですが、色々御意見を戴きたいです。是非。
『伊勢物語』第二十四段からの翻案です。
こちら、それから、こちらも参照。こっちも是非




















 「と、言うわけで、女はそこで死んじゃうんですね。昔の人は恋も真剣だった、って話ですねえ。いたずら書きをしたので消されちゃった、とか言う話じゃないぞ。ははは。それから、片田舎って言うのは、前の段とも続いていて、都の雅びで、駆け引きのある恋愛とは違うストレートな想いが良いなあって、当時の人も思ったんでしょう。はい、じゃ、今日はここまで。」
 「先生、この男の人、このあとどうなったんですか?」
 「なんだ伊勢さん、普段ちゃんと聞いてないのに、質問かね。ま、伊勢さんの物語、だもんな。はっはっは。でも、歌物語って言うのは、先に歌があって、それにあうような物語を作っていることが多いから、実際にあった話と言う訳じゃないんだ。だから、主人公の男の事情とか、その後とかは、わからないんだなあ。でも、そういうことを考えるのは面白いね。みんなどう思うかね。来週までに考えておいてください、誰か発表して貰うよ。ああ、来週で年内の授業も終わりですね。忘年会でもやりますか。はっはっは。」
 私、三年、待てそうにないかも。でも、そうなったら誠はどうするだろう。この話、ナンカ、笑っちゃう。さすがに歌なんか詠まないけど、私の事を千年前に予言してたみたい。ていうか、昔も今も変わらないってことなのかな。先生は、この話を授業でする時、何考えてるんだろう。私の質問が、どういうことなのか、解ってるのかな。「伊勢さんの物語」なんて、余裕見せちゃって。それとも、「昔の人」でも「片田舎」でもないから、恋はゲームなのかな、やっぱり。元カレなんて冷たいもんだ、って言いたい? でも、まだ「元」じゃない。

 「待ってるから」と言ったのは真由美の方だ。誠が本当に自分のことを愛してくれていると思えたし、自分もそうだと思っていた。いずれイギリスに行くかも知れない、というのは、誠が就職した時からわかっていたことだし、そうなれば、断る理由もない。誠は、大学をやめてすぐにでも付いてきて欲しいと言ったが、真由美にしてみれば、確かに古典文学など勉強しても役に立たないし、むしろ誠のそばで、身の回りの世話をしていた方が幸せなのかも知れないとは思うものの、好きだからと言うだけで、何の準備も無しに飛び込んでしまうのは怖いし、誠に恥をかかせることになりはしないかと思うと、ためらわれる。大学ぐらいは卒業して、色んなことを身につけてから行こうと決めた。とはいうものの、誠の任期は三年で、年が明けたらもう帰ってくるだろう。真由美が大学を卒業するのと同じだから、待たされているのはむしろ誠の方なのかも知れない、と言うことに、真由美は気づいていない。
 誠は、真由美のことが心配なのだと言って、頻繁にメールをくれる。電話もくるし、ことあるごとにプレゼントも欠かさない。実際、それは根拠のない心配ではなくて、真由美自身、誠がいなくなって、却って生活が華やいだ部分もある。クラスメイトやバイト先の男から食事に誘われる機会が増えたし、時間が合えば断らないでどこにでも出掛けていく。そういう中には本当に言い寄ってくる男もいて、真由美もまんざらではない。それでも誠のことを思い出して断っているが、寂しさは埋めようがない。いつか、きっと、崩れてしまいそうで怖い。誠が支えてくれないのなら、誰にすがればいいのか。誠を愛するために、誰かに愛される? 真由美は、自分が、どこにいるのか判らなくなって、急にしゃがみ込むことが多くなった。

 最近様子が変じゃないか、と心配してくれたのが、指導教員でもある清水で、まだ若いし、気さくで信頼もしていたので、正直に話をした。先生に恋愛の相談をするなど、考えても見なかった真由美だったが、同世代の男たちとは違う安心感があって、少しだけ、楽になれた。
 「そんなにマメにメールをくれたり電話してきたりするのは、君が他の男と色々あるんじゃないかって、心配なんだろう。それはさ、裏返してみれば、自分に後ろ暗い所があるんじゃないかな。」同情するような顔で真由美の心配を煽るようなことを言う。男と女は違う。誠のように行動的な性格なら、自分からいくらでも相手を見つけることは出来る。まして、知らない土地なら何をやっても大丈夫、と言うこともあるし、給料も良いと来れば、案外羽を伸ばしているのかも知れない。『伊勢物語』の「風吹けば」の話だって、男は自分が他に女が居るからこそ、女を疑ってるんだろう。真由美も、清水の分析に、そう言われればそうなのかも知れない、と丸め込まれてしまう。誠は真由美の健康や、学業のことを訪ねると言うよりは、どこへ行ったのか、どんな人と会ったのかを聞きたがる。自分のことを話す時はその逆だ。「それってたしかに。」
 やがて清水は真由美を研究室に呼び出すだけでなく、食事にも誘うようになった。清水はいつも優しく、楽しい話をしてくれる。真由美も落ち着いた気がする。誠のことを思い出さない日が、少し増えた。

 「女の寂しさも、それで、優しくしてくれる男性を受け入れちゃうのも、よく解る気がするんですよね。言い寄ってくる新しい男の方はどんな人かなんにも書かれてないんですけどぉ、でも、きっと誠実なんじゃないかなぁって思います。私が解らないのははじめの男の方ですよ、ホント。だって、都に行くって言って出て行って、何にも連絡もしなかったんですかねぇ。なぜ三年目に帰ってきて、なんで簡単に諦めて、出てっちゃったんですか。ホントに好きなら男が居たって、構わずにドアを蹴やぶって入り込んででも、連れ出してくれれば、女の方だって嬉しかったはずだと思うんですけど。結局、女が自分で新しい男を置き去りにして前の男を追いかけるんですよね。そしたらもう戻る所はないんだから、死ぬしかないじゃないですかぁ。かわいそすぎ。女が「待って」、って言ったら、少し逃げても追いつけるぐらいのとこで待っててあげたら嬉しいのに。ひどいですよ、こいつ。都に行って変わったってことなんですか、やっぱり。先生が先週言ってた、ストレートで真剣な恋愛じゃない気がするんですけど。それとも、最初から男の恋愛なんてそんなものなんですか? あたしだったら簡単に譲って欲しくないですよ。戦って、奪ってくれたら、どこでもついて行っちゃうのに。どうなんですか、先生。」
 あずさは酔うと誰彼構わず絡む。特に今日は、前の授業が先週の続きで、例によって、誰も発言せず、清水が、男の優しさみたいな話でまとめてしまったのが気に入らないらしい。
 「そう言えば、先生って、学生時代の彼女、置き去りにして来ちゃった、とか、無いんですかあ。で、こっそりこっちでいいことしようとか考えてるでしょう。イヤイヤ。あたし、彼氏居ますからね。先生に口説かれたら殴り込んで貰うもん。」
 「はっはっは。勝手なことを言うねえ。私は清廉潔白ですよ。君を口説いたりもしませんって。」
 「あたし、知ってるんですからね。真由美のこと。お見通しなんだから。彼女はね、彼のこと、ちゃんと想って、おとなしく待ってるんだから、ちょっかい出さないでくださいよ。」
 ちょうど、真由美がそばに来かかっていたのに気づかずに、二人は酔いに任せて妙に盛り上がっている。
 「何だ、おまえ、妬いてるんだろう。伊勢さん、口説いてるわけじゃないよ。ただな、あんまり彼氏を理想化してても、しょうがないんだよ。少し現実見てさ、楽に考えてね、他の男ともつき合ってみればいいんだよ。平安時代じゃないんだから。おまえの言う通りなんだよな。もとの男が帰ったのは、多分、優しさじゃなくて、重たくなっちゃったんじゃないかな。三年間、ホントに、恋もしないでだよ、『あなたのこと待ってました』って、言われてみ。そりゃ美しいけど、怖いよな。俺なら遠慮しちゃうよ。彼女だって、本気になられたら重いだろ。あ、オフレコだぞ、これ。……そっかぁ。あずさちゃんは、いい彼氏がいて、幸せだねぇ。口説こうと思ったのにな、こわいこわい。」
 「えー、さっきと違うじゃないですかぁ! ホントはねぇ、あたしも寂しいんですよ。イブの日、彼、出張なんですよ。泊まりで。信じらんないでしょぉ。それなら私も一緒に連れてって、って話ですよね、もう。」
 「はっはっは。なんだ、クリスマス一人か。彼氏、怪しいんじゃないの? 俺も一人だよ。一緒に呑むか。」
 「いくいく! 先生の家で呑みますぅ? 私、ケーキ作ってあげましょうか。そうですよね、楽しまなくっちゃですよね。もうあさってですよ、お買い物しなきゃ。」
 真由美は立ちくらみがした。夕べ、清水は、真由美に、クリスマス・イブの予定を聞いた。何か、特別な雰囲気を感じてすぐには答えられなかったが、一つの覚悟を持って、OKを出そうと思っていたのだった。なのに。ゆっくり立ち上がると、幹事の学生に、調子が悪いので先に帰る、と言って店を出た。
 アパートに帰り、パソコンを開くと誠からメールが来ていた。真由美と早く会いたいので仕事を頑張ってこなし、帰国の準備をしており、これがイギリスからの最後のメールだと。そして、クリスマス・イブは空けておいて欲しい、と言う。
 「ありがとう。でも、24日は先約があるんだ。初デート。ごめん。」
 真由美は、嘘をついた。心配性の誠はどんな反応をするだろう。やめろと言ってくれるだろうか。それとも「お幸せに」と言って、去っていくのかな。送信ボタンを押す時、嫌な女になった気分で、小さくため息をついた。

 「お幸せに」という返事が来ても、私は清水先生のところには行かないし、誠を追いかけることもしない。二人とも、お幸せに、だ。まして、死んだりなんかしない、勿論。私は、私で生きて行かなきゃ。でも、誠、今頃どこでどうしてるのかな。飛行機の中かな。無事に帰ってこられますように。はやく会いたいなぁ。



さて、次の課題は「乗り物」。皆さんもご一緒に。
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小説
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