小鳥屋。猫屋。

書いているうちにファンタジー小説になっている気がします。なので、ファンタジー小説、です。

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動かぬ季節に囚われて 三人 2/7

2016-11-02 22:16:41 | 日記
 放課後。皆の表情が凍り付く。
さっき作ったばかりのホロスコープに視線が集中する。
「これ、ヤバくね?」
先日の頭髪検査で注意を受け、真っ黒の髪になったモモちゃんが口を開く。
「うん。ヤバい。この人、絶対、霊感持ってる」
目元だけ白く日焼けのあとが残っている部長が、ホロスコープから視線を外さずに答える。
「そういうふうに見えないけど」
小柄で、つぶらな瞳をしたアイドルのような容姿のゆかりんが部長を見つめる。

「まったくの鈍感か、共存してるか、どっちかだと思う」
「わかるように言ってよ」モモちゃんが口をとがらす。
「んー、なんとなく気味悪いなーとか思っても
『気のせい』でやり過ごしてきて感じる力が無くなったか、
ばっちり見えたり聞こえたりしてるんだけど、怖がったり遠ざけようとかせずに、
向こうの気の済むまで放っておいてるか」
「鈍感、は分かるけど、共存って一緒にいても平気ってこと?」
ゆかりんが信じられないという顔になる。
「平気じゃないかもだけど、しょっちゅう見たり聞いたりしてるだろうから、動じないんじゃないの?」
 ああ、動じないって感じだわ、という表情で三人ともうなずく。
うなずいた後で、そういえば誰のことを占ったんだっけ、という気分になる。

「でも、こっちもヤバくね?」モモちゃんの言葉で、気持ちがもう一方のホロスコープに向く。
「動きの遅い星が一斉に動く。引っ張られる。悪い角度になる」モモちゃんが急に賢い口調になる。
「確かに。隠されてきたものが出てくる、みたいな、奥底から引っ張られてくる、みたいな。
不思議なことが膨張するというか拡張するというか」部長の声が重く響く。
「何か起こるのかな」ゆかりんがおびえだす。
「この『皆既日食』の日って、かなりヤバいかも」部長が視線を上げ二人を見つめる。

しばらく沈黙が続き、空気が冷たく感じられたその時に、教室の扉が勢いよく開けられた。
三人とも確実に椅子から飛び上がったところに体育の女教師、バッハの大声が響き渡る。
「なーにしてんだー! 
放課後はさっさと教室の鍵閉めて、職員室に持ってく! 
ほら、あと三十秒! いーち、にー」

わたわたと、かばんやら、ホロスコープの紙やら、占星術の本やらを持ち、
クーラーのスイッチを切って、教室を飛び出す。

「お前ら、勝手にクーラーつけてたのか」あきれているバッハの横を
「さようならー」とクスクス笑いながら挨拶してすり抜ける。

 放課後の空気が漂う薄暗い廊下。
その突き当りを曲がると暗闇のトンネルを抜け出た瞬間の白い光に包まれる。
廊下に沿ってずらっと並ぶ窓からは海が見え、
小高い丘の上に建つこの中学校には、毎日潮の香りが風と共に届く。

 校庭で打ち続けられるテニスボールの音、校舎から漏れる吹奏楽の演奏、野球部の掛け声、
水飲み場から聞こえるマネージャー達のおしゃべりと水の音。
じゃあ、詳しいことは宿題だね、と言って三人は下校する。

 校門から続くゆるやかな坂道を三人並んで歩く。
もうすぐ本格的な夏が来ることを感じさせる木々の濃緑の葉色。
アスファルトに舗装された坂道を降りるぺったんぱったん道を叩くスニーカーの足音。
鈴が転がるような笑い声。
やわらかな西日。潮の匂い。
中学三年の七月。
来年の今頃は一緒にはいないかもしれない三人。






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